笑顔の魔法を叶えたい 作:近眼
ご覧いただきありがとうございます。
一気に投稿したアニメ一期終盤、ついにラストとなります。いやーにこちゃん生誕祭に間に合ってよかった!!(無理矢理間に合わせた)
そして二度目のタイトル回収です。私はバッドエンドは苦手なのでちゃんとハッピーエンドにしますよ!え?波浜君が既にかわいそう??聞こえないなー。
というわけで、どうぞご覧ください。
「それはそうとして、にこちゃんこの後どうすんの」
「講堂でライブすんのよ」
「何言ってんの」
僕の中の確執が終わり、あとはμ's復活を目指してどうするのか気になったけど…マジでライブすんの。衣装係いなかったのにライブやんの。
「服どうすんの」
「制服よ」
「強行突破にもほどがある」
「さあ早く行くわよ、照明頼むわよ」
「強行突破にもほどがある」
まさかの僕も参加前提だった。待ってよ。
「いや、何のセットアップもしてないんだけど」
「大丈夫よ。どうせプログラムは残ってるわ」
どゆこと、と思って、しかしすぐピンときた。
ライブ会場は講堂で、僕のプログラムが残ってるとしたら…講堂で行ったのと同じ曲をやるわけだ。
そしてその曲は…。
「ほら早く靴履いて!!」
「待ってよ」
にこちゃんに急かされて、外に出る。でも僕走ると死ぬんだけど大丈夫かな。
と思ってにこちゃんと共に外に出ると、目の前に赤い車が止まっていた。その傍らには見覚えのある人が立っている。
「…さて、足は必要だろ?」
「天童さん、やっぱいたんだ」
「え、どういうことよ」
天童一位。
全ての悲劇を否定する黒幕さんだ。
にこちゃんに接触したって聞いてから、おそらく全部把握してるだろうなとは思ってた。
「さあ、乗りな☆」
「「腹立つ」」
「そこシンクロしないで?!」
でもいつも通りの天童さんだった。腹立つ。
「ま、まあ、これくらいならいつも通りだ。とにかく、まずは穂乃果ちゃんとことりちゃんを迎えにいくぞ」
「わかりました。にこちゃん、先に学校戻ってて」
「え?私も行くわよ」
「ついてきてどうすんの。先に戻って、みんなを纏めてあげて」
何故かにこちゃんがついてこようとしているので、にこちゃんには学校に戻るように促す。最悪ライブ開始に間に合わなかった時のために、場つなぎの挨拶くらいしてもらわなきゃ。
「頼んだよ、
「…わかったわ。さっさと連れて帰ってきなさいよ!!」
一瞬躊躇したけど、すぐ踵を返して学校に向かってくれた。お願いね、にこちゃん。
「さて、茜復活祭というわけで俺らも行くぞ」
「おけー」
早速助手席に乗り込み、天童さんも車を走らせる。天童さんは18歳なのでバッチリ免許持ってる。お仕事で使ってるし。
「…茜、こいつを飲んでおけ」
「あー、ありが…と…え?何でゆっきーいるの?」
後ろからなんかの飲み物が入ったペットボトルを渡されて振り返ってみると、なぜかゆっきーがいた。なんでさ。ここ交流あったの?
「天童さんの隠密部隊に巻き込まれた。あの日ライブ会場にいたせいでな」
「なーに言うんだ雪村君。あんたのお陰で予想以上にハッピーエンドできそうだぜ?」
まさかの巻き込まれ役だった。てか天童さん、あの日会った人とこんな早く仲良くなれるのか。コミュ力チートじゃん。あとこのペットボトルの中身何。赤黒いんだけど。
「このグロテスクな飲み物は一体何」
「蓮慈特製の栄養ドリンクだとよ。天童さんの依頼で作ったとか」
「絶対不味いやつじゃん」
天童さん、気を回してくれるのは嬉しいけど人を間違えてるよ。仕方ないから意を決して一気に飲んでみたけど、ゲロマズだった。一気飲みして正解だった、軽く一口とかだったら絶対二度と口をつけない。吐きそうになったけど。吹き出さなかったのはひとえに僕の肺活量不足だよ。しかも元気になったかどうかはわかんない。踏んだり蹴ったり。
そのままゲロマズに悶えてるあいだに、空港に辿り着いた。丁度そのタイミングで走ってくる高坂さんと南さんが見えたので、窓を開けて呼びかける。
「おーい、お二人とも乗るといいよ。お急ぎでしょ?」
「え?!茜くん?!」
「はいはい乗った乗った」
「えーっとよくわかんないけどお願い!!」
「えっえっ」
「わあっ知らない人…じゃない!雪村さん?」
「ああ、同席してすまないな。とりあえず早く乗れ」
「はい!失礼します!!」
「わああ?!」
さっさと高坂さんと南さんを乗せて再出発。慌ただしいことこの上ないが、高坂さんも元気なようでなにより。
