女体化した親友に俺が恋をしてしまった話   作:風呂敷マウント

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第二十一話 夢なんてないけど

 一夏の誕生日から時間が経ち、時期は十月になった。夏服から冬服へと制服の衣替えを行ったので、一夏の我儘なおっぱいは再び冬服の中で鳴りを潜めることになった。俺的にも一夏的にもこれで良かったと思ってるよ。一夏もいい加減野郎と淑女共の視線が鬱陶しくなってきてたのか、顔を顰めることが増えてたから。俺に視線の事を相談してきた際に「女の子の気持ちがよく分かった」とか言ってたけど……あの、一応君も今は女の子ですよね? 女の子のような仕草ばかりするようになってきたのに、なんでお前はそういうところの意識が抜けてるんだ。可愛いからいいけどさ。

 つうか、一夏をエロい目で見ていいのは俺だけなんだから本当にそういうの止めてほしいわ。あのおっぱいを眺めていいのも俺だけなんで。一夏のおっぱい揉み揉み。一夏の胸に顔を埋めながら、一夏の匂いをくんかくんかしたいです。彼氏でもないのに彼氏面すんなってツッコミが入りそうなのでこの辺でやめておこう。あと今夜だけは変態発言も自重しておこう。

 

「はいお茶。少し休憩して」

「ん、ありがと」

 

 俺は右手に持っていた鉛筆を机の上に置くと、一夏から手渡されたお茶を飲みつつここ最近あったことを思い返していくことにした。

 あの日から俺は弾や数馬に料理関連の話題で弄られることが増えました。鈴には親の仇を見るような目で見られています。俺、鈴に何かやらかしたっけ……? 俺が料理出来るのって母さんが俺にこんな時代だから男でも料理できないとって理由で教え込まれたんだし。本格的に料理し始めたのは母さんが入院してからだけど。あと一夏の料理を見たり、一夏の事を思って作ってたりしたら俺の腕も上がってたという感じなんだよ。まあ、料理が出来るお蔭で料理関連の話題で一夏と会話できる回数増えるから別に良いんだけどね。

 それとなんだけど、あの日から一夏と俺の距離感がめっちゃ近いんだよな。一夏が一方的に俺の方に寄ってきているだけなんだけどさ。そのですね、一夏のシャンプーの匂いとか付けている香水か何かの匂いがですね、俺の鼻をハッピー状態にしまくるんで困ってるんですよ。

 嬉しいっちゃ嬉しいんだけどさ、なんであんなに距離感が近いのだろうか。あの距離感は男を勘違いさせるやつだよ。駄目だよ、勘違いする男もアレだけどそういうのを気軽にやっちゃ。

 

「ん? どうしたの?」

「またそれやってるのかと思っただけ」

「えー、別に良いじゃん。和行が折角くれたプレゼントなんだから」

 

 一夏は俺がプレゼントしたネックレスを触りながら俺に言葉を返してきた。ちなみにだが、一夏はネックレスを学校に着けてきてはいない。うちの校則で一夏にプレゼントしたようなアクセサリー類は学校に着けてきたら駄目ってことになってるんだよ。こればっかりは一夏がどう頑張ろうが無理だ。俺がネックレスと一緒にプレゼントしたヘアピンは付けてきてるけど。

 

「和行からのプレゼント……えへへ」

 

 学校では付けることができない分、今みたいに家では肌身離さずにいるんだけどね。毎日首から垂れさがっているネックレスを物凄く嬉しそうに触ったり、眺めたりしている。そんな一夏を見てしまったこっちが恥ずかしくなるという事が結構な頻度で起きています。俺からのプレゼントがそんなに嬉しかったのか? 俺には一夏からの好感度を稼いだ覚えがないんだけど……。まあいいか。本人が幸せそうにしているんだから余計な事をわざわざ言う必要はないだろうし。

 さて、そろそろ休憩終わるか。

 

「あ、和行。そこの英文の綴り間違ってるよ」

「え、マジで?」

「マジで」

 

 俺と一夏は勉強を再開していた。これだけ聞けば宿題でもやっているのだと考えるだろうが、実際は違う。その、高校受験の勉強をしているんですよ。特に苦手な科目を重点的に。絶対に落ちたくないんで今年の春頃から勉強してたんだよ。お蔭でゲームやらの趣味の時間が減ったけどな。ははは、……これでもし受からなかったら全力で泣くぞ。中学二年の今と、中学三年の来年。二年間勉強して落ちたとなれば心が折れるのは確実だ。母さんや一夏は慰めてくれるだろうが却ってそれが俺の心を傷つけることになるだろう。万が一を考えて第二志望校を決めておいた方がいいかもしれん。

