「え…お姉さま?なんでここに?人間は?」
フランドールがそう、驚きの表情と声を持って言う。
もちろんここにレミリアはいない。
幻覚だ。
フランドールは今、俺をレミリアと誤解している。
そう、これが俺が魔理沙に習った魔法。
魔理沙は確か…認識操作?とか言っていた。
だが、使えるといっても条件付きだ。
相手が精神的に参ってる時にしか、俺は使えない。
まぁ、しかし何故俺がレミリアになったのか、それはフランドールから逃げるためではない。
「まぁいいや。ねぇ?お姉さま?私と一つになりましょう?お姉さまには私の心の中でずっと、ずーっと生きていてもらうの!死んでもらってね!」
「な、なにを言ってるの?フラン。」
レミリアの声を真似てフランに返す。
フランはとても幸せそうな顔だ。
レミリアの声に聞こえているのだろう。
認識を操作しているからな。
予想通りだ。
やはり彼女は…レミリアを殺したがっていたんだな。
レミリアが、たとえどんなに狂っていても、ただ《依存しているだけ》の愛を理由に妹を閉じ込めたりはしないだろう。
しかし、閉じ込めたというのならそこになんらかのレミリアへの実害があったはず。
多分だが、レミリアも身を切る思いだっただろう。
「大丈夫だよ、お姉さま。すぐに幸せになれるよ。だから死んで♡」
「や、やめて…来ないで!フラン!」
フランドールは後ろの壁に差をつけた俺に嗤いながらゆっくりと近づいてくる。
こつこつと可愛らしい足音がひたりとした冷たい死をまとって耳を撫でる。
背中の血に濡れた壁がまるで今までこの部屋で死んだ人々の呼び声のように生暖かさを伝えてくる。
そうこうしているとフランドールは俺の目の前まで来た。
「や、やめてフラン、こんなの間違っているわ…」
「怖くない。怖くないよ♪お姉さま♡じゃあ、一緒になろ?」
その瞬間、ズリュっという肉を貫く小気味良い音が俺の左腹から響く。
フランドールからしたらレミリアの左胸、心臓を貫いたつもりなのだろう。
そう、俺はフランドールから逃げるためではなく、フランドールに《殺される》ために幻術をかけた。
ここからは…俺の演技の問題だな。
俺はそのまま倒れ込み、それをフランドールが優しく支える。
歓喜と、慈愛と、狂ったその笑みでこちらを見てくる。
背筋がザワザワした。
「やった、やった!お姉さま!これで私たちひとつだね!やっと、私を、私だけを愛してくれるんだね!お姉さま!幸せになろうね!」
「しあ、わせ…?」
「そうだよ、今はちょっときついかもしれないけどすぐに幸せになれるからね!」
「なによ…なによそれ!」
俺が叫ぶとフランはびくりと肩を震わせた。
意味がわからない、という顔でこちらを見ている。
畳み掛けるように俺は叫ぶ。
「ふざけるんじゃないわよ!あなたのせいで!ウッ!…私は死んでしまうのよ!」
「で、でも一つになれ「そんなことありえるわけない!」
「死んだらそこで終わりよ!あなたのせいよ!フラン!全てあなたのせい!いつも迷惑だったわ!私を愛しているからと!ベタベタベタベタと!うっとおしかったのよ!しまいにはこんなことしてくれて!あなた最高ね!最高の馬鹿よ!フランなんて大嫌い!」
正直、悪口に関して適当に考えたものだが、あながちハズレではなかったようだ。
フランドールは心当たりがあるのかないのか絶望の表情を浮かべていた。
「ごふっ、うっ、うぐっ!」
「お、お姉さま…あまり叫ぶと苦しいよ?」
「黙りなさい!」
俺は吐血してしまった。
腹の傷はほぼほぼ致命傷である。
早く応急処置をしなければ俺の命も危ない。
フランドールが心配そうに伸ばしてきた手を払いのける。
「お、お姉さま…」
「私は、ずっと…ずっ、と…あなた、を…うら、む、わ…」
そして絶命したふりをする。
認識操作の魔法で、冷たく感じさせあたかも死んだかのように思わせる。
フランドールは、自分がなにをしたか理解したようだ。
そして、その賢さ故に、自分の愚かさを理解し、絶望した。
お姉さまはもう帰ってこない。
その目はもはや、何もない。
絶望も、歓喜も、悲しみも、希望も、感情も、なにもかも。
心が壊れたフランドールは自殺しようとした。
その鋭利な爪を、自己の首に向け死のうとした。
が、そんな簡単な逃げ、俺がさせるわけがない。
力を振り絞り、思い切りフランドールのほほを平手打ちする。
パァン!
その瞬間、静寂だった赤い部屋に甲高い音が響く。
フランドールはほほの熱い感触に驚きこちらを見た。
「おはよう、お姫様。夢はいかがだったかな?」
連チャンです。
なんか描写薄い…久しぶりだし、力不足を感じました。
いやまぁ、30分で書き上げたら当然といえば当然なんですけども…
次のお話はそこそこ長いかと
これからも頑張ります