雨の向こうに青空を   作:世嗣

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えー、もう4話になるのに仮面ライダーのkの字どころか、ベルトのbも出てきてない、仮面ライダータグの作品があるんですかー!

びっくりー。




日常に走るノイズ

 

 

 

 

 

 雨が、降っていた。

 

「けっこう降ってるなぁ……」

 

 戦兎は空を見ながら顔をしかめた。基本的にほとんど二課から出ない戦兎にとっては、外の天気は大して関係はない。

 

 だが、外の天気によって部屋の明るさはかなり変わってくるのだ。明るければ気持ちは前向きに、暗ければ少し沈みやすくなる。

 

 ついでに言えば、戦兎は雨が好きではなかった。

 

「はー、なんかテンション下がるなぁ……」

 

 戦兎がいつも研究の際に使う椅子に深々と腰をかけた。そして、視界の端に机の上の赤と青の小さな物体を捉えて、手を伸ばそうとして、やめた。

 

 戦兎がのそりと立ち上がり、研究室に移動しようとして、自分が己に課している日課をしていないことに気づく。

 

「危ない、危ない」

 

 戦兎が自室の隅に置いてある冷蔵庫の方へ歩いて行く。

 

 飲み物や非常用の食料が入れてある、小さな冷蔵庫ではなく、研究のために用意した、薬液などを保存するための冷蔵庫。

 

 もちろん市販品でなく、戦兎が自分で改造したものである。

 

 その中から、戦兎は奏がシンフォギア起動のために使う薬液とよく似た、薬液を取り出して無針注射器にセットする。

 

「ふー、行くぞ。大丈夫、大丈夫」

 

 戦兎が目を瞑って注射器を首筋に当てて、大きく息を吐いた。

 

 今、まさに戦兎が自信に注射しようとしている液体、見た目自体は奏の使うものとよく似ているが、本質は全く違う。

 

 なにより、その本質の違いを示すように、その液体は、薬液の緑ではなく、黄に染まっていた。

 

 

 誰も見ぬ戦兎の部屋で、静かに無針注射器の内の液体が、注射された。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「おはよう、戦兎」

 

「おう、おはよう翼。今日学校はどうした」

 

「何言ってるの戦兎。今日は土曜日、お休みよ?」

 

「んん、と言うことはせっかくの休みに雨なのか……」

 

「戦兎って、そんなにお休み好きだっけ? 一年中してること変わらないでしょ?」

 

「いや、休みが好きなんじゃなくて、そもそも雨が好きじゃないんだよ」

 

 朝の食堂。いつものように戦兎の隣に翼が座って、焼き魚、納豆、米、わかめと豆腐の味噌汁、焼き海苔というザ和食という朝ご飯を食べ始める。

 

 因みに戦兎の方はトースト二枚にスクランブルエッグ、ウインナーと味噌汁、スクランブルエッグにかけるのは醤油という洋食をベースに和食をぶち込んだような朝食を食べていた。

 

 しばらく特に何も話さずに二人で朝食を食べ進める。

 

 戦兎がマーガリンを塗ったトーストを齧りながら、スクランブルエッグを食べる。

 

 戦兎の一枚目のトーストが半分ほど消えた時、焼き魚半分で一杯目を食べ終えた翼がおかわりに立った。

 

 戦兎がウインナーで残りの半分のトーストを食べ終わると、翼が焼き魚を食べ終わり、おかわりに立った。

 

 戦兎が二枚目の半分を食べる。翼がおかわりに立つ。

 

 戦兎が二枚目を食べ終える。翼がおかわりに立つ。

 

「なあ、翼」

 

「──?」

 

 翼がもきゅもきゅとその柔らかそうな頰を膨らましながら、戦兎の方を向いた。

 

「お前めちゃくちゃ食べるな」

 

「──!」

 

「お前推定中学生くらいの俺より食ってるよな?」

 

「──!」

 

「いや、たしかに今日の和定食は『米を食え!』という強い意志を感じたけど、それにしても食い過ぎ────うぐっ、ごめん、ごめんって翼。こ、こいつ腎臓を的確に……、くっ」

 

 口の中に食べ物が入っており言い返せない翼が、あまりにもデリカシーのない戦兎の物言いに武力行使を開始し、ぽかぽかと殴り始めた。

 

 遠目から見れば兄妹のじゃれ合いにも見えるが、翼が今までの研鑽で培ってきた技術を用いて戦兎の骨の間を狙って殴っているので、けっこうエグいじゃれ合いだったりする。

 

「ごめんって、翼!」

 

 ぴたりと翼からの攻撃が止まる。

 

「……翼?」

 

「…………」

 

「あのー、翼さーん?」

 

「ケーキ、駅前の」

 

「は?」

 

「駅前のケーキ、今度連れて行って。それで許してあげる」

 

 翼がそっぽを向きながら、私怒ってます、というアピールと一緒にされたおねだりに少し安心した。

 その程度ならば戦兎のお小遣いでも何とかできる。

 

「そんくらいで満足していただけるなら、いくらでも一緒に行くぜ、リトルプリンセス」

 

「戦兎、気持ち悪い」

 

「お前なぁっ!」

 

 くすくすと翼が笑う。そんな翼に、戦兎も毒気を抜かれたように、小さなため息とともに笑みをこぼした。

 

