女体化した親友に俺が恋をしてしまった話   作:風呂敷マウント

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この回を読む前に第零話目を読むことを推奨します。


第一話 女の子になってしまった一夏君(1/2)

 あさおんという言葉を知っている人がこの世にどれだけ居るだろうか。朝に目が覚めたら、何故か女の子になってしまっていたという現象のことを。そんな現象なんて普通起こる訳ないのだが、実際に起きてしまうのが世の中だ。そんな世の中嫌だわ。ていうか、そもそも三次元じゃあり得ないし、仮にそんな事をしたりするのなんてほんの一握りの存在くらいにしか出来ないから。

 いや待て。それならそのほんの一握りの存在に土下座でもして、その手の技術を発展させるというのはどうだろうか。あれこれ理由を付けて、家事力が高い男を女性にして彼女にしようとするパターンを構築できるのでは? そういうのが好みな人には大変良い世界になることでしょう。

 

「はあ……」

 

 ……こんなアホなこと考えてる場合じゃないな。俺の親友である織斑一夏と女友達である凰鈴音、そして俺はある事件に巻き込まれた。俺達からすれば一大事であったのだが、そんな俺たちとは対照的に騒動を起こした張本人は今回の騒動をただのイタズラのようにしか感じていないだろう。正直に言って、始末に負えない。一夏が大変な事になっているというのに。本当にどうしてこんなことになったのだろうか。

 いやまあ、原因は分かっている。この場に居ないあのウサミミだろう。それ以外に一夏がこんな目に遭っていることへの説明など出来ない。というか、あの人以外にこんな現実離れした現象を起こす事など不可能だ。あの人は完全に人類という枠組みを超えてしまっているのだから。

 ソファーに座りながら淹れたてのコーヒーに砂糖とミルクをブチ込んでいく一夏の姉である織斑千冬(おりむらちふゆ)さんを眺めながら俺はこの場に居る皆に悟られないように溜息を吐いた。

 

「――で、誰から話す?」

「あたしはパス」

「俺もパスで。自分から女性物の下着が欲しいっていうとかただの変態だし」

 

 俺の問いかけに鈴と一夏はそう返してきた。あのさ、鈴は千冬さんの事が苦手なのを知ってるからまだいいとしよう。一夏、気持ちは分かるが今のお前は女だ。誰が何と言おうが外見は女だ。心は男のままだとしてもな。……まあ仕方ないか。まだ女になって一日も経っていないんだ。いきなり自分のことを女と自覚しろと言っても無理だろうさ。

 一夏は嫌だと言っているし、鈴も拒否している。となれば、必然的に俺が千冬さんに先程俺達で考えた話題を切り出すしかない訳で。正直言って、親友の姉に女の子になった親友の服とか下着やらの話を切り出すのってかなり勇気いるんだけど。いやでも、こればっかりは腹を括るしかないな。

 俺は自分なら言えると自分に言い聞かせながら、千冬さんに話しかけた。その内側で篠ノ之束への怒りを迸りさせつつ、なんでこんな状況になってしまったのかという自問自答を行うことにした。

 

 ――束姉さん。もし今度会ったら、そのウサミミを捥ぎ取って粉砕するので覚悟して置いてください。

 

◇◇◇

 

 桜が花を咲かせている四月のある日。中学二年になって間もない時期だった。学校が休みであることを利用して、俺と鈴は一夏の家で遊ぶことになっていた。三人で飲むためのジュースやお茶、今日の一夏の家で夕飯をごちそうになることになっていたため一夏の行く前に買い物に出ていた。夕飯の食材の買い物をして終えてスーパーを出た時、先に一夏の家に遊びに行っていたはずの鈴から携帯へと電話が掛かってきた。

 邪魔にならないように店の入り口から脇に避けて携帯をズボンのポケットから取り出して電話に出たのだが、

 

『和行!? おおお、落ち着いて、ききき聞いて!』

「お、おい、鈴? お前の方が落ち着け。めっちゃ吃ってるぞ」

『あ、あのね! い、一夏が……』

「一夏が、どうかしたのか?」

 

