「ぅ…んぁ…う…うん?博麗神社?」
目を覚ますとそこは博麗神社だった。
なんでだ?俺は妖怪との戦いに負けて気絶させられたはず。
じゃああの妖怪がここまで連れてきたのか?
うぅむ、そんなことがあるのだろうか。
まったく不思議でしょうがない。
そこではっとして首元を探る。
首飾りはつけられたままだった。
しかし肝心の桃色の結晶、暖かい春の塊は無くなっていた。
途端に心を虚しさが襲う。
やるせなくなって寝返りをうつと全身に痛みが走る。
自分のぼろぼろの体を恨めしく感じてかけ布団を少し上げてみると驚愕した。
包帯が巻かれており、誰かによって治療されていたのだ。
困惑と陰鬱とした気持ちの中、未だ取れない眠気と疲労、強い空腹感と喉の渇きの狭間で心中でうだりながら微睡んで布団の中で寝返りをうっていると霊夢が障子を開けて部屋の中に入ってきた。
障子を開けた途端に部屋の中がうるさくなる。
外で宴会でもやってるのだろうか。
「あら、起きたのね。おはよう、幸太。お腹空いてるでしょう?ほら、食べなさい。」
「ん。あ、あぁ霊夢。ありがとう。」
なぜここにいるのかとかの色々な疑問や、あまり関わらないようにしなきゃといった感情ははあるけども霊夢が持ってきたご飯に吹き飛ばされてしまった。
やはり人は食い気には勝てない。
美味しそうなお粥である。
まともなご飯なんて何日ぶりだろうか。
困惑しつつも霊夢から受け取ろうと上体を起こして手を伸ばしたが、霊夢に防がれてしまった。
「え…なんで?」
「ふざけないでちょうだい。その身体でどうやって食べるというのよ。栄養失調にかかっていてなおかつ酷い凍傷と生傷に化膿や腐れたところも多くあるし骨折や打撲、果てには肉が抉れた所もあるそんな傷だらけな身体で。治療したけども動かすだけでも激痛が走っているはずよ。あんたは1ヶ月は安静にして療養しないといけないわ。ほら、食べさせてあげるから口を開けなさい。」
「いや、別にだいじょむぐっ!あつっ、はふっへふっ。」
匙でお粥をすくってこちらに差し出してくる霊夢に大丈夫だと言おうとしたら言ってる最中の口の中に熱々のお粥を突っ込まれた。
とても熱い。
熱すぎて肝心の味が分からない。
猫舌な自分にはつらすぎる熱さである。
必死にハフハフと口の中を動かして冷ました後になんとか飲み込む。
口の中を熱が通り過ぎていった。
喉元過ぎれば熱さを忘れるというがまったくその通りである。
霊夢はいきなりの口への熱攻撃をやり過ごして安心した俺を睨みつけていた。
そしてため息とともに言ってくる。
「はぁ…幸太。あんたね、私が言ったこと忘れた?無理はしないようにって私言ったわよね?何が大丈夫なのよ。こんな死にかけで。人より多少あんたの体が丈夫といっても限度があるわよ。限度が。人の警告は聞いたがいいわよ。」
「いや…その…申し訳なんぐっ!」
また言葉の途中に突っ込まれた。
口の中でまたお粥が暴れる。
霊夢への後ろめたさとかから謝ろうとしてたのに。
なんとかやり過ごして霊夢の方を見る。
そして心臓がゾワっとする。
霊夢の顔は今度こそ睨みつけるだけではなく怒り心頭という感じだった。
威圧感がすごい。
「謝らないで。謝罪なんて求めてないわ。ただ無理をしないで欲しいだけなんだから。いい?次またこういうことしたらぶっ飛ばすわよ。遠慮せずに私たちを頼りなさい。私たちは弊害なんて気にしないから。」
「つっ!…そうか、ありがとう。」
「そうね、そっちの方が嬉しいわ。ふぅー、ふぅー。ほら、冷やしてあげたから食べなさいな。」
霊夢がお粥を口に入れてくれる。
霊夢らしい質素な味だけど今まで食べたもののなによりも美味しく感じられた。
思わず涙が溢れる。
手で目を抑えて嗚咽を出して子供のように泣く。
俺は人の気持ちを無碍にしてばかりだ。
大妖精やチルノの気持ちの結晶も取られた。
