────古の闇より────

───目覚めしモノは───

───正義か。悪か。───


仮面ライダークウガを自分が見たい形にしてみました。

原作の設定をかなり弄りまわしてしまってるので不快に感じる方もいるかと思いますが我慢して読んでください。

おおよそ15時間かけて頑張って書きました。感想お待ちしております。




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【二次創作】仮面ライダークウガ【読み切り】

 ────太古の地球。まだ、世界が一つの大陸で繋がっていた頃。未だ明かされていない文明があった。

 多くの生物が弱肉強食という大自然の掟に従い、殺し、殺され、食し、食され。他の命を奪うことで己の糧としていた頃。

 

 一切の殺しをせずに文明を築いた種と、逆に殺しを行うことで文明を築いた種がいた。

彼らは自らをこう名乗った。

 

 『リント』と『グロンギ』と。

 

 リントの文化に『食事』は無く、その為彼らは殺しを必要としなかった。

 一方グロンギの文化は『食事』抜きでは語れず、それ故どの種よりも殺しを必要とした。

 

 二つの文明が栄えていたある時、地上を大災害が襲った。天から落ちてきた岩の塊が原因か、その前後に起きた地上最大の山の怒りが原因か……。大地は震え、気象は荒れ、多くの種と文明が滅びた。

 

 そして……滅ばなかった種もいた。リントとグロンギもそのひとつだった。

 

 しかし折角生き残っても──食事を必要としないリントは問題としなかったが──グロンギにとっては大きな問題が起こった。己の糧とすべき種が滅んでしまったのだから。

 多くのグロンギが餓死していく中、心優しきリントは彼らを救いたいと願った。そうして自分たちと同じチカラを与えた。

 

 そのチカラは『アマダム』と呼ばれる大岩のかけらを腹部に埋め込むことで得られた。自らの身体能力や五感を強化し、食事と排泄を必要としなくなる。まさに奇跡のチカラ。

 

 グロンギは大層リントに感謝した。これで滅ばずに済むと。

 

 だが、いつの世も平和は長くは続かない。グロンギは退屈になった。

 

 彼らは気付いた。気付いてしまった。自分たちの文明の起こりを。『なんの為に殺していたのか』を。

 

 彼らは。思い出してしまった。

 

 『殺戮』という『最高の快楽』を。

 

 そして彼らは。自らを救ってくれたリントを。殺戮の対象に選んでしまった。

 

 

 

 彼らは多くのリントを快楽の為に殺戮し続けた。腹部のアマダムは変質し、その肉体を怪物へと変化させた。怪物となったグロンギ達を止める為、リントは戦士を育てることにした。戦士には若き青年が選ばれた。

 リントにとっては今までにない『闘う』という選択。苦しみながらも青年は成長し、やがてその肉体を変質させた。

 ある時は炎の様な赤い眼で怪物を打ち倒し。

 ある時は流水の様な青い眼で怪物を薙ぎ払い。

 ある時は疾風の様な緑の眼で怪物を射抜き。

 ある時は地割れの様な紫の眼で怪物を切り裂き。

 

 最期には自分ごとグロンギの王を棺に封印したことで、リントとグロンギの戦いは終焉を迎えた。

 

 

 ────────はずだった。

 

 

 

──1988年 日本 長野県 弥津ヶ岳遺跡──

 最近発見された遺跡。そこには日本でも有数の研究者たちが集まっていた。老若男女を問わずチームが編成され、東京に残って文字などを解析する支援班と実際に現地で調査する実働部隊に分かれていた。

 今、彼ら彼女らにとって人生最大の緊張と興奮が体を支配していた。それはこれから自分たちが歴史が変わる瞬間の目撃者となれるかもしれないという期待と、『ハズレ』かもしれないという恐怖から来るものだった。

 

「じゃあ……開けるぞ……!」

 

 老齢な研究者が周りに声をかける。全員の首が縦に振られたのを確認し、石棺に手をかける。

 もちろん素手で開けるのではなく、彼が手をかけることがその石棺の蓋を開ける合図だっただけであり、その合図を受けて助手の一人が装置の電源を入れる。装置に結び付けられたロープが巻き取られ、その先に結ばれた蓋を少しづつ開けていく。

 全員が一点を見つめる。棺の蓋……いや、正しくはその下。まだ見ぬ『中身』を。見つめる。

 

 

 

 一番最初に異変に気が付いたのは合図を送った研究者だった。

 

「?」

 

 今……なにかが動いたような。

 

 

 

 

 手が伸びてきた。

 

 

 

 

 周りが、本人が、認識するよりも早く。伸びてきた異形の手は一番近くにある命を掴み、そのまま奪い取った。

 

 あまりに早い出来事に誰も何も反応出来なかった。遅れて、状況を理解した全員が、絶叫し、あるものは出口に向かい、あるものは腰を抜かして立てず、あるものは恐怖に耐えられず失禁した。全員がパニックになってる間に今度は石棺が爆発した。

 火薬は誰も使ってない。しかし、粉々にソレは吹き飛んだ。石棺の破片が運悪く頭部に命中した何名かが即死し、他の部分に当たった者は大けがを負いながらもなんとかここから逃げようとする。