 鈴がここまで慌てるなんて、一夏の身に何かあったのだろうか。漠然とだが嫌な予感がしたので今すぐに家に行くと告げて電話を切ってズボンのポケットに戻すと、買い物袋を両手に持って一夏の家へと急いだ。早歩きを駆使したお蔭か家の近くに着いたので、一度息を整えるために腕にしていた腕時計を見てみる。どうやら時間はそう掛からなかったようだ。体感ではそれなりの時間が掛かったように感じたのだが。

 

「とりあえず押すか」

 

 何とか一夏の家まで辿り着くことが出来たので胃を決して玄関の呼び出しボタンを押すとインターホンから聞こえてきた『今行きます』という声と共に、家の中からドタドタと誰かが走るような音がした。一夏であるならばこのような音を立てないであろうことから、恐らくこの音を立てているのは彼女しかいない。

 

「和行! 遅い!」

「仕方ないだろ! 買い物してたんだから……」

 

 やはり鈴であった。とりあえず入ってと言われたので鈴に言われるまま一夏の家へと入っていく。靴を脱いでからスリッパを履き、先にリビングへと走っていた鈴の後を追うと、そこには一人の美少女がソファーに座っていた。

 

「――えっ?」

 

 ――知らない子だった。彼女を見た途端、俺の口から小さく声が漏れていた。腰の辺りまで伸びている綺麗な黒髪と、垂れ目気味ながらも意思がはっきりと伝わってくる瞳。整った顔立ちに自己主張が激しい女性特有の膨らみが目に飛び込んでくる。彼女はどこを取っても俺の好みに合致していたのだ。彼女を見ていると胸がドキドキしてくる。どこか息苦しい感じがする。彼女が居るせいでなんか妙に変なテンションになりかけてたが同時に、俺の頭に嫌な考えが浮かんでくる。

 もし、この子も一夏狙いだとしたら? という考えが。一夏ははっきり言ってモテる。尋常じゃないくらいにモテる。同じ学校じゃない生徒にまでフラグ立てやがります。小学校低学年の頃から一緒な俺が言うんだから保証します。女性だけならまだしも、男にもモテるから意味が解らん。しかもあり得ないくらい鈍感だから始末に負えないわ。俺ですら「あ、この子好意持ってるな」ってのがなんとなく分かるのにお前は何故分からんのだ。

 何故か一夏の愚痴になってしまった。でも、こんな美少女を拝めただけでラッキーかもといい方向に解釈しようとしたが、あるものに気付いたせいで俺のテンションは急に下り坂となり、冷静の域にまで行ってしまった。

 俺がテンションがまともになっている原因。それはソファーに座っている黒髪美少女が着ている服だ。あれは確か一夏の服だったはず。何故今まで会った事もない彼女が一夏の洋服を着ているのか理解できない。どういうことだと頭を捻っているとソファーに座っていた少女から声が掛かる。

 

「あ、和行。よく来たな……」

「はい?」

 

 元気のない可愛らしい声が耳に届いた。俺は少女の言葉に思わず再び頭を捻ってしまう。何故この子は一夏の家で我が家に来た人を迎えるような態度を取っているのだろうか。一夏に何かがあったと思い急いで帰ってきたのに肝心の一夏が見当たらない。

 昨日聞いた話では今の時間帯なら一夏はリビングで掃除やら台所でお菓子類を作っている予定だった。必然的にリビングか台所に居るはずだが、隣接している台所を除いても人っ子一人居ない。どういうことだという視線を鈴に投げかけると、鈴は困ったような表情を浮かべながら説明をしてくれた。

 

「和行、焦らずに聞いて」

「ああ」

「あ、あの子が一夏よ」

「……」

 