「約束だよ」

 

「おう、指切りでもしておくか?」

 

「うん」

 

 翼が小指を出し、それに戦兎が応じて、二人の小指が結ばれる。

 

「ゆーびきーりげーんまーん嘘ついたら、次の模擬戦で足腰立たなくなるまでボコボコにするから」

 

「いきなりリアルな奴持ってくるのやめよう」

 

 敢えて針千本などの非現実的なものじゃなくて、やたらと現実的なものを出してくるあたりに翼の本気を感じた。

 

「ゆーびきった」

 

 翼と戦兎の間で約束が交わされる。

 

「絶対、守ってよね」

 

「任せとけ」

 

 戦兎が翼の頭を軽く撫でて、安心させるためかいつものように不敵に笑ってみせた。翼もその笑みに、優しく笑い返した。

 そして、自分の頭の上の戦兎の指を握った。

 

「絶対、約束。何があっても、私も約束守るから」

 

 いつもと何ら変わりないように見える翼の表情。しかし、心なしか戦兎には何かに怯えているような気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 朝食を食べ終わった後戦兎は了子に呼びされたため、了子の研究室に来ていた。

 

「俺に何か用?」

 

「それ、ヨロシク」

 

 ぴっ、と了子が予備のパソコンを指差すとすぐに、自分のパソコンに向き直り、キーボードを叩き始める。

 

(珍しいな、先生がこんな風なのは)

 

 その忙しない様子の了子に少し意外なものを感じながらも、了子に言われた通り予備のパソコンに向かった。

 

(これは、アメノハバキリのデータ……?)

 

「なあ先生、ちょっと聞いていいか?」

 

「私手離せないから手短にね」

 

 戦兎が了子の方へ向いて尋ねても、了子は自分のパソコンの液晶から一時も目を離さずに、絶え間なくキーボードで何らかな捜査を続けていたら、

 

「天羽さんの薬液の方はどうしたんだよ? というか何でアメノハバキリを?」

 

「…………昨日の夜、アメノハバキリのシンフォギアに少し異常が見つかったの。それで、ちょっとみんな慌ててるわけ」

 

「……そっか。了解、作業を進める」

 

 戦兎はそれ以上了子に何かを尋ねることなく、アメノハバキリのシンフォギアのデータを調整し始めた。

 

(一瞬、間があったな)

 

 頭によぎるのは、翼と話した時に感じた僅かな違和感、そして今しているアメノハバキリのデータの事。

 

(アメノハバキリに異常? 確かに俺の担当している部分はバグが溜まってるみたいだけど、異常っていうほどでもない)

 

 ちらり、と了子の方を伺い、戦兎が了子から指示されたバグ処理と並列しながら、アメノハバキリのシンフォギアのメインデータへとアクセスした。

 

 そして、流すようにアメノハバキリのデータを閲覧して、眉を寄せた。

 

(異常なんてどこにもないぞ? むしろ性能が上がってる。つまり、先生がやってるのはアメノハバキリの()()。でも一体何のために?)

 

 了子の横顔を盗み見る。その表情はいつもの余裕のあるものではなく、何かに切羽詰まった人間の顔だった。

 

(何で、今ごろアメノハバキリを……?)

 

 考えても答えは出ず、ただ強烈な違和感だけが戦兎の胸中を占拠し始めていた。

 

 

 

 

 

 そして、()()はやって来る。

 

 

 

 

 

 突如二課内の警報が喧しくなり始めた。

 

 その警報の意味を二課内の人間すべてが同時に理解する。

 

 その現場で考え得る最悪のタイミングの、その警報を。

 

()()()……!」

 

「神様は本当に意地悪ね……。何も昨日の今日じゃなくていいでしょうに」

 

「先生それどういう……?」

 

「そんなことはどうでもいいわっ! 戦兎くん頼んでた処理は終わってる?」

 

「ああ、終わってるけど……」

 

 食い気味に聞かれた了子の質問に戦兎が答える。了子はそれに満足そうに頷くとキーボードを操作して、調整を終了させて走り出した。

 

「ちょ、先生!」

 

 何も言わずに走り出した了子の背中を戦兎が追いかける。

 

(くそ、ヒールで走るとか危ない真似を……!)

 

 カツカツと甲高い音を立てながら了子がオペレータールームに向かって、廊下を走る。ヒールにも関わらず、戦兎はどれだけ走ってもなかなか了子には追いつけない。

 

 それでもお世辞にも早いと言えない足を叱咤して、必死に了子を追いかけ続けたため、追いついた頃は戦兎はすっかり息が切れてしまっていた。

 

「弦十郎君、現状はっ?!」

 

「はー、はー、はー、先生、早すぎるよ……」

 

 ばん、と了子が勢いよく扉を開ける。それと同時にオペレータールームの間で交わされるノイズの反応に対する対応への指示が入り混じる喧噪と怒号が聞こえて来る。

 

「……五分前、東京の外れの森林でノイズの反応が確認された。出現数は、大型2体、飛行型が目視出来た限り13、小型は……」

 

「そんなのはいいの! 一課とお上さんは何て言ってるの?!」

 

 了子のやたらと焦った声に、弦十郎が冷静に応じる。

 

