ゲート 日本帝国軍 彼の異世界にて、活躍せり 作:西住会会長クロッキー
相馬が転生者と遭遇してから一ヶ月が過ぎた頃、相馬はぼーっとしながら、編隊飛行をする明灰白色に塗装された六機の九五式戦闘機(史実の零式艦上戦闘機)を自身が宿泊に使う兵舎の窓から眺めていた。
パトロールを終えた九五式戦闘機は、一機づつ滑走路に着陸して行った。
「あのトカゲ野郎の報告が上がってから空軍さんの戦闘機を毎日見るなぁ」
相馬は、口から業火をまき散らす炎龍の姿を思い浮かべながら呟いた。
相馬が言ったように、空軍や海軍航空隊が炎龍を警戒するために、毎日のように戦闘機を飛ばしていたのであった。
すると、室井がテュカ、ユノ、レレイ、ロゥリィを連れて兵舎に入ってきた。
見れば、テュカは何かが詰まった布袋を二つほど持ってきた。
「ん?何だこれは?」
相馬はそう言いながら布袋に目をやる。
「これは、ずっと以前の戦闘で倒した特地害獣・ドラゴンの鱗です。四人は、これをイタリカという場所へ売りに行きたいと言っているのですが……」
避難民を保護してから最初の数週間は、第三戦闘団の輜重兵部隊から食料、プレハブ小屋の提供などを受けていたが、元コダ村の住民達は、後の自活に悩んでいた。
経営の知識がある夫婦が小さい酒場を開いて収入を得るにしろ、人々が畑を耕して野菜類の食料を確保するにしろ、長い時間かけないと安定した生活を送るということが難しかった。そこでレレイやテュカは、連合諸王国軍の竜騎兵が操っていたとされる翼竜の遺骸が無数に横たわる場所に目をつけ、他の村人達と共に翼竜の鱗を集めたのだった。
このような経緯があり、三日後の出発を予定に、第三偵一行は準備に取り掛かった。
帝国陸軍・特地派遣部隊本部隊舎
陸軍総司令官の大高大将は自身のあごに手を当てながらイタリカに関する報告書を見つめていた。その傍らには、前原少将が待機していた。
「ふむ……ついにイタリカへと向かう日がやって来ましたな。前原さん」
「はい、我々がこの特地の指導者と接触する始めの第一歩と言えるでしょう。しかし、相馬中尉の第三偵察隊だけで大丈夫なのでしょうか?」
前原は、戦力面を心配していた。盤石な装備を整えた偵察隊とはいえ、多数の敵に包囲されればひとたまりもない。
かといって全て自動車化、機械化された軍の歩兵隊を送ってしまえば、敵に侵攻と解釈されてしまう。無意味な戦線の拡大につながる原因になりかねない。
「では、偵察隊に火砲を装備させるのはどうでしょうか?たしか、相馬中尉の第三偵察隊には、第一次世界大戦に参加したことがある大滝少尉がいたはずです。彼なら火砲の扱い方を知っているかと思います」
「なるほど。そうすれば、敵の歩兵、騎兵はあっという間に吹き飛ぶでしょう。しかし、問題は竜騎兵がまたがるドラゴンです。飛行機より飛行速度が遅いとはいえ、軽快な動きをする生き物ですから……」
大高は前原の案に賛成したものの、ドラゴンのことが心配だった。
「同第三偵察隊が遭遇したドラゴンですが。M2機関銃の12.7mm弾がかろうじて効くという様子だったそうな。なので、野砲には榴弾だけでなく。徹甲弾も持たせましょう」
前原が報告のことを交えながらもう一つ案を提案すると、考え込んでいた大高は納得した。
「では、そうしましょう前原さん。万が一に備えて空軍の飛行隊と陸軍第一戦闘団を待機させておきましょう。それと特地第二基地に駐屯する自動車化歩兵小隊を三偵の護衛につけましょう。そうすれば敵の警戒は和らぐはず」
「はっ。それでは、私は空軍の巌田中将と第一戦闘団の瀬戸大佐に待機を呼びかけて来ます」
前原は、大高と敬礼を交えると部屋をあとにした。
三日後、第三偵察隊の面々はアルヌス基地を出発し、車輌でイタリカへと向かっていた。
一台の九二式小型貨物自動車が、八七式機動野砲(史実の九五式野砲)を牽引している。
九三式機動乗用車の荷台には、翼竜の鱗が詰められた袋が四つほどあった。数百、数千枚の鱗を集めたのだから。レレイや住民達は、結構な金持ちになれる予定であった。
レレイの師匠であるカトーの旧友リュドーは、イタリカでは名を轟かせた商人であるため、住民達には頼りにされていた。