「あ!そうだ!…茜くん、酷いこと言ってごめんなさい!!」
「…ああ、結構酷いこと言われたね」
「ううっ」
出発してすぐ謝ってきた。うん、あれは凹んだ。結構な期間家から出れなかったしね。そういえば結局今日は何日なのかな。
「まあ…でも、お陰で君は反省したみたいだし、僕も妄執を振り切れたし、結果的には良かったのかもね」
「えっ…怒ってない?」
「若干怒ってるけど」
「あれー?!」
まあ怒ってなくはないんだけど、いいこともあったし、そこらへんは今回は不問にしてあげよう。それだけ僕も成長できたし。
「でも、お陰様で僕は僕らしく生きられそうだよ。…ありがとう、
「えっ!茜くん、名前…!」
「うん、これからはにこちゃんだけじゃなくてμ'sのために頑張るからね。みんなちゃんと名前で呼ぶよ」
「わあ…!!」
今まではにこちゃん以外を優先するわけにはいかなかったから、にこちゃん以外のみんなは名前で呼ばなかった。
でも、これからはみんな平等だ。
今ならみんなを名前で呼べる。
「しかし浮かない顔だねことりちゃん」
「うん…だって、留学するのに、勝手に帰ってきちゃったから…」
そういばそうだったね。後でなんとかしなきゃ。なんとかなるのこれ。
「…それは心配いらない。とっくにキャンセルしているからな」
「「「え?」」」
「はっはっは、俺の指示であらかじめキャンセルさせておいたのさ!絶対留学とかしないと思ってたしさせるつもり無かったからな!!」
「留学してたらどうしたんですか」
「気合いでなんとかする」
「ゆっきーなんで言うこと聞いたの」
「俺もあらかじめ『行かないとは思う』って伝えてあったからな…」
「君もかよ」
何で君たちはそんなに見切り発車全開なの。いや天童さんは見切り発車の達人だけどさ。見切り発車の達人ってなんかダサいね。
「てゆーかなんでゆっきーがことりちゃんの留学に関与してんの」
「…メイド喫茶で会った時に連絡先をつかまされてな…。俺がたまたまフランスに関わりが深かったもんだから…」
「えっ!ことりちゃん私が知らないところで男の人と仲良くなってる!!」
「ええ?!ち、違うよ?!有名なデザイナーさんだったから…」
「そうなの?!」
「騒がしいなぁ」
「はっはっはっ元気でいいことじゃねーか」
ゆっきーが知らぬ間に交友を広げていたことにびっくりしたいところだけど、穂乃果ちゃんが話を恋バナに飛躍させたせいで急に車内が騒がしくなった。うん、元気でなにより。
「ちなみに運転手さんはどちら様ですか?」
「あれっ俺割と有名人なんだけどご存知ない?」
「ことりちゃん知ってる?」
「えっと…」
「はーい察しましたワタクシ自意識過剰でした死のう」
「天童さんうるさい」
「慈悲のカケラも無ぇ」
天童さんは割と、というかかなり頻繁にメディアに出ているので割と有名人だ。ライブの時も賑わってたみたいだし。でも穂乃果ちゃんとことりちゃんは知らなかった模様。お疲れ様でした。
「…もう着くぞ。急ぎな、あと5分だ」
「え?!ことりちゃん早く!!」
「うん!!」
音ノ木坂前に着くや否や、車の扉を開け放って飛び出す穂乃果ちゃんとことりちゃん。まあ間に合うだろう。
「天童さん、おんぶ」
「何でだよ!!」
「僕走れないですしおすし」
「あーはいはい足になれってことな!!雪村君はどうすりゃいいんだ!!」
「あー…もしよければ、俺も連れていってくれると…」
「っはー!過労死待った無し!!」
何だかんだ言って僕をおんぶして、かつ車椅子を出してゆっきーを乗せ、音ノ木坂を目指す天童さん。根は優しいんだよこの人。変だけど。
「うぅ…緊張する…」
「それより凛たち制服のままだよ?」
「スクールアイドルらしくていいんじゃない?」
穂乃果と海未を和解させ、穂乃果にことり奪還を命じた後、残りのメンバーは講堂でライブの準備をしていた。俺は置いてある照明機材の設置をしておいた。茜にバイト代わりに連れ回されているおかげでその辺の仔細にかなり詳しくなった。金はくれるから文句は言えねぇ。
「しかし、穂乃果とことりは本当に間に合うか?あと5分だぞ」
「…絶対に来ます。必ず」
正直不安だし、開演を遅らせるわけにもいかない。
しかし。
「…言ってる間に、そろそろ時間やけど…」
「そうね…お客さんを待たせるわけにはいかないわ」
もう限界だろう。今いる7人で、幕の裏で準備してもらわなければならない。
そう、声をかけようとした瞬間だった。
バンッ!!!
