女体化した親友に俺が恋をしてしまった話   作:風呂敷マウント

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この小説を読む際はこの回から読むのを推奨します。この回を飛ばして一話目を読むと、ほぼ確実に話がこんがらがるかと。


第零話 まるで女の子のようで――

 今日も何気ない朝が来た。いつも通りに朝食を食べ、いつも通りに料理を作ってくれた彼女へごちそうさまの挨拶をして食後のコーヒーを啜るといういつもの光景がそこにはあった。一昨日も昨日も朝はこんな感じだった。何てことはない日常だが、何気ないこの光景が俺はとても大切な物なんだ。こんな風に考える事が出来ているのも全て、今しがた食器を片づけ終えた彼女のお蔭だ。

 

「どうしたの? 私の方をじっと見て」

「ん? 今日も一夏は家事を頑張ってるなって思ってさ」

 

 コーヒーが入ったマグカップをテーブルに置きながら俺がそう言うと、彼女――織斑一夏(おりむらいちか)はこてんと首を傾けた。相変わらずこういう仕草で俺を萌え殺しにしてくるのは変わらないな。可愛い。超可愛い。

 俺は一夏が大好きだ。本当に大好きだ。面倒見が良くて気遣いが出来るところも、家事が万能なところも。変なところで負けず嫌いで、変なところで抜けているところも少し短気なところも。俺の前では少しばかりポンコツになるところも。長く艶のある青みがかっている黒髪も、年齢不相応に大きなおっぱいや柔らかそうな尻も。程よく筋肉が付いた弾力がありそうな太腿とかもそうだ。

 一夏の何もかも――良いところも悪いところを全部ひっくるめて大好きだ。愛してると言っても過言ではない。……まあ、実際に何回も一夏には愛してるって言ってるんだけどね。

 

「そうかな? これくらい普通だと思うけど」

「いやいや、毎日こういう風に出来るのはお前くらいだよ」

 

 一夏はよく理解できていないのか難しい顔をしはじめた。確かに一夏にとってはこれが普通だから、こういう反応も仕方ない気もするが。俺も料理とかはそこそこ出来る方だが、料理をするのが面倒な時はやりたくねえなって正直に思ってしまう。その点で言えば一夏はそういった弱音を吐かないで家事を続けているんだから、やっぱこいつは凄いよ。俺なんかと比べたら月とスッポンだよほんと。たまには家事したくないよって甘えてくれてもいいのに。

 

和行(かずゆき)。また自分のこと卑下したでしょ? それ、和行の悪い癖だよ」

「……あの。うちの母さんじゃないんだからさ、心読まないでくれる?」

「読まなくても分かるよ。だって私は和行の――なんだから」

 

 そう言いながら一夏は誰もが見惚れそうな穏やかな笑みを俺に向けてくる。……ああ、そうだ。お前は俺の――なんだ。誰よりも俺の事を考えてくれている人間なんて、この世で一夏くらいだろう。同じくらいに一夏の事を誰よりも考えているのは俺くらいだ。

 俺は一夏との間に芽生えている暖かさを知ってしまった。片手では数えきれない程の温もりを感じているんだ。この家事万能清楚系美少女の魅了から永遠に抜け出せないだろう。まあ抜け出す気なんて更々ないけどさ。

 

「そうだよな……」

 

 一夏は誰から見ても家庭的な超絶ハイスペック美少女に映るだろうが、こいつは最初からこういう女だったわけではない。家庭的な面は元から持ち合わせていたが、根本的に世の中にごまんといる他の女性と唯一違うところがある。

 一夏が他の女性たちと違うところ。それは一夏が元男性――つまり、男から女の子に性別が変化しているという点だ。嘘のように聞こえるだろうが紛れもない事実だ。まさかあのイケメンがこんな美少女になるなんて想像すらしてなかったな……。そんなことを考えつつコーヒーを一口飲んでいると、俺はある事が気になったので一夏に問いかける。

 

「なぁ一夏」

「んー?」

「俺の傍から居なくならないよな?」

 