 が、石棺を吹き飛ばした『中身』がそれを許さなかった。

近くにいるものから次々に命を奪い、逃げようとする者たちの背中にその亡骸を投げつけた。

 『中身』の剛腕によって投げられた肉の塊は十分凶器となり、また命を奪った。

 

「……クウガ……!」

 

 静かな怒気を含んだその声が遺跡内に反響する。

 『中身』は自らが吹き飛ばした石棺だったものの中に腕を突き刺し、何かを握って取り出した。

 

 ソレはベルトのようだった。

 

「ボンバロボ……!」

 

 『中身』は何事か呟きそのベルトを地面に叩きつけ────ようとしてやめた。

 

 

 何を思ったのかベルトを見つめる。静かに。どこか愛おしそうにも見える眼差しで。

 

 

「……」

 

 

 何も言わず、ベルトを持ったまま遺跡の外へ出る。

 

 

 

 長い階段を抜け、いつ以来かの月を見る。満月だった。特に感慨深そうにするわけでもなくそのまま歩き出す。まっすぐ。道なりに。

 

 そうして『中身』が歩いた足跡が不自然に『盛り上がった』。

 

 足跡から次々に手が、頭が、出てきた。

 

 

「《みんな起きて。今夜は満月だ。とってもきれいだよ》」

 

 『中身』が言う。答えるように次々に怪物が地面から出てくる。

 

 

 

 

「《さあ。ゲームを始めようか……》」

 

 

 

 

──翌朝 同場所──

 

 今朝方未明、県警に通報があった。通報者は日本有数の研究機関の研究者だった。「本来なら連絡をくれるはずだった時間になっても来なかった為連絡を取ろうとしたところ昨夜未明から一切の連絡が取れない」とのことだ。なんらかの事件に巻き込まれたと見て俺達が現地へ駆けつけた。

 おそらくはこの階段の下に……。

 

「お疲れ様です」

 

 声をかけられた。その方向に顔を向けると、後輩の──

「杉田か」

「はい」

「お前今日は非番じゃなかったのか?」

「そのはずだったんですがね……」

「……お互い大変だな」

「いえ、一条さん程では」

「俺か? 俺は別に……」

「水臭いですよ。今日でしたよね。息子さんの誕生日」

「……お前なんで知ってるんだ?」

「科警研からの情報……と言えば伝わりますか?」

「……榎田め。」

「今からでも遅くはありませんよ。戻ってあげてください」

「……父親としてはそうすべきだとは思う。だがな、俺は父親である前にデカだ。そして、それを女房も息子も理解している。中途半端に帰るような姿は見せたくない。こういうのは言い訳だが……。俺は薫を信じてる。こんなことで腐ったりしないヤツだってな」

「……あとで嫌われても知りませんぜ?」

「気持ちだけ受け取っておくよ。杉田、行くぞ」

 

 そう言って俺は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 現場に辿り着くと酷い有様だった。

 血や体液、糞尿が混じった匂いが立ち込め、むせ返るようだ。転がる物体が人間だったと判断できないものも少なく無く、多くの現場を見てきたが────ここまでのものは今までになかった。

 

「酷え……」

 

 隣の杉田がぼやく。遅れて入ってきた他の者達も一様に顔をしかめるか口元を手で抑えていた。まだ日の浅いヤツなんかは降りてきた階段をそのまま戻ってしまった。今頃胃の中を空っぽにしてることだろう。

 実況見分しようにも、誰が見ても明らかに人間の行った犯行ではないことはわかる。

といっても。いくら山の中とはいえ熊や猪がやったとも考えられない。ともすれば人間しかありえないのだが……。この現場から察するに、犯人はもうとっくに人間の心を捨てちまってるのだろう。

 

「警部補!」

「どうした?」

 

 先に現場に入っていた鑑識から呼ばれ、そちらに歩いていく。

 

「これを……」

「ん?」

 

 鑑識に言われるままに視線を向けると、他の被害者とは様子の違う男がいた。

 

「なんだこれは」

「私にもさっぱり……」

「一条さん! どうかしましたか!?」

「杉田。お前、これをどう思う?」

「『これ』? ────ッ! こいつは……!」

「他のガイシャと明らかに違うんだ。……死因がな」

 

 その男はミイラになっていた。どうしてこの男だけがミイラにされたのもわからないが、なによりわからないのがなんでミイラになっているのか。ということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局なにも掴めるものはなかった。遺留品も調査隊の物と思われる機械や器具を除けば何もなく、遺体は何とか回収してきたが……司法解剖するにしても、復元するにしても時間がかかるそうだ。

 缶コーヒー片手に紫煙を燻らせ考えてみても何もわからない。まるで映画か何かの登場人物になったような気分だ。『未知の存在と戦うスーパーマン』の役割は自分ではない。もしも本当にその『未知の存在』とやらがいるのなら、間違いなく自分は何もできずに殺されるだけだろう。

 

「……いや、死ぬのはゴメンだな」

 

 そう言って自嘲気味に笑うのが今の俺に出来る精一杯の強がりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──事件発生より3日後 長野県 禅幸寺──

 

 

 

