幻想郷貧乏生活録   作:塩で美味しくいただかれそうなサンマ

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第十九話 苦味に病みつく

 

 

人里を少し離れた森の中を一人歩く。

雪を踏む足は雪駄が役人達にとられてわらじしか履けていないため雪に濡れて冷えてしまいとても痛い。

麻の服に蓑を着ただけなので身を刺す寒気が憎い。

竹傘もとられてしまったので髪も濡れてしまっている。

雪が降っている森の中は白い静寂に包まれている。

まだまだ明るい時間なので枯れ木が騒ぐ白い森が見渡せた。

普通なら神秘的とでもいうのだろうが俺にとってはなんとも過酷な光景にしか見えなかった。

ここら辺は人里から離れているが妖怪があまりいない安全地帯だ。

 

「うっ…寒いな…。っと、とぉ…」

 

突如森に通った強風に身体を震わせ、そしてふらっと転びかける。

冬も半ばに突入しただろうか。

寒さはますます厳しくなる一方である。

同時に俺の生活も厳しくなる一方だ。

冬はお金を使う機会は増えるのに夜狩や釣りでの稼ぎは少なくなるのだ。

金の問題はさらにきつくなり、最近では生傷や病気で身体を壊すことも多くなってきた。

今もなにやら病気にかかってしまっているらしく、頭が痛いし体が熱く、とても寒い。

でも体を壊したからといって仕事を休めばそれこそ死んでしまう。

もっと割りのいい仕事をしようにも禁止されていてできない。

少ない食事と疲労の溜まった身体に更に無理を重ねているせいか最近はとにかくきつい。

ふらふらとおぼつかない足取りで目的地を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後少し歩くと古道具屋「香霖堂」についた。

寒さで力の入らない右手を身体ごと押し込んで戸を開ける。

すると暖かさが身を包むと同時に明るい声が聞こえてきた。

 

「いらっしゃいませ。…って、幸太じゃないか。こっちに来るのは珍しいなぁ。

「あぁ、久しぶりな気がするよ。」

 

この古道具屋の店主の「森近霖之助」がいた。

銀髪の短い髪でいつもメガネとやらをかけている男の半妖怪だ。

ここ、香霖堂を営んでいるが商人としてはあまりに向いてないと思う。

魔理沙や霊夢にカモにされているのにそれを許しているところとか。

実際趣味でやっているらしいしそれならば良いのだろうか。

無愛想に見えて案外優しい性格である男だ。

あ、あとは蒐集癖がすごいな。

俺の方に霖之助が来ることは時たまあるが俺がこちらに来るのは珍しい。

昔は足繁く通ったものだが。

霖之助との世間話に花が咲く。

 

「この道具を見てくれよ。」

「なんだ?これ。箱?変な形だな…」

「これはゲームボーイという電子遊具らしい。なんとも面白そうじゃないか?」

「あぁ、面白そうだ。で、これ使えるのか?」

「…使えない。使い方がわからない。」

 

意味ないじゃないか。

 

 

 

 

 

あの後も霖之助と話をした。

霖之助との話は知らないことに溢れているからとにかく楽しい。

と、そこで香霖堂の時計が音を出した。

鳩の声だ。

その声を聞いた瞬間、自分ははっとした。

おれは何をしているんだと。

元々の目的に話を戻す。

 

「すまん、もういいか?」

「あ、ごめんね。今日は何の用できたんだい?」

「今日はちょっと薬をな…買いに来たんだが…なるべく強い奴で頼む。」

「…久しぶりだね。その注文は。もし僕が断るって言ったらどうするつもりだい?」

「…帰るつもりでいるよ。」

 

俺が注文するまでは人のいい笑顔を浮かべていたが、俺の注文を聞いた瞬間その表情が崩れる。

苦虫を噛み潰したその舌の上に唐辛子を投げ込んだような顔だ。

注文を断られたら帰るという俺の言葉に霖之助はしばらくの間こちらをじっと見つめていたがやがて諦めたかのように店の奥に向かっていった。

薬を持ってきてくれるのだろう。

とても助かる。

立っているのが辛くなって店内の椅子に寄りかかる。

今日の夜も狩に出かけなければならないというのに身体はひどい状況だ。

と、霖之助が小さな袋を持って戻ってきた。

 

