幻想郷貧乏生活録   作:塩で美味しくいただかれそうなサンマ

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※胸糞注意です!レミリア、フランファンの方にはちょっときついかもしれません。覚悟していてください。


第十六話 “大嫌い”

…目を…覚ました。

ぼそっと一つ呟く。

 

「生きてたなんてな…」

 

死ぬ死ぬ思って覚悟してたが、まぁ、生きてた。

意外とあっさりもう一度この世に戻るなんて思いもしなかった。

目を開けたそこはフランドールの檻の中だ。

真っ赤な天井が挑発的に視界を揺らす。

三途の河や花畑なんてもんは映らなかった。

まぁ、それが死んでないという証拠なのだろうか。

横に視線を流すとフランドールはまだうずくまっていた。

そして気づいたことがもう一つ。

俺の傷が止血されていた。

なれない手つきでされたそれだがこれが俺の命をとどめたのだろう。

したやつは予想なんてしなくてもわかる。

フランドールだろう。

立ち上がろうとして身じろぎすると激痛が走った。

思わず動きを止める。

これはしばらく動けそうにないな。

と、俺の衣擦れの音でフランドールが顔を上げてこちらを見てきた。

その顔は泣き跡がついているが、何か決意を込めた表情で満ちていた。

 

「起きたのか。」

「あぁ、おかげさまでな。どういう風の吹き回しだ。殺すんじゃないのかよ。」

「そんなの私の勝手だろう。」

「おっしゃる通りで。」

 

と、不意に俺の体が動いた。

動かそうとしたわけじゃない。

勝手に、独りでに動き出したのだ。

驚きと困惑で抵抗しようとするができない。

無理やり身体を動かされることで激痛が身を切る。

 

「私の妖力でお前を動かしている。無駄な抵抗はしないほうが痛みは抑えられるぞ?」

「ふっ、ぅぅ…ふざけるな…止めろ…」

「やめると思うか?お前は私にふざけたことを何度もしてくれたからな。正直お前のことは“大嫌い”だ。」

 

フランドールが悦の入った表情と調子で言う。

ふざけたことをしたのはお前だろと思ったが疲れ果てていて言えなかった。

あまりの痛みに抗議も蚊の鳴くような声しか出せなかった。

しかし、それは無視されて扉の方で歩かせられる。

抵抗を諦めたが、激痛が消えるなんてことはなかった。

そして、俺の両の手がフランドールの意思に従って扉を開く。

ギギギ…と騒がしい音を立てて開く扉。

その後ろでフランドールが小さく呟くのが聞こえた。

 

「お姉様に…会いに行くんだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館の廊下をフランドールと、数歩の距離を開けて歩く。

薄暗い紅魔館の廊下は普段よりも人が少ないようであった。

こっ、こっ、という調子のいいな足音と、変拍子なフランドールの暗い声が廊下に響く。

フランドールは先程から俺に独白を続けている。

それはフランドールとレミリアの過去についてであった。

 

 

「私と、お姉さまはある吸血鬼の貴族の娘だった。私たちは仲良く暮らしていたわ。たまに姉妹喧嘩もあったけれど和解して、絆を深めて生きていた。私たちの父は力がある家柄ながら卑しい吸血鬼にも慈悲ある行動をとる誇りある吸血鬼の人だった。正義感に厚く、他の吸血鬼の悪事を暴いては裁いていたわ。でも、そのせいで恨みを買ったのでしょうね。私たちは陥れられた。冤罪によって犯罪者に仕立て上げられて両親は処刑、幼い私たちは私たちを陥れた貴族たちの奴隷になったわ。貴族たちは奴隷の私たちに暴力を振るったり、陵辱しようとしたりしたわ。そこからは…地獄よ。お姉様にとって…ね…。お姉さまは私を守るためにある一つの契約をその貴族たちに出した。“私が暴力も、陵辱も、なにもかも受けるから妹には手出しをするな。ただし、私が弱音を吐いたら妹をどうしてもらっても良い。”とね。そして…お姉さまは私たちが解放される、その最後まで弱音を一度も吐かなかったわ。そのおかげで私は一度も暴力を降られず、陵辱もされなかった。でも…これは私にとっても地獄だった。大好きなお姉さまが傷つけられているのに、何もできず、守られることしかできないことが歯がゆかった。私が変に抵抗したりするとお姉さまがもっと傷つけられていたから抵抗できなかった。お姉さまはいつも自分の体をその爪で掻きむしっていたわ。“気持ち悪い”とね。結局、私たちが解放された理由は簡単よ。私が…わたしが全部殺したの。私たちを陥れた貴族みんなをね。憎悪が爆発したし、何より私にはそれだけの力があった。そして、その日、お姉さまに言ったの。“もう終わりなんだよ”って。そう言ったら…お姉さまはわたしに濁った目でこう言ったわ。“何故…何故今まで助けてくれなかったの?”って…。衝撃だった。嫌われたと思った。だから…もうお姉さまも殺してしまおうと思った。けど、殺せなかった。殺せるはずがなかった。それから10年ほどがたった。私たちは紅魔館に住み始めていたわ。平穏な生活を送っていたの。そんなある日の夜、お姉さまの部屋からお姉さまの独り言が聞こえた。“なんで私だけ!”ってね…。そこで、私は狂ってしまった。もうお姉さまに嫌われたくなくて、苦しんで欲しくなくて、私が、苦しみたくなかったから。お姉さまが苦しむと、私が苦しいの。罪悪感に追い立てられるのが辛かった。だからお姉さまを殺して、私も死のうと。楽になろうと思った。でもお姉さまは強かったわ。私は閉じ込められて、何年経ったかしらね。300年は経ったと思うわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな過去の話を聞きながら歩かされていた。