「ハーイ! 写真撮りますよー! 笑って笑ってー!」

 

 活気のいい声が響く。インスタントカメラを持つ青年の声だ。

 

「ハイ! チーズ!」

 

 シャッターが切られる。が。

 

「まだまだ! 笑顔がぎこちないですよー! もう一枚いきまーす!」

 

 青年はもう一枚撮ろうとする。

 

「いいですよー。多少はー……」

 

 被写体となっていた集団の中から一人の少女が声をかける。しかし、青年は。

 

 「ダメダメ! 君達修学旅行生なんでしょ? 一生に一度の思い出になるんだよ? もっとちゃんと写らなきゃ!」

 

 と、カメラを手放そうとしない。

 

 別に彼は仕事で撮ってるわけではない。ただの通りすがりである。ただ、普通の人に比べておせっかいなのである。だから見ず知らずの修学旅行生を相手にこだわりの写真を撮ろうとしてる。

 しかし当の修学旅行生達は……。

 

「お気持ちは嬉しいですけど、そのフィルムだって限度があるんです。他にもまだ色んなところで写真を撮りたいので無駄遣いしたくないんです」

「無駄遣い? 無駄遣いじゃないよ! 立派に綺麗な写真を撮るためには必要な犠牲だよ!」

「私たちはアイドルじゃないんです。一枚一枚にそんなにこだわりません。ってゆーかブレたりピンボケしてるのも含めて楽しんでるんです!」

「そう! ブレたりピンボケしてたら……。え?楽しみ?」

「例えばここに来る前の佐奈田邸で撮ってくれたお爺さんは手が震えていたから絶対ブレちゃってるだろうし、河半島古戦場で撮って貰ったお姉さんは性格わるそうだから誰かひとり見切れてそうとか。それを予想しておいて、現像された時の楽しみにとっておくんです」

「う~ん……。綺麗に撮れてた方がいいと思うんだけど……」

「それはあなたの価値観でしょ? 私たちにおしつけないでよ!」

「っ!! ……そっかぁ。ゴメンね……」

 

 少女に強めに怒鳴られ、青年がわかり安く落ち込む。それを見た少女は慌てて謝り返す。

 

「あ、いや、その、確かに、おにいさんの考えの方が一般的ではあると思いますし、私もちょっときつく言いすぎちゃいました。ごめんなさい……」

「いや、俺の方こそ……。あ、コレ返すね」

「あ、ありがとうございます」

 

 カメラを渡した後、少し気まずい空気が流れてしまう。このまま別れたくない青年はなんとか場を盛り上げようとする。

 

「あ! それじゃさ、お詫びにいいこと教えてあげる! この辺に『こがねいろ』っていう名前の喫茶店があるんだけど、そこのコーヒーとカレーがすっごくおいしいんだ! 良かったら行ってみてよ!」

 

 青年が何を意図してるのか。当事者である少女も察した。

 

「わぁ! わっかりました! ありがとうございます!」

「じゃ! 俺はこの辺で!」

「ハイ! 写真ありがとうございました!」

 

 青年と少女はお互いに気持ちよく別れることができたので満足し、そのまま逆方向へと歩いて行った。

 

 

「やーっぱ世界は広いなあ!」

 

 この青年。名を五代譲と言う。現在21歳。高校卒業後すぐに『日本全国津々浦々珍道中の旅』なるものを始め、自分の故郷である北海道を巡る。が、それに飽き足らず遥々フェリーに乗って本州へ渡り全国各地を転々としているのだ。

 

 「う~ん……。よし決めた! やっぱり海外も見に行こう! それならまずは英語学ばなきゃな~。ウシシ! やるべきことは山積みだぞ~!」

 

 誰に言うわけではない独り言を大きな声で言いながら彼は笑う。これからの未来を想って。

 

 

 ───直後。

 

 まるで何かが爆発したような音と悲鳴が聞こえてきた。方角は……。

 

「────ッ! さっきの子たちの方だ!!!」

 

 思わず駆け出していた。

 

 五代は幼少の日より『なにかあった時大切なものを護れる強さが欲しい』と格闘技を習っていた。高校時代では大会優勝の常連でありプロへの道を進められる程の実力だった。だが彼は『夢』を優先させた。彼の夢は『世界中の人と、ともだちになること』。彼は今、そんな夢を叶えてる真っ最中である。

 そして、五代にとってはさっきの少女たちはもう『ともだち』なのである。こんな時の為に習ってた格闘技。使わず済むならそれに越したことはないと思いつつ、最悪の場合を想定し、走る。

 

 ──着いた。が。

 

「え……?」

 

 そこには五代が全く想定していなかった景色が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 蜘蛛がいた。

 

 

 

 

 

 ヒト一人分程の大きさの蜘蛛が。

 

 

 

 

 いや、よく見れば蜘蛛ではない。

 

 

 

 八つ生えている足の先には人間の手の指の様なものが五本ずつ。蜘蛛の頭の代わりに髪のない人間の頭のようなものが生えていて、その口は歯が外側に向かって乱雑に並び、時折呻き声の様なものが聞こえる。目は大きな眼球が二つ不気味に動き、その下には一回り小さい眼球が四つ並ぶ。鼻があるべき位置には穴が二つ空いてるだけであり、空気の抜けるような音が聞こえる。身体の構造は蜘蛛そのものであり、人間の骨格を成していない。