さらに、往復路についてはとても頼りになるニホンの将官である相馬とその部下達がついてくれるのだから……と、レレイは相馬を見つめる。
「ん?どうした?」
視線の合った相馬に問われ、レレイは「別に」という意味の言葉を掛けた
「そのリュドーという人は何処に店を構えているの?」
レレイの側にいたテュカとユノはそれが気になってしょうがなかったのであった。レレイは詳しく二人に伝える。
「イタリカの街。テッサリア街道を西、ロマリア山麓」
「イタリカの街。テッサリア街道を西、ロマリア山麓ね……」
大滝少尉が航空写真から書き起こした地形図に、名称の判明した地物について書き込みをしている。
今回の行動では、レレイから様々な地名を聞き取ることができ、アルヌス周辺の地形図について言えば、ほぼ完成と言って良い状態になりつつあった。
「イタリカとアルヌス基地の中間にある特地第二基地で機械化歩兵連隊と落ち合うようにと言われています」
大滝少尉が地図に記された赤い点を指差す。
「たしか、あの基地には、皇族の士官がいるみたいだよ。おやっさん。しかも戦車乗りらしい」
相馬は思い出したことを大滝に話す。大滝は、「それは頼りになりますね」と言葉を返した。
ちなみに、特地第二基地には、火力と機動力に優れた機甲部隊を中心とする第一戦闘団や、電撃的な展開を得意とする機械化歩兵師団、この二つの部隊を陰で支えている工兵隊や輜重兵隊が駐屯していた。
「三偵の相馬中尉と合流しましたっ!これより同行するっ!」
相馬達と合流した機械化歩兵小隊の隊長を務める『輪島 新太郎』曹長が無線でそう言っていた。その傍らで他の兵士達がハーフトラックの荷台や運転席に乗り込んで行く。
しばらくして、偵察隊のホハ改を先頭に、相馬達の自動車とその背後に、歩兵小隊のホハ改が続いていた。
機動乗用車の中では、田中がユノと楽しげに話しをしていた。田中が現地語に慣れるために、現地語の意味が書かれた冊子を開きながら話しをしている。
まだ慣れていないのか、田中は少しカタコトだった。それがおかしいのか、テュカとロゥリィが笑っている。
田中は、二人からからかわれるのが恥ずかしかったのか、相馬に助けの視線を送るが、相馬は「まぁ、上手くやれ」という視線を返した。
「相馬隊長、右前方で煙が上がっています」
相馬に代わって運転をしていた大滝が、右前を指さした。
ほぼ同時の報告が無線を通じて、先頭を走る車両から入ってくる。相馬は、双眼鏡で煙の発生源あたりを観察してみるが、まだ距離があって確認するのが難しい状態だった。
車列を止めさせて大滝に尋ねる。
「少尉、この道、煙の発生源の近くを通るかな?」
「というより煙の発生源に向かってませんか?」
「勘弁してくれよぉ〜。あのトカゲ野郎はごめんだぜ。でもなんか別の嫌な予感がするんだよね」
次いで、相馬は大滝に意見を求めた。
大滝が何度か地図を確認したが、カタカナで『イタリカ』と記入された街が存在していることを示した。テッサリア街道を進む車列は、当然のことながらイタリカへと向かっている。
その次にレレイに意見を求めた。
相馬が双眼鏡の使い方を普段から教えたためか、正しく構えると前方へ向けた。
「あれは、煙」
レレイは日本語でそう答えた。
「煙の理由は?」
レレイは、相馬の質問の意味を直ぐに理解した。レレイは、コダ村で相馬と会って以降、日本語に興味を持ち、今となっては、相馬や他の日本兵達とそこそこ意思疎通ができるようになった。
「あれは、人がした、何かの火。でも大きすぎる」
「あれは『火』だけど、人がやるなら『火事』だ」
単語の応用をレレイに伝えておいて、相馬は思索し、指示を下す。
「周囲への警戒を厳にして、街へ近づく。特に対空警戒は怠るなっ」
田中が軽機関銃を引き寄せた。それぞれ左右に目を配り出す。テュカはレレイに列び、ユノは田中と列んで一緒に周囲を警戒した。そして車列は再び進み始めた。
ロゥリィは、相馬と大滝の間に身を乗り出してきて、「血の臭い」と呟きながら、なんとも言えない
帝国貴族フォルマル伯爵家領・イタリカ
