幻想郷貧乏生活録   作:塩で美味しくいただかれそうなサンマ

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第三話 夜に紛れて幸せにまみれたひととき

「上納金、そうだな…今日は250文払ってもらおうか。」

「なっ!それは…流石に高すぎるのでは…もう少し下げることはできませんでしょうか?」

「なに!文句でもあるのか!肉を売りさばいて金を得たことは知っている!ごたごた言わず早く納めろ!」

「っぅ!…分かりました…」

 

チルノと大妖精と遊んだ後、うきうきだった気分の俺を待っていたのは上納金をせびる役人。それもいつもより多くだ。

 

さっきまでの幸せな気分は一瞬で吹き飛んだ。何もかもきれいな夢の中から現実へ引き戻された気分だ。しかし、払わなければならない。

 

心の中で憤怒を転がしながら、棚に《今日の朝》貯金したばかりの金を取り出す。せっかくの稼ぎを7割くらいを持って行かれた。役人は金を受け取ると上機嫌で帰っていった。反面、俺の心の中は言うに言えない虚しさと悲しさ、悔しさで暗い心持ちであった。

 

「くそっ!あったまきたこのやろう!うぬぅ!」

 

怒りのあまりそう叫ぶ。物に当たるほど子供ではないがこれぐらいは許されてもいいだろう。冷静になって、何か自分に褒美を与えたい気持ちになり酒を飲もうと酒を保管している蔵へ向かった。

 

「うわっ…もう無いのか…お酒高いしなぁ…節約しないといけないけど…でもなぁ…」

 

しかしそこに目的のものは無かった。買い置きしていた分はもう飲み干していたようである。暗い気持ちを晴らすための酒を探しに来たのに余計にその気持ちを煽る結果となった。

 

落ち込みつつ家の中へ戻る。陽も落ちて暗い家の中は閑古鳥すら鳴かないほど静かである。

 

「静かなもんだ…淋しいなぁ…」

 

慣れたものではある。俺の両親が死んだのは今から15年前、俺が9つの時である。体格だけで言えばちょうどチルノや大妖精くらいであろうか。一人なのはいつものことであるが、今日に限ってはそれが一層強く、鋭く感じられるようであった。

 

そんなもの思いをしながら、夕飯の準備をする。昨日の狩で手に入れた肉を自家製の味噌をつけて焼き、ぬか漬けにしていた野菜を取り出し、買ってきた安い粟を米の代わりとして準備する。かなり粗末なものだ。まぁ、自家栽培と狩のおかげでまだマシにはなっているけども。今時、粟なんて食うのは俺ぐらいだ。

 

だいたい四半刻くらいで作業は終わった。さぁ、食おう。と、そう思っていたところ、トントン、と戸が軽く叩かれた。

 

こんな夜更けに、しかも里外れで嫌われ者である俺の元へ訪れる人はほとんどいない。誰であろうと思いながら戸を開けると…

 

「はい、こんばんは…って、ルーミア?なんか用か?」

「こんばんは、幸太。前言ってたでしょ?たまに夕飯でも食べに来なって。」

「ん…あぁ、なるほど。思い出したよ。分かった。入ってくれ。」

 

そこにいたのは《ルーミア》という妖怪だった。たしか闇を操るだとかなんだとか言っていた。金髪で白と黒の服を着ている。頭につけている赤いリボンが可愛らしい《人食い》妖怪だ。そう、《人食い》だ。

 

「すまんな、前みたいに稼げなくなって…粗末な夕飯だが、食べてくれ。気に入らないなら食わなくてもいいが…」

「大丈夫よ?十分美味しそうだわ。ありがとう。いただきます。」

 

俺が作っていた夕飯を渡すとかなり粗末なものであるのに嫌な顔1つせず、むしろ喜んで食べてくれた。すごい嬉しいもんだ。今までの暗い気持ちが少し晴れた感じである。

 

「しかし、貴方あいかわらず身体に妖力が溜まってるのね。吸い出しましょうか?」

「いや、うーん、そうだな。あとでお願いするよ。」

 

そう、これが俺が人食い妖怪であるルーミアと仲良くなれた理由。俺の体はなんと妖力があるらしい。妖怪でもないのに、だ。まぁ、その原因は妖怪の肉を食っている事だと霊夢に言われた。つまり俺は人が持つ《霊力》と妖が持つ《妖力》を人間のまま持ち合わせる希少な存在であるらしい。

 

それがなぜ仲良くなる理由につながるかと言うと、さっき言ったようにルーミアは人の肉を食うわけだが、俺の肉が絶品であったらしい。それで一口で食べきってしまうのはもったいない!思ったらしく、俺を生かすことにしたんだと。まぁ、言い換えれば家畜みたいなものだ。

 

そんな感じの出会いだったが、今では打ち解けてかなり仲良くなったと思う。昔は見境なく人を食べていたルーミアも今ではこんな飯を食うぐらい変わり、人を食うことは少なくなった。そのかわり俺に溜まった妖力を食べることは多くなったがな。

 

ちなみにルーミアの言っていた約束とは夕飯を食べさせるということだ。俺とルーミアは基本的に夜狩に赴いた時に出会うことが多く、俺の家に招いたことがなかった。以前あった時ルーミアが来たいと言ったから呼んだというわけだ。だから俺の家にルーミアが上がるのは初めてだな。それに…家の中に信頼できるぬくもりがあるのは…久しぶりだ。

 

「ふぅ…ご馳走さま。美味しかったわ。」

「おう、お世辞でも嬉しいよ。というよりあれだな。ルーミアは見た目に反してかなり大人びてるよな。」

 

ルーミアは背丈はチルノ達と同じぐらいだが、かなり大人びている。たまに子供らしく振舞っているところを見かけるが、それは楽であるからとのこと。

 

