幻想郷貧乏生活録   作:塩で美味しくいただかれそうなサンマ

20 / 35
今回は幸太視点です。


閑話2 制度改革と烏天狗

紅霧異変から数週間が経った。

人里も妖怪への意識を改めたようで少しだけ危機感が生まれた。

まぁ、少しだけ。

ある昼下がり。

残暑に襲われる里の広間には人だかりができていた。

その中に響く太い叫び声が一つ。

 

「待ってくれ!お願いだ交換してくれ!」

 

幸太の声である。

が、それに取り合ってくれる人などいない。

幸太は小さな木箱を抱えており、民衆に囲まれて孤立している。

皆幸太から身を遠ざけて恐ろしいものを見るかのような目でこちらを見ている。

 

 

大人たちはヒソヒソと陰口を言い合っており、子供は石を投げつけてきた。

その内の一つが額に当たり、血が流れる。

赤い筋が一つできた顔で子供達を睨み付けると蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

と、そんな俺に近づいてくる陰があった。

里の警備をしている退治屋の一人である。

と、その退治屋は俺を殴りつけてきた。

顔面に拳を食らってその場に倒れこむ俺に冷たく言い放つ。

 

「“妖喰らい”よ、人里を脅かすな。早く帰れ。帰らないなら力尽くで返す。」

「待ってくれ!お願いだから!俺は一文無しになってしまう!」

「知らん!」

 

その後はまぁ、悲惨なものだった。

俺は抱えている木箱を守るようにうずくまった。

とても大事なものなのだ。

そのせいで俺は抵抗などできなかった。

そして退治屋は俺が抵抗しないのを良いことに俺を殴るだけ殴るし、その他の人々も野次馬となって歓声をあげる。

その退治屋はもはや英雄だ。

それどころか周りにいた人々も便乗して俺を殴りつけてきた。

その暴行が止まる様子はなく、止まるまでじっと耐えていた。

 

 

ひとしきり殴られた後、退治屋に無理やり里の外に追い出された。

俺は泣く泣く家まで帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殴られて疲れきった体で家にたどり着く。

ふらふらと歩いてきたから結構時間がかかった。

手の中の小箱が重い。

と、そんな俺に言葉をかける陰が空から来た。

 

「やややっ!今日も苦労したようですねぇ!妖喰らいさん。」

「あぁ…射命丸か。こんにちは。あぁ、そうだな。きつかった。まずい茶でも飲んでくか?」

「そうですね。取材のついでにいただきましょう!」

 

憎たらしい烏天狗の声だった。

だがまぁ、邪険には扱わない。

恩もあることだしな。

訪れてきたのは烏天狗の「射命丸 文」。

髪は黒髪で短く、頭には赤い山伏のような帽子をかぶっている。

服装は黒いすかーと?とかいうやつに白いしゃつ?だったか、を着ている。

容姿はかなり良いのだろう。

が、性格は…まぁ、良くはない。

頭脳明晰・非好戦的

思考能力は非常に高く、人の何倍もの速度でで考えを巡らせているのだろう。

俺には正直理解の追いつかないことをよく言ってくる。

何を考えているのかを予想する事は一般人では非常に困難な上に、表面上は相手の程度に合わせてくる。

そう、表面上は。

こやつは強大な妖怪だがそうして相手を煽ってしまう傾向にある。

悪気がないのかあるのかは知らないがな。

煽っても勝てるだけの力があるだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家の中に入り、話をする。

確かしゅざいとかいうのをする。

今までも何回もされたことだ。

幸太さんはねたを提供してくれるんだとか話題性に尽きないだとか言っていた。

射命丸とはそこそこな交流がある。

射命丸がしゅざいといってこちらにくるのもそうだが、俺は射命丸に文字と知識教えてもらっている。

その代わりにしゅざいに答えているのだ。

まぁ…射命丸が俺に教えてくれる文字はもう人里では使えないものだって知っているがな。

文字の制度も五年ほど前に変わったのだが、射命丸は知ってか知らずか前のやつを俺に教えているみたいだ。

知識も少し古かったり、役に立たなそうなものが多い。

子鈴がそう言ってくれたので間違いないだろう。

 

「相変わらずまずいお茶ですね。」

「すまないな。でもしょうがないだろう。貧乏なんだから。」

 

お茶をすすって笑顔でそう言ってくる。

まあ、これに関しては俺も悪い。

…まぁ、もう一文無しだが。

と、射命丸が紙とぺん?を取り出した。

なんか烏天狗は新聞というものを書くらしいからな。

人里にもあるらしいが俺は見たことがない。

まぁ、この新聞も俺にはあまり好ましいものではないが。

射命丸の新聞の俺に関する記事は妖怪や人間にとって俺の印象を悪くするようなものばかりらしい。

でっちあげとまではいかないが誇張表現や拡大解釈して話題性を高めていると、子鈴が言っていた。

と、射命丸がこちらに話しかけてくる。

 

