穴の開いた天井から赤い月がこちらを見る。
紅く紅く照らされた紅魔館の大部屋の隅で、俺は一人壁にもたれて座っていた。
もう動くことなどできない。
ぼーっと姉妹喧嘩を見上げていた。
二人はそれぞれの得物を振り、喧嘩している。
「人騒がせな姉妹だ…」
まったくもってそう思う。
二人の不器用さゆえに俺はここまで振り回された。
二人がもう少しでも素直であれば、この問題はもっと早く解決していただろう。
レミリアは妹への仕打ち。
そしてフランドールは姉への仕打ち。
それぞれがそれぞれの行動への後悔と自己嫌悪、そして愛する姉妹のの愛を失う恐怖から。
二人は塞ぎ込み、逃げて、すれ違っていた。
本音をもってぶつけ合っている今、和解は早いだろう。
ここまで迷惑をかけられたのに嫌いにはなれそうになかった。
二人の過去と性格を知ってしまったせいで情が生まれてしまった。
「くそっ、絶対に埋め合わせはしてもらうぞ。」
紅い静寂の中ひとりごちる。
気持ち悪い倦怠感と激痛に身を任せて喧嘩の行く末を見守っていた。
いっときするとレミリアとフランドールは抱き合って動かなくなった。
和解した…のか?
遠くてこちらには声が聞こえてこないからよく分からないな。
と、自分のもたれていた壁のすぐ横の大部屋の扉が勢いよく開いた。
そこから出てきたのは…
「あぁ…霊夢じゃないか…」
「え、え!幸太!?なんでここに……今までどこにいって…!…その傷、どうしたの?まさかあの吸血鬼たち?」
「あぁ…まったく、困ったもんだよ。」
霊夢であった。
なぜここに?と思ったが空は赤い霧と赤い月が見えることから大方《異変》というものの解決をしにきたのだろう。
激痛のあまり弱弱しく会話をする。
霊夢がこちらによって心配そうに、労わるように傷を見る。
見た瞬間、驚きに目を見開いていた。
俺の体はそれはもうぼろぼろだった。
体中に青あざや打撲痕がつき、左の脇腹は軽くえぐれている。
左耳が削りとられており、多くの骨が折れていて関節もいくつか曲がるはずのない方向へ曲がってている。
服には血が滲み真っ赤になっており、顔は見るも無残に腫れや切り傷の嵐だ。
そして最悪なことにその体に無理をさせられてここまで歩いてきたせいか体は激痛に見舞われ、大きな痙攣をしている。
「そう……幸太、少し眠っていて。大丈夫、すぐ終わるから。」
霊夢がそう小さく呟いた。
そして霊夢の右手が俺の方にかざされて白く光る。
と、何やら眠気が襲ってきた。
今まで倦怠感はあっても激痛で眠れそうになかったのに、である。
薄くなっていく視界で最後に見たのは修羅の形相で吸血鬼姉妹の方を見る霊夢の姿であった。
結局、あの後異変は解決されたらしい。
レミリアが今回の異変の首謀者であり、赤い霧で吸血鬼の弱点である太陽をの光をなくして幻想郷を支配しようとしたらしい。
今後は「紅霧異変」として語り継がれて行くそうだ。
俺は眠っていたのでよくわからないが霊夢と魔理沙、レミリアとフランドールの弾幕ごっことなり、霊夢たちが勝利して終わったようだ。
霊夢にはもう無理しないようにと釘をさされた。
レミリアとフランドールも無事和解できたようである。
レミリアとフランドールからは礼を言われた。
和解のきっかけになってくれてありがとう、と。
そして…フランドールからある有り難い警告を受けた。
「お姉さまのお気に入りだし、助けてくれた恩もあるから我慢してるけどあまりにもベタベタしたら…知らないよ?お姉さまみたいな至高の存在をあまり侵しすぎないでね?私に手を上げさせないでね?私だって手を上げたくないもの。ね?幸太おにいーさん?」
その迫力はまさに悪鬼羅刹であった。
今は異変後の宴会の途中である。
異変後に悔恨やわだかまりを残さないために開かれる宴会である。
昼間から博麗神社の境内で飲めや騒げやのどんちゃん騒ぎである。
俺もお呼ばれして、体の状態を理由に断ったのだが霊夢に無理やり連れてこられた。
もう少しいたわってくれても良かろうに…
「幸太?私のお酒が飲めないというの?私が嫌い?」
「いや、レミリアが嫌というわけじゃなくて…」
「じゃあなぜ飲まないのよ。ほら、早く飲みなさい。」
そしていま、酔っ払いに絡まれている。
レミリアは甘えるように俺の右肩にしなだれかかって腕を組み、体を密着させて西洋の酒、「わいん」というものを勧めてくる。
茹だるような熱っぽい声をかけ、まだ満足に体を動かせない俺に酒を飲ませようとしてくる。
俺はそれを首を傾けたりして避けている状況だ。
可憐な少女にこうやって酒を勧められるのはたとえ妖怪とはいえ男冥利に尽きるというものじゃある。
俺も初めての経験で心臓がこれ以上ないほどバクバクしている。
が、レミリアさん…あなたの後ろにいる妹様が、妹様が怖いんです…
俺を射殺さんばかりの眼力を、感情をもって妹様がこちらを睨んでるんです…
しかしレミリアも俺が断り続けるせいかどんどん不機嫌になってきている。
これは…非常にまずい!
と、俺がどうこの状況を打開しようか考えていると左隣にフランドールがやってきて腕を組み、しなだれかかってきた。
そして耳元で囁いてくる。
「なんでお姉さまの勧めを断るの?死にたいの?」
「ひっ!レ、レミリア…そのお酒いただくよ……んっ、美味いな、は、ははは…」
「そうよ、それでいいのよ。さぁ、もっと飲んで話しましょう?楽しませてね?幸太。」
「分かってるよね?お・に・い・さ・ん?」
両隣から甘く囁かれる。
耳に当たる熱い吐息に胸を躍らせることなどできない。
左隣からの恐怖が俺を締め付けるせいで飲ませられたわいんの味も分からなかった。
その後、俺は宴会中ずっと吸血鬼姉妹に翻弄されていた。
レミリアに絡まれた時にはフランドールが威圧をしてくる。
フランドールに構うとレミリアは拗ねてしまう。
体の傷がまだ治らない俺に逃げることはできず、二人のおもちゃにされてしまう。
酒を飲まされたり、食べ物を食べさせられたり。
レミリアは酔っていてタガが外れているのか積極的に色んなことをやってきて心臓に悪いし、それ以上に左隣の妹様がその行動を見て殺気を出すのでさらに心臓に悪い。
もう助けてくれと霊夢の方へ視線を向けたが明らかに気づいていたのに無視された。
「なぁ、霊夢、幸太のあれ助けなくていいのか?やばそうだぜ?」
「ふん、いい薬よ。浅慮の代償を思い知るといいわ。あっちで飲みましょう?魔理沙。」
「そ、そうだな。霊夢。」
離れていくときの魔理沙の申し訳なさそうな顔が頭から離れなかった。
はい、修羅場です。
次は閑話としてフラン視点でも書こうかなと思ってます。
これからもよろしくおねがいします。