雨の向こうに青空を   作:世嗣

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惣一「お前が感想を書かないのは勝手だ。けどそうなった場合、誰が代わりに書くと思う?」
戦兎「……」
惣一「万丈だ。
万丈は出番がないことでお前に負担をかけていることに負い目を感じている。
   だからお前が書かなきゃ、自分からルール違反の複数アカウントで感想を書くだろう。
   けど、それじゃあアカウントは凍結される。
   そうなれば、作者は意味もなくクローズを責める。
   お前が書くしかないんだよ」

特に何かを言いたいわけではないです。(すっとぼけ)
因みに一つ届くごとに狂喜乱舞してます。



目覚めるウォーリアー

雨は、やまない。

 

 

 

奏が走る。

 

随分長い間走り続けたせいか、息は切れて、汗と雨ですっかり濡れたシャツは重い。

 

それでも、手の中のペンダントと注射器を握りしめて走り続ける。

 

(ようやく、よくやく……!)

 

奏が近づいてきた、ノイズが出現している街を見て、唇を吊り上げてニヤリと笑った。

 

「ノイズを、ぶっ殺しに行ける」

 

奏が注射器を片手に首筋に当てて注射した。以前は注射するだけでひどい不快感が走っていたが、今回の薬液はそれもだいぶ軽い。どうやら奏の知らない間に随分改良されたらしかった。

 

奏が注射器を投げ捨てながら、走るスピードを上げて行く。

 

(体調がいい。今までの薬液と感覚が全然違う。今なら、使える)

 

そう思った時に、頭の端に少し前の会話が引っかかった。

 

 

──君は、死にたいのか。

 

 

「……るせえ。アンタには関係ねえ」

 

奏が市民が避難してしまいゴーストタウンのようになってしまった街をひたすらに走り、そしてついにその姿を見つける。

 

200メートルほど離れた道の先に絶えず変化する体色。数は、五。限りなく人に近いフォルム。カエル型と並んで多く確認されるノイズ、『人型』のノイズだった。

 

そして、それは奏には記憶に最も根強く残るノイズだった。

 

奏が拳を強く握ってノイズを睨む。あまりにも強い力に奏のペンダントを握る手のひらの皮が裂けて、爪が刺さり血が流れ出す。

 

「お前が、お前らが父さんたちを……!」

 

それは、奏の家族を殺したノイズだった。

 

勿論同じノイズなどではない。ノイズは人に触れると、人を灰にする代わりに、己も灰になって消える。

 

それでも、奏の瞼の裏にはこびりついて離れない消えない光景がある。

母と自分と妹を逃がすために、ノイズに巻き込まれた父。それでも追いつかれたノイズをおびき寄せて笑顔で消えていった母。二人で逃げて、転んでしまいそのままノイズに泣きながら死んでいった妹。

 

今でも、その叫びを、笑顔を、涙を、己の無力を、己の無念を奏は忘れられない。忘れてはいけないと思っている。

 

だから、ノイズを殺す。

 

それが家族で一人だけ()()()()()()()()()己にできる唯一のことだと思っているから。

 

 

奏が握っていた手を開き、奏の血で濡れたペンダントを翳した。

 

 

 

 

 

人と死して、戦士と死する(Croitzal ronzell Gungnir zizzl)

 

 

 

 

 

 

戦兎の発想と、了子の努力によって改良された薬液を注射し、フォニックゲインが充分高めることのできた奏が、己の心に従って聖詠を紡ぐ。

 

血に濡れたペンダントが光を生み出し、奏の体を包んだ。辺りをペンダントの光が照らし、晴れる。

 

「これが、シンフォギアか……!」

 

赤。

 

それが奏の鎧の色だった。奏の髪と同じ、血の様な赤。まるで奏が今までの実験で流してきた血を固めた様な、そんな赤い鎧。

 

奏が手をにぎにぎと開けて閉じて、という工程を繰り返してシンフォギアの感覚を図る。

 

特に問題は感じない事に、笑みを浮かべようとして、ようやく違和感に気づく。

 

「何でだ……」

 

心に何かを浮かべようとしても、何も現れようとしない。

 

「何でだっ!」

 

焦って適当に何か紡ごうとして、声すら出ないのに気づいた。

 

「何で、()()()()()()ッ!」

 

シンフォギアを起動し、鎧を起動できても、何故か奏は歌えなかった。

シンフォギアというのは奏者が歌を歌う事に依存したものだ。歌を歌って初めて起動して、歌を歌ってようやくノイズと戦う土俵に上がれる。

 

(あたしみたいな偽物は、戦って死ぬ権利すらないのかよ)

 

奏がノイズを忌々しげに睨むと、ノイズが奏の視線に気づいてか否か、進行方向を奏の方へと変えた。

 

「ぁ、か…………」

 

奏が喉に手を当てて、無理やり何かを絞り出そうとするが、出るのは苦しげなうめき声だけで一フレーズも歌えなかった。

 

そして、ついに何もできずにシンフォギアへの変身が解けた。

もう一度シンフォギアを纏おうとして、今度は 聖詠さえ胸に浮かんでこないのに気づく。

 

「く、そ……!」

 

さっきは自然に出てきた聖詠を何とか思い出して、言葉尻だけをなぞる様にして歌うが、それでも赤いペンダントは何も反応しなかった。

 

そうこうしているうちにノイズが奏へと迫る。その距離はすでに50メートルを切っていた。

 

「畜生ッ!」

 

奏がペンダントを片手に踵を返してノイズから逃げ出した。そのまま来た道を引き返そうとして、直前で一瞬足を止めた。

 

(このまま、逃げて何になるんだ……)

 

奏は辺りを見回して来た道とは別の道を選んで、ノイズのいなさそうな裏路地に逃げ込んだ。知らない道を何度も曲がり、走り続けた。

 