「じゃあ早速取材にいきますね!今日は人里で何があったんですか?人々にたかられて殴られ放題されてましたが。」

「そうだな。まぁ、いつも通りさ。人里の理不尽に抗議したら殴られて追い返されたってだけだよ。」

「ほうほう、じゃあなんでそのような事態に?」

 

そう、いつものことである。

が、射命丸は要点はそこじゃないとでも言うように理由を聞いてきた。

俺が隠していたことだが、まあばれるか。

ため息を一つ吐いて、諦めて話すことにした。

 

「…人里でまた、制度が変わったんだ。お金の制度がな。文や両といった今までのお金は廃止してこれからは《円》という通貨を使うらしい。それに伴って今あるお金を円に変えるというのが人里の広場でやってるんだ。そこに変えてもらいにいったら取り合ってもらえなくてな。変えてもらえないと俺は一文無しになっちまうし粘り強く抗議してたら追い出されたというわけさ。文銭はあるのに一文無しとは皮肉な話だよなぁ…。」

「なるほど…それはまた酷いですね。でもどうせ幸太さんはそんなにお金持ってないでしょうしダメージは少なかったのでは?」

 

射命丸の言葉に俺をバカにするような雰囲気はない。

単純な疑問なのだろう。

でも…大きな理由があるんだ。

これを許してはいけない大きな理由が。

今までも時間の数え方がフンとかビョウとかいうのになったり、文字の制度が変わったり、暦もタイヨウレキとかいうのに変わったりした。

そのときは俺は理不尽さを感じたが反発はしなかった。

どうせ取り合ってくれないと知っていたから。

がこれだけは強く反発したのだ。

お金の制度だけは。

射命丸はそこに疑問を持ったのだろう。

俺は家に帰ってから隅に置いていた小箱を持ってきて射命丸の前に差し出す。

射命丸は何があったのかというような疑問の顔をしていた。

 

「なんですか?この箱。」

「それ、開けてみろ。」

「はい。この箱に何が……うぇっ!?」

 

射命丸が素っ頓狂な声を出す。

なんかちょっと清々しい気分だ。

射命丸の目が驚きでまん丸に見開いたまま俺と箱の中を往復する。

箱の中身は…

 

「こっ、これ!金の大判じゃないですか!それも八枚も!こんな大金どうしたんですか!奪ったんですか!?」

 

驚くのも無理はない。金の大判八枚といえば人里でなら親子三代で豪遊して暮らしてもまだまだ有り余るくらいの大金だ。

 

「…貯金さ。うちの家系はな、人里とある契約を交わしている。それこそすごい昔の話さ。それは金の大判十枚で俺たちの身分を回復させるってものだ。それからうちの家系はお金を稼いで稼いで貯金してきた。何代も前からずっと…な…。まぁ、その夢も俺の代で終わりさ。貨幣制度が変わることでその契約も変わった。人里から新たに五百万円というのを突きつけられたよ。まぁ、その金のでかさは良くわからんが大金なんだろう。人里がその金を円とやらに変えてくれないのなら今までの努力は全て水の泡。なんとも…虚しいことさ…」

 

本当に酷いことだ。

人里は…俺らの努力をなんとも思ってない。

苦痛を知らない。

怒りがこみ上げてくる。

が、それよりも大きな諦めが胸の内を占めていた。

射命丸は気まずいのか何も言わずに視線をあちらこちらに移している。

 

「射命丸、そのお金あげるよ。」

「はっ!?えっ!?なんでですか!?」

「だってもうその大判はお金として使えないからな。が、それは俺が持っているとの話だ。だったら有用に使える人に渡すのが無難だろう?」

「でも大事なお金なんですよね!?勿体無いですって!」

 

射命丸からそんな話が出るとは思わず少し笑ってしまった。

笑っている俺を見て射命丸は不満そうな顔をする。

おおかた頭でもおかしくなったんじゃないのかと思っているのだろう。

 

「いいんだよ。俺の選択だし、ご先祖様も文句は言わんだろうさ。どうしようもないしな。射命丸は俺に文字を教えてくれるし、色々な情報もくれるしな。それにお前が来ると退屈しない。射命丸には感謝してる。これからもよろしくしてくれると嬉しい。」

「そうですか…分かりました。」

 

一応本心だ。

相手がこちらを侮って対応していたとしても、対応してくれるだけで俺は嬉しかった。

少し申し訳なさそうな顔で射命丸はお金を受け取り、その日は帰っていった。

帰る間際にこう言ってきた。

 

「今まで申し訳ありませんでした。これからは真面目に対応させてもらいますし、妖怪からのイメージを損なうような記事も書きません。」

 

それから射命丸が教えてくれる文字も新しいものになったし、知識も役立つものになった。




はい、長くなりました。
これからもよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。