 え、予備校? そんなところに行く余裕はうちにはないです。ついでに言うと織斑家にも予備校に行く余裕ないらしい。まあ、一夏の場合は行く必要もないんだけどさ。……後ろ向きなことばかり考えても仕方ないか。とにかくやれるだけやろう。今回は一夏に倣って前向き思考で行くぞ。それでだ、一夏も俺と同じく藍越学園を進路に決めているのでこうして一緒に勉強しているんだ。そう、勉強してるんだがなぁ……。

 

「あ、和行。その数式間違ってるよ」

「え、マジで?」

「マジで。って、さっきも同じ会話しなかった?」

「気の所為だろ」

 

 あの、正直君が俺の勉強に付き合う必要ないんじゃないっすかねこれ。英語をやり終えて、今は数学をやっていた俺は一夏の指摘に思わず心の中で溢してしまった。だってこいつさ、女の子になってから勉強とかもなんか凄い出来てるんだよ。俺よりも理解してるんだよ。男だった頃の一夏の成績と、女の子になった今の成績を見比べれば一目瞭然だった。一夏が予備校に行く必要もないって言ったのも成績が良くなってるのが原因です。まるで意味が分からんぞ。

 もしかしてあれか? 女の子になってチートにでも覚醒したのか? 一夏が持ってるチートは恐らく成長型チートだ。最初はパッとしないけど、徐々に強くなるあれ。だってそうとしか思えないもん。勉強が凄い出来てると言ったけど、最初はそうでもなかったんだよ。でもなんか途中からそういう方向にシフトしていってね……このままだと手が付けられないレベルになる気がしてきた。

 俺の幼馴染がチート持ちだった件。なんかラノベやネット小説のタイトルでありそうだなこういうの。

 

「なぁ一夏」

「なに~?」

「なんで俺の勉強に付き合ってるんだ? お前の学力なら俺に付き合う意味ないだろ」

「和行の顔を見ていたいから。じゃ、駄目かな?」

「駄目です」

 

 その飛びっきりの優しげな笑みと言葉は嬉しいけど、ちゃんとした理由を教えてください。

 

「和行の応援がしたいの。和行が私にしてくれているお礼も兼ねて」

「俺、なんかしたっけ?」

「和行が私の傍に居てくれるから」

「え? それだけ?」

「うん、それだけ。でもね、それだけでも私は物凄く嬉しいの」

 

 ……ヤバい。物凄く嬉しいけど恥ずかしいこの感情をどうすればいいんですか? 俺はそんな風に思っているのに、対する一夏は平然としているというこの状況よ。なんでこいつはこういう台詞をサラっと口にすることが出来るんだ? 男の時もそうだったが、女の子になっても本当にこういうところは変わらないな。まあ、人間なんてそう簡単に変われるもんじゃないけどさ。ここまで清々しいくらいに言われると反応に困る。

 一夏にこういうこと言われると嬉しいけどさ。……ああ、ヤバい。一夏の所為で心臓がめっちゃ五月蠅いことになってる。なんてことしてくれるんだ。これじゃ勉強に集中できないだろうが。

 

「どうしたの? 顔赤いよ?」

「……何でもないよ」

 

 お前の所為だと言う訳にいかないので俺は只管に右手を動かして問題を解くことに集中した。時折一夏の指摘が入り、答えを修正したりもしたがまあ概ね良くできたと思う。俺にしてはって言葉が最初の方に来るが。とりあえず今日の分の問題を解き終えた俺は思い切り背筋を伸ばした。さっきからずっと似たような体勢だったから自然とこうなるんだよ。

 

「お疲れ様」

「ありがと。って言っても、殆ど一夏が手伝ってくれたお蔭だから出来た事だしなあ」

「そんなことないよ。和行が頑張ってるから出来てるんだよ」

「そうかな?」

「そうだよ。私はその手伝いをしただけ」

 

 またこいつはこういう台詞をぽんぽん吐く。慣れればいいんだろうが、一夏がこの手の言葉を女子に掛けるのを見ている側だった俺からすれば、その破壊力を直に味わっている状態だから慣れるなんてまだ無理です。女子達はこの威力の前に、一夏の事を好きになってしまったのか。俺ならこいつに落とされた女の子達の気持ちが分かります。すでに一夏に惚れているけど、また惚れ直しそうになったもん。こいつなんなの? 異性に対するチャームを確定で発動させるスキルでも持ってるの? 行動阻害には持ってこいだな。

 

「はいこれ、頑張ってる和行へ」

「これっていちごのショートケーキ?」

「うん。私、お菓子作りはまだ苦手だから買ってきたものだけどね」

 