 五代は慌てて先ほどの少女たちを探す。しばらくして……蜘蛛の奥にいるのを見つけた。

 どうやら蜘蛛は少女たちにも自分にも気付いていない様だ。

 

 五代は蜘蛛の生態については詳しくないが耳はいいのか悪いのかを考える。それによっては少女達をどう誘導するべきかが変わる。

 わからない場合は最悪を想定する。この場合で言えば、『目はよく耳もいいし鼻も利くが、今は運良く見つかっていないだけ』ということ。即ち『視界に入らず音も匂いも出さず』誘導しなければならない、ということだ。

 なんとか蜘蛛の視界から自分の姿を外すため、建物の影に隠れる。ただ隠れるのではなく、建物を迂回し、蜘蛛の視界から逸れるルートで少女達に接近する。幸い、この辺りは先ほど散策していたので少女達の元へ向かうまでに時間はかからなかった。

 怯えてる少女達を驚かさないようにそっと近づく。驚かしてしまえば間違いなく声をあげてしまう。そうなれば水の泡だ。慎重に、少女達の元へ行く。

 

「あっ……!」

 

 一人の少女が五代に気付く。先程五代と喋っていた少女だ。

 

「おにいさん……!」

 

 安堵から少女の目には涙が浮かぶ。

 

「もう大丈夫! さぁ、早く逃げよう! こっちだ!」

 

 五代が誘導し、少女達は蜘蛛から逃げる。その時。

 

「あっ!!!」

 

 一人の少年が躓き、転んだ。

 

「いててて……」

 

 五代が慌てて駆け寄る。

 

「大丈夫!?」

「大丈夫です。ちょっと擦りむいただけで」

 

 蜘蛛が振り向いた。

 

「「!?」」

 

 五代と少年が気付くより早く、蜘蛛が腹部を向けて糸を出した。

 

「うわっ!」

 

 少年の上着に糸が付くと、蜘蛛はその糸を今度は自分の方に引き寄せた。

 

「うわああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

 少年が引きずられていく。

 

「やめろおおおおおおおお!!!!!」

 

 五代が慌てて足に飛びつくが一緒に引きずられてしまう。

 

「おにいさん! 大介!!」

 

 少女も咄嗟に飛びつこうとするが他の者達に止められる。

 

「駄目だよ実加!」「やめろ! 行くな!」「離して! 離して! このままじゃ!!!」

 

 少女がこれから起こる悲劇を止めたい一心で叫び、足掻く。だが、届かない。なにもできない。

 

「ああああ!!!! やだやだやだやだ!!! ああああああああああああああああ!!!」

 

 少年が涙を流し、自分の運命を拒絶する。

 

 五代は気付いた。たった一つ、脱出する方法を。

 

「……! 服だ! 服を脱げ!!! 早く!!!」

 

 少年がその声に本能的に従い、慌てて上着のボタンをはずす。すると、服だけが蜘蛛の元へと引きずられていった。自らの元へやって来た服を蜘蛛は、一本の足で踏みつけた。───地面にめり込むほどの力で。

 

 そして、再び目玉を忙しなく動かし鼻から空気を漏らす。しばらくして……。もう一度こちらに振り向き……。

 

 

 

 

 糸を出してきた。

 

 

 

「うぅわ!!!」

 

 今度は五代の方が早かった。なんとか少年ごと横へ跳び糸を避ける。糸は二人のすぐ後ろにあった木に当たった。

 

 五代は想定し、構えていた。先ほどと同じになると。理由は二つ。

 

 一つ目は蜘蛛はこちらの声に反応したわけではなさそうだと判断したこと。もし、声に反応するほどの聴覚ならば自分の足音や会話で気付いたはずである。それを想定し大きな声を出さず足音を殺していたことを差し引いたとしても少年が転ぶ間際に発した声で反応出来たのであれば自分が少年に駆け寄る隙は無かった筈である。故に『蜘蛛は聴覚によってこちらを認識しているのでは無く、こちらがどれだけ静かにしていても無意味である』と仮説を立てた。

 二つ目の理由は、この少年に『ピンポイントで』狙いをつけてきたこと。それはつまり蜘蛛にとってこの少年を認識させる何かが、この少年に『のみ』あるということ。 今、この集団において少年にのみ起こってる現象、事象。それは・・・『出血』である。

 擦りむいた程度でも出血は出血。血の匂いが引き寄せたのではと五代は予測した。そして、それらの仮説は全て証明されたようである。

 

 蜘蛛はその醜悪な口を歪ませて先程糸が当たった木を自分の方に引き寄せた。そして、少年に予告するようにその『糸の強さと自身の怪力によって引き抜かれた木』を粉々に砕いた。

 五代は少女達に向かって声を出す。

 

「みんな! 逃げて! この子のことは任せて! 早く!」

「でも!」

「いいから早く! 行けえ!!!」

 

 少女達は一瞬躊躇するも、その場から離れるために逃げた。

 

