幻想郷貧乏生活録   作:塩で美味しくいただかれそうなサンマ

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第二十九話 慟哭

レミリアの顔が眼前いっぱいに広がる。

深みを持った真紅の瞳。

麗しい微笑みを讃える唇。

艶かしい白磁の肌。

 

そして自分を取り囲むのは日傘の影。

踊り回るさんざめいた斜陽は消えていた。

 

 

「まったく…仕方ないわね。あまり体を傷つけてはダメよ?何か辛いことがあるのなら言いなさい。遠慮なんてしなくていいわ。」

「ゥ…ぅ…」

 

嬉しい。

こんな醜い姿を見ても嫌わない慈愛が。

あたたかい。

こんなどうしようもない自分に向けられる慈愛が。

シアワセ。

こんなにも気遣ってくれることが。

 

返さないと。

怖いんだって。

話さないと。

くるしいって。

伝えないと。

アリガトウって。

 

「レ、ミ…リア…」

「いいわよ。」

 

レミリアはさらに笑みを深めて、さらに優しく包み込んでくる。

簡単だ。

安心して吐露するだけ。

信頼して頼るだけ。

言わないと。

いわないと。

イワナイト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“本当に”?

 

「ァ…ァ…」

 

レミリアは本当に気遣ってくれてるの?

レミリアは本当に自分のことを嫌ってないの?

レミリアは本当に味方なの?

 

「ァ…ゥ…」

 

本当に…本当に…タスケテクレルノ?

 

 

「嘘だ…」

「…」

 

レミリアは黙って言葉を待っている。

そんな姿に思いが決壊する。

レミリアに掴みかかり、押し倒す。

光の路から外れた影のところでレミリアの上を取り、腕を押さえつける。

レミリアは全く抵抗しなかった。

そんなレミリアに向かって吐きつける。

 

「嘘なんだろう!本当は嫌なんだろう!こんな醜い姿の人間なんて!どんなに優しい言葉をかけても!心の奥底で見下してるんだろうよ!バケモノなんだって!人間にも妖怪にもなれない歪なやつなんだって!」

「…」

 

レミリアは微笑みを崩さない。

真紅の目はこちらをじいっと見つめている。

 

「いつもそうだ!俺がなにをしても!誰も心から信じてくれない!褒めてくれない!認めてくれない!助けてくれない!」

「…」

 

真紅の目は逸れない。

 

「もう十分だ!優しさも!苦しみも!なにもかもが辛いんだよ!分からないのが怖いんだよ!他人の心が怖いんだよ!視界に入れたら何者でも!すぐに殺したくなるくらいに恐ろしいんだよ!」

「…」

 

真紅の目は逸れない。

 

「生きる資格もない!こんな俺に!もう構うんじゃない!」

「…」

 

真紅の目は逸れない。

 

言い切った。

全て言い切った。

普通なら罪悪感を感じるべきなんだろうか。

でも分からない。

俺には“心”が分からない。

今感じてる感情になんと名前をつけていいのかも分からない。

ただ自分が泣いていることだけは分かった。

 

「…もう終わり?そう…」

 

ずっと黙ってこちらを見つめていたレミリアが話しかけてくる。

淡白な反応。

怒りがこみ上げてきてレミリアの首に両手を回して力を込めて締め上げる。

穴だらけの右腕から血潮が飛び散る。

が、そんなこと気にも留めずに締め続ける。

正体不明な赤い感覚が体を動かしていた。

そんな思いが止まらなかった。

首を思い切り締め上げられているというのにレミリアは抵抗しない。

イライラしてさらに力を込める。

レミリアの細い首は締められすぎて赤くなっている。

しかし妖怪だからだろうか。

あまり効いていないようだ。

と、レミリアの口が動く。

 

「幸太。貴方はとても異常なのね。」

「ーは?」

 

驚嘆。

思わず締め上げる手も緩む。

異常。

そう、俺は異常だ。

人ならざる体を持つ。

優しさを無下にして誰かを平然と殺そうとする感情を持つ。

そう、当然のこと。

なぜレミリアは今更それを口に出した?

あれ?

なぜ俺は“驚愕”したんだ?

 

レミリアはそれ以上言葉を紡ぐ気はないようだ。

ただただその赤い瞳でこちらを見つめるだけ。

 

「なんだよ…なんなんだよ…」

 

混乱する。

なぜ抵抗しない?

いくら妖怪と言えども長時間首を締め続けられればいつかは死ぬ。

なぜ逃げ出さない?

男嫌いなレミリアがその男に押さえつけられているというのに。

なぜ恐れない?

未だに目と口が生えては消えていく俺の右腕を。

 

「分からねえよ…分かんないよ…」

 

思わずレミリアから離れる。

青白い感情が突き動かす。

それは恐怖か、怯えか、不安か。

はたまた後悔か。

 

レミリアは俺が上から去ると立ち上がってこちらに近づいてくる。

逃げようと後ずさりしたが、壁にぶつかってしまった逃げれなくなった。

横に避けようとした瞬間、レミリアに思い切り抱きしめられた。

耳元で空気が動く。

 

「安心なさい。私がいるわ。」

 

その囁きを聞いた瞬間。

体の力が全て抜けた。

体を覆うなにかが消えた。

温もりの中で暗闇に意識が落ちていく。

あぁ…受け止めてくれた。

やっと…やっと…。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

腕の中で幸太が眠っている。

幸せそうな、憑き物が落ちたような顔で。

とても可愛らしく、頭を撫でる。

 

「まずは応急処置ね。」

 

幸太の右腕はひどい重症だった。

指でつけたのであろう傷が大量に。

名残惜しいが抱きしめていた体を離して布団に寝かせて持ってきていた応急処置の道具を取る。

そして…

 

「さぁ、真実を話してもらいましょうか?“人里の賢者”さん?」

 

部屋の外にいる者を呼んだ。




いかがでしたでしょうか。
次が暴露会になりますかね。
でもこの話ちょっと不満がありまして。
もっと切実な告白させたい!
でも筆者にはこれ以上書き出すことのできないジレンマ。
まぁ、この先も楽しみにして読んでいただからと幸いです。
何かが不満とかあれば感想にどうぞ。

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