 ああ、そうだったな。こいつ、普通に料理方面は和、洋、中なんでも出来るんだが、如何せんまだお菓子作りだけは苦手らしい。苦手って言ってもそこらの女子に比べたらかなり出来る方なんだが、一夏の基準ではまだまだ自分は未熟と判断しているみたいだ。母さんが居ると必ずお菓子作りを教わりに行くんだよな。てか、放課後に先に帰っててと言われたのってこれを買うためだったのか。

 

「あ、美味しい」

「うん、聞いてた通り」

「これ何処で買ったの?」

「千冬姉に教えてもらった店で買ったんだよ」

 

 皿の上に置かれていたケーキをフォークで食べた俺の口からそんな言葉が漏れた。一夏も美味しそうにケーキを少しずつ食している。うん、一夏は可愛い。というか、ケーキを食べている瞬間すら一種の絵になるっておかしいでしょ。なんだこの美少女。やっぱ一夏は色々とおかしいわ。でも、可愛いから許されてる感がある。

 

「へぇ。千冬さんもやっぱこういうの好きなんだな」

「まあ、正確には千冬姉が現役時代の後輩だった――山田さんだったかな? その人に教えてもらった店を私に教えたって感じなんだけどね」

「おいこら千冬さん」

 

 なんでだよ。俺の感心を返してください。……でもまあ、こうして美味しいケーキを食べられたからいいか。あとその店を教えてくれた山田さん。ありがとうございます。

 

「話は変わるけど、和行はどの科に行くの?」

「前にも言ったけど普通科だ。そういう一夏は?」

「私も普通科だよ」

 

 工業科だの他の学科もあるが、俺にはそういう技術なんてないので普通科で十分だ。一夏も工業科とかには行かないらしいので必然的に二人して普通科を選んだわけだ。なんで一夏はこんなことを俺に訊いてきたんだろ。俺の口から言わなくても一夏なら知ってるだろうに。

 

「なんでそんなこと聞くんだ?」

「確認しておきたかったから。離れたくないし」

「はい?」

「……なんでもないよ。ほら、早く食べないと私がそのケーキ食べちゃうよ?」

 

 誤魔化されてしまった。なんで離れたくないなんて言ったんだ? ……あまり考えないようにしておくか。そうだ。ケーキを食べながら話題を反らしておくとしよう。丁度一夏に聞いておきたいことがあったし。

 

「あのさ一夏」

「どうしたの?」

「お前って夢とか持ってるか?」

「なに? 藪から棒に」

「ほら、今日の放課後に弾と数馬が夢がどうとか言ってたじゃん」

「……ああ。そういえば言ってたね」

 

 思い出してみれば、俺は一夏から夢とかそういう話を聞いたことがなかった。少しだけ気になったんだ。一夏がどんな夢を持っているのか。

 

「私の夢か。夢はないけど近いのはあるよ」

「もしかして、あれか?」

「うん。誰かを守りたいってずっと思ってる」

 

 ああ、そうだったな。こいつは千冬さんに憧れていたな。前に聞いたことがある。一夏は千冬さんが自分にしてくれたことを――自分を守ってくれたことを、誰かを守ることをやってみたいと思っているんだこいつは。憧れている気持ちは理解できなくはないが、千冬さんが一夏にそれを望んでいるかと聞かれれば多分ノーだろう。家族である一夏を守りたいから守っただけだろうし。まあ、俺の推測でしかないんだけどさ。

 なんて返そうか頭を悩ませていると、一夏が続きを話し始めていた。

 

「でもね、最近は誰かじゃなくて特定の人を守りたいと思っててさ」

「特定の人? 誰だ?」

「……内緒」

「教えてくれないのか?」

「女の子の秘密を探ろうとするなんて最低だよ」

「へ?」

「和行ってそういう人だったんだ。ふーん」

 

 ぐっほぉ……! 一夏、今の言葉は俺に効いたぞ。どれくらい効いたのかという具体例を挙げるなら、箪笥の角に足の小指を十回ぶつけるくらいのダメージが俺を襲った。滅茶苦茶痛いです。その蔑むような目はやめてください。何故か背中がゾクゾクしてくるんで。俺が悪かったです。てか、お前その女の子発言って無意識で言ったの? それとも意識して言ったの? どっちなのか教えてくれ。

 俺が軽く快感に悶えながら思考を巡らせていると、表情が一転していつもの柔らかな笑みを浮かべている一夏がそこがいた。

 

「ごめんごめん。冗談だよ」

「え、冗談?」

「うん。だって和行の反応が可愛いから」

 