イタリカの街は、出来てから二百年が経つ城塞都市だった。帝都や他の街道を結ぶ交通の要衝として大きく発展していた。
多くの商人が集まったため、二百年経った今でもその名残がある。さらには、帝国を支える穀倉地帯としても有名だった。ところがフォルマル伯の当主コルトが妻と共に事故死してしまったことから街に不幸が始まってしまった。
その長女・アイリと次女・ルイが、実質的な跡継ぎである末っ子のミュイの後見という名の実権を巡っての争いが生じてしまったのである。
そのうち、アイリとルイの嫁ぎ先の伯家の兵が争うという、小規模紛争に発展してしまったのである。
さらに、事態を悪くさせてしまったのが、帝国による異世界出兵である。
これに長女と次女の夫が出征し、それぞれの当主がそろって行方不明になってしまったのである。
これによってアイリもルイもフォルマル伯爵領に関わっている余裕が無くなってしまい、アイリとルイは、イタリカの治安維持を担っていた兵を退いたのであった。
あとに残されたのはミュイとフォルマル伯爵家の遺臣ばかりである。
わずか十一歳のミュイに家臣を束ねていく力などあるはずもなく、領地の運営も惰性でなされるようになった。心と揺るぎない忠誠がある家臣が存在する以上の確率で、私欲に素直な家臣が存在し、気が付けば横領と汚職が散見され、不正と無法がはびこっていた。
民心は揺れ動き、治安は急激に悪化する。
各地で盗賊化した落伍兵やならず者が、領内を旅する商人を度々襲うようになり、これによって交易は停止し、イタリカの物流は停滞してしまう。
さらに盗賊やならず者達は徒党を組んで、大胆かつ大規模に村落を襲撃するようになった。数人の盗賊が数十人の盗賊集団となり、現在では数百の規模となった。
そしていよいよイタリカの街そのものが盗賊に襲撃されたのである。
街の城門上に陣取って、弓弦を鳴らしていたピニャは、退いていく盗賊を数人仕留めると、大きなため息をついて弓矢を降ろした。周囲の兵士は、彼女と同じようにため息をついて剣や弓を降ろす。
あるいは、傷ついた兵士がのろのろと立ち上がった。
石壁には矢が突き刺さり、周囲では煙が立ち上っていた。見渡すと、騎士達が情け容赦なく盗賊の残党狩りをしていた。
城壁の外には、盗賊達の死体や馬などが倒れている。
「ノーマ!ハミルトン!ボーゼス!ヴィフィータ!怪我はないか?」
破られた門扉の内側にある策を守っていたノーマは、大地に突き立てた剣を杖のようにして身体を支え、肩で息をしつつ、わずかに手を挙げて無事を示した。彼の鎧には、敵の返り血がべっとりとついていた。
ハミルトンに至っては既に座り込んでいた。両足をおっ広げて、後ろ手で身体を支えているが、今にも仰向けに倒れ込みたいという様子。剣も、放り出していた。
「はい、なんとか生きています」
「怪我はありません。殿下は、大丈夫でしたか?」と、城外にいたボーゼスが手を振りながら心配する。
「ええ、平気です」と、『ヴィフィータ・エ・カティー』がピニャに手を振る。
「姫様。小官の名がないとは、薄情じゃありませぬか?」
「グレイっ!お前は無事に決まってるだろう。だからあえて問わなかったまでだ」
「いささか辛辣ではありませぬか?」
堅太りの体格で、いかにもタフそうな四十男が少しも疲れた様子も見せず、剣を肩に乗せていた。見ると、グレイの鎧はノーマのものよりも剣で斬りつけられた跡が多く。弓矢が刺さっていた。
「姫様、何でわたしたち、こんなところで盗賊を相手にしているんですか?」
ハミルトンは責めるような口調で苦情を言い放った。いささか無礼ではあるが、言わずにいられない気分だった。
「仕方ないだろう!異世界の軍がイタリカ攻略を企てていると思ったんだからっ!お前達も賛同したではないか?」
アルヌス周辺の調査を終えて、いよいよ、イタリカに乗り込もうとしたところ、ピニャらの耳にひとつの噂話が入った。
それは「フォルマル伯爵領に、大規模な武装集団がいる。そしてイタリカが襲われたそうだ」というものだった。
