雨の向こうに青空を   作:世嗣

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タンクボトル先輩マジカッケー!!



はじまりのビート

 

 

 かしゃかしゃと戦兎のの手の中で軽やかにフルボトルが音を立てる。一定数の振動によりフルボトル内に内包されたエレメントのエネルギーが、体を伝い通常では得られない力を発動させる。

 

「せ、あッ!」

 

 目の前の身の丈の二倍はあろう瓦礫に掌底を叩き込むと、扉を防いでいたコンクリート片がズレてひび割れた自動ドアが姿を見せる。

 奥には取り残されていた人々が怯えた目でこちらを見ていた。

 

「き、君は……」

 

「特異災害対策機動部の者ですッ! ここあたりにはもうノイズはいません! 避難を」

 

「しかし、どこに行けば」

 

「こちらから南、機動部の仮設本部があります。そちらに行けば安全です」

 

「ほ、本当に?」

 

「本当です」

 

 怯えていた人の目に光が宿る。中にいた20人ほどの人たちがゆっくりと建物から出てくる間に、戦兎は特に怪我人がいなさそうだということを確認する。

 

「本部、こちら戦兎。支持されていた区域の要救助者を発見。特に怪我人はいなさそうなので、これから本部に連れ帰ります」

 

『了解。そこ一帯にノイズは確認されていないので落ち着いて避難誘導を』

 

「わかった」

 

 つけていたインカムからのあおいの支持に返答すると、怯えたように辺りを見回している人々に向き直る。

 

「今から案内します。もう大丈夫です、安心してください」

 

 そして人々の先頭に立って歩き出した。

 

(翼と奏、上手くやれてんのかな……)

 

 自らの大切な友人二人に想いを馳せて、遠くの銃声が響く方に向いて、ほんの少し目を細めた。

 

 

 

 

 

 戦場で、振るわれる刃が鳴り、二重の歌が奏でられる。

 

 そこでは二人の奏者がそれぞれのアームドギアを手に、人間の天敵たるノイズと向き合い戦っていた。

 美しさなどかけらたりとも存在する可能性のないそこで、凛として響く二曲の歌。

 一曲は刃を思わせる『絶刀・天羽々斬』。もう一つは、激しい太陽を思わせる『神槍・ガングニール』。

 

 個々で聞けば美しく感じる二曲。けれど、それも互いの事を考えずに歌っているせいか、上手いことは上手いのだが、どこかちぐはぐな印象を与える。

 

「────」

 

 奏が己の心を歌にしながら手の中のアームドギアを振り回すように薙ぎ払う。半ば振り回せるように体重が乗せられた槍は、先端に行くにつれて勢いを早め、そのまま数体のノイズをまとめて切り裂く。

 

 奏での動きはそれだけにとどまらず、ついた勢いそのままに槍を地面に突き刺し、そこを起点に空へと跳び上がる。弾丸のように飛び出した体は、虎視眈々と機会を狙っていた飛行型へと蹴りを叩き込み、くるりと宙で一回転。着地地点にいた小型を踏み潰しながら、アームドギアを手に取った。

 

「─────ッ!」

 

(奏さんは本当に凄い。出撃したのなんてまだ片手で数えるくらいなのに)

 

「ーーー」

 

(私も、気を抜けない)

 

 翼が奏での戦いを視界の端に捉えながら、刀を振るう。以前合同訓練をした時よりかは随分とマシな太刀筋だが、それでもどこか本調子ではないことが伝わる。

 頑張る、と決めはしたものの奏でとの関係が改善される様子がない事をまだ少し気にしているのかもしれない。

 

 翼がアームドギアを脇差サイズに短縮すると、歌唱によりフォニックゲインを高めながら足のスラスターへと力を送る。

 

 軽くとんで数体のノイズ群の中心で右手で着地し、足を水平に刃に見立てて伸ばすと、手首を捻るように回転を生み出して、そのままぐるりと回る。

 