「どわわわわわあああああ?!?!」
舞台裏の扉が勢いよく開き、穂乃果が転がり込んで来た。…尻を打ったみたいだが大丈夫か?
「いたた…。おまたせ!!」
「穂乃果ちゃん!」
そして、扉を閉める後ろの人影。
「ことり!」
「ハラハラしたにゃー…」
南ことり。
今日、本来ならば留学のために日本を発ったはずの…μ'sのメンバー。
「ほんとに連れて来やがった…」
「えへへ…ぶい!」
ドヤ顔でVサインをキメる穂乃果を見て、若干イラッとしたが安心もした。もう元気を取り戻したようだ。…俺も支えがいがあるってもんだ。
「じゃあ全員揃ったところで部長、一言」
「ええ?!」
また希がにこに無茶振りし始めた。しかも茜揃ってねぇし。あいつは管制室か?
「なーんてね。ここは考えてあるわ!」
あるのかよ。
「…今日は、みんなを!一番の笑顔にするわよ!!」
声と同時に、全員がピースを出して輪を作る。…当然俺も。そして、輪は1人分ちゃんと欠けている。きっと茜も、今ピースサインを出している。多分声届いてるからな。スピーカーで。
「1!」
「2!」
「3!」
「4!」
「5!」
「6!」
「7!」
「8!」
「9!」
そして。
「10!」
『11』
「「「「「「「「「「え?!」」」」」」」」」」
俺に続いて、もう一つ声が聞こえた。音源は、スピーカー。
あらゆるメディアで声も顔も文字も残さなかった茜が、自らスピーカーで会場に向けて話している!!
『そう、11人。僕らアイドル研究部の構成人数にして、μ'sの仲間たち。…皆様、長らくお待たせいたしました。μ'sのライブプロデューサーを行なっております…サウンドオブスカーレットと申します』
「茜…」
どよめく会場の声を聞きながら、にこが小さく呟いた。ふと見てみると、涙を浮かべていた。一体何に対する涙かはわからないが、表情は暗くないから悪い意味ではないんだろう。
「ほら、舞台に立ってこい。茜なりの時間稼ぎだ」
茜が声を出したのは丁度開演時間。開演の前振りの体で時間稼ぎをしてくれているらしい。…まさか、あれだけにこちゃんにこちゃん言ってたやつが俺たち全員のために体を張るとはな。
「…うん!!みんな、行こう!」
穂乃果の合図で幕の裏に待機するμ's。俺は舞台裏待機。
『この度は、μ'sのライブにお越しいただき、ありがとうございます。…先日から活動を休止しておりましたが、本日を持って…メンバー9人、マネージャー2人でのスクールアイドル活動を再開いたします』
どよめきは歓声に変わり、万雷の拍手が幕の向こうから聞こえた。…待て。歓声デカくねぇか?何人入ったんだ。
恐る恐る幕の隙間から客席を覗くと…
講堂の全席が埋まっていた。
それどころか立ち見まで出ている。
こんなにも、人が待ち望むグループになっていたのか。そんなグループと活動をしてきた、支えてきたという実感が今更湧いてきて…若干涙が出そうになる。
『多くの方々にご心配をおかけしましたことを、まずは謝罪させていただきます。誠に申し訳ございませんでした。…しかし、彼女たちは今や一つの壁を乗り越え、さらに強い絆を手に入れました。その証拠をご覧にいれましょう。僕らの、皆様の歌姫たちの復活を…どうぞ最後までお聴きください。
…START:DASH 』
満員の講堂を、管制室から眺める。
「そういえば穂乃果ちゃん、初ライブの時にここを満員にするって言ってたね」
「そうなのか?」
「そうなんですよ。あの時は何大それたこと言ってんだと思ったものですが」
初めてのμ'sのライブをお手伝いした時、穂乃果ちゃんは確かに絵里ちゃんに向かってそう言った。
今思えば、あの時の僕は「今」の僕に近かった。にこちゃんのためでなく、彼女たちみんなのために張り切っていた気がする。やはり僕の本質はこちら側だったのか。
…てか天童さんまだここにいたのね。
「皆さん!今日は本当にありがとうございました!!」
ライブが終わった後、穂乃果ちゃんが挨拶を始めた。そしたら歓声と拍手が巻き起こった。売れっ子アイドルじゃないんだから。いやアイドルか。スクールアイドルだもんね。ごめん。
「私達のファーストライブは、この講堂でした」
そう。ここから始まった。誰もいない講堂に悲嘆に暮れ、しかしそれでも、ほとんどただ1人のために行われたライブが今に繋がった。
今思うとすごい運命力だよね。
「その時、私は思ったんです。いつか、ここを満員にしてみせるって!」
だって、実際に埋まったもんね。
「一生懸命頑張って、今私達がここにいる。この思いを、いつかみんなに届けるって!」
こんなに君たちの努力を、感動を受け取ってくれる人がいるんだもんね。
「その夢が今日、叶いました!!…だから、私達はまた駆け出します!新しい夢に向かって!!」
もう、君たちは負けない。
そう思える。
「…マネージャー2人も一緒に!ほら創ちゃん、茜くん!こっちきて!!」
……………………………おんやぁ??
