女体化した親友に俺が恋をしてしまった話   作:風呂敷マウント

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第二十八話 俺の知ってるテニスと違うんだが

 時期は十一月中旬。既に秋を通り越して、冬に近づいている。俺は一夏と一緒に休日を利用して、母さんの伝手で用意された運動施設に来ていた。母さんがわざわざ用意したとあってか、利用しているのは俺と一夏だけだ。あとは施設を管理している職員たちが居るくらいだな。明らかに俺達二人の為だけに貸出するような施設じゃない気がするがもうツッコむのは諦めた。

 

「和行。ちゃんと準備運動してよ?」

「分かってるよ」

 

 俺はそう返しながら準備運動を始める。実はこの施設を利用するのは今回が初めてではない。以前にもこの施設を利用したことがあるんだよね。一夏が女の子になって学校に通うに当たって転入の時期を誤魔化すために病弱設定を追加してしまったんだが、その弊害で一夏は体育の授業で少し運動する時にしか体を動かすことが出来なくなってしまった。

 一夏のストレス発散とか思う存分体を動かしたいという一夏の願いに応えるべく、母さんがゴニョニョ――じゃなくて、ごにょごにょして使えるようにしたとのこと。ごにょごにょと言っても脅したとかそういうのじゃなくて、自身の権限をフル活用しただけらしいのだが。さて、そんなことを考えている間に準備運動も終わったので一夏のことに集中しよう。俺達はこれからテニスをやることになっている。

 この際だからはっきり言うけど、俺としては一夏にはあまり激しい運動してほしくないんだよなあ。幾ら検査して体に問題ないと判断されてるとはいえ、一夏の体が心配なんだよ。あと一夏のクーパー靭帯へのダメージとかを考えるとどうもね。あの貴重な釣鐘型おっぱいというかロケットおっぱいにダメージが入るとか駄目だよ。こうやって運動する時だけはちゃんとスポーツブラを着用して、胸を固定しているらしいので大丈夫だとは思うんだが。

 

「どうしたの和行」

「その、なんだ。一夏のその服、似合ってるぞ」

「ふぇ!? あ、ありがと……」

 

 俺の褒め言葉に一夏が驚いてから俺にお礼を言ってきた。うん、可愛い。天使だわ。いま一夏が身に着けているのはテニスウェアだ。スカートから伸びる脚が実に艶めかしいです。あの程よく脂肪と筋肉が付いていそうな太腿なんて最高だ。頬擦りしたい。ヤバい、このままだと一夏の太腿をガン見しまくって一夏に怒られるかもしれない。我慢だ我慢。ちなみに一夏が着ているテニスウェアは一夏の私物ではなく、うちの母さんが用意した物らしい。なんでテニスウェアなんて持ってるんだよ母さん。

 そんな一夏とラケットを握りながら対峙している俺はうちの学校のジャージだ。俺にテニスウェアなんて要らねえんだよ。ジャージで十分だ。先行は一夏、後攻は俺といった感じでテニスを始めることになったのだが、

 

「えっ?」

 

 ……あの、すいません。俺の目がおかしいのか、一夏の背後からオーラ的なものが出ているのが見えるんですけど。幻覚でしょうか? あと心なしか一夏が分身してませんかあれ?

 

「……は?」

 

 あ、駄目だこれ。俺じゃ一夏の相手なんて務まらないわ。こっちに向かってきていたはずのボールが一瞬消滅してから、俺の背後に着地した時点で察しました。

 

 ――こいつ、まともなテニスする気ねえ。

 

 その後も、最早テニスじゃなくてテニヌ染みた一夏のとんでもない攻撃よりどんどんポイント取られました。俺が攻撃する番になったが、さっきの一夏の所為で最早まともに試合することができなくなったのでボロ負けしました。だってボールを打ち返そうとしても、ボールを受け止めたラケットごと俺の体が後方に吹き飛ぶからほぼ勝てない状態だったし。どうしてこうなるの? なんであいつテニヌ出来るの?

 

「お前、なんであんなテニスが出来るんだ?」

「え? 何処かおかしかった? 千冬姉もあんな感じでテニスしてたらしいけど」

「俺の知ってるテニスと違うんだが」

 

 俺の率直な疑問に対して、一夏が曇りのない顔で答えたせいで頭を抱えそうになる。織斑姉妹が人外過ぎる件について。どういうことなの……。いやね、千冬さんならまあテニヌとかできそうだなとか冗談半分で考えたことあったけどさ、一夏までテニヌをやってくるとは思わなかったよ。織斑の血がそうさせているのだろうか。

 

「暑い……」

 

 運動した影響で体が熱くなってきたので上着のチャックを開けることにした。スボンの中に入れていたTシャツを出していると何かを嗅ぐような仕草をした一夏の顔が急に赤く染まり、目元を緩み始めた。え、どうかしたのか? 何処かぼうっとした顔してるし。

