幻想郷貧乏生活録   作:塩で美味しくいただかれそうなサンマ

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第九話 人と妖怪 後編

レミリアと弾幕ごっこを始めてからどれくらいの時間が経ったのだろうか。

俺はまだ耐え続けていた。

地面で、醜く這いずり回って、泥まみれになりながらもレミリアの弾幕を避け続けていた。

先日怪我をした左腕と右足を庇いながら弾幕を避けるのはかなり至難だ。

事実、飛び込みや転がりを多用するせいで体は土まみれだし、右腕に頼って弾幕をかき消すため、多用した右腕はもうすでに感覚を失っている。

そんな、諦めにも近い現状確認をしていると、不意に弾幕が止んだ。

不審に思い様子を見る。

 

「あぁ…予想以上だ…」

 

レミリアは何か言っているようであるが、遠すぎて聞こえない。

静寂が続く。

そうしていると月が雲に隠れ、あたりは闇に覆われた。

次の瞬間、レミリアの影が消えた。

驚き、困惑し、戸惑っていると…

 

「こっちよ?幸太。」

 

甘ったるい、茹だるようなレミリアの声が耳元から聞こえた。

ぞわぞわした悪寒と恐怖を背骨に感じる。

あまりの恐怖に弾幕ごっこであることを忘れ、本当的に後ろを振り向いて殺す気で鉈を振る。

しかし、そこにあったのは俺を煽るように深淵な闇だけ。

 

「ふふっ…残念。」

 

また、耳元からレミリアの声が聞こえた。

同じく後ろを向き鉈を振る。

が、余裕綽々といった風に避けられてしまった。

数歩先にレミリアの影が見える。

しかし、動こうとしない。

嬲られている。

そんな実感が鋭く走った。

彼女は俺なんて瞬殺できる。

なのにいたぶって楽しんでいる。

それを知ると深い絶望と虚無感に襲われた。

と、レミリアがこちらに歩み寄ってきた。

不気味さと恐怖に俺が動けないでいるが、そんなことに構わずずんずんと近づいてくる。

暗さゆえ、その姿は闇に覆われ、詳しくは分からない。

あまりの恐怖に、気味の悪さに、そこの知れなさに、俺の体はガクガクと震え、動けない。

と、レミリアが至近距離まで近づいてきて、俺の右頬に手を当てた。

冷たい手だった。

その手の感触に驚く間も無く、近づいて視認できるようになった、その顔を見て戦慄する。

 

「最高よ…幸太。その顔。その目……興奮しちゃうじゃない…」

 

レミリアのほおは紅潮し、その目は興奮と殺気で細められ、愉悦と快感にうっとりした顔をしていた。

まるで恋人に語りかけるようなその声は、甘さと熱をはらみながらも、不満足と、苛立ちを隠しきれない威圧感が含まれていた。

その体は上機嫌そうに小刻みに揺らされている。

右頬に当てられた手が俺を撫でる。

不快感、恐怖、無力感、おぞましさ。

色々なものがないまぜになった黒い感情に突き動かされ、鉈を振る。

が、その鉈はレミリアには当たらない。

数歩後ろに下がって鉈を避けたレミリアを、今まさに雲から出た月が照らす。

そこにあったのははたして…

幻想的で美しい少女の姿か。

狂気的で恐ろしい妖怪の姿か。

 

「こんなにも月が綺麗だから…もっと楽しみましょう?」

 

そう、静かに言い放ってこちらへ向かってくる。

怖い。

逃げたい。

もう無理だ。

敵わない。

そんな気持ちが心の中で渦巻いていた。

同時に。

強い、生への執念と、ちっぽけな意地が、心をたぎらせていた。

たしかにもう無理だろう。

鉈もまともに振れない、傷と疲労でまともに動けない。

この満身創痍な状態で、大妖怪相手に、もう生き残るなんて無理だ。

だけど死にたくなんかない!

死んだとしても!

せめて醜く足掻いてやる!

人間らしく!

 

 

レミリアの爪と、幸太の鉈が交差する。

甲高い金属音が森に響く。

そこには昔ながらの、生死を争う人と妖の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おかしい。

なぜ俺はまだ死んでいない。

俺とレミリアが殺し合いを始めてから、幾度金属音が響いただろう。

どれくらいの時間が経ったかは分からないが、そこそこ時間は経ったはず。

いや、なぜかなんて考える必要もないか。

《相手が手加減している》そんな、明確なことだ。

この妖怪は。

なんて傲慢なんだ。

なんて身勝手なんだ。

なんて尊大なんだ。

そんな、怒りが体を染め上げていく。

さっきまでの恐怖が嘘かのように消えていく。

手加減されるのは、むしろ嬉しいはず。

生き残れる確率が大きくなるはずだから。

しかし、俺の体に生まれた感情は、むしろ真逆なものであった。

自分の、ほんの少しの自尊心が、顔を出した。

覚悟を裏切りやがって、と。

そんな身勝手なわがままを言いつつ。

 

「ほら!もっと楽しませてちょうだい!」

 

そんなことを言いながら突っ込んでくるレミリアを見て思う。

当ててやる。

俺の、弾幕を!

彼女は今、油断と興奮の塊になっており理性を失っている。

今なら当てられる、と、そう確信する。

レミリアは俺が左腕を怪我していることに気づいたのか、つねに俺の左側で立ち回り、攻撃する。

だから、そこをつく。

今までは回避優先で、小回りの効く行動しかしなかった。

しかし、ここでわざと鉈を大振りで振り下ろし俺の隙を作る。

その隙を、勝ちを確信してついてきたレミリアに、《攻撃ができないはずの左側》から攻撃をぶち込む。

腕の長さはレミリアより俺のが長いから、後手だとしてもこれの攻撃が先に当たる。

冷静に考えたら見え見えな罠だが、今の彼女なら気づかないだろう。

 

「くっそ!当たれよぉ!」

 

叫びながら、《わざと》大振りで右手に力を込めて鉈を振り下ろす。

レミリアはそれを左に避け、まるで勝ちを確信したような、興奮を隠しきれない顔で、こちらに攻撃してくる。

無防備だ。

こちらからの攻撃など、全く考えていない、そんな悠長な攻撃。

そこを潰す!

 

「“唯符《陽を撫ぜる一閃の水滴》”」

「っっ!?しまっ…」

 

俺の左手の先に、青白く輝く一つの弾幕が生まれる。

それを、無防備なレミリアに叩きつけ…られなかった。

レミリアは一瞬で俺の目の前からいなくなったのだ。

俺の渾身の一撃は、空を切った。

 

「は?…えっ…なんで?」

 

意味がわからない。

もう考えたくない。

そんな風に絶望していると後ろから声が聞こえた。

 

「楽しかったわ。幸太。でも遊びは終わり。眠りなさい。」

 

そして、その数瞬後には、俺の意識は消えた。

あぁ…死んだな。

短い人生だった。

 

そう思いながら、意識を沈めていった。




物語終わらないから大丈夫です。
ちなみにこれ書いてる途中に2000文字いったぐらいで全データ吹き飛びました。
ヌワァァン疲れたモォォン。
これからも楽しんでいただければ。

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