かなりの速さで走り続けたが、その間も常に背後からは、ゴム毬同士を擦り合わせた様な不快なノイズの鳴き声が遠ざかる事なく近づいていた。

 

奏がある路地を左に曲がって、運の悪いことに、数体のカエル型ノイズと鉢合わせした。そのノイズのそばには黒い灰が人の形になって積もっていた。

 

「ーーー」

 

カエル型らがようやく次の獲物が来たとばかりに、鳴き声をあげてゆっくりと動き始める。

 

奏が慌てて後ろに逃げようとして、未だしつこく追いかけてくる『人型』の先頭の個体と、目が合う。

 

「ーーーーー」

 

人型が近づいてくる。前門のカエル型、後門の人型。前に行っても後ろに行っても奏に残されたのは、ノイズによる死のみ。正に、絶体絶命。

 

奏がカエル型と人型、どちらかの間を通って逃げられないかと思いついて、その方法を考えて、すぐに辞めた。

 

(どうせシンフォギアを起動できないなら、いつ死んでも同じか)

 

奏の体から力が抜けて、雨に濡れた地面に膝をついた。ずっと雨に濡れながら走り続けて来た体は、末端からすっかり冷えていて、疲労感から重い。

 

(ようやく、そっちに行けそうだよ、みんな)

 

奏が眼前に迫ってくるカエル型を見て、ゆっくりと目を閉じる。

 

(ごめん、あたし疲れちゃってさ)

 

雨の音だけが、奏の耳に届く。

 

そして、カエル型が奏との距離を縮めていき、その距離が────ゼロになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎりっ、ぎりっ、間に合ったァァァッ!」

 

 

──直前で奏の体が何者かに強く掴まれた。

 

「え」

 

「逃げるぞ天羽さんッ!」

 

奏の体がふわりと浮いた。奏を持ち上げた人物はそのままぴょん、と()()()()跳ね上がり、ビルの壁を蹴って人型の背後に着地した。

 

耳元にかしゃかしゃという軽い音が聞こえた瞬間、今度は奏を抱えた人物がまるでバイクの様なスピードで走り始めた。

 

「あー、くそ全然撒けねえぞ……!壁透過してくるのは狡いだろうが」

 

奏が状況が全く理解できず、横抱きにされたまま顔を上に向けて、自分を抱えている人物の顔を見て言葉を失った。

 

「何で、お前、ここに……」

 

「ガングニールの反応辿ってきたんだよ、手間かけさせやがってこの脳筋バカッ!」

 

「ば、馬鹿……?」

 

「そうだよ超ド級のバカだよお前っ!」

 

ぶつくさと文句を言いながら戦兎が耳についた通信機を起動させる。

 

「こちら天才物理学者。ただ今天羽さんを回収した。ノイズを撒いたら撤退する」

 

薄い灰色の瞳に色素の薄い髪。いつもは薄っぺらい笑みが貼りついている顔は今は呆れと焦りが混ざった表情を浮かべていた。

 

(霧生、戦兎……)

 

奏が、心の中でのことであったが、初めて戦兎の名を呼んだ瞬間だった。

 

 

 

 

 

(なんとか間に合った)

 

奏のことを荷物のように横抱きにしながら戦兎が、細く息を吐いた。降り注ぐ雨はなかなか止むことはなく、視界を遮ってくるが、それでもノイズから逃げられないほどではなかった。

 

ちらり、と背後を見れば奏を追いかけていた人型とカエル型がしつこく戦兎たちを追ってくるのが見える。

 

戦兎の手の中で赤の半透明の物体がかしゃかしゃと軽い音を立てる。

 

(くそ、コイツを使っても逃げ切れないか)

 

スピードで言えば奏を抱えているとは言え戦兎の方が上。しかし、ノイズは自身の位相差障壁を弄って壁を通り抜けることができる。

だから、いちいち道を選んで走らなければならない戦兎と違って、ノイズの方は敵の方角さえわかればいくらでもショートカットできるのだ。

 

「おい、下ろせよ!いつまであたしのことを荷物みたいに運ぶつもりだ!」

 

「下ろしたらお前はノイズに殺されるんだよ!そんくらい分かれバカ!」

 

「な、お前またバカって、あたし学校じゃ成績は10番から落ちたことねえんだぞ!」

 

「お前みたいなのをバカって言わずになんていうんだよバーカバーカ!」

 

「お前みたいなアホに言われたくねえよ!」

 

「天才物理学者ですー!アホじゃないですー!」

 

ぎゃーすかと奏と戦兎が逃げ回りながら言い争う。どちらも互いの示し合う知性のレベルからは程遠い恐ろしい低レベルな会話だった。

こういう危機的な状況だから本人たちの本質が出ているという点もあるのかもしれない。

 

「取り、敢えず今は、逃げる、ぞ。まだ、死ねない、しな」

 

「お前、息が……」

 

「うるさい。大丈夫、だ」

 

戦兎の息がだんだんと荒くなる。

それもそのはず、戦兎の手の中の戦兎の走るスピードを底上げしているアイテムは、あくまでも加速させるという能力を付随させているに過ぎない。元となる体力は戦兎のものから変わっていない。

 

つまりどんなに高性能のエンジンを積んでいても、戦兎の体力という燃料が、クソザコナメクジなため、長い間維持できるものでもないのだ。

 

息を切らしながら戦兎が走っていると、少し遠いところから何かが高速回転するような音が聞こえた。

 

「天羽さん口閉じろ!舌噛むぞっ!」

 

「は?何言って────むぐっ」

 

戦兎が自分の耳に聞こえた音を信じて、避けるため手の中の物体を振って、街灯に飛び乗った。すると、次の瞬間にはさっきまで戦兎が走っていたルートに三体の飛行型のドリルが突き刺さった。

 