『逆羅刹』。風鳴の技を元に作られた技術で、辺りの小型ノイズをあらかた真っ二つに切り裂いてしまう。スラスターを格納しブレーキをするように踵を地面につける。

 地面をえぐりながら動きを止めた翼が、辺りを見回してもう特にノイズがいない事を確認する。

 

 ふう、と小さく息をついて目だけを動かして奏の方を伺う。すると、ちょうど奏も周囲のノイズを一掃したところだったらしく、二人の視線が偶然ぶつかった。

 

 え、と翼が驚いたような表情を浮かべる。

 

 ち、と小さく舌打ちして、奏が顔を逸らした。

 

(もしかして、私のこと心配してくれたのかな)

 

 翼が「もしかして」と思い、「まさか」とすぐに打ち消すが、すぐに「でももしそうだったら」と思い直す。

 アームドギアを握っていない方の手を強く握る。ここは、話しかけるべきなのでは? と翼が勇気を出すことにきめる。

 

「あ、あのかな────」

 

『翼ちゃん、奏ちゃん、付近のノイズ掃討完了よーん。今すぐ仮設本部に帰投してくれるかしら』

 

 だが、敢え無く了子からの通信にその言葉を遮られる。翼の口が微妙な形で止まってしまい、そして翼の方を向いた奏にバッチリ見られてしまう。

 奏が「何してんだコイツ」という表情を浮かべて、アームドギアをナックルガードに戻してさっさと一人で走り出してしまった。

 

 残されたのは、微妙な表情の翼だけ。

 

『あのー、翼ちゃん、帰投してもらってもいいかしら?』

 

「……はい、天羽々斬、帰投します」

 

 がっくりと肩を落とした時に漏れ出たため息がシンフォギア越し、本部まで伝わってきて二課のオペレーター陣が全てを察して天を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 午前9時に出たノイズ警報に慌ただしく二課の面々が仮設本部のトレーラに乗って出てから二時間ほどで作戦は終了した。

 

 だいたいノイズの一回の出現数は平均100前後だが、今回は割と少なめであったため早めに片が付いてしまったのだ。

 都市部に出たためノイズの副次的被害で建物の崩壊なども見られたが、死傷者などの被害は一桁に収まったのだから幸運な方だとも言えた。

 

 しかし、被害が出たのは事実。特異災害対策機動部の総意としては民間人の被害は出したくないのが正直なところ。だが、シンフォギアが出来たとはいえ、それでも被害をゼロにするのは難しいというのが現状だった。

 

 

 

 二課保有のトレーラー内で戦兎は了子と二人で機材を弄っていた。

 

 現在シンフォギアが急行する時には専らこの仮設本部扱いのトレーラーが用いられる

 だがバックアップを行うためにはそれなりの性能の機材を積み込まねばならず、一回の出撃の後には細かなメンテナンスが必要になる。今、了子たちが行なっているのはそれだった。

 

 戦兎は内部基盤を覗き込んで特に支障がないことを確認すると、今度はモニターに映し出されたデータを元にソフト面の点検に取り掛かる。

 

「あー最悪だ。これってもうちょいなんとかならないのかね……」

 

「もう仕方ないでしょー。今のとこはこれが一番バックアップ体制としては安心なんだからー」

 

「そりゃわかってるけどさぁ」

 

 苦い顔で機械をいじる戦兎の近くで、同じような表情の了子が溜息を吐きながら応じる。どちらも研究職で割となんでも器用にこなす方だが、こういう地道な作業は好きではなかった。

 

「はー、いつかは二課本部からの指示だけでなんとかしたいけど、現状のシンフォギアの性能だと遠くなると不安が残ってねー」

 

「まだロールアウトしたばっかだもんな。故障とかあった時が怖いよな」

 

「それにスピードの問題もね。やっぱ今のギアの感じだと車の方が早く行けるのよねぇ。ノイズ出現が事前にわかればいいのに」

 