それを聞いたピニャは、アルヌスを占拠する異世界の軍がいよいよ侵攻を開始したと考えたのである。「分遣隊を派遣して、周辺の領地を制圧しつつ帝都を包囲しようという魂胆か?」と察した。
ならばこちらとしても考えがある。ピニャとしては、やはり初陣は地味な偵察行より、華々しい野戦が良い。
丘の攻略戦では帝国は大敗を喫したが、野戦とならばという思いもあった。だからアルヌス偵察は後に回し、指揮下の騎士団にイタリカへの移動を命じつつ、自分達も準備を整えるためにイタリカへ来たのだった。
どのような戦法をとるにしても、敵の規模や戦力を知らなければならない。もし、敵の戦力が少なければイタリカを守備しつつ、その背後を騎士団につかせて挟撃することも出来る、とも考えていた。
ところが、実際にイタリカに到着してみれば、街を襲っていたのは大規模な盗賊集団だった。
しかもその構成員の過半が、「元」連合諸王国軍とも言うべき、敗残兵達であったのだ。
これに対して、イタリカを守るべきフォルマル伯爵家の現当主はミュイ十一歳。
彼女に戦闘の指揮など取れるはずもなかった。だが、運良くピニャ達がイタリカに訪れていたため、兵の士気低下や脱走を避けることが出来たが、兵力の消耗は時間の問題だった。
「とりあえず三日守りきれば、軍団が到着する」
実際はもう少しかかるかも知れないとは言えない。
ピニャのその言葉を信じた伯爵家の兵達は力戦奮闘した。
だが敵も落ちぶれたとは言え元正規兵であり、攻城戦に長けていた。
街は攻囲こそされないものの堅牢なはずの城門が突破寸前であった。兵や騎士団員達が力戦したからこそ、こちら側の死者がなく戦い抜けたのだが、正直あと少しで負けるとこであった。
物心共に被害も甚大だ。
そのうち、守るべき民から勇敢な者を引き抜き、民兵隊を編成しなければならなかった。
そして、ピニャには兵の士気をあげる術が、どうにも思いつかない。
これが、彼女の初陣における悩みのタネだった。
ピニャは、戦いの疲れと悩みの疲れか、眠りに入ってしまった。
ピニャを起こしたのは、水の冷たい感触だった。彼女は顔を布でぬぐい、濡れた衣服の上に鎧を手早くつけつつ、ピニャは怒鳴った。
「何があった!敵か?」
濡れそぼった朱髪を振り乱すピニャの姿に何とも言えない艶気を感じつつも、事態の急変を知らせに来たグレイは、そんな気分は隠して報告した。
「はたして、敵なのか味方なのか、見たところ判りかねますな。とにかくにもおいで下され」
城門にたどり着いてみると、戦闘態勢を整えた兵士と団員達が、城壁の鋸壁から、あるいはバリケードの隙間などから、門前の様子を見ていた。
「姫様。こちらからよく見えます」
槍を手にした兵の一人が、積み上げたバリケードの隙間を譲ってくれた。
覗いてみると狭い視界の向こう側に、鉄の塊を支える四輪のものと、よくわからない鉄の塊を含めて、十台停まっている。
ピニャは、魔導師が木甲車を魔法で動かしているのだろうと考えた。だが、それは鉄甲車とも言えた。
車の中をよく見ると、同じデザインのオリーブドラブ色の服を身にまとい、同じ色の布で覆われた兜を被った兵士達だ。
手には、武器なのか杖なのか判別の難しいものを抱えている。その険しい表情や鋭い視線などから、この者達が油断のならない力量を有した存在であることはわかる。
「何者だ!敵意が無いなら姿を見せろ!」
「そうだ!敵なら潔く投降なさい!」
ノーマによる誰何の声と、ボーゼスが投降を迫る声が、頭上の城壁から厳しく響いた。
どんな反応が起こるのかと、ピニャもイタリカの兵士も、騎士団員達も皆、息を呑んで見守っていた。
待つこと、しばし。ふと、車の後ろの扉が開いた。
そこから、ローブを身に纏っているプラチナブロンドの髪を持つ少女が出て来た。
「オーク材のくすんだ長杖……リンドン派の正魔導師か?」
じっくりと見ている暇もなく。また誰かが降りてくる。
続いて降りて来たのは、いかにもエルフという感じの衣装をまとった娘だった。
ピニャは、エルフの者がなぜ森ではなく。こんな街道の上に居るのだ?と思っていた。
急に起きた出来事に頭が追いつかなかったピニャは、その後に出てきた娘を見て、ピニャは、濡れそぼった衣服が急激に冷えていくのを感じた。