そこで飛行型は活動限界を迎えたのか、じわりと黒い灰となって崩れていった。どうやら強襲型によって増殖したノイズではなく、第一陣発生ノイズだったらしく、自壊限界の最後の悪あがきだったのだろう。

 

「間一髪、だった、な」

 

それを見送って、街灯の上から更に隣の家屋の屋根に飛び乗り、そこから更にビルの屋上へと飛び乗って更に走り出す。

因みに奏は舌を抑えて悶えている。

 

(そろそろ、体力がもたない。でも、ここじゃあ……)

 

戦兎は辺りを見回してみて、自分の走る建物の屋上や屋根の下から自分たちを追ってくるノイズを見て顔をしかめた。

 

現在の戦いの勝利条件は二つ。

 

一つは言わずもがな、翼と自衛隊、一課の合同隊がノイズを完璧に倒してしまうこと。

 

もう一つが、ノイズたちの活動時間の限界まで粘って、出来るだけ犠牲を減らして先頭を終えること。

 

そして、現在の戦兎の目的は、奏と戦兎を追っているノイズから逃げて奏を生きて連れ帰ること。

 

しかし、ノイズを撒いて街から出ようにも、どうしても機動力の問題からそれは不可能。

ならば、ノイズたちの自壊まで逃げ回ろうにもそろそろ戦兎のクソザコナメクジの体力は尽きかけようとしていた。

 

残されたのは、ノイズから殺される事と、何処かのノイズの手が及ばない建物に立て籠もって、やり過ごすくらいだった。

 

そして、戦兎にはもう、ここで死ぬと言う選択肢がない以上、後者の道しか残されていなかった。

 

戦兎が近くにあるそこそこ高いビルを見上げながら、ひときわ強く手の中の物体を振り続ける。

 

「天羽さん」

 

「……なんだよ」

 

「今度はしっかり口閉じとけよ」

 

そして、雨のせいでつるつると滑りそうな民家の上で膝を曲げて勢いよく飛び上がった。踏み込みの強さに戦兎の足元の屋根にヒビが入った。

 

一飛びで凡そ十メートル近く跳びあがった戦兎は、奏をビルの屋上へと下ろして、ついに力を使い果たしたように崩れ落ちた。

 

「かっ、はぁ」

 

汗と雨でぐちゃぐちゃになった体が気持ち悪い。翼に付き合って運動していたとはいえ戦兎は運動ができる方ではない。とうに限界は超えていた。

 

『戦兎』

 

「弦、さん」

 

戦兎が荒い息のまま弦十郎の通信に応える。

 

『今は何をしてる』

 

「天羽さん回収したけど、逃げ切れないと思ったからビルの屋上に逃げた」

 

『そうか。そのまま自壊時間まで逃げ切れそうか』

 

「飛行型はさっき自壊してたし、人型とかカエル型は階段登れないだろうし、たぶん大丈夫だと思う」

 

『そうか、何かあったなら藤堯に連絡を入れてくれ』

 

「ちょ、待ってくれ!」

 

戦兎が通信を切ろうとした弦十郎を焦ったように呼び止める。

 

「翼は、翼はどうなってるんだ」

 

『…………現在ノイズと交戦中だ。大きな怪我はない。少なくとも今はまだ』

 

「……今はまだ、か」

 

『今はお前にも俺にもどうにもできん。お前は奏君を頼む』

 

「弦さんっ!」

 

ぷつり、と戦兎の通信が切れる。もう一度折り返して通信をしようかとも考えたが、今の状況では無駄な問答になると思い直した。

 

戦兎が雨で濡れて額に張り付いてくる髪を後ろに流して、ゆっくりと立ち上がり、奏に向き直った。少し休めたおかげで身体の倦怠感は先ほどまでより少しマシになっていた。

 

戦兎が奏を見つめる。奏の方も戦兎から目を逸らさず、静かに見つめ返していた。

 

しばらくそのまま無言の時間が続く。どちらの耳に聞こえるのも、絶え間なく降り続く雨の音と、遠くから風に流れてやってくるノイズの声のみ。

 

そんな空間を破ったのは奏の方が先だった。

 

「何で、私を助けに来た」

 

今までのように険しい表情で責めるような口調ではなく、何かに疲れてしまったようにポツリと呟くような問いかけだった。

 

その赤い瞳には以前燃えていたような、炎はない。

 

「君が無茶したからだ」

 

「アンタには関係なかったろ」

 

「関係ないわけあるか。君も二課の仲間の一人だ」

 

「仲間、ね」

 

奏が戦兎の言葉に自分の手の中の赤いペンダントを見て自虐的に笑った。

 

「あたしみたいな偽物置いててもしょうがねえだろ。本当に、歌さえ歌えないとは恐れ入ったよ」

 

ガングニール。

 

全てを貫く無双の一振り。

 

しかし、その槍は奏にはその機会すら与えなかった。

 

「友里さん曰く、フォニックゲインが、一時的に高まった。シンフォギアが起動できるくらい」

 

「でも、歌えなかった。あたしの心には何も浮かんでこなかったよ」

 

通常ならばシンフォギアを纏うことさえできれば、心の中には自然に歌詞が浮かび歌を紡ぐことができる。しかし、奏の胸の中には歌の文句一つ浮かばなかった。

 

起動まではできたのに、武器を振るう権利は与えられなかった。

 

(起動はできたのに、歌えなかった。そんな事は普通はない)

 

翼にはそんな事はなかった。戦兎の見る限り、翼はシンフォギアを纏った最初から歌うことを自然に行なっていた。

 

戦兎と了子の努力により薬液は性能が向上しており、奏はシンフォギアを起動するには問題がないフォニックゲインは生み出せる。

 

(でも、天羽さんは現実問題歌えなかった。なら……)

 

ならば、二人の違いはただ一つだった。

 