「現状の一課戦力ではノイズに対抗できず、壊滅が予想される。故に、防衛大臣から正式に、()()()()()()()()()()()()()()

 

「そう。やはり、()()()()()()のね」

 

 了子が悔しげに唇をかんだ。

 

 しかし、それに一番衝撃を受けたのは戦兎だった。

 

「出撃、要請……? シンフォギアの……?」

 

 理解できない。そう言った顔で、ただ困ったように了子と弦十郎の顔を何度も見る。

 

「それって、翼のか……? まさか、違うよな。だって俺はそんなこと聞いてないぞ」

 

 戦兎が力なく笑ってふらふらと弦十郎の方へと歩み寄り、弦十郎の赤いシャツの裾を力なく掴んだ。

 そんな戦兎を弦十郎が静かに見下ろした。

 

「嘘、だよな弦さん。だって、翼はまだ小学生だぞ?」

 

 弦十郎は、なにも言わない。

 

「翼は、俺より年下の女の子で、本当はまだ遊んでいて年なんだよ……」

 

 弦十郎は、何も言わない。言えない。

 

「あの子が、戦場に行かなきゃ行けないのか……」

 

 戦兎は縋るように弦十郎を見上げて、その静かな瞳の奥に、憂うような、悲しみが居座っているのに気づいて、言葉を失う。

 

「嘘、だろ…………」

 

 弦十郎が力を失っていく戦兎の手を振りほどく。すとん、と戦兎が力を失って床にへたり込んだ。

 

 そんな戦兎に了子がしゃがんで目を合わせる。そして、一瞬助けを求めるように了子を見た戦兎に、無慈悲に告げた。

 

「私と弦十郎君は翼ちゃんと一緒に現場に行くわ。貴方は、ここにいて不測の事態に備えて頂戴?」

 

「俺も一緒に……!」

 

「貴方が来て出来ることはない。ここにいなさい。これは、命令よ」

 

「────そん、な」

 

 了子が立ち上がり戦兎から目をそらすと、戦兎に聞こえるかもわからないような声量で呟いた。聞こえなかったならば、それでも構わない、と言ったように。

 

「黙っていて、ごめんなさいね」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 雨が、降っていた。

 

 

 絶え間ない雨をその体に受けながら、翼が市民が避難し誰もいなくなった街中をかけて行く。

 

『ノイズ反応多数! 十、二十、三十……』

『一課の先遣部隊壊滅! 生き残りおよそ一桁!』

『司令! このままではノイズが自壊するよりも早く避難所まで辿り着かれます!』

『──! 自衛隊が通常兵器では効果が見られないと連絡が! このままでは防衛ラインが維持できないと言っています!』

『現状ではスマッシュ反応はありません! 今回はおそらくノイズだけと思われます』

 

『小型ノイズは数えるだけ無駄だ! 大型ノイズと先行してやってきている飛行型だけ正確に数えろ! 

 誰かジープを回して生き残りを回収! 戦えるようなら自衛隊に合流させろ! 

 自衛隊には一撃の威力よりも絶え間なく攻撃するように指示! もうすぐ翼が到着する! それまで死ぬ気で持たせるようにも伝えとけ! 

 いつスマッシュが出るかわからん! 気は抜くな!』

 

 通信機越しの弦十郎の指示の声を聴きながら、翼が首元からペンダントを取り出して強く握りしめる。

 

 翼の手の中の赤いペンダント、それは、シンフォギア起動のためのコンバーターである。

 翼の手の中にあるようなペンダントが、奏者の心の歌である『聖詠』に反応し、フォニックゲインを増幅、対ノイズの為の武装である『シンフォギア』を纏わせるのだ。

 

 ぎゅっ、と翼がペンダントをさらに強く握りしめる。

 

 現場から少し離れた場所に計器などを内蔵した仮設本部のトレーラーから弦十郎が翼に声をかけた。

 

『緊張してるか?』

 

「……私は(つるぎ)、緊張なんてしません。叔父様」

 

 翼の声は明らかに固く、通信機越しにも翼が緊張しているということがありありと伝わっていた。そんな翼に了子が安心させるように声をかけた。

 

『翼ちゃん、大丈夫。私たち二課が作ったシンフォギアは強い。ノイズなんて目じゃないわ』

 

「はい。信じてます、私。了子さんと、みんなが作ったシンフォギアを」

 

 翼が弱々しく了子に、弦十郎に、二課のオペレーターたちに向かって声をかけた。その言葉は心強いものにもかかわらず、その声は何時もの落ち着いた年相応のもので無く、緊張を表したように震えていた。

 

 そんな翼の声に、弦十郎が拳を握りしめた。

 

(俺はこんなに小さな子に、多くの無辜の人々の人命という、重荷を背負わせなければならないのかッ!)

