ゲート 日本帝国軍 彼の異世界にて、活躍せり   作:西住会会長クロッキー

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第八話 イタリカ攻防戦

相馬の双眼鏡には、斥候と思われる盗賊の騎馬が数騎写り込んでいた。

「敵の攻勢を真正面から受けることになりますね」

輪島曹長の言葉に相馬は頷いた。

他の盗賊と結託しないかぎり包囲攻撃という選択肢は、盗賊側にはない。

この街を六百弱程度で包囲するには、無理がある。なので彼らは、数に物を言わせて一方向から攻め込むという方法しかなかった。

しかし、相馬達が守る南門は一度突破されかけている。

だが、損傷は酷くなく。門の修復が完了していた。はっきり言って盤石な備えといえるだろう。

「だが、思うのはあのピニャという姫様が我々を囮にする事が明らかに分かる。我々四十六人と、駆り出されたと思われる民兵隊の人とここを守るしかないな。しかし、敵が突破に失敗したところを攻めると思うか?」

相馬は、輪島に意見を求めた。

「そうですね。敵さんも一度突破が失敗したところを素直に攻めると思いません。丁度基地から暗視装置を何個か持ってきているので、部下にこれを持たせて北東西に向かわせるべきかと思っています」

輪島は、二人一組で暗視装置を持たせて南門以外の門にも向かわせる案を相馬に持ちかけた。

「それは良いかもね。ありがとう輪島曹長。じゃあ、小隊に指示を出してくれ」

この後、相馬の指示を受けた輪島が部下に、他の門への移動を命じた。

「あっそうだ。一応第二基地の戦車隊にも応援要請をしてもらっても良いかな?何か嫌な予感がするんだよね……」

相馬は、顎に手を当てながらそう呟く。

「分かりました。では、出発の準備を整えるように無線を送ります」

輪島はそう言いながら九三式機動車の方へ行き、本部と通信を始めた。

イタリカの付近まで部隊を展開させるから、事が始まり次第また返事をしろという感じの言葉が本部から返ってきた。

 

 

 

相馬の勘は的中していた。アルヌス基地から飛び立った九八式偵察機が、偵察中にイタリカの北門へと向かう約二千の盗賊集団を捉えたのだった。偵察機に搭乗していた偵察者が素早く本部に電文を送る。

約二千の盗賊達は、数百の「元」歩兵、騎馬や十数匹の翼竜をもって構成されていた。

その先頭には、彼らが飼い慣らしたと思われるオークとゴブリンといった怪異が陣取っていた。

怪異達は、あたかも女子供を犯すことが目的であるかのようだった。口から涎をこぼし続けるオークとゴブリンは常に早歩きだった。

しかし、そんな彼らが数時間後、『火を吐く鉄の木甲車』や『鉄の翼竜に乗る弓兵』によって逆に地獄を見るはめになるとは誰が想像できたのだろうか……。

 

 

戦闘は、夜中過ぎから始まろうとしていた。

それは日の出まであと数刻という頃合いだった。

「小隊長へ、お客さんが向かってきています。本部に呼びかけをお願いします。数は……おそらく千人ほど、何故かさっきより増えています!誰か東門へ!」

兵卒の一人が無線機を持ちながらそう言う。もう一人がノーマや周りの兵士に敵の接近を知らせる。

「皆の者!敵が来るみたいだ!弓兵は、身を屈めろ!歩兵は亀甲隊列の準備をしろ!」

ノーマが周りに指示を出す。

周囲の兵士はノーマの指示に従って行動をする。

「くそっ!落伍兵や敗残兵ならのたれ死ねばいいんだ!よりによって何で民や帝国を襲うんだ!」

ノーマはそう怒鳴る。

次の瞬間、盗賊側の弓兵による矢が東門へと降り注いだ。敵の行動を把握したノーマのおかげで、矢を避けることができた。

しかし、そんなノーマ達に新たな試練が襲いかかった。

飛んでくる矢が先ほどから徐々に威力を増していたのであった。

そのせいか、複数の矢が壁に深く突き刺さっていた。まるで風に後押しされていたかのようだった。

「まさか、敵に精霊使いが?」

ノーマは、城壁から身を乗り出して様子を見ようとしたが何かが突き刺さる音と共に、腹部に尋常じゃない痛みと苦しみを感じた。

「あがっ……!苦しい…毒矢か?」

ノーマは、城壁から降りてすぐのところで倒れ込んだ。敵と正々堂々と戦うこともなくこのまま無様な死に方をするのか。

クソッタレめが。と思いながら涙を流していた。

だが、緑色の服を纏った長い黒髪の女がこちらの前に屈んで様子を伺っているのが見えた。それから、女の一人に優しく抱え込まれたところで、ノーマは意識を失った。

 