「きっと俺の予想は正しかった」

 

戦兎が後ろに流していた前髪をかきおろして、ポケットの外から、中に入ったあるものを握りしめた。

 

「なあ、天羽さんはさ将来何になりたい?」

 

「は?」

 

「将来だよ、将来」

 

戦兎が奏から目線を外してゆっくり歩き始め、ビルの屋上ギリギリから数十体のノイズがビルの下で蠢いているのを見下ろす。

 

「ノイズを全部倒した、その後」

 

「その後……?」

 

「ああ。色々あるだろ?警察官、野球選手、花屋、製菓店、それとも女の子らしくお嫁さんとかさ」

 

くるり、と戦兎が奏と向き直って薄っぺらい笑みをへらりと浮かべた。

その笑みを見て、奏が戦兎に詰め寄って襟首をつかみ、二人の顔の距離が拳ひとつ程の近さまで近づいた。

 

「おちょくってんのかテメエ──」

 

「後は、歌手、とかさ」

 

「────」

 

奏の頭が真っ白になる。

 

 

 

 

───────

 

『奏は歌が好きなのかい?』

 

『うん、あたしはねしょうらいはかしゅになりたいっ!』

 

『奏なら出来るとも。君は歌がとても上手だからね』

 

『えへへ』

 

 

───────

 

 

 

封印していた記憶だった。父が、母が、妹が死んだ日から、思い出してはいけないと己に言っていた記憶だった。

 

「今さら、夢なんか見れるか」

 

奏の手から力が抜けていき、ぺたりと奏が膝をついた。

 

戦兎がそんな奏の隣に腰を下ろした。

 

「……天羽さんはシンフォギアはどんなものだと思う?」

 

「歌を歌って、ノイズを倒すためのものだろ」

 

「違うんだよ天羽さん」

 

奏の言った二つはどちらも、シンフォギアの機能を正確に言ったものだ。しかし、本質を捉えたものではない。

 

何故、シンフォギアを起動できるものは『歌』なのか。

 

そも、『歌』とは何か。

 

それは、音であればいいのか。

 

それは、上手ければいいのか。

 

それは、音程があっていればいいのか。

 

否、そうではない。

 

戦兎が目を閉じた。

 

戦兎も以前了子に尋ねたことがある。どうしてシンフォギアは歌で起動するのかと。それに対しての答えを了子は言葉にする事はなかった。

だが、笑みを浮かべて翼がシンフォギアを纏う姿を見せてくれた。

 

それが、答えをありありと物語っていた。

 

 

戦兎がゆっくりと目を開ける。

 

「シンフォギアはな、()()()を形にするものだ」

 

奏が戦兎の横顔を見た。奏にはその表情が今まで見たどれよりも安らかに見える。

 

「人の、言葉にならない想い、願い、叫び。そう言ったものを歌という形で紡いで、力に変える。それがシンフォギアだ」

 

そして戦兎が奏に体ごと向き直った。その顔には、薄っぺらい笑みも、安らかなものも、浮かべられていない、ただ真剣さを帯びた表情が浮かべられている。

 

戦兎が、二課の面々が、今まで意図して言ってこなかったことを、戦兎が覚悟を持って言葉にした。

 

「天羽さんは、死にたがってるだろ」

 

「そ、そんなこと……」

 

ない、という言葉が続かなかった。奏の顔は戦兎を見つめていたが、気圧されたように自然と俯いてしまう。

 

家族を愛していた。大切だった。何者にも変えがたい存在だった。奏はそれを1日のうちに全て失った。

 

もう、奏にはどうやって生きていいかわからなかった。

ただ、自殺はできなかった。親にもらった命だったから無駄にするわけにはいかなかった。

だから、しょうがないと言えるような理由を求めて、シンフォギアに縋った。

シンフォギアで復讐しようとしたけど起動できずに残念ながら死にました。

そういう理由さえあれば楽に死ねた。

 

だから、死にそうな実験にも耐えれたし、ノイズに立ち向かおうとも思えた。

 

だって、死にたかったんだから死ぬことなんて怖くなかった。

 

 

「シンフォギアはな、人々の想いを未来に繋ぐためのものだ」

 

奏が戦兎の言葉に顔を上げて口を開いて、そのまま何も言えずに黙り込む。

 

「死を望む戦士には未来は繋げない。だから、天羽さんじゃシンフォギアが使えない」

 

 

奏の聖詠は『人と死して、戦士と死する(Croitzal ronzell Gungnir zizzl)』。

 

 

聖詠とは奏者の心の心象が歌になったもの。戦兎が言うように、奏の心が死を求めていることがその聖詠に現れていた。

 

奏が手の中のペンダントを力なく握る。そんな奏に戦兎はこれ以上何と言っていいかわからずに頭をかいた。

ただ、つらそうに顔を歪める奏を放っておく訳にもいかず、翼にするように奏の頭を撫でようとする。

 

『戦兎君、突然ごめん!』

 

「とととととと友里さん?!」

 

『ん、なんかやたらと慌ててるけどそういうのは家でやりなさい!緊急事態よ!』

 

あまりにもいいタイミングでの通信に見られていたのでは?と顔を赤くした戦兎だったが、緊急事態という言葉に瞬時に頭を切り替える。

 

『今そっちに──』

 

ズン、といきなり足元で地響きがした。そして、奏と戦兎のいるビルが大きく揺れる。その衝撃に戦兎が慌てて地響きがしたビルの真下を覗き込んで、絶句した。

 

()()()()()()()()わ!』

 

そこには、芋虫のような胴体を持つ十メートル級のノイズが五メートルほど下に顔を近づけて、ビルを殴っていた。

 

「わざわざビルを壊すつもりかよコイツ……!」

 

戦兎の隣で同じようにビルの下を覗き込んだ奏が忌々しげに言った。

 

普通のノイズは建造物には触れない。

そもそも触れても人型やカエル型などでは鉄筋コンクリートで作られている丈夫な建物を壊すことはできない。

 

しかし、体長が十メートルを超えるような大型ノイズに関してはその例に入らない。その巨体は体当たりだけで、普通のビルを砕くパワーを内包している。

 

そして、この強襲型ノイズは屋上にいる人間が活動時間限界までに降りてこないと見て、わざわざビルを壊して引きずり落とそうとしていた。

 

(どうするどうするどうする?!またジャンプ強化で他のビルに乗り移って、いやそれじゃあ強襲型のリーチからは逃げられない。ならならならなら!)