「さ、行くぞ茜」
「待って天童さん痛い痛い」
「馬鹿め、何故俺がここに居座ってたと思ってんだ。全部読めてたさ!!」
「冗談じゃないよ、声出しだけでも相当勇気必要だったのに顔出しとかうげっ」
「はっはっはっ御託はいい!行くぞ!!」
天童さん、それは良くない。いやマジでよくない。まあ確かに今まではにこちゃん以外に正体を晒さないつもりで顔出しNGしてたから今はもういいんだけど、心の準備とかそういうアレ。うんアレ。待ってほんと待って首とか掴まないで。
結局抵抗むなしく、講堂につながる扉の前に連れてこられてしまった。
「天童さんが中まで連れて行くわけではないんだね」
「そりゃそうだ。…そうしてほしいならやぶさかではないが?」
「やめて」
それやられるとダサいこと極まりない。仕方ないので自分で講堂の、心なしか重い気がする扉を開けた。
舞台にはμ'sのみんなが整列していた。創一郎も既に舞台上にいて、すこぶる気まずそうにしている。
僕は舞台に向かって歩き始めた。こちらへ向かう無数の視線。階段を降りれば降りるほど聞こえてくるどよめきも大きくなる。「え、あれって三年生の…」「うそ…サウンドオブスカーレットって…」みたいな声がたくさん聞こえる。うん。恥ずかしいことこの上ない。
舞台上まで辿り着き、振り返ると…すごい人数だった。やめてよ。なんで君らこんなに人気出てるの。しかもカメラ回ってんじゃんあーそうか初ライブの時もカメラ回したもんなー詰んだ死のう。
でもサウンドオブスカーレットとしてはこんなところで情けない姿は見せられない。ネームバリューの恐ろしさよ。
「皆様改めまして…サウンドオブスカーレット、またの名を波浜茜と申します。メディアへの露出はこれが初めてですね…見ての通り高校三年生、μ'sのマネージャーを勤めています」
「同じくマネージャーの滞嶺創一郎だ。見ての通り高校一年だ」
「見ての通りではないね」
「何言ってんだ、どこをどう見ても高一だろ」
「はい彼が高一に見える方挙手ー」
「何会場にアンケート取ってんだやめろ!てめぇらも手ェ挙げろ!!笑うな!!」
早速創一郎が変なこと言い出したのでネタにしといた。これで彼も怖くない。でも後で怒られそう。遺書を書かなきゃ。
「僕もまた、彼女たちに支えられた」
「俺もこいつらに救われた」
「今度は僕らも一緒に、11人であなたを支えようと思います」
「俺たち全員で、あんたに笑顔を届けよう」
あえて一人称で語りかけると、創一郎も付いてきてくれた。本当に聡明だ。彼が味方でよかった。
「僕は彼女たちを照らす光として、」
「俺はこいつらを守る者として、」
「「全ての人を笑顔にさせていただきます」」
歓声が沸き起こった。
音の洪水に飲まれながら、僕らはμ'sのほうに振り返った。
みんな笑顔だった。
創一郎も笑顔だった。
僕も、心から笑えた。
にこちゃんだけじゃない。みんなの笑顔が、今、魔法となってみんなに届いたんだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
遂にアニメ一期完結です!ここまで読んでくださってありがとうございました!!もちろん続きます!!
今回こっそり頑張った天童さんと雪村君。アニメ二期には彼らや他の男性陣にももっとスポットライトを当てられたらいいなぁと思います。波浜君の過去は悲惨オブ悲惨でしたが、他の皆様も割とアレな経歴を持ってたり持ってなかったりしますのでお楽しみに?
とは言ってもまだ全員の過去設定が完成してるわけではないのですよね。一番悲惨な過去を持つ人は決まっていますが。そこも今後のお楽しみにですね!また書いてて辛くなるヤダー!!笑