「はは、じゃあバイクとか作ってみる? 車より小回りきいていいかもよ」

 

「面白いけど今の予算じゃ無理。シンフォギアと二課の設備整えるので精一杯よ」

 

「予算かぁ。俺にはどうにも出来ないジャンルだな」

 

「もうちょい二課が目に見えて成果を出せれば良いんだけどねー」

 

 冗談半分で話しながら、どちらも特に手は抜かずにさくさくと作業を進めていく。どちらの作業も別に他の研究員がしてもいいのだが、手短に終わるので了子が自分でしていた。戦兎はその手伝いである。

 

「はい、おしまいっ! お疲れ私!」

 

「あー疲れた」

 

 了子が両手を組んで大きく伸びをすると、白衣の向こうの大きな胸がばるん、と弾んだ。思わず戦兎が目をやってしまうと、それに気づいた了子がとても意地悪そうな笑みを浮かべて、ぐ腕で胸を寄せ上げた。

 

「あら、なに戦兎くんは思春期らしく私の溢れる大人の魅力に夢中なのかしらん?」

 

「いや動いたから見ただけで先生には特に何も」

 

「あ、そう」

 

「先生は何というか……そういうのじゃない」

 

 感覚としては母親のおっぱいを見たようなものである。ただそこにあるというだけで、それ以上でも以下でもない。せいぜい「でかくて重そうだ」くらいの感想しか抱かない。

 

 ちょっと拍子抜けしたように真顔になる了子。

 

 トレーラーの整備が終わり二人して車庫を後にする。

 

 ちょうど昼時だったためいっしょに昼食をとろうということになり、そのまま足は食堂へ。

 

 二人してサンドイッチを注文して食堂をうろうろとして、空席を探す。すると、一人でカツ丼を食べている奏を発見する。

 

「はーいお嬢さんこの席失礼するわね〜」

 

「奏さっきはお疲れ様ー」

 

「おわ、なんだよ了子さんに戦兎!」

 

「いや空席なかなかなくてさー、ちょっと相席させてもらうぞ」

 

「大丈夫、私たち食べたらすぐにどくから」

 

 図々しく奏の対面に戦兎、隣に了子が座り込み、もしゃもしゃとサンドイッチを齧り始める。普段割とペラペラ喋る了子と戦兎が無言でサンドイッチを口に運ぶ絵面はなかなかにシュールだった。

 

「あんたら何でそんな急いでサンドイッチ食ってんだよ」

 

「ちょっと急ぎのチェックがあってな。今朝のノイズのせいで放ったらかして出て来ちまったんだよ」

 

 そう言ってまたサンドイッチをバクバクと食べる。

 

「早食いは体に良くないんじゃねえの」

 

「おろろ、心配してくれるの? でも大丈夫よ。私、デキると評判の女、櫻井了子、健康には人一倍気を使ってるし」

 

「うん、俺も大丈夫。天才だし。天才物理学者だから。というか、体のことを気をつけて欲しいのは奏の方だよ」

 

「む」

 

 奏が呆れたように言うとサンドイッチを頬張りながら、びしと奏を指差した。

 

「ちゃーんとLiNKERの体内洗浄終わったんだろうな? しなかった時の危険性は……」

 

「あーはいはいそれはもう何度も聞いたよ。耳タコだっての」

 

「ほんとにしたんだろうな?」

 

「したって。ほれ、こうしてピンピンしてるだろ?」

 

「うーん、確かに元気そうだけども」

 

「なんなら今日もう一回出撃してやってもいいくらいだぜ?」

 

「バカ、体内洗浄したからって言っても疲労は残ってんだぞ! 今日は大人しく寝とけ!」

 

「えー、別にもう今日は出撃もなさそうだし槍でも振ってようかと思ったんだけど、だめかなあ、了子さん」

 

「え、私?」

 

 突然話を振られた了子が少し驚いたように目を開く。

 