 

戦兎が隣の奏を見て逃げきるための方法を模索して、却下してという工程を何十回と繰り返す。

その間も強襲型に与えられる衝撃は止まずに続く。

 

(一体、どうしたら────)

 

『戦兎君っ!』

 

「先、生……」

 

通信機から了子の声が届いた。戦兎が読んだ名前に奏が驚いたように戦兎を見た。

 

戦兎が通信機を操作して、スピーカーの状態に変えた。

 

『手短に聞くから正直に答えなさい。戦兎君たちはそこから逃げれる?』

 

「たぶん、難しい」

 

『じゃあ、ノイズたちの自壊まで耐えられそう?』

 

「それより早く強襲型にビルを壊されそうだ」

 

『…………じゃあ最後の質問。戦える手段は、ある?』

 

戦兎はズボンの右ポケットの中に入った、二つの小さな物体を触って目を閉じた。これでは、戦えなかった。

 

戦兎が悔しげに唇を噛んで了子に向かって答えようとして、戦兎の通信機が奏にひったくられた。

 

「あたしが戦う」

 

「な、天羽さん!?」

 

「あたしがシンフォギアを起動できれば戦えるだろ」

 

通信機の向こうの了子が黙り込む。

 

「なんとか言えよ了子さんッ!」

 

『……たしかに奏ちゃんがシンフォギアを起動できればノイズを倒せるかもしれないわ。けど、ねえ奏ちゃん薬液注射からどのくらい経った?』

 

「たぶん、30分くらいか……?」

 

『そうね、そんなとこかと思ってたわ』

 

悔しそうにいう了子に奏が怪訝な顔をした。そんな奏の肩を戦兎が軽く叩いた。

 

「天羽さんが了子さんの研究室から持っていった薬液はまだ完成品じゃなくてさ。従来のものより持続時間が短いんだよ」

 

「つまり、何が言いたい」

 

「その効果はおよそ、十五分。今の天羽さんじゃ、フォニックゲインが足りない」

 

これでも急いでいた方だった。それでも、途中で出動が決まった天羽々斬の調整に時間を取られたせいで、薬液の改良が思うように進まなかったのだ。

 

しかし、そんな状況でも櫻井了子は希望を捨ててはいなかった。

 

『戦兎君今持ってるでしょ?』

 

「なんで、それを」

 

『貴方のことだし持っていってるだろうとカマかけただけよ』

 

「持ってる……?」

 

奏が戦兎の方を見る。

すると戦兎はしばらく迷った様なそぶりを見せていたが、やがて左のポケットに手を入れて、ゆっくりと手を引き抜いていく。

そして、戦兎の手の中に握られているものを見て、奏が目を丸くした。

 

「それ、は……!」

 

戦兎の手の中にあるものは、緑の薬液で中を満たされた注射器。間違いなく、奏がシンフォギア起動のために使う薬液であった。

 

「最初から持ってたんならさっさと渡せよ」

 

『奏ちゃん待って』

 

「何だよ了子さん。ヤバイ事態にトロトロ悩んでる暇はないだろ」

 

『詳しい説明は省くけど、今その薬液は前のものと大きく異なっているの。メディカルチェックなしで続けて薬液を使えば濃縮された負担があなたの身体を……』

 

「そんなもんで悩むなら最初からシンフォギア使おうだなんて思わねえよ」

 

奏が了子の話を遮って、戦兎の手の中の注射器に手を伸ばそうとして、直前でがしりと戦兎に腕を掴まれた。

 

「何だよ」

 

「これを使えば君は死ぬかもしれない」

 

戦兎が真剣な目で、半ば睨むように奏に言ったが、奏は戦兎の手を払いのけた。

 

「死ぬのなんか、怖くねえよ」

 

「そうか」

 

戦兎が注射器をポケットにしまった。

 

「なら、俺は絶対にお前にコイツを渡さない」

 

「どういうつもりだ」

 

「お前の自殺願望には付き合えないってことだ」

 

ずん、と強襲型の殴打がビルを揺らす。ついにみしりとコンクリートが悲鳴を上げ始める。

 

「くだらないこと言ってんじゃねえよ、さっさと渡せって!お前も死ぬぞ!」

 

「じゃあ生きてくれ」

 

「はあ?」

 

戦兎の足元に小さなヒビが入るが、それでも戦兎は気にした様子もなく言葉を続ける。

 

「薬液を使っても、シンフォギアを纏っても、ノイズと戦っても、生きて帰ってきてくれ」

 

「お前何言ってんだよこんな時に!」

 

「こんな時だからだ!」

 

怒鳴った奏に戦兎が怒鳴り返して、奏の肩を掴んで自分のところまで引き寄せた。

 

「俺は天羽さんに生きて欲しいんだよ!だって、俺と天羽さんは似ているから!」

 

それは、いつか奏に言った言葉と同じだった。

 

「俺も一度全てを失った!」

 

ばき、と奏の背後のコンクリートがまとめて崩落していく。

 

「それでも今はなんとか生きている!」

 

鉄骨のひしゃげる音がして、戦兎のすぐ隣が柱からまとめて倒れていく。

 