 

 弦十郎が、街中にある監視カメラからかろうじて見える翼の小さな背中を遣る瀬無い気持ちで見つめる。

 

 

 ────────

 

 

 

 

『出撃、ですか?』

 

 弦十郎の司令室、そこで了子と翼と弦十郎が集まっていた。

 

『まだ確定ではないが、おそらく次ノイズ襲撃時にシンフォギア出撃要請が出た際、二課は断れない』

 

『次、ですか』

 

『ああ、次だ』

 

 翼の表情が固くなる。

 

『別に昨日明日の話じゃないわよ〜。それにノイズなんていつ出るかもわからない物だしね』

 

『そう、ですね』

 

『そうよ、良い時なんて半年出なかったデータだってあるんだから!』

 

 翼が了子のやたらと明るい表情と話し方、今までのデータに、元気をもらったように微笑んだ。

 

『あの、この事戦兎には……』

 

『ん? まだ伝えてないが?』

 

『じゃあ、戦兎には私が出撃する時まで秘密にしておいてくれませんか?』

 

『戦兎に……?』

 

 翼の頼みに弦十郎が眉を寄せた。

 

『たぶん戦兎はそのことを聞いたらきっと無茶するから。私はよく知らないけど、戦兎には『奥の手』があるんですよね?』

 

『翼ちゃん、それどこで…………』

 

 了子が翼の言葉に目を丸くした。

 翼が『奥の手』と称したものは、確かにある。しかし、それは了子と弦十郎や藤堯、緒川を除き一部の人間しか知らないはずの情報であった。

 

『何となく、見てたらわかります。長い付き合いだし』

 

 翼がそして、目を外に向けた。

 闇の中では見えないが、きっと今も研究をしているだろう戦兎の研究室の方を。

 

『心配かけたく、ないから』

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 今、弦十郎は、背丈が弦十郎の半分以下の小さな少女一人に、無数の人々の人命、二課への信頼、シンフォギア奏者としての責任、そして、自らの命を失うかもしれないという恐怖を背負わせてしまっていた。

 

「大丈夫です、私は帰ってきます」

 

 翼が右手の小指を握って呟く。

 

「だって、約束したんだもの」

 

 縋るように、今日の朝した戦兎との約束を思い起こす。

 

「だから、私は絶対に帰らなきゃ」

 

『翼ちゃん……』

 

『翼……』

 

 次第に翼の耳に届く人々の怒声や、銃器類の音が大きくなって行く。その音が翼に戦場が近いということを教える。

 

『翼ちゃん、近いわ』

 

 翼がビル群の中を縫うように走り続け、ついに敵の姿を発見した。

 

(これが、ノイズ……!)

 

 映像越しでならば何度も見た。二課の保管していたデータは全て暗唱できるくらいに頭に入れてきたし、仮装訓練も何度もやってきた。

 

 それでも、翼が実際に自分の目でノイズを見るのは初めてだった。

 

 カエル型、飛行型、人型、そして未だ姿が見えない大型。

 人類の殺戮者。異世界からのアンノウン。

 その体は位相差障壁が稼働していることを示すように絶え間なく色が変わり続けている。

 

 翼が、静かに目を閉じて、大きく深呼吸をした。

 

「見ていてください。翼の風鳴る刃が、人々を守る、防人(さきもり)たるという所をッ!」

 

 翼が目を見開いて、走り出す。

 

「そして証明しますッ! 二課(私たち)のシンフォギアをッ!」

 

 そして、ノイズとの距離が縮まっていき、完璧に目視できるようになったところで、手の中のペンダントを翳した。

 

 

 

 

羽撃きは鋭く、風切る如く(Imyuteus amenohabakiri tron)

 

 

 

 

 翼の心象を反映して奏でられた 聖詠が、ペンダントによって瞬時にエネルギーレベルに変換、還元され、対ノイズの為の絶対的な力を与える鎧へと変換する。

 

 

 翼の姿が光に包まれ、そして晴れる。

 

 

 青を基調とした服と水着の中間のようなものに、ヘッドギアや手甲といった機械的なものが組み合わさった鎧。

 

 露出が全くないわけではないにもかかわらず、翼から感じるものは、凛とした抜き身の刃のような美しさだった。

 

 シンフォギアの鎧の脚甲から、脇差サイズの刀が射出される。それを翼が空中で掴み、薙ぐ様に横に払うと、次の瞬間には刃渡り80センチ近くの機械的な刀へと変わる。

 

 そして、歌が紡がれる。

 

 

 

───絶刀・天羽々斬───

 

 

 

 適合者による歌唱、その特定振幅により増幅されたフォニックゲインがシンフォギアシステムを稼働させ、翼の歌を用いてノイズの存在比率を調律する。

 

 翼の凛とした歌が戦場に響き、ノイズの体色が一色に固定された。

 

「────」

 

 翼が戦場で走りながら歌を紡ぎ始める、その声に気づいてか、それとも自分たちが殺すべき存在を感じ取ったのか、数体のノイズが翼の存在を感知した。

 

(来る──ッ!)