 そろそろ一夏とそういう関係になって一年くらい経つ。俺の一夏への想いは変わらないし、一夏からの俺への想いも変わらないと思っている。……でも、ちゃんと言葉にしてくれないと不安で心が一杯になる。俺は席から立つと一夏へと近寄り、彼女の左手を右手で優しく握った。

 この手を放したくないと思いながら、一夏のしなやかな指を空いている方の手でゆっくりと擦る。家事をしててこの艶やかを保っているとかどうなってんだこいつ。しっかし、こうしていると一夏の事を誰にも渡したくない気持ちがより強まっていくのが強まっていくのが実感できる。

 

「和行?」

「ごめん。ちょっと怖くなって……」

「大丈夫だよ。私は和行の傍から消えたりしないから」

「本当か?」

「当たり前でしょ。和行以外男なんて私には無理だし」

 

 くすっと笑う彼女だったが、その瞳から光が消えかけていた。もう見慣れた光景だ。何も言う事はない。俺も目から光が消える事があるからな。俺達の間ではこれが普通だ。もう一年以上続けてきているんだ。何で目からハイライトが消えてるんだとか指摘することなんて無い。

 

「変なこと聞いてごめん」

「ううん。気にしてないから」

「……ありがと」

 

 ああ、やっぱり俺には一夏が居ないと駄目みたい。彼女は俺の日常になくてはならない存在だと自分に言い聞かせる度合いが強まっているのが何よりの証拠だ。

 

「あ、あの和行」

「ん? どうした?」

「そろそろ手を放してほしいんだけど……」

「俺はもっとこうしていたいけど?」

 

 俺はそう言って一夏の手と自分の手を絡ませていく。恋人繋ぎの形になったのを認識したのか、一夏は表情を一変させて慌てふためいている。全く。いつもは自分からガツガツ来る癖に、こっちから攻めるとこうなるんだから超可愛い。

 

「わ、私だってもっとしていたいけど、学校に遅れちゃうよ?」

「……それもそうか」

 

 俺は一夏の言い分に納得してその手を放した。学校の事すっかり忘れてたわ。俺は残っていたコーヒーを飲み終えると、マグカップをキッチンのボウルに入れた。洗い物は帰ってきてからすればいいからこれでいい。何処か名残惜しそうにしている一夏と一緒に身支度を済ませると、家の戸締りを終えた俺達は玄関へと向かい各々靴を履いた。

 

「行くか」

「うん」

 

 俺と一夏は玄関を出て鍵を掛けると、いつも通りに一夏と手を繋ぎながら歩き出した。新たに通う学校へと向かう道すがら、俺にはいま目の前に広がる光景があの日の光景と重なって見えていた。

 

 ――あの日も、丁度こんな風に桜が咲いてたな。

 

 桜の木の枝が風に揺られ、花びらが空中へと投げ出されたのを眺めながら一夏が女性になってしまった日のことを思い出す。一夏が女性に性別が変わってしまった事件。それは二年前の春頃に起こった。天災と呼ばれた一人の女性科学者――篠ノ之束の手によって引き起こされたんだ。

 

◇◇◇

 

 圧し掛かるような眠気をまだ感じながらも、俺――織斑一夏は自然と上半身を起こしていた。長年の習慣の所為だと思う。自宅には俺以外の人間は居ない。一応姉は居るが、全く家に帰ってこないので普段は俺一人で生活しているようなものだ。自分で何とかしないと食事すらままならないが大変だと思った事もないし、千冬姉が帰ってこないのを寂しいと感じたこともない。

 前者に関しては昔からやってきている所為か最早習慣になっているからな。後者に関してはよく友達が遊びに来るのが多いのと、隣の家には親友である和行が住んでいるからだ。それにあいつとは、あいつの母親が病院に入院してから一緒に飯を食う時間も多くなってるし。

 気の置けない間柄の人間がいるってこんなにありがたいことなんだなって、あいつのお蔭で身に染みて感じたよ。さて、少し体が怠いけど、そろそろベッドから出ないとな。

 

「あれ?」

 

 視界に映った自分の腕に違和感を覚えた。体に気怠さがあるのは日頃の疲れが出ているとして百歩譲るとしよう。だが、これはなんだ。俺の腕って、こんなに細かったっけ? てか、脚の方もなんかいつもより細いような……。