 

 

「これは毒矢だな……久島兵長、室井兵長。彼に救命処置を施してくれ。輪島曹長、富河軍曹そして、小隊の諸君。ひと暴れするか……」

相馬はそう言うと、小銃を持ってホハ改に乗り込もうとした。したのだが、誰かが相馬の左腕を握った。

「誰だ?」

そう言った次の瞬間。急に身体が飛び上がったので、思わず持っていた小銃を落としてしまう。ほどなくして、柵の外に出てきてしまった。

「……って、ロゥリィ!危ねえだろ?」

相馬は、隣にいたロゥリィにそう言った。

「だって。ヨウスケと一緒じゃなかったら……」

ロゥリィがそう言った次の瞬間。ついに盗賊達が、乱入して来た。

「こいつ、俺っち達が来たのに女とイチャついてるぜぇ!」

騎馬にまたがる盗賊がそう言いながら相馬を指差す。周りの盗賊達も嘲笑を始める。

「おい、なんとか言え。クソガキ」

盗賊は相馬を煽りながら鼻の穴に指を突っ込み、ほじり出す。だが、相馬はうつむいたままだ。

「うざったい!殺す!」

急に苛立ち始めた盗賊は、そう言うと剣を抜こうとするが……

パンパンパンッ!

盗賊の男の脳天に、三つの穴が開く。そして、血を垂らしながら後ろに倒れ込んだ。

「人が女と話している時にガタガタ抜かしやがって……てめぇらぶっ殺してやる!!」

相馬は、そう言うと拳銃をホルスターに収め、刀を抜いた。

これを見たロゥリィは、静かに笑うと同時にハルバートを地面に叩きつける。

「いくぜ……ロゥリィ」

「はぁい。ヨウスケ」

そう言うと、二人は目の前にいた敵に斬り掛かり始めた。

ロゥリィは、人馬を蹴り飛ばし、ハルバートで吹き飛ばす。

相馬は、吹き飛ばされて来た盗賊を斬り伏せる。

巧みに避ける相馬とロゥリィに反撃の一つも出来ずに斬り伏せられてゆく。盗賊達。

「お前らっ!玉になれ!」

盗賊の頭と思われる者がそう叫ぶと、歩兵達が亀甲隊列を組む。

それも虚しく。相馬から投げられた手榴弾が、亀甲隊列を吹き飛ばす。今度はロゥリィが敵を斬り、その首を刈り取る。

尋常では無いと感じた彼らは、徐々に退いてゆく。その間にも輪島達による銃撃によって彼らは撃ち倒されてゆく。

そんな盗賊達は、二人に釘付けになっていたため、自分達の後ろから近づいてくる何かに気づく暇もなかった。

そして、甲高い爆発音と共に外に出ていた盗賊達は、吹き飛ばされた。

 

 

 

盗賊によるイタリカ侵攻が始まる三十分前、第一戦闘団所属の約八十数輌の戦車の群れが薄暮に覆われた大地を走っていた。

本土から持ち込んで来た三式戦車改を先頭にして、二式快速戦車、衛生兵を乗せたトラック。さらにその後ろに火炎放射器を装備した八九式軽戦車・ハ号が続いていた。

轟く履帯の音。

戦車はラッシュ時の会社員の如くスムーズに移動して行く。

「瀬戸大佐。あと十分で会敵する予定です」

通信手からの報告を、瀬戸は頷いて受けた。

二式快速戦車に搭乗している副団長かつ皇族軍人の『陸奥宮(むつのみや)』中佐が無線を通じて、「敵の行動を牽制しつつ、我々が向かう北門の人々を守るために大佐殿の三式改が門の前で固定砲がわりになるべきかと思います。その間私が二式と八九式を率いて敵陣に切り込みたいと思っています」と段取りを提案する。

瀬戸は、これも頷いて受けると、「若様にお任せ致します」と返した。

車内の砲手は主砲の発射トリガーに手を添えた。

「あと五分!!」

戦車達は、休まず北門へと向かって行く。

快速戦車と軽戦車が張り切って三式戦車改の前に出る。

瀬戸大佐は、双眼鏡を覗き込む。

双眼鏡から見えたのは、北門を蹂躙せんとする怪異の群れと多数の騎馬だった。

瀬戸大佐は、城門の方へと双眼鏡を向ける。そこには、白を基調とした甲冑に身を包む美女達の姿が見えた。

「総員に告ぐ。最大速度で吶喊だ!北門には、べっぴんさん達がいる。なんとしても彼女達を守り通せ!そして、善良たる人々を殺めんとする賊徒共を討ち取れ!!」

瀬戸は、無線でそう怒鳴りつけると、各車輌から「了解!!」と各車輌の搭乗員達の血気盛んな声が無線機から溢れ出た。

すると、戦車達の上を九七式襲撃機や九五式戦闘機六四型が通過していった。

「空軍も張り切ってるじゃねえか。南東西は空軍さんに任せて、俺たちは北門でひと暴れだな……」

瀬戸達第一戦闘団は、刻一刻と北門へ近づいていた。

 