「待って! 行かないで!」「君は俺と!」「離せよ!!! あんた俺を殺す気か!?」「違う!」「うるせえ! 離せ!」「頼む、落ち着いて!」「離せよ!」「落ち着け!」「やめ」「落ち着けッ!!!」

 

 五代の迫力に少年が押し黙る。

 

 蜘蛛は待ってくれない。もう一度糸を少年に向けて放った。

 

「!」

 

 五代は少年を抱えたまま一番近くの建物の影に飛び込み糸を避ける。

 

「あの蜘蛛は君だけを狙ってるみたいなんだ! 多分その出血が原因だ。だから」

 

 五代は自身のシャツを脱いで破き、出血した箇所に巻き付ける。

 

「なにやって」「君は動かないで」「……はぁ!?」

 

 少年は益々憤る。

 

「それってやっぱり死ねってことじゃねえか!」

 

 五代はなにも答えず、少年の肩を掴み、目を合わせる。

 

「信じて」

「は?」

「絶対君を護る。こんなとこで死なせやしない」

「……」

 

 今度は五代の迫力ではない、別の何かを感じて少年は口を閉じる。

 

 五代は自分の右肩に少年の胸が来るように、少年の股下に左腕を通し、担ぎあげる。左腕で少年の左足を抱えつつ少年の左腕を掴む。

 

「君、名前は? 俺は五代。五代譲」

「……。大介。大介です」

「大介くんか。行くよ!」

「…………はい……!」

 

 建物の影を飛び出し五代は駆ける。少女達とは反対方向へ。全速力で。

 

 蜘蛛は匂いが遠ざかっていくのを感じた。獲物は逃がさない。今度はその足で走る。匂いの方向へ。

 

 

 

 

 五代はただまっすぐ走るのではなく、他の匂いが強くなるところを目指して走った。匂いを混ぜ、複雑にするために。幸い、先の騒ぎで多くの住民や観光客はみんな避難できたようである。つまり。自分達が逃げ切ることだけに専念できるということ。

 土産屋の饅頭を散らかし、出店の牛串のタレをひっくり返し、燃えてない線香を掴んで体にこすりつける。少しでも血の匂いを誤魔化しながら全力で走る。

 

「なぁ! あんた!」

「なんだい!?」

「いいのかよ!? あんなんにして!」

「後で弁償する!」

「そういう話かよ! いくらなんだって」「君の!」

 

 五代は、笑って答える。

 

「大介くんの命に比べれば! 安いもんだって!」

「…………」

 

 思わず、黙ってしまった。不思議だった。何故『今日会ったばかりの』自分にここまで言えるのか。何故そんな相手の為に危険を冒せるのか。

 

 大介には、わからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく走って、振り返るとそこにはもう蜘蛛の姿は無かった。振り切ったらしい。

 

「あぁ~~~~!!! 疲れたぁ!!!」

 

 五代は大介を下ろし、地面に寝転がる。

 

「あの……」

「ん?」

「……ありがとうございます。それと、すみませんでした」

「なにが~?」

「俺、あんな無茶苦茶言って。それに助けて貰っちゃって」

「あぁ。そのこと? いいよいいよ。気にしない気にしない」

「でも……」

「それよりさ、見てよ。青空」

 

 五代に促され、大介は空を仰ぐ。

 

「……キレイです」

「でしょ? 俺さ夢があるんだ」

「夢……ですか?」

「うん。夢。世界中みんなと、ともだちになること。どう?」

「はぁ……」

「あははは! ちょっと引いたろ!」

「いえ……」

「俺さ、この青空が大好きなんだ。雲一つない青空が。そんな大好きな青空をさ。世界中の人たちと一緒に見てたいんだ。そんでこうやって地面に寝っ転がって昼寝する。それってきっと楽しいと思うんだ!」

「……」

 

 大介も隣の五代に倣って寝転んでみる。視界には雲一つない青空が広がる。

先程の緊張から解放されたこともあり睡魔が襲ってくる。

 

「あぁ……。確かに……。……いいもんですね」

 

 目を閉じる。このまま地球と一つになるかの様に眠りに落ちそうになる。

 

 

 

「────ッ!!!!」

 

 

 

 

 大介の身体が突き飛ばされる。完全に油断していたこともあり、大介は受け身もとれずに転がった。

 

 無理やり覚醒させられた脳と身体に走る鈍痛を堪えながら必死に起き上がり何が起こったのか見ようとすると。

 

 

 

 

 蜘蛛がいた。

 

 振り切ったはずの。自分を執拗に追いかけてきた。醜悪な怪物が。目の前にいた。

 

 

 

「ヒッ……!」

 

 

 

 あまりの恐怖に腰が抜ける。声も出ない。ふと、違和感を覚える。

 

 

 

 

「……五……代……さん……?」

 

 いない。恩人が。先程まで自分の隣にいた人間が。いない。

 

「五代……さん? ……五代さん? ……五代さん!?」

 

 安否を確かめる為。というより。救けを求めるため何度も呼ぶ。が。返事はない。

 

 

 蜘蛛が笑った。一歩一歩。こちらに近づいてくる。目が合った。

 

 

 

 

 六つの目のすべてと目が合った。

 

 