 ノイズが1日の間に二度出ることなど絶無だ。それを考えると確かに出撃はないと見て良さそうだが。

 

「まあしっかり休んどくにこしたことはないでしょうね」

 

 悩んだ末にとりあえず無難なことを言っておいた。奏は戦闘の天才だがそれでも疲労は残ってるはずだ。

 

「ほれみろ、いいから今日は休め」

 

「へいへい、戦兎は心配性だな」

 

 鬼の首を取ったように言い聞かせる戦兎を尻目に了子がサンドイッチの最後の一欠片を口に運ぶと、手を軽く打ち付けあって指先のパンくずを落として立ち上がる。

 

「さて、そろそろ研究室に行きましょうか。二時間で大まかなチェックは終わらせるわよ〜」

 

「え、もう?! ちょ、待ってくれよ!」

 

 慌てたように戦兎がサンドイッチの残りを口に詰めると、勢いよく立ち上がり了子の背中を追いかける。

 

 が、すぐに振り返って奏をじろりと睨んだ。

 

「ちゃんと休むんだぞ」

 

「へいへい」

 

(ほんとにわかってんのかね、奏)

 

 戦兎は少し不満そうに口を歪めたが、やがて了子の背中を追って走っていった。

 

 それを見送りながら奏は自分もカツ丼をかきこむように食べると、傍に置いてあった水で喉を潤した。

 

「この後、どうするかねぇ」

 

 んー、と天井を見上げしばらく考え込むようにして唸っていたが、何か思いついたように手を打った。

 

 ここで戦兎や了子の忠言を聞いておくなら、自室で休憩などの選択肢になるのだが。

 

「軽く槍振って変えるか。激しく振らなきゃ大丈夫だろ」

 

 そういう程度の問題ではないのだが、天才には残念ながら伝わらなかったようだ。

 

 奏は少し機嫌良さそうに口笛を吹きながら食堂を後にした。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

「それでは駄目だ」

 

「その力には意思がない」

 

「今のままでは意味はない」

 

「何のために戦うのか」

 

「一体何のための力なのか」

 

「忘れてはいけない」

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

「うん、一先ずこの方向で進めましょうか」

 

「え、それって」

 

 戦兎の研究室のかのちゃごちゃした机上を見下ろして了子は、戦兎に向き直ると期待に輝く瞳を向ける弟子の頭を軽く撫でた。

 

「あの設計図一つない、ただの研究理論だった『葛木データ』からよくぞここまで頑張ったわね。褒めてあげる」

 

「え、マジ! やった! 最っ高だッ!」

 

 ぐ、と力強くガッツポーズして奇声をあげながらスキップするという戦兎の奇行からは、静かに目をそらして机上のメカニカルな機構へと目を向ける。

 

(たったこれだけの時間でここまで来たのね。これは本当に()()なのかも……)

 

 心の中でひとりごちて、また戦兎の方へと目を向ける。その薄い紫の透き通った瞳の奥に、金色が僅かに覗くのに戦兎は気づかない。気づけない。

 

 しばらくして、いつものことだしほっとくかと思った了子もこの後に頼むべき用事を思い出し、流石に止めるかと呆れ気味に声をかけようとした時、研究室の扉が小さくノックされる。

 

「奇声が廊下まで響いてるから気をつけてよ戦兎。私は慣れてるからいいけど」

 

 ひょこり、と青色のおさげと一緒に翼が姿を見せる。シャワーを浴びてきたのか頰は少し赤みを帯びて、よくドライヤーで乾かさなかったのか髪がしっとりと濡れていた。

 

「翼ーーーー!」

 

「きゃあ!」

 

「聞いてくれよ、俺先生に褒めてもらったんだよっ! 凄いでしょ! 天才でしょ! 最高でしょ!」

 

「す、凄いから抱きつかないで! 私今お風呂上がりだから!」

 