 

 

北門に布陣していたピニャ達薔薇騎士団は正直言って、近づいてくる怪異達や騎兵達に圧倒されていた。

騎士団全員で敵に突っ込んで騎馬戦を挑みたいところだが、興奮状態のオーガやゴブリン、トロル達に背後に回り込まれて全滅することが目に見えている。

かといってこのまま敵を引きずり込んで攻城戦に持ち込んだとしても、破壊を得意とする怪異達の総力戦によって持ちこたえられる時間は、圧倒的に少なくなってしまう事が目に見えている。

どの戦法を考えても自分達が犯され、なぶり殺される結末しか思い浮かばなかった。

「くそっ……(妾はどうすれば良いのだ。『緑の人』達に助けを求めようにしろ彼らを囮として南門に配している。妾は勇敢たる騎士団を犬死にさせてしまうではないか……)」

ピニャは悔しさのあまり唇をギッと噛み締めた。ハミルトンやボーゼスといった部下達がピニャを心配する。

「私たちはこの街を守った英雄として名を残してやります。殿下はお逃げください。殿下っ!私達にご命令をっ!」

ボーゼスはそう言いながら、ピニャの両手を握りしめながらピニャを見つめていた。

「……いや、妾はお前たちを見捨てない。妾もお前たちと運命を共にしたい……ボーゼス。最後の命令かもしれん。皆と妾と共に英雄となるべく、敵を迎えるぞ!帝国に幸あらんことをっ!!」

ピニャはそう言いながら腰に下げていた剣を天高く振り上げた。

これに騎士団員達は共鳴して剣を振り上げる。

すると、甲高い爆発と共に、眼中にあった数百メートル先の怪異や騎馬達が吹き飛んだ。

「殿下。あれは……緑の人の仲間なのでしょうか?」

ヴィフィータは指差しながら城壁の外を指差す。それにつられて周りの団員達も外を見る。

「火を吐く鉄の木甲車?」

ピニャの目に入ったのは、城門いや、自分達を守っているであろう。まだら模様に塗装された巨体を持つ『火を吐く鉄の木甲車』だった。他には、敵へ突っ込んで行く同じような鉄の木甲車の群れがいた。

そして、城門の前に広がる鉄の木甲車から見慣れない緑色の衣装と帽子を身に纏った男がホラのようなものを持ち、こちらを見つめながら自身の声を響き渡らせていた。

「怖がらないでくださいっ!私達は貴女達の味方ですっ!共に戦いましょう!!」

「味方なのか?」

ヴィフィータは、男や『火を吐く鉄の木甲車』をずっと見つめていた。

第一戦闘団は、ピニャ達薔薇騎士団を守るべく北門に展開した。

陸奥宮に率いられた快速戦車と軽戦車はなおも進撃をやめない騎兵や怪異達に向かって走り出していた。

八九式軽戦車は固まって突撃をしてくる怪異達に向かって火炎放射攻撃を始める。

火炎放射器から放たれた炎に身体中を焼かれ、転げ回りながら悶える怪異達。他の怪異達は、同じように業火に晒されてゆく。

「汚物は消毒するんやでっ!!」

関西地方出身であろう戦車長が、業火を撒き散らす戦車のキューポラから身を乗り出して短機関銃を怪異に向けて乱射する。

「覚悟せいっ!賊徒共!」

陸奥宮も同じようにキューポラから身を乗り出して数十輌の快速戦車を率いる。

右往左往する敵達に向けて、車載機関銃を撃ち込む。なおも勇敢に槍を連ねて向かってくる騎兵には、集中砲火で迎え撃つ。案の定、敵は吹き飛ぶ。

そのうち槍を連ねてやってくる敵に体当たりを仕掛ける戦車まで現れ始めた。もちろん鉄の塊を避けれるわけがなかった敵は衝撃と履帯によって踏みにじられていった。

門の前に展開した三式戦車改は、亀甲隊列を組みながら近づいてくる盗賊達を、完全に自動装填化された主砲から放った成形炸薬弾で、アルヌス防衛戦の時ように、葬り去る。こうして、北門を襲おうとした敵の野望は一瞬にして打ち砕かれた。

 

 

 