 

 数体のカエル型ノイズが体を液状化して翼を殺そうと迫ってきて、その攻撃が何かに弾かれるように直前で止まる。

 これこそが『バリアコーティング』。

 

 奏者の歌唱を元に作られる音楽バリアとでもいうべき、ノイズが人間を無慈悲に殺す『炭素化能力』を奪うシンフォギアの無敵の盾である。

 

『よしっ!』

 

 シンフォギアがノイズの攻撃を防いだのを見て、了子がガッツポーズをした。

 

「────」

 

 翼が心から湧き出る歌を歌いながら、刀を振るう。振り抜かれた剣がノイズの体を豆腐の様に切り裂き、ノイズを炭素へと変えた。

 

(ノイズを、斬った)

 

 

 それは、今までノイズに一方的に殺戮され続けた人類の反逆の一太刀。

 

 

 翼のシンフォギアの元となった聖遺物は『天羽々斬』。

 かつて、古事記において須佐之男命が八岐大蛇を斬った際に用いたと言われる、『厄災斬り』の剣。

 それが遥かな時を経て、科学の力により、ノイズという人類の厄災を斬る為の剣として蘇った。

 

(勝てる。シンフォギアなら、ノイズに勝てる)

 

 人類は、ここにノイズに対して始めて反逆の武器を得た。

 

 

 斬り伏せたノイズが炭素となり、風に運ばれて行く中、雨の向こうのノイズの大群へ翼が叫んだ。

 

「来るがいいッ! そして知れッ! この戦場(いくさば)には、人を防人(さきも)(つるぎ)があるという事をッ!」

 

 凛と、時に激しく、翼の歌が戦場に響く。

 

 

 雨は、まだ止まない。

 

 

 

 

 

 

「自衛隊戦線を少しずつ後退。前線をシンフォギアに任せると通達がありました」

「シンフォギア機能オールグリーン。現在機能不全はありません」

「バリアコーティング機能十分な数値まで安定しています。ノイズの炭素化を完璧に封じ込めています」

「歌唱による調律問題ありません。半径1キロ圏内までノイズの位相差障壁を調律できています」

「フォニックゲインの高まりは十分。おそらく現状での理想値は記録しているかと」

「翼ちゃんのバイタル、少し高い程度ですが問題ないと思われます」

 

「よーしよしよし、いいわ。いい感じよ」

 

 了子がトレーラーの中で計器をチェックしながら興奮気味に言った。

 

「シンフォギア自体に問題はなさそうよ。問題は…………」

 

「数、だな」

 

 了子の言葉に弦十郎が言葉を重ねた。その言葉に、了子が頷いた。

 

「弦十郎君はどう見る?」

 

「計測できてたよりもノイズの数が多い。が、翼に対処できないほどでもないだろう」

 

「後ろに自衛隊もいるけど……あまり期待はしないほうがよさそうね」

 

「自衛隊はあくまでも国防の為のものだ。ノイズと戦うのは本職じゃない。過度な期待は彼らに悪い」

 

 弦十郎がモニターに映し出された翼の戦い振りを見ながら、知らずに寄ってしまっていた眉をゴシゴシとおして伸ばした。

 

 そんな弦十郎の背中を了子が喝を入れる様に何度か叩く。

 

「大丈夫。翼ちゃんならやれるわ。他の誰が信じなくても、私達だけはあの子を信じてあげなくちゃ」

 

「そうだな。すまんな、了子君」

 

「いーわよ。私と貴方の長い仲だもの」

 

 でも、と了子がモニターを見ながらポツリと呟いた。

 

 

「このまま、何もなければいいのだけれど」

 

 

 

 

 

 

 雨に濡れた髪がうっとおしかった。

 

 

「────」

 

 

 翼が歌唱を中断させる事なく、刀を振るってノイズをまとめて三体灰燼と帰した。

 細かなチリとなったノイズが翼の頰に張り付き、すぐに雨に流されていった。

 

「────はっ、はー」

 

 翼の『絶刀・天羽々斬』が一周し、再び歌唱を再開するまでに生まれた僅かな間に、大きく息を吐いた。

 

 シンフォギアの恩恵によって体は軽い。武器の冴えも今までとは比べ物にならない。

 ところが、戦闘開始から約三十分、日頃から鍛えているにも関わらず翼は既に肩で息を始めていた。

 

 人の命、二課への信頼、初戦闘の恐怖、その全てが翼の体力を容赦なく削っていた。

 

「────」

 

 歌唱が再び開始されると同時に五体のカエル型ノイズが囲う様に翼に迫ってきた。その内の二体が体を液状に変化させ翼の体を狙ってくる。

 翼はしゃがんで二体の攻撃をかわすと、押しつぶさんとやってきた三体に向けて回転する様に刀を振るって殆ど同時に斬り裂いた。

 

 返す刀で先程の二体を攻撃しようとして、空から降り注いだドリル型に変形した飛行型ノイズを察知して、飛び退いた。

 

『翼っ、左だ! 人型ノイズが三体抜けようとしているッ!』

 

 翼が慌てて左を見れば、緑と青の体色の二足歩行のノイズが翼の防衛ラインを抜けようとしていた。

 

「────!」

 

 瞬時に体を沈み込ませて、地をかける。シンフォギアシステムの限界ギリギリのスピードで走りながら、そのまま勢い殺さずに居合抜きの要領で三体を一瞬で塵へと変えた。

 

 しかし、限界ギリギリのスピードにうまくブレーキがかけられず、足を取られて転んでしまう。

 からん、と手の中からアームドギアが溢れた。

 

「ぐ、はー、はー、はー」

 

『翼ちゃんっ、大丈夫?!』

 

「大、じょうぶ、です」

 

 転んだ拍子に翼の端正な顔と、青空の様な青の髪が泥で汚れて、翼の歌唱が中断された。

 特定振幅の生成がなくなった影響でシンフォギアの機能が僅かに下がる。

 