 戦兎は翼を見るや否や脱兎のごとく駆け出すと、がばりと両手でしっかりと抱きしめた。翼の顔があっという間に真っ赤に染まる。

 

「は、離れて戦兎!」

 

「え? 離れた戦兎? あー、やっぱ人とかけ離れた天才ってわかっちゃうかー、困るなー」

 

「────もう」

 

「いやー、困るな、てんさ──」

 

「離れてって!」

 

「げはっ、脇腹はずるいぞ……」

 

 ズ、と翼の手刀が脇腹に刺さり、戦兎が膝を折ってずるずると地面に突っ伏していく。それを見てふん、と翼が鼻を鳴らす。

 

「いつまでも話を聞かない戦兎が悪いのよ」

 

「でもパンチはひどいと思います、翼選手」

 

「手刀なのでノーカウントです、戦兎選手」

 

「減るもんじゃないしいいじゃん」

 

「私の乙女的な何かが減るので駄目です」

 

 ちぇー、と文句を言いながら立ち上がる戦兎を見て了子がくすりと笑みを浮かべた。

 

(記憶喪失になるとこんなものなのかしらね)

 

 そしてじゃれ合う二人の子どもを先ほどと同じ水晶のような瞳で見つめる。

 

 翼と了子もそこそこ長い付き合いだ。五年前、初めての天羽々斬との適合の検査実験で翼と出会い、二課に移ってからは会わない日はほとんどなかったと言える。

 もちろん記憶喪失の戦兎を連れて来たことも、やって来た戦兎が翼と仲良くなる過程も見ていた。

 妹、というほどではないが姪っ子ぐらいの気持ちではいた。

 

 そんな翼と、自分の愛弟子の戦兎が仲睦まじく付き合ってるのには、少し心が和んだ。

 

「了子さん?」

 

 何も言わない了子の様子を不思議に思ったのか翼が名前を呼ぶと、ハッとして顔を上げる。

 

「ん、なあに翼ちゃん?」

 

「なんか、ぼーっとしてたので。何かあったんですか?」

 

 こてん、と首をかしげる翼。その可愛らしい仕草に了子がにんまりとした笑みを浮かべた。戦兎が嫌な予感がしたのでするっと遠いところへと逃げる。

 

「あーもう可愛いー!」

 

 すると次の瞬間にはがばっと翼を抱いて翼のほっぺたと自分のほっぺたをすり合わせる了子の姿が。

 

「あーほんとに翼ちゃん癒しね。どうかずっと変わらずにそのままでいて」

 

「ず、ずっとは無理です。私も了子さんみたいな大人になりたいですし」

 

 ちら、と翼の目が了子の胸に行く。

 

 それを目ざとく見つけた戦兎がフラットに翼に言い放つ。

 

「翼の胸はあんまり大きくならないと思うよ、なんとなくだけど」

 

「そ、そんなことない! 希望はあるはずよ!」

 

 ない。現実は無情だ。

 

「戦兎くんって結構残酷なこと言うわね」

 

「なんとなくこれは確信できるんだよなぁ、なんでだろ」

 

 そんな事をしていると了子の白衣のポケットから電子音が聞こえてくる。了子が翼を解放して通信に応じた。

 

「なーにー、私今翼ちゃんのほっぺを堪能するのに忙しいのだけれど」

 

『そっちは一体どう言う状況なんだ了子君』

 

「なんだ弦十郎くんじゃない。何の用?」

 

『ミーティングだ。こっちに来て欲しい。技術畑からの意見も欲しくてな。戦兎はそっちか?』

 

「ええ、私と一緒に()()の確認してたの。一緒に連れてくわ」

 

『と言うことはひとまず完成か?』

 

「バカおっしゃいな。あんなもの問題点だらけよ。これからが肝心なくらいよ」

 

『そ、そうか。じゃあ先に人を集めておく、準備ができたら来てくれ』

 

「了解よーん」

 

 ぴ、と通信を切ってふりかえると、そこには戦兎の腕を極めている翼の姿が。

 

