幻想郷貧乏生活録   作:塩で美味しくいただかれそうなサンマ

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第二話 湖の妖精たち

あぁー、たまらねえぜ。こんなに懐が暖かいのは久しぶりだ。狩は危険すぎて普段行う気になれず、一月に2回やれば多い方だが、こんなにも儲かるならばもっと…いや、怖いからいいや。

 

あの後肉を人里まで行って売り、大量のお金を得た。家に帰ってしっかりと棚に貯金する。この分なら今日は仕事しなくてもよさそうである。

 

ひさびさに仕事を休んでちょいと遊びの気分で釣りをしようと釣具をもって出かける。もともと釣りは好きなんだが、いつもは仕事のことで一杯一杯だからな。友達に会うのも兼ねようと霧の湖の方へ行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半刻ほどかけてやっと霧の湖に着いた。朝焼けの湖畔は霧が立ち上り、幻想的な風景である。感動しつつ友達の姿を探すが、まだいないようである。いつもここを遊び場にしているが、まだ朝も早いから来ていないんだろう。

 

仕方ない、そう思って釣り糸を垂らす。いっときして、当たりが来た!と思い、竿を上げようとした瞬間…

 

「だーれだ!」

 

陽気な高い声とともに視界が暗くなった。目の辺りに小さな、暖かく、それでいて冷たな手のひらの感触を感じる。いたずらできるタイミングを狙って隠れていたのだろう。なんたって彼女は無邪気でいたずら好きな、おてんばで少しお馬鹿な妖精さんだからな。

 

「チルノだろ?いたんなら声ぐらいかけてくれてもいいのに。」

「ざんねーん!目を塞いだのは大ちゃんだよ!」

「やったね!チルノちゃん!」

「なん…だと…この俺が間違えるなんて…」

 

割と自信満々でチルノと答えたから恥ずかしい。なんとも頭のいいことだ。この子たちは水色のワンピースを着て、水色の髪、氷の羽を持った氷の妖精《チルノ》。

 

それと緑色の髪、色は同じだがチルノとは違う模様のワンピースと、大きな羽を持つ《大妖精》だ。大妖精の方は名前がないらしく、とりあえず俺とチルノは大ちゃんと呼んでいる。二人とも体格は9つほどの女の子と変わらないくらいである。

 

「しかしこれまた上手い方法を考えたなぁ、大ちゃんの手を冷やすなんて。騙されたよ。」

「へっへーん、でしょ?大ちゃんが考えたんだよ!」

「そうなのか、すごいな、大ちゃん。」

「えへへ…そんな…」

 

チルノは満足そうに胸を張り、大ちゃんは褒められて顔を赤くし、照れている。いたずらとはいえ可愛いものだし、子供みたいなものであってこの光景を見ているとほんわかする。

 

チルノは氷の妖精だけあって近くにいると寒く感じる。手から冷たさを感じたからチルノだと思ったんだがなぁ。いゃあ上手い。しかしチルノ、お前今回声かけただけじゃないか?大体の手柄は大ちゃんな気がするが…まぁ、満足そうならいいんだが。

 

「それとチルノ、抱きつくのはいいが寒いぞ、もう少し暖まれ」

「む!あたいのぶかのぶんざいでくちごたえとは!大ちゃん!しかるべきしょちを!」

「えぇ!?え、えーと…うん!じゃあ、こうたさんは《私たちと今日一日遊ぶ刑》に処します!」

「ははっ、りょうかいりょうかい。」

 

いつのまにか裁判が始まり、いつのまにか遊ぶ刑に処された。まぁ今日はその気で来たから願ったり叶ったりじゃぁあるんだが。チルノに関しては一応人肌のぬくもりもあるんだが、それ以上に寒い。

 

チルノは俺のことを部下(まぁその実ただの友達だが)とそんな風に呼んで甘える。まぁ、チルノとまともに取り合う大人が俺だけっていうのはあるんだろうが。しかしこうしているとチルノと会った日を思い出すな…

 

 

チルノと会ったのはある冬の日だった。霧の湖に来て見ると一人の妖精が木陰で泣いていた。見ていられず思わず声をかけた。それがチルノだった。

 