 ――何を言っているんだ、このチャイナ娘は。と思わず心の中で毒を吐いた。あの子が一夏な訳ないだろうという感情を込めてジト目で鈴を見る。

 いやいや、ないない。この子が一夏? 目線の先に居る俺好みの美少女が一夏? ありえないでしょ。どうせ鈴と何処かに隠れている一夏が俺を騙すためにやっている違いない。うん、多分そうだ、うん。

 

「おいおい、エイプリルフールは先週終わったぞ。もう次のエプリルフールやろうとか気が早いんじゃないの?」

「し、信じられないのは分かるけどあの子は一夏よ。あたしも未だに信じられないけど……うう、頭痛い……」

 

 俺にそう告げてきた鈴の顔を見る。ああ、これはこいつが真剣になっているときの表情だ。え、てことはマジで? マジであの子が一夏なの? いやいや、ちょっと待てや。なんでそんな、俺が持ってるエロ漫画だか薄い本だかみたいな状況になってるのよ。おかしいでしょ、え、マジで意味わかんないだが。

 ――どうしてこうなった。思わず口からそんな言葉がこぼれそうになる。目の前の光景から現実逃避したい気分に駆られてしまう程に困惑しているが、もっと困惑しているであろう一夏と俺の隣で先程から何かを悟ったかのような表情を浮かべている鈴を眺めていた所為で却って落ち着いた気分になってきている。

 いい加減腕が疲れてきたので、とりあえずリビングのテーブルに両手に持っていた買い物袋を置くことにした。飲物が入っている袋から五百mlペットボトル入りの飲物を三つ取り出すと鈴と一夏にそれぞれ手渡していく。

 

「本当に一夏なんだな?」

「ああ、そうだよ」

 

 目の前の一夏(?)はそう言う。何処かまだ信じきれてない俺は、とりあえず一夏は本人だと再度確認するために質問をぶつけていく。その結果は見事正解だった。どれも一夏本人でなければ知り得ないことばかりだったからだ。ここでようやく、俺はこの子が一夏本人だと確信することが出来た。

 

「それで一夏。なんでお前女の子になってんの? 今まで振られた女子の恨みでも募ったか」

「振られた女子の恨みってなんだよそれ」

 

 駄目だこりゃと思ったので一夏の鈍感さへの苛立ちを紛らわせるためにペットボトルの蓋を開け、自分の分の飲物を飲むことにした。こいつは何故こうもの女子に告白されながらそれに気づけないのだろうか。

 女の子――それも可愛い子や美人な子から付き合ってくださいと言われて何故買い物に付き合うという思考回路になるのか全く理解できなかった。というか、この朴念仁の思考回路だけは理解したくない。女性関連と姉を慕いすぎている点を除けばかなり良い奴なんだがなあ……。疲れた頭にミルクティーの糖分が染みていくの感じながら話を続けていく。

 

「はあ、まあいい。で、他に心当たりはないか? 一服盛られた~とか」

「一服盛られたって……。そんな漫画やアニメじゃないんだからそんなこと起きるわけないじゃない」

 

 俺から受け取ったソーダを飲んでいた鈴が懐疑的な口調でそう言ってくる。まあ、そうだよな。あり得ないよな、一服盛られるとか――。おい、一夏。なんでそんなに目を泳がせている?

 

「……」

「お、おい、一夏。なんだその顔。まさか」

「ああ、そのまさかだ。多分あれかもしれない。というか、アレ以外考えられない」

 

 一夏によると、どうやら俺たちの知り合いで世界中から指名手配されている天才――否、天災科学者である篠ノ之束が一昨日の夜に一夏の家を訪ねてきたらしい。指名手配されている理由はIS関連としか聞いた記憶がないので詳しいことは分からない。一夏と遊んでいた俺が夕飯の支度をしようと家に帰ったタイミングで家の玄関を鳴らしたらしく、扉を開けた途端ぐいぐい来られたので思わず家に上げてしまったらしい。

 女の子になる前の一夏よ、何故彼女を家に上げてしまったのだお前は。誰がどう見てもあのウサミミおっぱいが元凶じゃないか。会う度に俺に胸を押し付けるのをやめろと何回も注意したことがあるあの人が。つうか、俺はなんであの人に気に入られてるんだろうか。よく分からんわ。

