今回はフラン視点です。では、どうぞ
不安だ。
どうしようもない不安に襲われる。
今は宴会の最中。
宴会はもう何時間も続いているというのに未だ終わる気配を見せない。
何人かはもう酔い潰れて寝てしまっており、春の陽気で気持ち良さそうである。
レミリアお姉さまにからかわれていたあの男も例外ではなく、お姉さまに膝枕をされて寝ている。
妬ましい、即刻その膝から突き飛ばしたいが、我慢する。
レミリアお姉さまと私は日傘の下だけども、とても暖かい。
久しぶりの里の暖かさ、そして人の賑やかさだった。
しかし、私の心中はそんな明るさとは正反対に重々しい不安を抱えていた。
「ねえ、お姉さま。」
「どうしたの?フラン。」
「なぜその男に甘えるような“ふり”をしたの?」
そう、“ふり”である。
たしかにお姉さまの頬は赤らみ、態度も少し柔くなっている。
ほろ酔いというところだろうか。
甘えるふりをしているのは明らかだった。
そしてそれをする意味が分からなかったのだ。
いや、分かっていたかもしれない。
「なぜって…面白いから。幸太は女に慣れていないのでしょうね。たじろぐ様が面白かったわ。」
「そう…。」
お姉さまは嬉しそうに何かを思い出して優しく微笑み、その男を撫でながらそう答える。
日傘の下で艶美に笑うその姿はとても絵になる光景で思わず見ほれてしまった。
が、私の心はうちのめされていた。
分かっていた。
お姉さまは面白いからと言っているが、そこには隠しきれていない高揚が見える。
お姉さまの“男嫌い”のトラウマに引っかからないくらい脆弱で気弱な存在かつ私たちのしがらみを解いたきっかけになり、そしてお姉さまの好みどストライクの意地っ張りである程度真面目な性格ときた。
「…ねぇ、フラン。幸太が怖いの?」
「っ!そんなことないよ…お姉さま。」
お姉さまの突然の問いに心が揺さぶられる。
それは私が思ってもいなかったことだった。
私が…この吸血鬼の私が…あの脆弱な人間に恐怖を覚えている?
だが…そう言葉にされるとなんともスッキリするものがある。
そう、私は恐怖しているのだ。
重なっているのだ。
お姉さまという妖怪におちょくられて赤面しているあの男の姿が。
私という妖怪に殺されまいと、せめて一矢報いようともがき、威圧してくるあの男の姿と。
どうしても重なって、不安になるのだ。
お姉さまは騙されているんじゃないかと、お姉さまをなんらかの方法で傷つけるのではないかと。
あの男は力こそ脆弱であるけどその分理解している。
弱者が妖怪に一矢報いる方法を。
「お姉さま…その男は危険だよ。これは信じて欲しい。」
「ふふっ、フランは心配性ね。肝に命じておくわ。」
もはや届かない。
恋に落ちてしまったお姉さまには届かない。
別に私だってこの男、幸太を嫌うわけではない。
会話してみた限り人として善くできているとも言えるし、助けられた恩もある。
ただ…この男が内に秘めるその凶暴性が。
いつ爆発しないかが恐ろしいのだ。
どこまでも青い空を日傘の下から見上げる。
太陽は見えないが、日傘の後ろにあるのだろう。
あぁ…この男は私にとっての太陽みたいなものだ。
もちろん良い意味ではない。
太陽は暖かいが、私たちにとって毒だ。
太陽は私たちには見えない、だからこそ吸血鬼の興味の対象にもなりやすいものだ。
生涯、吸血鬼は太陽を見ることはない。
つまり太陽の姿を知らないのだ。
太陽を憎むがそれが実際どんなものであるかは確かめることができない。
それ故に不安にもなるし、逆に興味を惹かれるものでもあるのだ。
ふと、幸太の方を見やる。
お姉さまの膝の上で幸せそうに寝ている。
憎たらしい寝顔である。
「私は…お前を嫌いにはならないが好きになれなさそうだよ…」
幸太の額をデコピンしながらそう呟く。
お姉さまに怒られた。
フランの不安…なんかダジャレっぽい雰囲気ですね…
みんながみんな幸太を好いているわけではないという話です。
吸血鬼はよく太陽が憎いと言いますけどそれがどんなものか知りませんよね絶対。
だって見た瞬間死ぬんですもの。
知らないものを憎む吸血鬼の気持ちってどんなんなんでしょう?
存在しないから分かりませんね。
これからもよろしくお願いします