 

「……! 来るな……! 来るな……!!! 来るなぁ!!!」

 

 這いずって距離を取る。立てない。走らなきゃ。でも、立てない。殺される。殺される・・・! 殺される!!! 冷静な判断ができず混乱し、同じところを周る。事実上の思考停止状態。

 

 

「ああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

 

 絶叫が聞こえた。

 

 

 大介ではない。しかし大介の聞き覚えのある声。

 

 

 

「……! 五代さん!!!!!」

 

 

 そこには怪物に角材を持って立ち向かう五代の姿があった。安心する。根拠もなく、またこの人が救けてくれると。そう信じて疑わなかったが。大介は気付いてしまった。

 

 

 

「五代さん……!?」

 

 

 五代は左腕を不自然にぶら下げていた。さらに、着ている服も赤黒く変色している。

 

 

 

「……っ大……丈夫? ……大介くん?」

「俺は、俺は大丈夫です! っけど、五代さんは!?」

「そか……。よし、走って!」

「え?」

「早く! ここは! 俺が食い止めるから!!!」

「そんな無茶だ!」

「大丈夫!」

 

 ぶら下げていた左腕を、肘から先だけ上げて、サムズアップを見せる。

 

「俺。こうみえてもけっこー強いから。だから! 走れ! 大介!!!」

「……!」

「行けえ!!!!!」

 

 

 大介は何とか這いずりながらも立ち上がり少しずつ走り出した。

 

 

 

 蜘蛛は、もう大介を見ていない。目の前にいる新しい獲物に夢中だった。

 

 

「《お前……。いいなぁ……。クウガの他にも……。俺達に向かってくるリントがいたのか……》」

「?」

「《楽しませてくれよ……。俺は……早く……『ズ』に上がりたいんだ……》」

「(……なにか喋っているのか?)」

「《俺は……『ベ・グムン・バ』……。この『エキシビションゲーム』をクリアして……『ズ』に上がる男だ……》」

「なに……喋ってんのかわかんないけど……! 来るなら来い!!!」

 

 蜘蛛は五代の咆哮に答えるように飛び上がった。

 

「!!!!」

 

 そして五代に向かって落ちてくる。

 

「ボディプレスなんて……! 食らうかよ!!!」

 

 転がって避ける。身体中に激痛が走る。

 

「ぐぅ……!」

 

 感覚から言って、おそらく内臓までのダメージはない。全身にひどい打ち身と骨の何本かにヒビが入る程度。左腕は……恐らく肩がやられている。酷い痛みで動きたくはないが、今動かなければ最低でも自分が。最悪は先の少年少女達が殺される。

 

「うおおおおおお!!!」

 

 右腕に持った角材を思いっきり蜘蛛に向かって投げる。牽制に位はなるはずだ。

 

 「フン!」

 

 蜘蛛は角材を一番近い足で払う。改めて五代に向き合う。と。

 

「はぁあッ!!!」

 

 五代の、助走をつけた渾身の前蹴りが蜘蛛の顔面をとらえた。

 

「……!」

 

 人間と違い、潰れる鼻はないが、代わりに外側に向かって生えていた歯の何本かをへし折った。

 

「ッ! シィッッ!!!」

 

 そのままの勢いを殺さず今度は右のフックを打ち下ろし気味に、左側頭部目掛けて打つ。

 

「……!? グゥ!?」

 

 効いてる。手応えを感じる。如何に怪物の様な見た目を、大きさをしていようと生物的な弱点はそうは変わらないと五代は考えていた。

 鍛えた自分の身体と技術は、必ず通用するはずだと信じていた。そこに頭があるのなら。そこに脳があるはず。蜘蛛は本来頭部と胸部が独立せずに融合している。しかし──この蜘蛛が元人間だったとは考えたくはないが──だったとすれば、『頭胸部に脳がある』のではなく『頭部に脳がある』はず。

 それならば、なにも変わらない。弱点である頭部に攻撃を集中させ、脳にダメージを与えて倒すまで。

 

 一気に接近でき、相手がひるんだこの好機。逃すわけにはいかない。

 

「ハァッ!!! シィッ! シィッ!」

 

 動かしたくない左腕を無理やり動かし、両腕で頭部を抱え、左右連続して膝蹴りを見舞う。ついでに眼球も狙う。見えてるのか見えて無いのかはわからないが、潰せるなら潰しておいたほうが良いに決まってる。それだけこちらが有利になる。

 

「ハァッ! ぜぇ……!」

 

 息が上がる。そろそろトドメに後頭部に肘を

 

 

「《そんなものか》」

 

 

 蜘蛛が前足一本で五代の身体をなぎ払う。それだけで。あっさり五代の身体は宙を舞った。

 

 

「っ!!!!!!!」

 

 

 声も出せず。受け身も取れず。木造の建物の壁を突き破って、地面に転がる。鉄臭い匂いが鼻を抜ける。ひどい目眩に襲われる。

 

「っぐ! うぅ……! ……っが……はァ……! うぐ!!」

 

 思わず横へ体を向けると自分の口から夥しい量の血が出てきた。吐血はすなわち……。内臓へのダメージを意味する。どこがどうなってるのかはわからないが、全身のあらゆる箇所の感覚がない。死を予感し、覚悟する。