東門では、九五式戦闘機が自由に空を舞っており、飛来してきた盗賊側の竜騎兵達をロケット弾や機銃で葬る。

20mmの機銃を受けた竜騎兵は、自身の手足や胴をズタズタに引き裂かれた。彼らを乗せている翼竜は、脳天や翼膜に穴を開けられ、悲鳴をあげながら倒れていった。

盗賊達からすれば、日本軍の戦闘機は、死神の羽音を響かせる鋼鉄の翼竜または、パイロットが『鉄の翼竜に乗る弓兵』として見えていた。

地上でもほぼ同じ光景が広がっていた。

大地を闊歩するように、軽快な動きをするホハ改から身を乗り出した隊員達が、小銃で弓兵や歩兵を撃ち倒す。富河軍曹が、置き土産よろしく手榴弾を弩の矢を装填する敵に投げつけていた。

室井兵長が城壁の上で身を隠すように三八式歩兵銃を構え、視野の周囲にぼんやりと見える照門の中央に照星を置き、これを体勢を立て直そうとする盗賊の頭部に重ねた。盗賊の動きの速さに合わせながらリードをとる。

「正しい見出し、正しい引きつけ、正しい頰つけ。コトリと落ちるように……」と呟きつつボルトの操作を行い、引き金をひく。

三発の発射。

右の肩に発砲の衝撃を受け止めながら、自分の実力が発揮できるという感動を憶えていた。

「あの室井とかいう娘。とんでもねえじゃじゃ馬じゃねえかっ!」

ホハ改に乗る輪島は小銃の弾を装填しながらそう呟いた。周りの部下達は、彼女に賞賛の声を送っている。

だが、そんな彼女よりすごいのは相馬の方である。相馬は、空軍による攻撃が行われるなかでロゥリィと共に大地を駆けていた。

自分達に襲いかかってくる敵を斬る蹴るのコンビネーションで圧倒していた。

ロゥリィが蹴飛ばした敵を相馬が斬り、相馬の背後に回り込んだ敵をロゥリィがハルバートでスイカのようにかち割るの繰り返しだった。

「いいぞロゥリィ。その調子だ」

相馬はそう言いながらロゥリィの背後にいた巨漢を拳銃で撃つ。

「あらぁ、ヨウスケだってやるじゃない」

ロゥリィは、ハルバートを相変わらずのように振り回し、プロペラのような旋風でトロル達の首や上半身を高々と跳ね上げている。

二人は赤い雨粒をその頰に受けながら、血肉を斬り、そして断つ。

そんな事が続いているうちに、敵の士気が下がっているという事に気づく。

それと同時に、天を覆っていた黒煙を切り裂くようにして九七式襲撃機が姿を見せた。

その威容に人々は圧倒された。

空を見上げ、指をさして天空を舞う鋼鉄の翼竜に見入っていた。

相馬達や第一戦闘団に押しまくられて密集しつつあった敵に、三機の九七式襲撃機は、急降下爆撃の態勢に入る。

状況を理解した相馬は、刀をしまい。ロゥリィの手を引いて走る。

輪島は、「空軍さん!とどめをかましてやれ!!」と言いながら身を屈める。

相馬等を待ちかまえていたかのように、三機から落とされた合計六個の六十キログラム爆弾が瞬く間に敵をミンチへと変えていった。

そこからさらに九五式戦闘機が、機銃掃射を行う。それは最終的な破壊だった。

燃えさかる戦いの炎、全てを一瞬にして吹き飛ばす豪雨であった。

ほどなくして、空軍機がアルヌス基地へと帰還していった。

耳に残るのは、盗賊達の慟哭(どうこく)と悲鳴。

衛生兵達を乗せたトラックが次第に集まってきて、そこから兵士達が降車する。

周囲を警戒しながら敵味方の生存者や怪我人を探していく。

ここで、住民の一人が尊崇の念を込めて、相馬にどこの誰かと尋ねた。そして「日本帝国軍」という答えを得る。

ロゥリィは、飛び去ってゆく空軍機に手を振りながら周囲を見渡した。

ふと、気付く。

相馬が微笑みかけながら自分を見つめていることに。

相馬は右の拳を握りしめていた。おそらく自分と拳を合わせたいのだろう。だが、せっかく楽しませてもらったんだ。これ以上の良いことをしてあげよう。

ロゥリィ・マーキュリーは目を瞑り、その桜色の唇を相馬の頰に重ねた。

こうして、イタリカ攻防戦は幕を閉じた。奇跡的に日本側と帝国側には、死者が出ておらず。数十名の怪我人だけで済んだ。

盗賊側の被害は甚大なもので、死者千六百人。重軽傷者五百人というものだった。

この特地では、後に奇跡の戦いとして語り継がれるのであった。

 

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