 

「あのさ、あたしの記憶違いじゃなければ篠ノ之博士って確か全世界から指名手配を喰らってるはずよね?」

「あの人は隙間さえあればどこでも湧くから……」

「一夏、束姉さんをゴキブリみたいに言うのやめない? 神出鬼没なのは認めるけど」

 

 鈴の疑問に素直に答えた一夏の言葉に思わずツッコミを入れてしまった。一応あの人も女性なんだから幾らなんでもゴキブリ扱いは不味いでしょ。

 一応述べておくが、俺は束さんのことを束姉さんと呼んでいるが別に束さんの血縁者とかではない。昔にそう呼んでとお願いされただけだ。あれは強要に近いけど……。なお一夏も同じように呼ぶようお願いされていたが、運悪く一夏のターンになった際、近くに千冬さんが現れた所為で一夏が束姉さん呼びすることはなかった。

 あの時はマジで千冬さん怖かったわ。いきなり無言で何の予備動作もなく束姉さんにアームロック掛けるとかどうやったんだろうか。

 

「でさ、束さんに栄養ドリンクだかをプレゼントされたんだよ」

「疑いもせずに飲んだのか?」

「その、臭いと見た目と味は変じゃなかったし……」

「はぁ!? あんた馬鹿じゃないの!?」

「だって、一応栄養ドリンクの効果もあって体の調子がよかったし。大丈夫だと思って二日連続で飲んだんだけど。それで今朝起きて見たらこうなってて……はあ」

 

 大丈夫じゃなかったから男の体から女の体に変化してるんだろうがおい。やべえ……頭痛い……。鈴も呆れてるのか深い溜息吐いているし。味が変じゃなかったということは一夏に違和感を与えずに性転換させるための何かを混ぜていたのだろう。あの人ならやりかねない。ていうか、やらないとおかしい。てか実際やらかしてる。ヤバい、軽く白目剥きそうになってきた。誰か助けてくれ。俺の手に負えない。

 

「なあ、これからどうすればいいんだこれ?」

「とりあえず千冬さんに連絡した方がいいな。お前の姉なんだからちゃんと状況報告した方がいい」

「そうね。あとでいきなり知るよりも今知ってた方がダメージが少ないかもしれないわね。あたしみたいに」

「だよなあ……」

 

 そりゃあ思い人である一夏がいきなり女の子になっていたらショックを受けるのが当たり前だろう。鈴が気の毒すぎて何を言えばいいのかもわからなくなってきた。もし学校にこのことが知れたら鈴と同じように一夏に思いを寄せていた女子たちから魂が抜けることは必然だろう。

 てか、鈴よ。お前さん、もしかして混乱しすぎて一周回って冷静になってないか。だってこいつ、さっきから声のトーンが落ち着きすぎてるもん。まあ、俺も似たようなもんだけどさ。多分一夏も同じかも知れんが。

 話を戻すが千冬さんに連絡するにしても問題がある。今の一夏が千冬さんに仮に電話を掛けたとしよう。今の一夏は男の時の一夏と声が完全に違っている為、俺が一夏だと言っても効果が薄いというかイタズラ電話と片づけられる可能性もある。なので、

 

「俺が代わりに連絡するわ。今の一夏だとイタズラ扱いされてまともに取り合ってくれないかもしれないし」

「頼めるか?」

 

 任せときなさいと一夏に向かって言う。千冬さんに「お前は嘘が吐くことが下手な奴だな」と言わしめたことがある実績がある俺だぞ。冗談は言うことあるけど。まあ、なんとかなるって。ならなかったらその時はその時に考えよう。

 携帯を動かし、電話帳機能から千冬さんに教えてもらっていた電話番号へと電話を掛けるのだった。

 

 ――頼むから電話に出てくださいよ。千冬さん。




基本的に軽いノリというか明るい雰囲気で進んでいきます。
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