「人は生きてさえいればきっと何にでもなれるんだ!」

 

もう、二人のいる屋上はほとんど足場を失おうとしていた。奏は戦兎にまた怒鳴ろうとして、戦兎の奏を見つめる目に気圧される。

 

それは、本気で奏に生きて欲しいと訴えかけてきていた。

 

「ずっと、コイツの名前をどうするか考えていた。けど、今決めた」

 

戦兎がポケットから再び緑の液体で満たされている注射器を取り出した。今まで名前が特に付いておらず、自然に『薬液』などという適当な名前で呼ばれていた液体。

 

「コイツの名前は、LiNKER」

 

その名前には戦兎の想いが詰まっていた。

 

LiNKER(未来へ繋ぐもの)。天羽さんを生かすためのものだ」

 

奏に生きて欲しいという願い。奏に未来を持って欲しいという希望。奏に前を進むための力が与えられるようにという祈り。

 

「LiNKERを使うなら、死ぬために使うな!生きるために使え!」

 

その全てをLINK(繋ぐ) ER(もの)

 

故に、LiNKER。

 

 

戦兎が奏の肩を強く握って、叫ぶ。

 

「生きる事に意味を見出せないでもとりあえず生きろ!俺は天羽さんが死ぬのは嫌なんだよッ!」

 

奏が、戦兎の目の中に熱い炎を幻視する。

 

「いつか、天羽さんが心から笑える様にしてみせるッ!だから、だからッ」

 

人を救いたい、という熱い炎を。

 

 

 

 

 

「簡単にッ!生きる事を諦めるな天羽奏ッッ!!」

 

 

 

 

 

奏の心に何かがすとんと落ちて気がした。

 

「生きる、こと……」

 

そして、ついに戦兎と奏の足元が崩壊した。戦兎が瞬時に奏を抱きとめて、そのまま二人で落下を始める。

 

無数の瓦礫とともにノイズたちが待ち受ける地面に落ちながら、ようやく奏が正気に戻る。

 

「そんな事言ってる暇ねえだろうが!さっさとよこせ!」

 

「必ず生きて帰ると約束しろ天羽奏ッ!」

 

「お前いつまで──」

 

「約束しろッ!」

 

戦兎の目は真剣だった。この期に及んで、死にかけながらも本気で奏が約束するまでLiNKERを使う気がなかった。

 

ついに奏が折れる。

 

「わかったよッ!お望み通り生きて帰ってきてやるッ!」

 

ようやく聞けたその言葉に戦兎が奏の顔を見て嬉しそうにくしゃりと笑った。

 

「任せたぞ天羽さん」

 

そして、奏の首筋に注射器を当てて、中身を一気に注射した。

 

 

どくん、と奏の中で何かが胎動した。脈拍が一気に増して、やたらと耳がよくなって自分の心臓がはち切れそうなほど動き始めたのを感じた。血が集まり始めたのか、目も僅かながら充血する。

 

(了子さんの言った通り負担がやべえ。意識が飛びそうだ。でも…………!)

 

奏の赤くなった視界で戦兎が奏を見つめていた。奏が死ぬ事など微塵たりとも疑っていない目。

 

その目を見て、奏が笑みを浮かべた。

 

「生きる、って約束しちまったんでなぁっ!」

 

 

奏が片手のペンダントを翳して、奏でる。

 

 

その瞬間、絶え間なく降り続いていた雨が止んだ。

 

まるで、奏の心の叫びに応えるかのように。

 

 

 

 

 

 

 

人と死しても、戦士と生きる(Croitzal ronzell Gungnir zizzl)

 

 

 

 

 

 

 

 

聖詠が、変わる。

 

奏の心が変わったことに従って、聖詠も正しい形へと文句を変える。

 

死を求める戦士から、生きるために戦う戦士に、槍を握らせるために。

 

 

聖詠に反応して奏のペンダントが光を生み出した。それは、太陽の光と混ざり合い、奏の体を暖かく包む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「高エネルギーのアウフヴァッヘン波形を確認!」

「既存聖遺物との照合を開始します!」

「でました!この波形は────」

 

二課仮説本部のトレーラー内部のモニターに現れる『GUNGNIR』の文字。

 

 

「ガングニール、だとッ!?」

 

弦十郎が叫び、了子が薄い笑みを浮かべた。

 

「やったわね、戦兎君、奏ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が晴れる。

 

 

翼と同じような水着と服の間の様な不思議な服装に、ヘッドギアなどの機械的な鎧。

 

しかし、それは1度目に奏が纏った鎧とは違う部分が一つあった。

 

それは、色。

1度目は奏の流した血を固めた様な赤い鎧だったのが、今は太陽の光を纏めて紡いだ様な、明るい橙色のシンフォギアを奏は纏っていた。

 

奏が空中で自分を抱きかかえていた戦兎を反対に横抱きにするとすぐそばにあったビルの瓦礫の一つを蹴って隣の建物の屋根に飛び移った。

 

「天羽さん体は……」

 

「うるせえ自称天才物理学者」

 

「な、自称だと……!」

 

戦兎があからさまに腹を立てたのを見て、奏がくすりと笑って、口の中から唾と混じった血の塊を吐き出した。

 

「そこで見とけ()()。速攻で全部倒してきてやるから」

 

「今、名前──」

 

戦兎が目を見開いて驚いて、すぐにまたくしゃりと笑った。

 

「ああ、信じてるぜ天羽さん」

 

その笑みを見て奏もほころぶ様に笑って、屋根から飛び降りた。五メートル以上高いところから飛び降りたにもかかわらず、奏の体に支障はない。

 

「これが、私のシンフォギア……!」

 

 

どくん、と心臓が大きく脈打った。

 

 

 

 

 

────神槍・ガングニール────

 

 

 

 

 

