幻想郷貧乏生活録   作:塩で美味しくいただかれそうなサンマ

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投稿時間が遅いのはお兄さん許して!なんでもしますから(大嘘)
では、どうぞ



第八話 人と妖怪 前編

溜まった焦げ茶色の不安を押し流せないまま二日が過ぎた。

夏も少しずつ終わりに近づいているが、まだまだ暑さが緩まることはない。

今は夜の涼しい時間帯だからまだ良いものの。

日中の忙しい蝉の声とはうってかわって静寂さが目立つ夜だ。

月はもうそろそろ満月なのか煌々と空で輝いている。

縁側で何もすることなく1人、いとまに身を委ねていた。

こういう時間も、存外良いものだ。

いつもは仕事や金やらに追われているから特にな。

 

 

 

 

しかし、安寧というのはすぐ壊れるもの。

悪寒を感じる。

殺気のような、興味のような。

熱く恐ろしい視線を、森の奥から。

さっきまでの緩んだ気持ちを捨て、覚悟を決めて鉈と弓を持ち、家から出て問いかける。

 

「誰だ!?姿を見せてくれ!害する気持ちはない。」

 

返答は静寂。

何も帰ってこない。

…が、森の中からこちらへ歩いてくる一つの小さな影がうかがえた。

警戒しながらそちらを見ていたが、あちらは何もする気がないようだ。

警戒を解かずにいると影が姿を現した。

 

 

「ごきげんよう、良い夜になりそうね。ヒト。」

「こんばんは、今夜は月が良いですよね。はじめまして私の名前は幸太。しがない人間です。」

 

そこにいたのは…幼い娘…ではない。

妖怪だ。

威厳のある言動をしているからよほど高貴な方なのだろう。

種族はわからない。

背中に大きい蝙蝠の翼を持っている。

薄い青髪に桃色の服。

そして…

おぞましいほど美しい紅の瞳。

怜悧かつ深淵な輝きを放つその瞳は。

相手がただならぬものであると示すに充分であった。

 

「そう、幸太…ね。覚えておくわ。私の名はレミリア・スカーレット。よろしくはしなくていいわ。」

「そうですか…それで、今夜は何ようでしょうか?」

「ふむ、改めて聞かれると答えにくいわね。そうね…ちょっと遊びに来たっていうのが正解かしら。ね?“妖喰らい”さん?」

「うっ!ぐぅ、ふっ…ふぅ…そうですか。では遊ぶとは?」

 

息が止まった。

少しの冗談だと言わんばかりの、うわべだけ見たら可愛らしい少女の仕草である。

しかし、それを放ったのは、隠す気のない鈍すぎる殺気とあからさまにこちらに示している退屈、そしてこれからの余興への興奮を交えたその紅い瞳を伴ってである。

もちろん可愛らしいわけがない。

これは暗に「今からお前を殺す」と言われたことと同義である。

同時に「楽しませてくれないか?」とも言われたかもしれない。

姿は少女であるのにその雰囲気はまさに貴族と、そう言わざるを得ない威厳と、恐ろしさ、そして何よりの魅力を伴っているようであった。

本能が訴えている。

“反抗するな…”と。

 

 

「あら、決まってるじゃない。というより、すでに察しているのでしょう?とぼけないでちょうだい。」

「っ!はい…弾幕ごっこをしましょう。被弾は1、スペルカードも1枚で。構わないでしょうか?」

 

怒気のこもった声に思わず声に詰まる。

しかし、冷静さを失わないように善処する。

ここで焦ってしまっては待つのは死。

それのみである。

 

「えぇ。大正解。ご褒美にルールはそちらの決めたものに従うわ。なら、始めましょう?こんなに良い夜なのだから、楽しませて?“妖喰らい”」

「お願いします…!!」

 

覚悟を決めて返事をすると同時に弾幕ごっこが始まった。

周りには結界が張られる。

逃げることはできない。

長い夜になりそうだが…生き抜いてやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗いはずの夜の中、閃光が飛び散り、幻想的な風景を醸し出していた。

レミリアは開始と同時に空に飛び、空中からその美しい弾幕を俺めがけて叩きつけてくる。

開始数秒もしないうちに自分は早くも追い詰められてしまった。

が、俺は反撃の手段などない。

いや、正確にはあるが一つしかない。

当然のことだ。

だって、俺は妖怪に勘違いされやすい以外は普通の人。

弾幕なんて扱えない。

こんな感じで勘違いされた時のために弾幕を霊夢に教えてもらったが、俺にできたのは弾幕、それもショット、それも小さく弱々しいものを一つ作ることだけ。

つまり、今の俺の手札は1発のスペルカードだけである。

 

“唯符《陽を撫ぜる一閃の水滴》”

 

そんな大層な名を魔理沙からいただいたスペルカードだが、実情は蒼く輝く一つの球を発射するだけ。

しかしこれが肝だ。

これしかないなら、これで勝つしかない。

 

「っ、ぬるばぁぁ!」

 

雄叫びをあげて自分に喝を入れながら迫って来た弾幕を避ける。

密度は高めではあるが、レミリアから離れていたことで避けるすきは生まれていた。

 

「どうしたの?反撃しないならどんどん攻めるわよ!興ざめさせないでちょうだい!」

 

そんなレミリアの声とともに弾幕が増えた。

流石に避けきれないと判断し、腰に引っさげていた鉈を手にとって、霊夢に教えてもらったように弾幕に叩きつける。

 

「っ!ぐっ…嘘だろ…」

 

重い。

鉈を叩きつけた手が痛みと痺れで震えている。

なんとか鉈を手放すということにはならなかった。

弾幕を武器で弾くことは被弾に入らないから大丈夫だ。

実際今も、当たりそうであった球をかき消すことに成功した。

…が、強い。

弾幕一つ一つの重さ、強さが自分の比にならない。

魔理沙がいかに自分に手加減していたかが分かってしまうほどの威力であった。

弾幕ごっこ。

“ごっこ”とはいえ、死なないように作られているとはいえ、死ぬときは死ぬ。

例えば、当たりどころが悪かったり。

例えば、手加減を間違えたり。

例えば、相手が弱すぎたり。

そしたら死ぬ。

もし、自分がこの弾幕に被弾したら。

俺の体は弾けてぐちゃぐちゃになるだろう。

それほどの威力だった。

自分が強い妖怪に絡まれても死なないように弾幕ごっこを習ったつもりだったが、これでは意味がない気がして、自嘲と虚しさが体を駆け巡った。

そんな考えを振り切って前を向くと、紅く輝く《死神》の大群が迫っていた。

 

「くっ、クッソガァァァァ!」

 

雄叫びをあげながら必死に避け、搔き消し、生にしがみついた。

 




…はい、また懲りずに前後編ですみません。
次を期待してくれれば嬉しいです

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