「そうね。私はもう何千年も生きているから。この少女の姿も封印されているだけで本当はもっとナイスバディなのよ?」

「ほへー、妖怪ってすげぇな。」

 

そんな風に感嘆しながら、ルーミアの本当の姿を想像する。整った目鼻立ちのルーミアのことだ。さぞ美人であったことだろう。

 

「ん?封印?ならお札とか貼られてんの?」

「そうよ。このリボンがそう。」

「えっ!本当?じゃあルーミアはそのリボン嫌いだったりすんの?似合ってて可愛いと思ってたんだが…」

「…そうね、あまり好きじゃないけど。まぁ、子供の姿はあまり人を食べなくても良いから楽ではあるわ。そういう風に言われるなら、悪くないし…」

 

知らなかった。友達の秘密を知り、ちょっとびっくりするとともに嬉しくなる。こういうの、いいよね。なんか仲良くなった実感がする。

と、そう思っていると不意にルーミアが近づいて着た。その顔は興奮し、待ちきれないという感じだ。

 

「じゃあ、いただくわよ?」

「お腹いっぱいじゃないのか?」

「貴方の妖力なら別腹よ。」

 

俺はルーミアの方に右手を差し出す。するとルーミアはその手を乱暴に取り、すぐさま噛み付いた。ブスッと生々しい音と溢れる血。そして何かが自分の中から抜かれるような感覚がする。たまった妖力だ。

 

ルーミアは美味しさに顔を恍惚とさせながら吸っている。俺にはよくわからんが。実はこの行為はルーミアだけでなく、俺にも得がある。妖力が人にたまりすぎると妖怪になる。まぁ、その量は膨大であり、妖獣の肉を食ったぐらいじゃならないと霊夢は言うが、俺は食う絶対量がまず多いので妖怪になる危険性があるのだ。

 

昔は霊夢に頼んで妖力をはらってもらっていたのだが、最近はルーミアに吸ってもらっている。こっちだとお金もかかんないしな。霊夢は嫌な顔をしていたが。

 

「ふぅ…あぁ…美味しい…」

「満足したか?」

「えぇ、ご馳走さま。」

「そんなに美味しいものなのか?よく分からないなぁ。」

「えぇ!あなたから吸う妖力は霊力とか人間の体と混ざっているせいなのか分からないけど、芳醇で濃厚で…あぁ…言葉にできない…」

 

まぁ、美味しいんなら悪い気はしないが。妖力を吸われたせいかちょっと疲れて倦怠感を感じる。しかし、どこか心地の良い気だるさだ。

ふぅ…今日は寝るとするか。

 

嫌な体験をしたもんだが、結局今日は良い1日であったのだろう。朝はチルノと大妖精に癒され、夜はルーミアのおかげで楽しいものになった。

 

薄い、ボロい布団を部屋の片隅に敷く。しかもこの家は隙間風が多いこともあってこの布団だと寒いのだ。夏はまぁ、まだ良いが冬は地獄である。

 

と、ルーミアはもう帰ったと思っていたがまだそこにいた。だから声をかけた。

 

「俺はもう寝るわ。ルーミアは帰るんだろ?気をつけてな。」

「何言ってるの。私ここに泊まるつもりなんだけど?」

「えぇ…おれ布団1枚しか持ってないんだけど…」

「一緒にそれ使って眠れば良いじゃない。」

「そうは言いますけどね、お嬢さん、その…同衾はいろいろとまずいんじゃないでしょうか?」

「あなたはそんなことする人じゃないでしょう?」

「いや…でもなぁ…」

「まだるっこしいわね。あまり強引にはしたくなかったのだけれど。」

 

そういうとルーミアはいきなり大きくなった。いや、大きくなったというより元の姿に戻ったというのが正しいのであろう。すっげえ美人。

 

「 ルーミア…その姿は………うぇっ!?」

 

驚きとルーミアに見惚れていた事でおれが動きを止めていると、ルーミアは闇を操り、布団の中へおれを引きずり入れて、そのまま布団の中に入って来た。いわゆる添い寝だ。

 

「ふぅ…まったく、甘えるときは甘えていいのよ、幸太」

 

布団の中で抱きしめられ、頭を撫でられながらそう言われる。なまじ今のルーミアは大きい姿だから破壊力がやばい。それに…久々に《自宅の夜に》感じる人のぬくもりが、おれの中を突き抜ける。

 

「淋しさとか辛さとか、そんな感情ダダ漏れなのよ?貴方。だから私が来たというのに気丈に振舞うし。今は何も考えず、眠りなさい。」

 

ルーミアはそう優しく語りかける。甘い声、慈愛に満ちた表情だ。滑稽だな。子供なのは俺みたいだ。俺はいつの間にか泣いていた。昼間のチルノのように。

 

《自宅での夜》っていうのはいつも自分にとって孤独の象徴だった。恐怖の時間だった。冷たさであった。虚しさであった。ひとり寂しく、貧乏な、暗い将来を見つめて悲観する悲しい時間であった。それが今日、完膚なきまでにぶち壊された。非情なはずの《人食い妖怪》によって。

 

その日、俺は久々に幸せと、ぬくもりにまみれて寝た。

 

 

 

 

 

長い孤独に紛れ込んだ、優しいひとときだった。

 

 




ただただ《夜》ではなく、《自宅での夜》なのは理由があります。まぁ、それはのちのお話で。
今回もルーミアはキャラが一人歩きしました。理性的すぎて嫌いな人もいるかもしれませんね。
人は誰しも弱さを持つものだと思います。
どんなに大人であっても、どんなに気丈でも、です。
人に甘えてばかりもいけませんが。
息抜きは大切ですよね。
これからもよろしくお願いします。

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