第十八話 苦節
お金の制度が変わってから数ヶ月。
夏が終わり秋も更けてきて本格的に寒くなってきた時期である。
日中の釣りの仕事が終わり、魚を売ってから家に帰ってきた。
もう夕日が山の端にかかっており夕暮れの秋空は藍色と橙色の美しい対比を見せている。
お金の制度が変わり、貧乏になってしまってからはその日暮らしが当たり前になった。
もはや釣りだけでは生きていけないので夜狩をする頻度も多くなったし、自分で野山の食べ物を採集するようになった。
野山に出る回数が多くなったせいで生傷が増えたと思う。
今日も夜狩をしたが良いのだが外の寒さが身に厳しく、今日はもう夜の仕事をする気力がない。
すでに手足の感覚はおぼろげで顔も固まっているかのようだった。
すぐに家に駆け込む。
しかしまぁ無意味だった。
自分の住むあばら家は寒風を防いでくれはしないのでとても寒い。
肝心の毛皮の道具達は数ヶ月前に上納金の肩代わりに持っていかれてしまったし、囲炉裏で火を起こそうにもこれから厳しい冬に入るという前に薪を節約したい気持ちが勝って起こすのをためらってしまう。
幻想郷において薪をとることも危険なのだ。
近くにある布団を被ったがまぁ、これもあまり意味がない。
家にある布団は今の人里で買える羽毛布団だったか?とかの温かいものではなく昔ながらのムシロなので被るとマシにはなるが依然として寒いままである。
家にある服もいつも使っている麻の服が3枚しかないので寒いったらない。
せめてと思って防雪、防雨用の蓑を着るが無意味であった。
あぁ…毛皮の暖かさが恋しい。
真っ暗な中布団に潜って寒さに耐えた。
あの後少しして結局寒さに負けて囲炉裏に火を起こした。
外はすっかり暗くなっているようだ。
とても暖かく、感覚が消えていた手足がじわじわとほぐされていく。
小さな火がついたことで家の閑散とした様子がよく見えるようになった。
お金の制度が変わってから俺は上納金が払えなくなった。
今までは自分が川魚が高値で売れていた時に作っていた貯金を切り崩して払っていたから当然である。
どんなに生活が厳しくても上納金を出すときにご先祖からのお金に手を出さなかったのはちょっとした誇りではある。
まぁ、それも射命丸に気まぐれであげてしまったが。
で、上納金を払えなくなった俺に対して人里はどのような対応をしたかというと俺の家の中にある物を持っていくという手法をとった。
今では家の中にはムシロと三枚の服と蓑、小さな鍋と箸、茶碗と桶が一つずつに釣りと狩の道具。
それだけであった。
昔はまだまだ生活感のある様相であったのにこのすっからかんの様相を見るとどこか寒さ感じる。
毛皮の防寒着や布団を失っているので物理的にも寒い。
囲炉裏の火に手をかざす。
「あぁ…あったかい…」
一人であるのに思わず呟いてしまう。
今なら飛んで火に入っていく虫達の気持ちが分かるようであった。
こんなに魅力的なものがあるなら飛んでいきたくもなる。
しかし火は物理的な寒さは緩和してくれるが心は癒してくれない。
人里や俺を嫌う妖怪からもらった冷たい気持ちは直してくれない。
むしろその事実を生ぐさく惨たらしくあぶりだすようだった。
「あっ…」
ふっと、その暖かさが消えた。
薪が無くなったのだ。
途端に寒さが身を包む。
ムシロを強く握りしめて身体をきつく自分で抱きしめるが寒さが緩和することはなかった。
「くそ…なんで…」
小さな声で愚痴をこぼす。
それは自分の状況を見ての一言。
しかしなんとも無駄な言葉に思えて遣る瀬無い気持ちになる。
射命丸が言っていた今の人里で使われている便利な道具の話を思い出す。
射命丸の話は自分には想像がつかない物で溢れていた。
コタツだとか羽毛布団だとか。
とても暖かいのだろう。
羨ましい。
妬ましい。
憎たらしい。
自分をここまで追い詰めて、あいつらは楽をしている。
その現状がたまらなく辛かった。
「…くそ…」
語気はさらに弱まっていく。
こんなにも辛いのに人里の人は誰も助けてくれない。
たまにレミリアや霊夢、チルノと大妖精やルーミア、霖之助など仲のいい人が遊びにきて色々と施してくれるが人里の人は助けてくれない。
囲炉裏から炭と煙の野暮ったい匂いがする。
「親父…俺は“善くなかった”か?」
親父にいつも言われていたことがある。
《善く生きろ》という言葉だった。
自分の中の善を信じてそれを貫いて生きていれば良いと。
そしたら助けてくれる人ができる。
人里の人の行動に理不尽さを感じても、憎しみを持っても、それを恨みや暴力で返してはいけないと。
善く生きていればいつか人里の人も分かってくれると。
そんな言葉だった。
これからもその言葉を貫いて生きていくだろうし、今の自分はこの言葉を元にできていると思う。
囲炉裏の中の炭を見る。
俺もいつかこのように燃え尽きてしまうのだろうかと、どこか感傷的になった。
たしかに教えの通り助けてくれる人はできた。
ただそれはとても少数であって、俺の冷遇は変わらないままである。
親父の教えは暖かい良い言葉なんだろう。
ただ…それは理想的なのであって。
現実的には懐の寂しい損な人を生むだけの冷たい言葉なのだろう。
そう思ってしまった。
暗いですね。
今回は主人公の独白のシーンだけです。
こういう話が一番作者の力が問われる気がします。
ピュートーンさんはもうちょい待ってください…
感想、評価とても励みになります!
いつのまにか評価バー赤くなっててびっくりしました。
救ってあげたいとの声もありましたがまだ先になるかと…
まだまだ至らない点も多いので精進していこうと思います。
これからもよろしくお願いします。