奏の心から自然と歌詞が湧き上がる。その事に笑みを浮かべて、奏が心の中の、天羽奏という音を奏始める。

 

 

「────」

 

 

奏の歌に合わせてノイズの調律が開始され、ノイズたちの体色が一色に固定される。

 

奏が歌を奏でながら走り出した。無数のノイズが奏を殺すために液状化して突撃してくるが、奏はそれに瞬時に無手の拳を合わせてカウンターを打ち込んだ。

 

奏の拳にノイズを殴る感触が伝わって、間をおかずにノイズが灰となっていくのを感じた。

 

その様子を見て強襲型が吠えた。その体をふるふると震わせて、口から大量の液体を吐き出した。

それは辺り一面に広がると数十体のノイズを生み出した。

 

その様子を見て奏が小さく舌打ちをした。

 

「これじゃあ埒が明かねえぞ」

 

「天羽さんっ、アムードギアだ!アームドギアを出せ!」

 

「は?アームドギア?」

 

「武器だよ、武器!君のイメージで創り出せるはずだ」

 

アームドギア。

 

それは、シンフォギア固有の武器だ。それがあるシンフォギアとないシンフォギアでは戦闘力には大きな差が出る。

 

しかし、それは纏ってすぐに出せる様なものではなく、適合係数の高い翼であってもアームドギアを出すには一ヶ月ほどの鍛錬を必要とした。

 

戦兎が密かに唇を噛む。

 

(やっぱり纏ったすぐじゃアームドギアは無理か……)

 

対して奏は、戦兎にイメージで創り出せると言われた事に従って己の武器をイメージしていた。

 

(ガングニール、つまり槍。あたしの心を表す、槍)

 

奏が両手を繋いでナックルガードを合わせて一つの大きな機構と変形させる。

 

「全てを貫く、無双の槍をッ!ガングニールッ!」

 

奏が叫ぶと右手に集まったナックルガードが射出され、メカニカルな部分を残した橙色と黄色を中心とした槍のアームドギアを創り出した。

 

「お、やれば出来るもんだな」

 

にやり、と奏が笑って『神槍・ガングニール』の歌唱を再開する。

向かってくるノイズ群を槍の長さのあまりに振り回され気味になりながらも、当てそれを利用した体重移動を行いぐるりと回転して一気に灰に変える。

 

「────!」

 

奏が歌を歌いフォニックゲインを高めて、そして生じたエネルギーを槍に集めていく。それを示す様に橙の、太陽の様な光が奏の槍を満たす。

 

(たぶん、こうッ!)

 

奏が大きく跳び上がり手の中の槍を大きく振りかぶると、槍を小型ノイズ群の中心に狙いを付けて、一気に解き放った。

 

「『STARDUST∞FOTON』!」

 

奏の投げた槍が空中で大量に複製され、五十を超えるノイズ群に向かってまさに星屑(STARDUST)の如く降り注ぎ串刺しにした。

 

「ーーー」

 

小型ノイズたちが叫びにならない叫びをあげて灰となって散っていく。

その様子を見て慌てた様に、強襲型が一瞬のうちに消えていった小型ノイズをまた増殖しようと体を震わせる。

 

「させるかよ!─────!」

 

奏が再び歌を奏でて槍へとエネルギーを充填する。そして、強襲型の首元まで加速していき、液体を吐き出そうとする前に喉元を槍で刺し貫いた。

 

(そして、こうッ!)

 

「『LAST∞METEOR』ッ!」

 

槍が高速回転を始め、フォニックゲインを元手としたらエネルギーの竜巻を生み出してそのまま強襲型ノイズを空へと持ち上げる。

 

「ーーーーー」

 

強襲型ノイズが暴れるが奏のガングニールの竜巻は体の深くまで食い込みその巨体の大部分を灰へと変え始めていた。

 

最後に奏が強襲型を見て、竜巻ごと槍を引き抜く。

 

「あばよ」

 

強襲型ノイズの体が粉々に砕けちり、風に運ばれて消えていく。

 

戦兎が太陽の光に照らされる奏の姿を目を見開いて見ながら、ポツリと呟いた。

 

「シンフォギア纏った当日にアームドギア出して、あんな大技二連発とか……」

 

 

天羽奏。

 

後に、二課から()()()()()の二つ名を頂戴する少女の華々しすぎる初陣であった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

その後の事の顛末というか、今回のオチ。

 

 

 

強襲型ノイズが倒された事によりノイズの異常発生が止まった後、自衛隊と二課の走者二人によってノイズの殲滅が程なく終了する。

 

翼は強襲型が次々の増殖させた小型や飛行型合わせて100体に孤軍奮闘していたが、駆け付けた奏によって窮地を救われる。

 

今回のノイズ襲撃による死亡者は一課戦闘員27人、自衛隊員13人の計40人。ノイズの出現が都市郊外の森の中であり、住民の避難はほとんど完了していたため住民の死傷者はゼロという結果になった。

シンフォギアが出撃しなければ自衛隊の死亡者は五十を超えていたと予想されているため、二課のメンツは守れたとも言えた。

 

その結果には強襲型ノイズを一人で撃破した天羽奏の働きは大きなものであったとも言えた。防衛省から直々に労いの言葉がかけられたというからその働きの大きさがよくわかるだろう。

 

そして、その天羽奏が何をしているかというと。

 

「勝手にシンフォギアを持ち出して危険地帯まで行きやがって。お前は一時間廊下に正座だ馬鹿野郎ッ!あ、ついでに戦兎も付き添ってやれ」

 

「ああ、そんくらいなら……」

 

「え、俺も?」

 

「さらに明日から一ヶ月二課の掃除洗濯、あと食堂の料理手伝い、その他雑務、俺と戦兎と翼の朝練にも加えてやる。覚悟しとけッ!」

 