(刀、アームドギア、拾わなきゃ……)

 

 手を伸ばして刀を拾って、それを杖代わりに立ち上がる。

 

「歌、わなきゃ。──」

 

 ズン、と地面を揺らす足音に、翼が思わず音のした方を見上げる。

 十数体の飛行ノイズの向こうに、角を生やし、醜悪に巨大な口を開けた、10メートル近い巨大なノイズがビルの陰から姿を現した。

 

 その姿を日本人ならばみな、こう称することだろう。

 

 ────鬼、と。

 

『翼、あの『鬼型』を自衛隊に近づけるな。位相差障壁を調律しているとは言え、あれだけの巨体だ。自衛隊連中ではひとたまりもない。任せられるか?』

 

「勿論です」

 

 目を向ければ鬼型の進路には、自衛隊の築いたバリケードと防衛戦線。

 自衛隊員たちは、小機関銃をはじめとした銃器や、ロケットランチャーなどの重火器で対応しているもののそれでも鬼型は歩みを止めず歩き続ける。

 

 翼が刀を手に走り出す。今度はある程度スピードを抑えて走りながら、それと並行して手にした刀の形を作り変え始める。

 

 

 翼の手にする刀。正式名称を『アームドギア』と言う。

 これは元となった聖遺物の形を元に奏者の心象と影響しあって現れる、シンフォギアの武器の事を言う。

『アームドギア』の特徴は、特定の形に縛られないと言うところにある。

 

 心象によって形を変える武器であるアームドギアは、翼の『巨大なものを斬る』という目的に応じて、その形を変えていく。

 

 刃渡り80センチほどの一般的な刀のサイズから、機械的な部品が刀を覆っていき、斬馬刀と表現するのも生ぬるい、翼の身長の三倍ほどの巨大な刃へと姿を変えた。

 

 普通の人間ならば持てるはずもない巨大な刃を手に翼が走り、鬼型を射程に捉えたと判断し、膝のバネを使って空へと跳んだ。

 

「──! ──! ──────ッ!」

 

 翼が歌を歌いながらフォニックゲインを高めていき、生じたエネルギーを巨大な刃の刀身に収束する。

 

 蒼い光が、辺りを照らす。

 

「『蒼ノ一閃』ッ!」

 

 翼の叫びと共に刀が振るわれ、青いエネルギーが剣の形となって鬼型に炸裂した。

 

『蒼ノ一閃』を放ったシンフォギアの各部が一部開いて、内部から帰化した蒸気を噴出する。

 

(やったっ?)

 

 翼が刀を普通の大きさに戻しながら、転がる様にして地面に着地して、爆煙をあげた鬼型の方を見る。

 

「まだ……!」

 

 翼が思わず驚きの声をあげた。

 なぜなら、煙の晴れた先、そこに体の半分を炭素化されながらも尚も前に進もうとする鬼型が姿を現したからだ。

 

『翼ッ、そいつさえ落とせば後は、自壊間近の小型ノイズと大型一体だ! 鬼型も後一撃で倒れる!』

 

 ヘッドギアからの弦十郎の叱咤を受けて、翼が刀を強く握る。

 

「──────!」

 

 翼が歌を奏で、再び高く跳んだ。一飛びでおよそ鬼型まで50メートル近くあった距離を半分ほどに縮め、空中で脚甲から刃状の機構を展開した。

 そして、フォニックゲインの供給によって、内部機関からのエネルギーを空気の様に発射し加速させながら鬼型との距離を詰めて行く。

 

 しかし、途中で数台の飛行型が突撃して来るのに気づき、エアを発射して回避。大きくそれたルートを修正するため、ビルの側面に足をついて、再び大きく『鬼型』に向けて跳ぶ。

 

 そのビルの側面からの跳躍と、足からのエアの加速によって『鬼型』へと肉薄する。

 

「ハァァァァアッ!」

 

 翼が歌唱をやめて力強く吠えた。

 

 そして、翼のシンフォギア、『天羽々斬』、『厄災斬り』たる刀のアームドギアが鬼型の胸に突き刺さり、そのまま上から下まで真っ二つに切り裂いた。

 

「ーーーーー」

 

 鬼型ノイズが声にならない声を上げ、今度こそ炭素化して雨に混ざって地面に混ざっていく。

 その様子を見て、翼は思わず膝から崩れ落ちて、小さく息をついた。

 

(あと、大型一体……。それで、約束、守れる……)

 

 その姿をモニター越しに見ていた弦十郎と了子らが、拳を握った。

 

 後は活動時間の限界を迎えるまであと五分もない小型ノイズらと、反応からして大型と思われるノイズ一体。

 もう完全勝利を迎えるまであと一歩であった。

 

『翼ちゃん、あと一息よ。あと一息で──もう、何よ今は────解析映像を? なんでそんな────嘘でしょ』

 

 翼が突然ヘッドギア越しに聞こえる了子の声が焦りを帯びたのに気づいて、眉を寄せた。

 

「了子さん、どうかしたんですか?」

 

『翼ちゃん、急いで避けてっ!』

 

「突然、何を──」

 