「何してるの、あなたたち」

 

「戦兎が『どんなに足掻いてもお前の理想から現実はムネサイズ・ヘルしてるぞ』とか言うから」

 

「戦兎くんのその一言多い癖早く治した方がいいと思うわ、私」

 

 翼限定でやたらと一言多くなってしまうのが戦兎という人間だった。たぶん治らない。

 

 その後了子に仲裁してもらい、戦兎が解放されると、ひとまず戦兎は翼に一言。

 

「ごめん、デリカシーなかったよな」

 

「うん、いいよ。いつか見返すから」

 

「たぶんそれは無理だろ。俺の予想外れる気しないし」

 

 翼が戦兎を追いかけた。戦兎は脱兎のごとく逃げた。

 

 了子はそんな二人を見てため息とともに、また小さく笑みを浮かべた。

 

 

 いつも通りの日常だ。暖かくて、居心地が良くて、帰ってきたいと思えるような、そんな変わらない『あたりまえ』。

 

 それはどこにでもあるもので、誰にもがあるもの。

 

 

 

 

 

 突如、二課内のスピーカーから激しく音が吐き出される。

 

「これって……」

 

()()()? 嘘だろっ!」

 

 今日2()()()()ノイズ警報が鳴り響く。

 

 

 

 

 日常を壊すのはいつだって『理不尽』という名の非日常だ。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノイズ反応を検知! 場所は……嘘だろこの座標は……」

 

「何処だ藤堯!」

 

「新都第三ビル付近上空。真昼間の市街地のど真ん中です!」

 

「市街地だとぉッ!」

 

 弦十郎が目を見開いて叫ぶ。

 

 新都と言えば付近一帯では最も大きい都市であり、様々な会社やショッピングモールなどもある場所である。しかもその真昼間。

 

 この時間帯にノイズが出て、()()()()()()()()()()()

 

 しかも、悪い方向はこれだけでは終わらない。

 

「ノイズ反応、80……98……123……まだ増えます! 出現止まりません!」

 

「司令、この反応『空中要塞型』ノイズが出現していますっ! どう考えても避難が間に合いません!」

 

「おいおい……嘘だろ」

 

 思わず唇を噛んで毒づくと、すぐにあおいからの声がかかる。

 

「司令!」

 

 その声を受けて弦十郎が小さく息をつくと、両手を構えてばちん! と音がなるほど強く頰を挟むようにして叩いた。

 

 すう、と大きく息を吸い込むと、オペレータールームに響き渡るような大声を出した。

 

「お前ら今から指示を出す! 一言一句聞きもらすなよ! 今から俺たちが相手取るのは間違いなく過去最大級のノイズ災害だ!」

 

 瞬時に職員に緊張感が走り、そして弦十郎の指示のもとに慌ただしく動き始めた。

 

 もう人死を出さないのは無理だ。

 

 この時間帯の、都市のど真ん中。しかも朝に一度ノイズ出現しているにもかかわらず、だ。

 どんな極小確率を引き当てているのかなど弦十郎にはわかろうはずもない。ただ、この宝くじに当たるより低いだろう出来事が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ような、そんな荒唐無稽とも言える漠然とした予感があった。

 

 戦争のように激しく動くオペレータールームにのドアを蹴破るようにして、了子と翼、戦兎が入ってくる。

 

「呼ばなくても来てもらえて助かる。今は一秒が惜しい」

 

「弦十郎くん何が起きたの?」

 

「見ての通りだ。新都にノイズが出現した」

 

「──! 数は」

 

「現在感知できているだけで300前後ってところか。だが、空中要塞型がいる以上まだ増えるぞ」

 

「最悪ね。今日2回目なのに、その上これとは」

 

 苛立たしげに了子が爪を噛んだ。研究者である了子はノイズが出てしまった以上できることはない。

 彼女にできるのは、出てくる前に最大限にシンフォギアの調整をするか、出撃後のメンテナンスくらいなのだから。

 