フリルにフリルを重ね、絹糸の刺繍に彩られた漆黒の神官服。
黒髪を紗布のついたヘッドレスで覆う、いとけない少女。
「あ、あれはロゥリィ……マーキュリー。父上……いや、皇帝陛下が彼女と話をしているのを、国事祭典で見たことがある」
「あれが噂の死神ロゥリィですか?初めて見ますが、見た感じじゃここのご令嬢様ほどでしかありませんね……」
魔導師の少女や、エルフ少女と比べても、ロゥリィは小さくて幼そうに見える。が、自分の体重の倍もありそうなハルバートを、細枝のような腕で軽々と扱って、ズンと大地に突き立てる腕力が凄まじい。
「ひっ」、と小声を漏らすハミルトン。
「無理もない。あれで、齢九百歳を超える化け物だからな」
帝国などこの世に影も形もなかった時から延々と生き続ける不老不死の『亜神』、それが使徒である。これでもロゥリィは、十二使徒の中でも二番目に若い。
使徒・魔導師・エルフの精霊使い……この三人の組み合わせがもし本当に敵ならば、ピニャはさっと抵抗を諦めて、逃げ出す方法を考えようと思ってしまった。
「ですが。エムロイの使徒が盗賊なんぞに
「もし、当初から盗賊に与しているのなら、今頃イタリカは陥落だぞ。もしくは、日和見を決めて、こちらか向こうに加勢していたということもあるだろう……それに、あの三人が味方なら是非とも迎い入れたい」
ピニャは、三人が盗賊に与していないなら即戦力にしたいという考えがあった。
そして、味方なら「味方が増えた!」と告げることが出来る。
いやいや、説き伏せている時間など無い。無理矢理、強引にでも味方にしてしまわなければならない。
あるいは、入城を拒絶するかのどちらかだ。
こうして、ぐるぐると思考が巡り決断のつかない状況の中で、ついに城門小脇の通用口の戸が外から叩かれた。
思わず息が止まってしまう。
そして、唾をグビと呑み込むとピニャは決断した。勢いだ。勢いで有無を言わさず、巻き込んでしまえ。巻き込むと決める。
三本ある閂を引き抜くと通用門を、力強く、勢いよく、大きく開く。
「よく来てくれたっ!!」
「さぁ、投降なさい!」
ここで聞き覚えのある声と、カキンっ!という甲高い音が響く。
ふと、ピニャが我に返ってみると、先程まで頭上の城壁にいたボーゼスが自分より前に出て見たことのない衣装を纏った男と剣を交えたまま、男を睨みつけていた。男は、急なことだったのか、少しおどおどとしていた。
すると、ロゥリィも、エルフの娘も、魔導師の少女も戦闘態勢といえる体勢になっていた。
やがて彼女たちの、冷えた視線がピニャとボーゼスへと注がれる。
「…………聞きたいことがある。敵対する気は無いのか?」
三人の少女は、そろって頷いた。そして、男も困惑しながら数回頷いた。
ピニャは、まずいことであることは理解できるので、まずはボーゼスを制止する。
「お、おい!味方になってくれるかもしれないのだぞ。剣を下ろせ」
「は、はい」
ボーゼスはピニャに従って剣を下ろした。
続けるように、男も剣を鞘に収めた。
三人の少女と男は、ピニャが敵意を持っていないことを理解したのか、反撃はおろか、非難の声を上げることは無かった。
「すまなかった!」
「いえ、そういうことなら……」
深々と頭を下げるピニャをすんなりと許す相馬であった。
大滝少尉と輪島曹長からの呼び出しが、拡声器を通じて聞こえていたので、一旦通用門を出て返事をする。
「中尉、ご無事でしたか?心配しました」
「大丈夫だ。おやっさん。もう少し待ってほしい」
「もう少し遅かったら小隊に指示を出すところでしたよ」
大滝の横にいた輪島曹長は、拳銃を片手にそう言っていた。
「じゃあ、交渉してくるよ」
相馬は、二人にそう言って城門内に戻ると、何故かまったりした空気になっている周囲に対する反応に困った。
「それで、誰が指揮官なの?」
「わ、妾だ!」
ピニャは、状況を理解したのか声を張り上げた。見れば、彼女の後ろから騎士団員達が、「なんだ?どうした?」と言いながら野次馬モードに入っていた。
この後ピニャは、このよくわからない空気をおさえるのに、小一時間ほど掛かったそうな。