 

「……さっきの女の子……それに……大介くん……逃げれたかな……。無事だと……いいなぁ……」

 

 もう、自分は助からない。そう思ったら、余計にともだちのことが心配になってきた。

 

「もう少しだけ……生きてたかったなぁ……!」

 

 蜘蛛が近づいてきたのがわかる。自分がどう殺されるのかはわからないが、せめて一思いにやってほしいと願った。

 

「《期待……させやがって……お前ごときを……殺しても……『ズ』にはなれないだろう……。だからせめて……。俺を楽しませて……死ね……》」

 

 それは残酷な宣言だった。尤も五代は何を宣言されたのかわかってないが。この蜘蛛は五代を楽に殺すつもりはない。散々痛めつけてから殺すのだろう。

 

 五代の命が尽きようとしていた。

 

 

 

「《待て》」

 

 

 そこに一人の女がやってきた。服はどこかの民族のような動植物の骸や皮で作られた物を着て、髪には鳥の羽根と思われるものが簪の様に挿されていた。

 

「《バルバ様……》」

「《ダグバからの指名が下った。このエキシビションゲームはそのままスペシャルゲームへと変更され、お前の相手はクウガのみに限定される》」

「《クウガ……? どこに……!?》」

「《焦るな》」

 

 そう言うと、バルバと呼ばれた女があるものを蜘蛛に見せる。

 

「《……! クウガの……! アマダム……!》」

「《ダグバは今の戦いを見ていた。この男にクウガの素質があると見たようだ》」

「《……! 流石ダグバ様……! 見る目がある……! 俺も……コイツが……クウガならと……思っていた……ところだ……!》」

「《……では異論はないな?》」

「《あぁ……! さあ……早く……!》」 

 

 蜘蛛に急かされることに不快感を示した様な顔をしつつも女は五代を見降ろし、そのまま五代の元へしゃがみこんだ。

 

「……お……ねえさん……。あ……ぶ、ない……です、から……」

「……シ、ンパイ、ナイ

「え……?」

 

 女は片言で五代に話しかけると、上着を捲りその手に持っていた──『あの事件の日に棺の中身が持ち出したベルト』を──五代の丹田に近づけた。

 

 すると。

 

「・・・・!!!! うぅううううううぐうううううう!!!!!! …………っあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!」

 

 五代の身体に、ベルトが吸い込まれていった。

 

 五代は全身を襲う激痛に耐えながらある光景を見ていた。

 

 此処じゃない場所。今じゃない時。多くの命が身勝手な理由で奪われ、多くの命が涙を流してる。そして、戦士が現れる。戦士は多くの怪物を封印し、自らも封印した。二度と。こんな哀しみを繰り返さない為に。

 

 光景が変わる。そこはまるで地獄の業火の様だった。

 

 

 

 

 ────そして。声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 『汝、力を欲するか』

 

 『力とは。持たねば護ることは叶わぬが、持てば戦わねばならぬ』

 

 『問うは人。求めるは人。壊す者と。護るもの。力とはどちらにも問われ、どちらにも求められる』

 

 『一度力を欲したならば。求めたならば。手に入れたならば。───なければならない』

 

 『問おう。汝、力を欲するか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「俺。みんなの笑顔を護りたいです。だから、なります……戦士に!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『邪悪なる者あらば 希望の霊石身に着け 炎の如く 邪悪を打ち倒す戦士あり』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五代の身体が熱を帯びる。先程までに負った傷は全て回復し、筋肉が隆起する。

 

「《……!》」

 

 蜘蛛が笑う。目の前の戦士の覚醒に。

 

「《グムンよ。スペシャルゲームのルールはわかっているな?》」

「《……俺は……クウガのみを……標的とする。クウガを……殺した……ときにのみ……ゲームが成功する……!》」

「《……お前は『ベ』だ。故に、ゲームに成功したとしても『メ』だ。……わかっているな?》」

「《わかって……いる……! 早く……! やらせろ……!》」

「《……もういいぞ》」

 

 

 女が、宣言する。蜘蛛が五代に襲いかかる。

 

 

「クウウウウウウガアアアアアアア!!!!!!!!」

 

 寝ている五代を容赦なく踏みつけようとする。

 

 

「!」

 

 蜘蛛が足で踏みつけた先は、地面が破壊されてるだけであった。

 

「・・・ギヒッ」

 

 蜘蛛がまた笑う。待ち望んでいた強敵が現れたから。

 

 

 

 

 

 蜘蛛の視線の先には。

 

 人間と同じようなシルエットでありながら。その頭には人間にはない、黄金の角を供え。口元は銀色に光る牙のようなものが覆い。その両の眼は肥大化し、炎が燃え盛るかのような赤色をしていた。

 黒光りする全身の筋肉に、急所を護るために硬化した甲殻のようなものが張り付いている。張り付いている箇所は上半身を主とし、下半身は膝と足首にのみ留まる。その甲殻も眼と同じ様に赤い。

 

 赤黒色の戦士が立っていた。

 

「《赤の……クウガか……。殺し甲斐が……ある……!》」

 