 翼が言葉を続けるよりも早く、近くのビルの一つが、巨体のノイズによって粉々に砕かれた。

 

 翼が大きく後ろへと跳ねて、空から降って来る無数の瓦礫を転がるようにして回避する。

 

「一体何が」

 

 翼が膝を立て、雨のせいで纏わりついてくる髪を払いながら、雨の向こうに見えるもう一体の大型ノイズに目を凝らして────絶句した。

 

「このノイズは──!」

 

 ずりずりと巨体を引きずりながらやってくる四足歩行のノイズが翼の背後の人々を殺すために歩き始める。

 その姿は芋虫の様なずんぐりとした胴体、頭部と思わしき場所に牙を生やし、歩行のための足を生やした、言わば歩く芋虫。

 

 二課や一課には、『強襲型ノイズ』と呼ばれる個体だった。

 

『最悪ね……。よりにもよってコイツとは……』

 

 忌々しげに了子が吐き捨てる様に言った。

 

 ノイズには、それぞれの個体で特筆能力がある。

 

 カエル型、人型であれば液状化。飛行型であれば、ドリル型への変形。先程の鬼型は異常な耐久力。

 そして、この強襲型ノイズの特筆能力はすべてのノイズの中でもぶっちぎりに危険なものだった。

 

 強襲型がからだをふるふると震わせて、なにかを溜め込むと、一気に口から液体状のものを吐き出した。

 それは、辺り一面に広がるとそれぞれある程度の大きさに分離し、無数の小型ノイズに姿を変え始めた。

 

 その数、およそ百余体。

 

『強襲型ノイズ。その能力は……』

 

 小型ノイズの無限生成。

 

 

 30分以上かけて翼が炭素に変えてきたノイズ群、そのおよそ二倍の数のノイズが今、強襲型から解き放たれた。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 時は少し戻った二課。

 

 二課のオペレータールームで戦兎はモニター越しに翼の戦闘を見ていた。

 

 現状では戦兎が何かできることはなかった。二課でするべきことは概ね残った藤堯や友里が完璧にこなしているため戦兎ができるのはせいぜい計器の類にトラブルが起きた際に備えるくらいだ。

 

「戦兎、あんまり思い詰めんなって」

 

「藤堯さん……」

 

「そうよ、翼ちゃんの強さは貴方が一番知ってるんじゃわないの?」

 

「そう、ですよね」

 

 藤堯と友里の二人に励まされて戦兎が弱々しく笑みを浮かべる。

 

「信じてはいるんです。あの子がちゃんと強くて、ちゃんと帰ってくるって。でも……」

 

 戦兎が拳を強く握りしめる。

 

「でも、あの子は、あんなに小さいんだ。それなのに、俺は何もできない。それが、歯痒くて仕方ない」

 

「戦兎……」

 

「最低だ……」

 

 戦兎がモニターから目を逸らさず、悔しげに呟いた。それに対して友里も藤堯も戦兎の名前を呼ぶことしかできなかった。

 それ程に、戦兎は打ちのめされて居た。

 

(せめて、せめてもっと早くわかっていれば、()()の試作型を出せたかもしれないのに)

 

 翼が踊る様に剣を振るう。年端もいかぬ頃から剣を振り続け、己を一振りの剣と定めて、無辜の人々を守ると決めた少女の健気な努力がそこに現れて居た。

 

 青いシンフォギアが、戦場で歌う。

 

「随分、調子いいみたいだな」

 

 いつの間にか戦兎のそばには、もう一人のシンフォギア奏者予定の人物がいた。

 

「天羽さん、何でここに」

 

「何だよあたしがいちゃ不味いのかよ」

 

「いや、そう言うわけじゃないけど」

 

「ならいいだろ」

 

 あいも変わらずむすっとした態度のまま戦兎に答えながら、奏がモニターを睨んだ。

 その目線は翼のノイズとの戦いの一挙一動を見逃さない様にか、一時もモニターから逸れることはない。

 

 戦兎にはそれが、自分の持たない力を持つ翼を妬んでいる様にも見えた。戦兎はそれを見て今まで問いかけてこなかった質問を投げかけた。

 

「天羽さんは、一体何のためにシンフォギア を纏いたいんだ」

 

「あたしの家族を殺したノイズに復讐するため。それを死んでもなすためだ」

 

「例え、途中で死んでも?」

 

「ああ」

 

「例え、起動できずに実験の負荷で死んでも?」

 

「何もできないでダラダラ生きるよりもマシだ」

 

 戦兎は奏を見つめながら、奏はモニターを睨んだまま、互いの目線は交わる事なく会話が続く。

 

「君は、死にたいのか」

 

「…………」

 

 奏は、何も言わない。

 

 だが、戦兎から最後の質問がされて、憂いを感じるものへと変わった奏の目線が、答えをありありと語っていた。

 

 その目を見て戦兎がようやく理解する。

 

(そうか、この子がシンフォギアを起動できないのは……)

 

 戦兎が奏の表情を見て何かの確信を得ると同じタイミングで、モニターの翼が『鬼型』のノイズを撃破する。

 

 それを見て、友里が安心したように息を吐いた。

 

「これで、小型の自壊まであと十分てとこかしらね。一先ず後は大型を……藤堯君?」

 

「…………」

 

