幻想郷貧乏生活録   作:塩で美味しくいただかれそうなサンマ

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第二十二話 覚悟

大妖精との邂逅から半日が経った。

家の外は半ば暗くなってきており夜狩に赴くには程よい時間であろう。

俺は家の中で一人うずくまっていた。

感情の葛藤に苛まれながらこれからどうすべきなのかを一人考えていたのだ。

ただ、今握りしめているこの首飾りがとても心強かったのだと思う。

答えは出た。

今はまだ、関わらないことにした。

今この状況で彼らと関わるにはあまりにも危険が多い。

もうちょっと人里の状況や妖怪間での俺の立ち位置について詳しく知る必要があると痛感した。

俺は、多分俺が嫌われてるから鈴奈庵を襲撃したのだという浅慮に陥っていたというわけだ。

もちろん真の理由が本当にそれだったら関わろうとはしないけども。

そうして、危険がなくなったらまた仲良くしようと決めたのだ。

そのまま立ち上がって狩道具を持ち、家を出た。

首飾りもしっかりとつけている。

俺に渡されたこの優しさの塊が愛おしくてしょうがなかった。

俺の不安や自己否定から来る薄汚い意地をほぐしてくれたこの小さな優しさが。

薄暗い銀世界の中だというのに首飾りの暖かみのせいかなぜか寒さを感じなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずいな…。」

 

危機感を覚える。

森の中に妖獣がいないのだ。

これでは夜狩が成り立たない。

が、そこはあまり問題ではない。

妖獣がいないということは妖獣達がここを離れる理由があったということ。

つまりはこの近くにさらに強大な妖怪がいる可能性が高いのだ。

背中に背負っていた弓を取りいつでも射ることができるように身構えて警戒する。

警戒しながらもゆっくりと歩いてこの周辺の森を出ようとする。

と、右斜め後ろの茂みの辺りから気配がした。

そちらを向いた瞬間。

 

 

銀閃が視界を覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気配の主から距離を取って立っている。

ふぅとため息を吐くと体のこわばりが溶けていくように感じた。

危なかった。

いきなり斬り付けられたのだ。

上体を無理やり捻って倒し、なんとか避けることには成功した。

その影響でその場に倒れてしまったが、すぐさま立ち上がり、後方へ下がって距離を取った。

銀閃が来た方を見やるとそこにいたのは白髪で緑の服を着た刀を二本持っている少女だった。

傍らにはなにやら白い塊が浮いている。

かなり力のある妖怪のようだ。

 

「ほう…今の一撃を避けますか。人間にしてはなかなかやるようですね。」

「…なにが目的ですか?貴方のような妖怪に襲われる覚えはないのですが。」

「とぼけないでください。あなたこそ私の主人の邪魔をする目的は何ですか?」

 

質問に質問を返された。

だが全く要領を得ないし、身に覚えもない。

しかしここで焦ると死ぬ。

冷静に返す。

 

「言っていることが分かりません。私は貴方も貴方の主人も知りませんし邪魔する気もないです。」

「ほざくな。ならばその首飾りはなんと説明するのですか。その首飾りに使われている高密度の“春の塊”を。まぁ、あなたがその首飾りをおとなしく渡すというのはならば危害は加えません。さぁ、渡してください。」

 

“春の塊”?

この桃色の結晶のことだろうか。

たしかに暖かい感じはするが春の塊と言うのか。

春の塊と言われてもイマイチよく分からないが相手はこれを欲しがっているらしい。

そしてそれをよこせ…と。

妖怪は知らないと言い張るのに首飾りを即座に渡さない俺に苛々しているようだ。

殺気と空気の圧迫感が強まる。

これを素直に渡したら俺は生き延びれる。

というよりはそれをしなければ確実に死ぬだろう。

怖い。

恐ろしい。

首飾りに震える手を伸ばす。

暖かい。

大妖精の泣き顔が思い浮かぶ。

チルノの笑い声が聞こえる。

勇気が湧いてくるようであった。

震える体で、固まった喉で、どうにか言葉を紡いだ。

蚊の鳴くような声だったが決意に満ち溢れた声だった。

 

「断る…!!」

「そうですか。残念です。ならば死ね。」

 

 

銀色の死が迫る。

しかしながら恐れは消えていた。

胸元の桃色の優しさが消してくれた。

この首飾りは。

この首飾りだけは。

絶対に渡さない!

覚悟はできている!




はい、今回ちょっと短いですね。
これからも、よろしくお願いします。

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