痛みは引かない。

どころかむしろ強くなっている気がする。

しかし衝撃的な話だった。

レミリアが昔陵辱をされていたとは思わなかった。

今はそんなそぶりを見せないしな…どれだけ心が強いんだろう。

さっきはフランドールに“逃げるな”と、非情で、厳しい言葉を放ったがこんな境遇にあったら俺はフランドールより酷いことをするだろう。

多分俺は早々に自殺している。

この姉妹の、精神の強さに心底驚嘆していた。

しかし、話を聞いていると問題があるのはフランドールだけでなくレミリアもだな。

レミリアもまた…逃げている。

姉妹2人の間に起きた誤解と、2人の互いを思う愛が、2人を遠ざけている。

食い違ってしまっているのだ。

 

 

そうこうしていると玉座があった部屋の前に着いた。

フランドールはすこしためらうが、扉を開ける。

地下室の扉とは違い、音を上げずに開くその扉の先にはレミリアがいた。

まるで、来るのがわかっていたとでもいうような表情で。

 

「やはり来たわね、フラン。」

「お姉さま…話をしに来たわ…」

 

レミリアは、威圧的な調子でそう放つ。

あまりの空気の重さに息がつまる。

呼吸が困難になってヒューヒューと無様な呼吸をする。

と、レミリアが気づいてくれたのか威圧感が消えた。

隣にいただけなのにこんなに凄まじい空気を放つなんて…

それをものともしていないフランドールにも驚きだ。

大部屋の中は赤い月の光で照らされて明るかった。

レミリアの顔もよく見える。

鬼のような形相であった。

 

「フラン…地下室へ戻りなさい。早く。」

「嫌よ!お姉様…話を聞いて…」

「そんな余地なんてないわ。貴方は狂っているの。戻りなさい。」

「話を聞いて!ごめんなさい!お姉さま!今まで苦しみを全て抱え込ませてしまった!無理にでも助けるべきだった!お姉さまと助け合って、仲良く過ごしたい!これからは和解して過ごしていきたい!昔のように平穏な日々を過ごしたいの!だから、私に話す余地をちょうだい!」

 

フランドールが叫ぶ。

悲痛な叫びだ。

謝罪と、要求。

妹が姉に送る、優しいわがまま。

しかし、レミリアは黙りこくったまま。

その目は、全くといって感情を宿していない。

 

「分からず屋ね、フラン…苦しみ?そんなもの無いわ。和解?そんなものもできないわ。だって、貴方が狂っているもの。」

「ッ!分からず屋はお姉さまじゃない!お姉さまも同じよ!何故私から逃げるの?何故狂っていることにこだわるの?何故離れるの?過去に囚われて未来を求めないのはもう十分よ!」

「反抗するのね…いいわ、力ずくで返してあげましょう。」

 

レミリアの手に紫色に輝く槍が出現する。

 

「こっちのセリフよ!力ずくで分からせてあげるわ。」

 

フランドールの手に橙色に輝く剣が出現する。

 

「お姉さまなんて…」

「フランなんて…」

 

「「“大嫌い”!」」

 

吸血鬼の姉妹のつばぜり合いが起こる。

辺りに強い衝撃波が放たれた。

 

 

それはいったい、幾年ぶりの姉妹喧嘩であっただろうか。




散々狂気の理由を考えて《レミリアへの愛》と、《陵辱》というあるあるなやつしか考えられなかった自分は無能ですね…
これからもよろしくお願いします。

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