霊夢の心からの警告も無視した。
他にも色々な人からの助けを受け取らずに無理をしていた。
霊夢が背中を撫でてくる。
暖かく、どこか心強さを感じるその手に大きな安堵を覚える。
今はまだ関わらないなんて決意したばかりだがそんなものは起き抜けに突然与えられたぬくもりで溶かされてしまった。
今は…今だけは甘えてもいいだろう。
結局霊夢は俺が泣きやむまで文句も言わずそばにいてくれた。
男泣きなんてなかなか恥ずかしいことをしたと思うが霊夢は気にしたそぶりも見せなかった。
その後はお粥を食べさせてもらいながら霊夢にことの顛末を聞いた。
今回の長い冬は異変だったそうだ。
霊夢がもう解決しているらしく今は春が来ているとのこと。
原因に関しては冥界の住人がどうたらこうたら言ってたけど俺にはあまり関係のない話だった。
ひとつ関係があったのは俺と戦った妖怪はこの異変の主犯格で“春”を集めていたとのこと。
だから俺を襲ったのではないかと。
「なぁ、霊夢。俺がここにいるのはなんでだ?森の中で俺が妖怪に気絶させられた後どうなったんだ?」
「人里に送り届けられたそうよ。まぁ、誰も保護する気なんてなかったのか門の前に放置されていたらしいけどね。それを小鈴が見つけてここまで持ってきたのよ。人里の中だと危ないからって。しっかり小鈴にお礼言っとくのよ?危険を顧みず助けてくれたんだから。まぁ、その後は私がちゃちゃっと異変解決しに行ったわ。あんたの服に異変主犯の妖怪の妖力が残ってたからね。そのおかげでただ冬が長いだけと呑気に考えてたけど違ったことにも気づけたし主犯も分かったからすぐ終わったわ。今は異変解決後の宴会中よ。」
「なるほど、そんなことがあったのか。ありがとう。」
これは小鈴には頭が上がらないな。
鈴奈庵の方には足を向けて寝ないようにしよう。
さっきからどうにも外がうるさいと思ってたがなるほど、宴会をしているからか。
というよりやはり俺は色んな人に助けられて生きてるんだなと再確認した。
心の中に感謝と喜び、そして申し訳なさが浮かぶ。
そんな中に一筋の荒い危機感も走る。
助けられた人の身に危険が及ばないかと。
そうこうしているとお粥を食べ終えた。
久しぶりの満腹感に眠気が襲う。
と、霊夢は察してくれたのかそばに座って俺の上体を優しく下げて布団をかけてくれた。
ありがたいことである。
霊夢はそのまま俺の頭を撫でてきた。
こっ恥ずかしいしくすぐったいが手を払いのける余力もないし、そんな気分にはなれなかった。
安穏とした気分の中優しい眠りに誘われそうだったがこれだけは伝えておこうと思ったことを思い出し、伝えることにした。
「なぁ、霊夢。頼れって言われた後で申し訳ないんだが…少し待ってくれ。今はまだ駄目なんだ。俺の納得がいかないんだ。」
「そう…まぁ、幸太がそう言うならいいわ。でも、今言った通りにしなさいよ?絶対に“今”だけにしなさい。無理を通されると心配でたまらないわ。後、そうだとしても助けられた時には遠慮なく受け取りなさい。拒否された方の気持ちにもなって欲しいわ。」
「うっ…ごめんなさい。」
「もういいわよ。事情もあったんでしょ?とりあえず今は遠慮せずに眠りなさい。すごい眠そうな顔しちゃって。私のことはいいから。ほら、おやすみ。」
その言葉がとどめだった。
霊夢の優しさに撃沈された俺の意識はどっぷりと安眠の沼に沈んでいく。
久しぶりのぬくもりはそれだけの破壊力があった。
日間ランキング入ってて驚愕しました。
まぁ、93っていう数字でしたし一瞬のことでしたけどね。
感想、評価、誤字報告やアドバイスもたくさんきててほんと嬉しいです!
皆さんの期待に応えられるよう精進していきたいです。
これからもよろしくお願いします!
(今回の異変気づいたら終わってた展開きらいな人もいるかもしれませんごめんなさい。)