「藤堯君、どうしたのよ」

 

「この反応、強襲型だ」

 

 藤堯の言葉に、友里をはじめとした二課に残った数人のオペレーターたちの顔が強張り、戦兎が勢いよく顔を上げた。その反応に、奏だけがよくわからないと言った様子で眉を寄せた。

 

「藤堯さん了子さんに通信を!」

 

「もうとっくにやってるよ!」

 

「戦兎君、了子さんへの報告任せたわ。コイツが出てきた以上私たちは自壊計算をやり直さなきゃ」

 

「わかった」

 

「────よしできたっ。戦兎!」

 

 藤堯がキーボードのエンターを勢いよく押すと、今まで映し出されていた翼の戦闘映像を押しやって、トレーラー内部の仮説本部が映し出された。

 

『翼ちゃん、あと一息よ。あと一息で』

 

「先生緊急事態だ!」

 

『もう、何よ今は』

 

「そんなこと言ってる暇はないんだよ! 藤堯さんあっちに解析映像を!」

 

「了解」

 

『これは、ノイズの解析映像? なんでそんな────嘘でしょ』

 

 モニター向こうの了子が、藤堯の出した解析結果を見て言葉を失う。

 

『だって、最初は居なかったじゃない! 大型は居たけど()()()()()()なんて……』

 

「言っても仕方ないだろ! いるんだよ、すぐそこに!」

 

 ぎり、と戦兎が悔しげに歯をならす。そんな戦兎に未だ事態を理解しきっていない奏が静かに問いかけた。

 

「そんなに、ヤバイやつなのかい?」

 

「……ああ、トップクラスでヤバイやつだよ」

 

「そうかい」

 

 奏は戦兎の答えを聞くとそれ以上は何も言わずに、走ってオペレータールームから出て行こうとする。

 

「ちょ、天羽さん!」

 

 戦兎が名前を呼ぶと、奏は一瞬だけ足を止めて戦兎を見ると何も言わずにまた走り出し、今度こそオペレータールームを出て行った。

 

 戦兎は追いかけるか迷ったが、レーダーにも写っていなかった強襲型が突如現れた状況を放っておけるはずもなかった。

 

 戦兎は忌々しげに舌打ちすると、藤堯の隣の空いた机に座って自分の机の電源を立ち上げる。

 

「藤堯さん俺に何かできることはある?」

 

「なら、ほかに大型がいないか一応探っておいてくれるか。さっきみたいな例が怖い」

 

「任せてくれ」

 

「友里さん、強襲型が第二陣のノイズを増殖させましたぁっ!」

 

「え、と……」

 

「藤堯ァ、小型が左右に逃げてるゥ! これじゃァ、翼ちゃんだけじゃァどうにもできねェ!」

 

「くそ、なら──」

 

 藤堯と友里の額に汗が流れる。二課の中に突如現れた強襲型による焦りが広がり、指示が乱行し混乱しそうになる。

 

『お前ら今から指示をする! よく聞け!』

 

「司令……!」

 

 モニター越しに険しい表情の弦十郎が映し出された。途端に混乱していた二課に少しだけ落ち着きが戻り、藤堯と友里の顔に喜びの色が現れる。

 

『藤堯! 急いで強襲型の軌道経路を計算して自衛隊連中におくれ! 最悪前線は下げるッ!』

 

「了解!」

 

『あおいくん! 他のオペレーター達と新しい小型ノイズの自壊時間を計算してくれ!』

 

「もう終わってます!」

 

『上出来だ! ならば、防衛ラインが突破されるのに備えてもう一度ノイズ警報を出してくれ!』

 

「わかりました!」

 

 動きが鈍かった二課が本来のトップによる的確な指示とカリスマにより迅速に動き出す。

 

「弦さん、俺は」

 

『戦兎、お前は』

 

「まさか何もするな、とは言わないよな」

 

 戦兎がモニター越しに弦十郎を見つめた。弦十郎は戦兎の目を見て、ガリガリと頭をかいた。

 

「わかったよ、お前は──」

 

 弦十郎が戦兎に指示をしようとした瞬間、二課内部で甲高い音が鳴り響いた。その音に二課に残っていた人間が体を固めて、そして直ぐに眉を寄せた。

 

「ノイズ警報、じゃない」

 

「ああ、この音は侵入者……いや、防衛システム破損?」

 

『防衛システム破損、だと?』

 

「今の反応は……、了子さんの研究室?」

 

『え、うそ。何があったのよ』

 

『ちょ、了子君俺を押すな』

 

 避難警報を出し終えていた友里が二課内部の監視カメラの映像を二課のモニターとトレーラーの中に転送した。

 

『こ、これは……』

 

『まさか、このタイミングで……』

 

 弦十郎が面食らったように、了子は感心と呆れが半々の声で二人で声を合わせた。

 二課内部の映像、その玄関近くのもの。そこに映し出されたのは、()()()()()()()と、緑の薬液が装填された無針注射器を片手に持って走っていく『赤髪の少女』。

 

 それを見て、戦兎がかろうじてその少女の名前を絞り出した。

 

「天羽、さん…………だと」

 

 

 

 

 

 

 






奏「反省も後悔もしてない。てへぺろー」

マリア「それ私の持ちネタァッ!」



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