「ひー、旦那ご勘弁〜」

 

「まって、弦さん何で俺もそこに入ってんの?」

 

奏が二課のオペレータールームの前の廊下、二課職員が最も行き来する場所に正座させながら弦十郎に怒鳴られる。

溜息を吐きながら奏がぐんにゃりと嫌そうに顔を歪める年相応の姿を見て、弦十郎がわしわしと奏の頭を撫でた。

 

奏がぽかんとした顔で弦十郎を見上げた。

 

「説教はこのくらいだ。奏君、良くやってくれた今日はいいとこ連れていってやるよ」

 

「いいとこ……?」

 

にかりと弦十郎が男らしく笑った。

 

「え、マジで?!俺と翼も連れてってくれる?」

 

「当たり前だ。ついでに了子君辺りも誘ってみるさ」

 

「よっしゃ!」

 

ぐっ、と戦兎が小さくガッツポーズをした。

そんな戦兎を見て弦十郎は小さく笑むと、最後にもう一度奏の頭を撫でるとオペレータールームに入っていった。

 

「なあ、いいとこって何だ?」

 

「ああ、夜は焼肉って事だよ。弦さんのポケットマネーで」

 

「へー、旦那も太っ腹だなぁ」

 

夜は焼肉っしょー!

 

どかりと戦兎が正座している奏の隣に腰を下ろす。

 

「……まあ色々お疲れ」

 

「おうアンタにも世話になったな」

 

「いや、別に大したことしてない、ぞ……」

 

戦兎が気まずそうに髪を撫で付ける。奏が見る限りその頰は心なしか赤い。何を言いよどんでいるのか不思議に思って奏が首をかしげた。

 

「どうしたんだよ?」

 

「いや、そのだな……俺って通信機つけてただろ?」

 

「つけてたな」

 

「あれがさ、実は……」

 

「あ、青春少女たちじゃない」

 

戦兎の体がびくりと震えた。

 

「了子さんなんだよその青春なんとかって」

 

奏が首を傾げながら尋ねると、むふふと了子が下世話に笑った。奏がなんだか嫌な予感を察知した。

 

「『いつか天羽さんが心から笑える様にしてみせる』だったかしら?私も一度言われて見たいわー」

 

奏の顔が僅かに赤くなる。

 

「な、そ、それどこで……」

 

「うふふふふふ」

 

了子が手を口に当てて下世話に笑いながら奏の前を通り過ぎて行く。

奏がおそるおそる戦兎の方を見れば、戦兎はやや赤い顔でそっぽを向いていた。

 

「なんか、通信機、ずっと音声入ってたらしい」

 

「ま、マジか……」

 

「マジ」

 

冷静に思い出せばなんだか戦兎も奏も命の危機でタガが外れていたせいか、恥ずかしい台詞がいくつか溢れていた。

 

奏がちょこちょこと正座のまま少しだけ戦兎と距離を離した。

 

そんな二人の前に今度は藤堯と友里の二人が歩いてきた。

 

「お、戦兎」

 

藤堯二十五歳独身童貞は先輩風を吹かせて戦兎の背中を軽く叩いて、ニヤリと笑って去って行く。

 

対して友里の方はにこりと奏に笑って去っていった。

 

戦兎がぷるぷると体を震わせる。

 

(い、いっそ殺せ……!)

 

心の中で呟くと、隣から忍笑いが聞こえ始める。

 

「あっはっはっは、あたしたち恥ずかしすぎるだろ……!」

 

突然奏が笑いをこらえきれなかった様に笑いだした。何がおかしいのか、とても楽しそうに奏が笑い続ける。

そんな奏を少し呆気にとられたように戦兎が見る。

 

「なあ、戦兎。ありがとな、いろいろ」

 

「別にお礼言われる事してないって」

 

「それでも、ありがとう」

 

奏がにかりと笑って、腕を頭の上で組んで上を見上げた。

 

「まだお前のいう未来の事とか、家族のいろいろとか割り切れないものもある」

 

今でも瞼の奥には消えない光景がある。忘れられない思いがある。

 

「でも、取り敢えず生きて見ることにした」

 

奏が遠くに焦点を合わせてゆるく微笑んだ。

その笑みを浮かべさせるのは、一体なんの影響があったのか。それは奏にしかわからない。

 

しかし、戦兎にとっても好ましいものであったのは間違いない笑みだった。

 

「天羽さんがそう決めたなら俺も手伝うよ」

 

「奏」

 

「え?」

 

「奏だ。戦兎には、そう呼んで欲しい」

 

奏が戦兎の方に手を差し出した。

 

戦兎はしばらくその差し出された手を見つめると、自分の掌を服の裾で拭って差し出した。

 

 

 

「よろしく奏」

 

 

「ああ、よろしく戦兎」

 

 

 

二人の手が強く結ばれた。

 

戦兎の手には、奏の思いのほか柔らかい手の感触が、奏の手には、戦兎の思いのほか大きくて厚い感触が伝わっていた。

 

戦兎が結ばれた掌を見て、なお一層嬉しそうに顔をくしゃりとして笑った。

 

「ああ……あたし、戦兎のその笑顔の方が好きだ」

 

「へ?」

 

きょとんとした表情を戦兎が浮かべる。

 

「戦兎の弦十郎の旦那とか緒川さんを真似した笑顔は嘘くさいってこと」

 

「なん……だと……」

 

「一発でバレるからやめとけば?」

 

奏がバカにするように戦兎を笑い、戦兎が衝撃のあまり頭を抱える。

 

そんな、二人を窓から差し込んだ光が優しく照らした。

 

 

 

もう、雨はすっかり止んで、曇りなき青い空が覗いていた。

 

 

 

 

 

 





作者はオーズが一番好きです。

奏さんには曇りなき青い空を見て嘆かずに笑いあって欲しいもんです。

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