 

「声が高い?」

 

 俺は自分の喉に手を当てる。男特有の突出した喉仏が出ているはずの自分の喉にそんなものはない。突っかかりもなく喉を撫でることが出来た。それどころか、声まで自分の物じゃないような高さになっている。その声はまるで女の子のようで――。

 

「女の、子?」

 

 俺は即座に自分の胸元へと視線を落とした。そこには寝る前の自分には存在しなかったはずのふくらみがあった。恐る恐る両手を胸に宛がうと、両手に男を陥落させるのに十分な柔さが伝わってきた。もみもみ、と何回か自分に付いてしまっている大きく膨らんだ胸を触っていると妙な感覚が頭から足の爪先に至るまで駆け巡った。

 や、やばっ……! なんだこれ!? まるで思考が削り取られていくみたいだ。だ、駄目だ。これ以上は駄目だ!

 

「んっ……!」

 

 服越しとはいえ今まで感じたことのない感触と、自分の喉から弾きだされた声に思わず手を放してしまう。な、なんだよ今の声。本当に俺が出した声なのか? つーか、胸があるっていう事はもしかすると……。

 

「まさか……」

 

 とてつもなく嫌な予感がしたので、今度は股間の方へと手を伸ばすと、

 

「――ない」

 

 あるはずの物がなかった。男性には付いている筈のアレが、俺の股間から消えているのだ。何度触ってみても昨晩まであったはずのソレが存在しない。

 

「……嘘だろ?」

 

 は、えっ、ちょっと待てよおい。これってもしかして、この前の放課後に和行が弾や数馬に熱弁していたそういう本に出てくるあの現象か? 朝起きたら女の子になっているとかいう――。いやいや、そんな訳あるか。あれはフィクションだぞ。現実で起きる訳がないだろ。

 そう自分に言い聞かせてはみるのだが、生まれた頃から存在していたかのようにいつの間にか体にくっ付いていた自己主張の激しい胸と、この俺の物とは似ても似つかない細い手足が今起きていることは現実だと訴えてきているようだった。

 

「そ、そうだ! 姿見!」

 

 焦燥感に似たものを抱いた俺はベッドから床へと足を下ろすが、脚の動きがぎこちなかった。まるで別の人間の体を初めて動かしたような感覚に戸惑ってしまう。下手をしたらこけてしまうかもしれないと判断した俺は、胸の中に湧きあがる焦りをギリギリのところで抑えつつ、一歩一歩と少しずつ歩を進めていく。

 椅子を杖代わりにしたりしながら姿見の前に辿り着くと、震える腕を伸ばして掛けてある布を取り外す。姿見に映った自分の姿を見て言葉を失ってしまった。何故なら、そこには認めたくない現実が映し出されていたから。

 

「マジ、かよ……」

 

 いつも制服等の乱れを確認する為に使っている姿見には、何処か千冬姉に似ている容姿をした少女が映っていた。腰まで伸びている濡烏の髪が似合う綺麗な少女が。見た目だけで言えばかなりの清楚系美少女だ。目元が垂れ気味になっているが、それがこの容姿の可憐さを更に後押ししている気がする。和行辺りなら目で追いかけ続けるレベルの容姿だと思う。

 だが、ちょっと待って欲しい。俺は姿見の前に立っている。それにも関わらず姿見に映っているのは、俺が良く知っている自分の姿ではなくこの美少女ということだ。つまり、これが今の俺の容姿ということになる訳で――。

 

「はは……」

 

 開いた口が塞がらないという言葉がぴったりな状況に俺は頭を抱えてしまった。マジで和行が話していた本の内容通りの状況になってるじゃねえか……。

 …………一体何がどうなってるんだ? 俺の性別が変わってしまった原因は何処かにあるんだろうけど、今の俺の頭じゃ原因に思いつくことが出来ない。自分の姿が変わった事にどう対処すればいいのかっていう考えで一杯一杯だ。冗談抜きで何が原因で女の子になってるんだ?