「…僕としてはあまり君にこれを渡したくはないんだけどね。でも渡さないと君は死ぬだろうから。」

「ありがとう。…そしてすまんな。」

 

霖之助は俺が腰掛けている椅子のところまで来てその袋を手渡してくれた。

俺の身体を労ってくれたのだろう。

手渡された袋の中には白い粉が入っていた。

俺はそれを指でひとつまみしてその場で飲んだ。

口の中に苦さが広がる。

ざらざらとした不快感を我慢して飲み込むと今までの身体のきつさが吹き飛ぶようであった。

この薬は体の不調を全て吹き飛ばす凄いものなのだ。

目に見えて体調が良くなった俺を見て霖之助は苦い顔をする。

 

「ありがとう、霖之助。何円くらい払えばいいかな?」

「…お題はいらないよ。ただし、次からは50万だ。もちろん魔理沙達がよく使う“ツケ”ではなくその場で払ってもらうし払えないなら使わせない。幸太、先に警告しておくよ。その薬は本当に危ないんだ。というよりそのことはなによりも君が知っているはずだろう?5年前にその薬の作用で死にかけたのを忘れたわけじゃないはず。事実それから君はその薬を使わなかった。その薬は疲労を消すんじゃなくてあくまでごまかすだけなんだ。5年前は君が僕の話を聞く気がなくて、君がこの薬を乱用することを止めれなかったけど今回は力尽くでも止める気だから覚悟しておいてほしい。」

 

そう、俺はこの薬を何回も使ったことがある。

だからこそこの薬の危険性も知っている。

この薬の効果が切れたとき、この薬によってごまかしていた疲労や痛みが全て襲ってくるのだ。

ひとつまみぐらいの少量ならば大丈夫だが、もしこれで体の疲労を騙し続けるとその蓄積した後回しの疲労が肉体を襲った文字通り地獄を見ることとなる。

5年前に俺は3ヶ月分の疲労をごまかし続けた結果1週間ほど生死の境をさまよった。

その時は霖之助達の助けのおかげでなんとか生き残ったのだ。

もう2度とこの薬には頼るまいと思っていたが頼らざるを得ない状況になってしまったからしかたない。

霖之助が薬を売ってくれないとなるとこの袋ではせいぜい3日ぐらいしか持たないだろうからかなり困ることであった。

 

「それは…困る。せめてこの冬を越えるまではこの薬は必要になると思う。もちろん乱用はしないさ。だからこの袋の分がなくなったらまた売ってくれないか?」

「だめだ。絶対に売らない。幸太、僕は君の“善さ”を認めているよ。とても素晴らしいものだと思う。ただそれが自己犠牲の精神に陥りがちなのは認められない。君は今苦しみに取り憑かれているよ。苦しみから解放されるために更なる苦しみを求めている。最近はなぜか君は僕たちの助けを拒む傾向にあるよね。違うんだよ。苦しいなら昔みたいに他人を頼ればいいんだ。なぜ抱え込もうとする。なぜ僕たちを避ける。なぜ僕たちとの間に線を作ってしまうんだ。それを僕たちが苦にすると思ったか?魔理沙にも説教したそうじゃないか。それはまさしく君に当てはまるよ。幸太。もっと僕たちを頼ってくれよ。」

 

…とても心配してくれているのだろう。

とてもありがたいことである。

優しさに涙が出そうでもあった。

でも…できない。

俺だってこの人たちを頼ったり仲良くしたりしたい。

だが…それには限度がある。

2ヶ月ほど前に限度ができてしまった。

俺はみんなから大量の施しを受け取ってはならない。

 

おれは…“妖喰らい”だから。

 

「すまん!霖之助!」

 

自分の全財産である百円をその場に投げて逃げるように店を出た。

霖之助の優しさが余計に辛かった。




詳しい話は多分次になります。
霖之助の魅力があまり出てないですがこのひとはこれからもいっぱい出します…
時間が遅くてすいません。
これからもよろしくお願いします。
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