 かつ、と床を鳴らして翼が一歩踏み出した。

 

「叔父様、私行きます」

 

「頼む。もう既にトレーラーは整備班に準備させている。急ぎ向かってくれ」

 

「はい。その、奏さんは……?」

 

「……今日彼女は既にLiNKERを使用している。これ以上は──」

 

「あたしが、なんだって?」

 

 弦十郎の言葉を遮るように扉が開き、奏が姿を見せる。その瞳の奥には、嚇怒の炎が燃え盛っており下手なことを言えば飛びかかられそうだった。

 

「ノイズが出たんだろ? あたしを出せよ」

 

「駄目だ! 奏はもうLiNKERを使ってる! 出せるわけないだろ?!」

 

「体内洗浄は終わってる。問題ねえよ」

 

 戦兎に一言返して、奏は弦十郎へと目を向ける。

 

「やべえ状況で人手がいるんだろ? 出せよ」

 

「しかし……」

 

「こうしてる間にも人が死ぬんじゃねえのかよ! あんたらは人を守るのが使命なんだろ! ならその為に必要なことやってくれよ!」

 

「ーーー」

 

「あたしなら、大丈夫だから」

 

 弦十郎と奏がしばし無言で見つめ合い、互いの瞳の中を覗き込む。奏は弦十郎の迷いのある揺らめく赤を。弦十郎は奏の瞳の奥で燃える決意の意思を。

 

 天羽奏は確かに変わった。

 

 いや、以前からの彼女の知り合いならば()()()と表現するだろう。両親が、妹が死ぬ前に。

 しかし、奏の在り方は既に昔と比べるとどうしようもなく歪んでしまっている。

 

 いかに励まされようと、希望を持とうと、その在り方は未だ『復讐者』としてしかあり得ない。

 

 弦十郎は静かに奏でから目を外す。

 

「了子君にトレーラーに同乗してもらう。それで最大限メディカルチェックを受けながら現場に向かい、異常があれば出撃させない。途中で身体に異常が出ても撤退。これが条件だ」

 

「……心配しすぎじゃねえの」

 

「俺は奏君をむざむざ死なせるつもりはない。呑めるな」

 

「…………ああ、わかったそれでいい」

 

 奏が満足そうに、唇の端を吊り上げてオペレータールームを出て行く。

 弦十郎がごしごしと眉間のシワを伸ばしながら了子へと目を向ける。

 

「了子君話は聞いていたな、後は任せたぞ」

 

「はいはい、人使いが荒いんだからもう! ほら、翼ちゃん! 奏ちゃん! 早くトレーラーに向かうわよ!」

 

 了子がじっと奏を見つめていた翼の背中を軽く押すと、はっとしたように翼もトレーラーへと歩き出す。

 

「翼」

 

 その途中、ずっと静かに見守っていた戦兎から声をかけられる。

 

「奏を、頼む。あの子を一人ぼっちにしないでやってくれ」

 

 唇を固く結び、拳を強く握りしめながら、でも目線は翼に向けず、ただ静かに。

 

 託された、と思った。

 

 だから、自然と声は出ていた。

 

「私は、防人。奏さんのことも守ってみせる」

 

 そして決意を確かめるように強くペンダントを握った。

 

 

 

 

 後に始まる『ノイズの異常発生期』。

 

 その先駆けとも言われる一日が、日に二度目のノイズ出現という異常事態とともに、静かに幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





イチイバル:なし

翼使用可能技:「蒼ノ一閃」「逆羅刹」
奏使用可能技:「STARDUST∞FOTON」「LAST∞METEOR」

奏者遠距離攻撃手段なし

敵:『空中要塞型』と愉快な仲間たち(第一陣)

守る対象:一都市に住む全一般人

霧生戦兎:現状出撃不可能

ウルトラハードモードのノイズバトルはーじまーるよー

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