 

「本当に――」

 

 細くなった右手の指で髪に触れてみる。掌から伝わってくる髪の質感は絹の様に滑らかで、ずっと撫でていたくなる程だ。腕の力を抜いた途端、髪の毛は俺の右手から踊り出て、宙を舞った。舞うのを堪能した毛先は他の毛先たちに倣って、腰の位置で綺麗に整列する。姿見越しにその光景を見た俺は、昨日までの自分の髪と今の自分の髪では完全に髪質が変わっているのを認めざるを得なくなった。

 続いて頬に指で触れてみる。本当にこれが自分の肌なのかと疑ってしまう程のハリと艶が俺の肌には満ち溢れていた。引っかかりなど存在しない感触が自分の指から伝わってくる。降り積もった雪のような色合いの肌を眺めつつ、俺は咄嗟に口を開いていた。

 

「――俺、なのか……?」

 

 本当にこれが今の自分の姿なのか。そんな疑問が湧いてきた俺は、まだ動かし慣れていない左手の指で姿見を触ってみる。素人目では偽装などされていないようだ。どうすればいいのか考えが纏まらなくなった俺はそのまま姿見の前に立ち尽くしてしまった。幼馴染である鈴と隣の家に住んでいる和行が遊びに来る日であることを忘れて。

 訪問者を告げる呼び鈴が鳴ったことに俺の体は身を震わせた。恐らく鈴が来たのだろう。和行は買い物をしてから家に来るって昨日言ってたからな。今日は家に居ると鈴と和行に言ってしまったせいで、居留守を使う事もできない。はっきり言おう――ヤバい。色々な意味でヤバい。

 

「――おーい! 一夏! 居るんでしょ!」

 

 俺の名前を呼ぶ鈴の声が聞こえた。どうすればいい? 本当にどうすればいいんだ。応対するのにこの姿じゃ……。でもこのままで居る訳にもいかないだろ。

 ……腹を括るしかないのか。心臓が嫌なくらいに脈打つのを感じつつ、まだ馴染んでいない足をゆっくりと動かして一階へと降りていく。震える手で玄関の鍵を外して扉を開けた。同時に俺の幼馴染である凰鈴音(ファンリンイン)のこちらの存在を訝しむような顔が飛び込んできた。

 

「――あんた、誰?」

「……」

 

 やっぱりだ。……そうだよな。今の俺はこんな姿だ。分かる訳ないよな。

 

「……鈴、俺だよ」

「はぁ?」

「俺は一夏だ!」

 

 俺の意を決した発言に鈴は首を傾げた。不審者を見るような目が強まっている。

 

「何言ってんのあんた。……まさか、一夏が連れ込んだ女?」

「何だよそれ! ああ、もう! 信じられないかもしれないけど、俺が一夏なんだよ!」

 

 俺が連れ込んだ女ってなんだそりゃ。意味が分からん。つうかこれ、絶対に信じてないわ。埒が明かないと判断した俺は鈴を急いで家にあげると、彼女への説得する為に腐心する事になった。会話の末、何とか鈴に俺が本物の一夏だと信じて貰う事が出来たので、俺は思わず胸を撫で下ろした。俺と鈴と和行の三人しか知らない話題を何回も出して正解だったな。

 

「ほ、本当に一夏なのね?」

「ああ。俺だよ」

「な、なんでこんなことに……」

「俺が聞きてえよ……」

 

 リビングにて何とか鈴の説得に成功した俺だったが、二人揃って気分はブルーになっていた。俺の場合、元からブルーだった更にブルーになったのは言うまでもない。

 

「これ、和行にも知らせておいた方が良いわよね?」

「ああ……。頼んでもいいか?」

「あ、あたしにま、任せなさい」

 

 本当に大丈夫なのかと俺が見守る中、鈴はスマートフォンを取り出して電話をかけ始める。和行への電話が繋がったのか、鈴は大きく口を開いて和行に告げた。

 

「和行!? おおお、落ち着いて、ききき聞いて!」

 

 ……おい、鈴。まずお前が落ち着け。なんで俺よりテンパってるんだよ。そんな鈴を横目にソファーに座ると、現実逃避するかのように天井を見つめ続けるしかなかった。




もう少し話に入りやすいようにした方が良いかなと思ったのでこの話を書き上げました。今回の話に合わせて、一話目と二話目に修正を加えてます。
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