 バルバと呼ばれた女はいつの間にか姿を消していた。今この空間には蜘蛛と戦士のみがいる。

 

 

 戦士は……。五代は……目の前の蜘蛛を改めて観察した。

 

 そして構える。両腕を高くあげ頭部を守りつつ、顎を引いて丹田を張り、背筋を伸ばす。膝は曲げず、足は肩幅に開く。呼吸を、意識する。

 

 蜘蛛は距離を縮める為、糸を放った。戦士にあてる目的ではなく、あくまで戦士の得意とするであろう接近戦で戦うため。

 

 

 

 

 戦士はあえて糸を左手に巻き付けた。

 

 

 

 

「!?」

 

 

 蜘蛛は混乱する。何をやってるのか理解できない。やつはコレの恐ろしさを知ってるはずだ。

 

 

「《っ……!!! なァめるなああああああ!!!!》」

 

 

 蜘蛛は糸を引き寄せる。当然、戦士も引っ張られる。

 

 

 

 しかし。まさにそれこそが、戦士の狙いだった。

 

 

 

 引っ張られた勢いをそのまま生かして、姿勢を制御し、蜘蛛の顎を正確に蹴り抜いた。

 

 

 

 

「ッ……!? ……ッカ……!」

 

 

 

 蜘蛛は崩れる。立ち上がれず、痙攣したまま呻き声を漏らす。

 

 

 

 戦士はその蜘蛛の背に跨り頭を左手で押さえつけた。

 

 

 

「《……な……にを……!?》」

 

 

 その体勢のまま右の拳をハンマーの様にして、人間であれば延髄があるべき部分に何度も打ち下ろす。

 

 

「……! ……ッ!」

 

 

 蜘蛛は身の危険を感じた。初めてのことだった。

 

 

「ッガァアアア!!!」

 

 悪あがきで脱出し糸を使って逃走を図る。だが。

 

 

「ッハァ!」

 

 足を掴まれ、強引に投げられてしまう。

 

 地面に叩きつけられて蜘蛛はよろめきながら立ち上がる。あれほどまで望んだ強敵との邂逅を今は後悔していた。

 しかし、逃げようとしても逃げられず。かといって目の前の存在を殺せるとは思わない。

 

 全てが吹っ切れた蜘蛛は戦士に向かってヤケクソ気味に走っていった。なにも考えず。本能に身を任せて。

 

 

 戦士は右足が熱くなるのがわかった。腰を低く構えた。なにも考えず。本能に身を任せて。

 

 

 

 

 

 両者が激突する。

 

 

 

 

 蜘蛛の足はどれ一つとして戦士に触れず、逆に戦士の右足は、吸い込まれるように────蜘蛛の顔面をとらえた。

 

 

 蜘蛛は苦しみ、悶える。しかし……笑顔だった。

 

 

「《いいぞ……! 今度のクウガはいい……! きっとゲームは盛り上がる……! ダグバ様もさぞ……!》」

「はぁあ……はぁあ……」

 

 戦士はその肉体を元に戻す。そこにはケガ一つない五代の姿があった。

 

 

「《クウガよ……! ……ゲームを! ……盛り上げろ!!! ……我らの為に……! その命を……! 力を……使え!》」

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

 

「…………ッ! クウウウガアアアアアアアア!!!!!」

 

 

 

 蜘蛛はその身を爆散させた。あたりに、肉片や体液が散らばる。先程まであった命が。今はない。

 

 

 

「ふぅー……ふぅー……。うぷっ!」

 

 

 五代はその場に跪き胃の中のものを戻した。過度の緊張から解放されたこと、自分が『言語を喋る存在を殺害した』こと、辺りの肉片などをみたこと。様々な要因が重なってのことだった。

 

 

 

 警察が現場に到着したのは、その後、間も無くのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

──??? ??? ???──

 

「《バルバ》」

「《なんだ》」

「《エキシビションゲームはどうなった》」

「《失敗した》」

「《やはりナ。如何に選ばれたとて、所詮は『ベ』》」

「《リントも満足に狩れないのか》」

「《だから奴らは『ベ』なのだ》」

「《違う》」

「《なんだと?》」

 

 

「《やつはダグバの指名によりスペシャルゲームに挑戦した》」

 

 

「《!?》」

「《スペシャルゲームだと!?》」

「《それはつまり・・・!》」

「《新たなクウガが誕生した》」

 

「《よって禊のゲームと並行して予選ゲームを行う。すなわち》」

 

「《俺達『ズ』の出番か!!!》」

 

「《ああそうだ。最初は……お前だ》」

「《ヒヒッ! やったぜ! 悪いなお前ら! 俺は一足先に『メ』に上がらせてもらうぜ!》」

「《ケッ!勝手に言ってやがれ》」

「《どうせ貴様も失敗するんだ。どうせなら、早く失敗してさっさと出番を回せ》」

「《なんだと!?》」

「《騒ぐな》」

 

「《慌てずとも、平等にチャンスは与える》」

 

「《さあ、》」

 

 

 

 

 

 

 

「ゲゲルゾ、ザジレスゾ」

 

 

 

 

 

 

 

 

──ツヅク──



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