 冗談抜きで調子が狂う。一夏の言葉からしてわざと言ったのが確定的に明らかになったのは良いんだが、そのなんだ。俺の事を可愛いとか言ったよな、一夏のやつ。俺の聞き間違いじゃないよね? 男相手に可愛いとかやめてくれよ。一夏にそういう風に言われるのは別に嫌じゃないけどさ、男に可愛いっていうのはなんか違うと思うんだ。ていうかお前、昔ならそんなこと絶対に言わなかっただろ。

 

「お、男相手に可愛いとか言うのやめろよ……」

「あー照れてる」

「照れてない」

「嘘。絶対照れてるよ」

「照れてないって言ってるだろ!」

 

 羞恥によって語気を強めてしまった。一夏が怯えてないかと彼女の方を見てみるが、当の本人は大して気にしていないようだった。現にニコニコした表情をやめてないし。な、なんなんだ。一夏のやつ、なんかこの前の誕生パーティ辺りから俺に対する態度が変わってる気がするぞ。

 

「もうそんなに声上げなくてもいいでしょ。はい、私のケーキ半分あげるから機嫌直して?」

「俺は子供か!? 要らんわ!」

「私も和行もまだ子供でしょ?」

 

 ぐぬぬぬぬ! 確かにそうだ。俺と一夏はまだ中学二年の子供だ。でもな一夏……俺はその事に当惑してるんじゃないんだよ。お前が俺に渡そうとしたそのケーキ。一夏は俺と同じようにフォークを使って食べていた。そう、一夏の口に出入りしていたフォークでだ。そのフォークが触れたケーキなんて食べたら俺と一夏の間接キスみたいなことになるだろうが! お前、その事理解してます? あ、してないねその顔は。

 

「おい一夏」

「ん? やっぱりケーキ欲しくなった?」

「そうじゃない。そのケーキを俺に寄越すってことは、俺とお前が間接キスをすることになるんだぞ。解ってるのか?」

「……えっ?」

 

 俺の言葉にしばしの間呆けたような顔をした一夏だったが、次第に俺の言葉の意味を理解したのか一夏の綺麗な顔に含羞の色が浮かんだ。この短時間で表情変わりすぎだろ。……俺も人のこと言えない気がするけど。

 さっきまでの余裕は何処へ行ったのか。一夏は「わた、私、わ、わた……!」と壊れたラジオみたいに同じ発言を繰り返していた。お、おい。大丈夫なのかこれ。幾らなんでも焦りすぎだろ。まるで誰かに恋をしている乙女みたいな反応しやがって。

 ……待て。いま俺は何を考えた? 誰かに恋をしている乙女? 一夏が恋する乙女? 相手はまさか……。いやいや、あり得ない。あの一夏だぞ。一夏がそんな風に自分から思うはずがない。多分あれだ。間接キスという言葉を聞いて過剰に羞恥心を刺激されているだけだ。きっとそうだ。

 

「そ、そうだ。和行には夢はないの?」

「俺? ……うん、ないな」

「えっ。そんなあっさり?」

「ないもんはないんだよ」

 

 復活した一夏が俺に問いかけてきたが、淡々と答える俺に対して目を丸くしてた。まあ、無いというよりあったという方が正解なのだが。俺は宇宙に行きたかった。でも、ある日賢者タイムになったというか、「ああ、俺の頭と体じゃ無理だな」と感じて行くのを諦めたのだ。

 空の向こうの宇宙(うみ)。その先にあるものを見てみたかったし、今も見てみたいと思うが所詮は捨て去った夢だ。気にしすぎると呪いにしかならない。

 

「俺には夢なんてないけどさ、一夏の夢や友達の夢を応援することは出来るから。それでいいかなって」

「……なんでそういうこと普通に言えるかな……。恥ずかしいじゃない」

 

 一夏は気恥ずかしそうにしている。お前が言うなと言いたくなったが、俺が口を開く前に意を決したかのように俺の右手を両手で掴んできた。あの、待って。語尾にハートマークが付きそうになったけど待って。一夏の手が柔らかくて温かいとか感想が浮かんでくるけどちょっと待って。なんでこの子、俺の手を掴んでるんだよ。

 

「和行」

「な、なに?」

「もし夢が出来たら、私にも応援させてね」

「え、ああ。うん」

 

 俺は一夏の言葉にそう呟くしかなかった。……はぁ、なんでお前がそんな寂しそうな顔をするんだよ。俺が悪いことしたみたいじゃんか。今度何か美味いものでも奢ってやるか。




次回からちょっと強引にストーリー進めます。主に一夏ちゃんの心境関連。ご都合主義のタグ付けてるから大丈夫でしょう。
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