 

チルノはもともと人間好きではあるのだが…いかんせんやりすぎたと言わざるを得ない。人里の人と仲良くなりたかったのだろうが、いたずらのしすぎで一部の人々から嫌われてしまい、殴られたり、石を投げつけられたりしたそうだ。

 

妖精は普通、人間より弱いものである。が、チルノは妖精の中でも飛び抜けた力を持っており、むしろ人間より強いので大丈夫だったがかなりショックだったんだろう。

 

それで落ち込んだチルノは大妖精に慰められながらここで過ごしていた、というわけだがそこに現れたのが俺だ。もともと釣り師である俺は幻想郷中の川や湖を回っているのだが、気落ちしているチルノを見て慰めていたら妙に懐かれた。

 

まぁ、そういう顛末がチルノとの出会いにはあったのだが、懐かれすぎてしまったかもしれない。今も俺のあぐらの上に座り込み、抱きついて顔を俺の胸に埋めている。懐かれて嬉しいが、寒い。夏なのに寒いとか初めてだ。

 

というよりチルノが静かすぎる。それに離れようとしない。これじゃ遊べないな…しかもいつもはもっとうるさいんだが…

 

「どうした?チルノ、座られたままだと遊べないぞ?」

 

そう言いながら下を見ると………

 

「うるさい、ひぐっ、ぅぅ、ひぅ、寂しかったんだぞ…」

 

チルノが泣いていた。やべぇ、女の子泣かしちゃった。しかしこんな経験はほぼほぼしたことがない。どうして良いかわからず大ちゃんに救いの手を求めるべくそっちを向いたら保護者のような顔でニコニコしている。えぇ…(困惑)

 

たしかに最近忙しくて会えなかったし、遊んでやれなかったが、まさかここまでとは。チルノを安心させるため、抱きしめて頭を撫でる。そうするとチルノはさらに強く抱きついて来た。大丈夫だよね?とりあえずしたけれどきもいとか思われてないと…いいな…

 

そうこうしていると大ちゃんがチルノの後ろから守るように、包むようにそっと寄り添い、抱きしめる。うん、3人で寄り添うとチルノの冷気があっても暖かいな。

 

「すまんな…チルノ、もっとここに来るから」

「チルノちゃん、大丈夫、大丈夫だよ」

「うん…ぅん…」

 

チルノは、いつも快活で、陽気で、気丈で、強い力を持っているが、その実ただの傷ついた、か弱い少女なのだと痛感した。自分よりかなり強いと、どことなくそう思って行動していた自分を後悔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのあとはチルノが泣き止むまで待ち、その後思いっきり3人で遊んだ。とても楽しい時間であった。久しぶりにこんなに笑ったと思う。しかし、そんな幸せな時間も長くは続かず、夕暮れの別れの時間になった。

 

「こうた!つぎ来るのが遅かったらダメだよ!」

「分かったよ、チルノ」

 

チルノはもう吹っ切れたようで、元の快活なチルノであった。

と、去ろうとしたら大ちゃんがこっちに来た。どことなく気落ちした顔と、何か言いたげであったからそっちに少し戻ると…

 

「こうたさん、チルノちゃんはまだ少し怖いと思うんです。それを晴らせるのはこうたさんだけなんです。わたしには寄り添うことしかできない。だから!チルノちゃんのこと、気にかけてください!」

「うん、分かったよ。大ちゃんはいい子だなぁ。もっと自信を持っていいんだぞ?絶対に、チルノの一番は、大ちゃんなんだから。」

「っぅ……!はい!ありがとうございます!」

 

大ちゃんの頭を撫でると嬉しげな様子だ。多分、チルノの力になれてないと不安になってたのだろうがそんなことはない。チルノにとって一番頼もしいのはいつだって大ちゃんだろう。

 

彼女たちは本当に、いい子達で、微笑ましい。

 

 

 

 

 

妖精二人に見送られ、その日は幸せな気分で家に帰ることができた。

 




やべぇ、チルノと大ちゃんなんかやべぇ(語彙力喪失)
書いてるうちにキャラが一人歩きしました…まぁ、大丈夫かな?
呼んでくれてありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。

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