 

「一夏、大丈夫か?」

「ひゃ!? な、なに!?」

「いや、なんかぼうっとしてたからさ。スポドリ飲むか? 飲むなら持ってくるけど」

「あ、うん。ありがと、飲むよ」

 

 俺は荷物を置いている男性用の更衣室へと向かう。二人分のタオルと常温で置いておいたスポーツドリンクを手にして戻ると一夏の分を彼女に手渡した。

 

「ほい。常温のやつだ」

「ありがと」

 

 こいつ、十代の癖に健康に五月蠅いから運動して熱くなっている体に冷たいスポーツドリンクは駄目だって言って聞かないんだよ。だからこうやって温めのやつを持ってきておいた訳で。

 あ、そうだ。今のうちに一夏にあの事を聞いておくか。汗をゆっくりと拭きとって、今はスポーツドリンクを少しずつ飲んでいる一夏に俺は問いかけた。

 

「一夏」

「なに?」

「お前、クリスマスは予定空いてるか?」

「空いてるよ。それがどうしたの?」

「そのなんだ、今年は皆でクリスマスパーティでもやらないか? 誕生パーティの時みたいに」

 

 俺の言葉に一夏は目をぱちくりとさせていた。あらやだ可愛い。お持ち帰りしたい。いや、今はそんなこと考えている場合じゃないな、うん。

 

「パーティ、かあ。うん、良いよ」

「ホントか?」

「うん。だってあの誕生日のパーティ楽しかったし」

 

 見惚れてしまう笑顔を俺に向けてくる一夏は本当に嬉しそうだった。俺と一緒に居ると嬉々とした表情をすることが多いが最近はより一層楽しそうにしているというか。

 

「プレゼントは何が欲しい?」

「……うーん。パーティで和行が料理作ってくれればそれでいいよ」

「え? そんなので良いのかよ?」

「うん」

 

 全く……。相変わらずこういった事には欲がないというかなんというか。今までの誕生日とかクリスマスでも他の皆が用意してくれたプレゼント受け取ることばかりで、年頃の野郎が欲しそうな物を欲しがったりしなかったからな。でもなあ、俺の料理が良いって言ってくれるのは嬉しいけどそれだけでは俺の気持ちが収まらない。また一夏に内緒でプレゼントを買うか。

 

「そういう和行はなにが欲しいの?」

「俺?」

 

 プレゼント、プレゼントねえ……。俺は一夏に貰える物ならなんでも嬉しいけど、ゲームとかタブレットとかライトノベルとか趣味関連の物はその内自分で買おうと考えてるから、クリスマスプレゼントとして欲しいものなんてないな。……あれ? これじゃ俺も一夏と大差ねえじゃん。

 現実逃避気味に一夏を少しだけ見つめてみる。そうだな。このまま何も要らないって言うのも癪だし、いま頭の中に浮かんだこの考えを一夏にぶつけてみるか。

 

「俺はパーティで一夏の料理が食べたいな」

「え、私の料理?」

「駄目か?」

「ううん、和行がそれでいいなら頑張って作るよ」

 

 一夏は口元に笑みを浮かべて俺を見てきた。一夏のその笑顔をずっと見ていたいと考えてしまった。だってこれ、完全に女神のそれですよ。

 

「似たもの同士だね、私達」

「そうだな」

 

 一夏と会話をしながら俺も笑みを溢す。やはり、俺と一夏はこういうところは意外と波長が合うのかもしれない。いや、他の所でも結構波長が合っているような気がしないでもない。好きなケーキとか好きなアイスとか。……食べ物ばっかだな。

 

「どうしたの和行?」

「ん? もし一夏と付き合ったらどうなるのかなって想像してた」

 

 こちらを覗き込んでくる一夏に対して誤魔化すように冗談を口にしたのだが、

 

「え、え。私と付き合う? え、ちょ、ちょっと待って!? わ、私と和行が……」

 

 なんか俺が想像してた反応と違うでござる。俺はてっきり、真顔で「そういう冗談やめてよ」とか言われると思ってたんだが……。なんだこれ、可愛すぎるだろ。これじゃまるっきり乙女の反応じゃないか。

 ……こいつ、本当に男に戻る気があるんだろうか。男に戻る為に色々我慢すると言って、女性特有の苦労とかその他諸々を耐え抜いていた一夏は何処かに消えてしまったと直感してしまった。今ここにいる一夏はもう男に戻る事なんて考えてないんじゃないかと勘ぐってしまうほどだ。もしそうであるなら、一体何が一夏をそう思わせるに至ったんだろうか。

 

「他の女の子に興味が向かないように私が色々と処理しないと駄目だよね。うん、大丈夫。受け止める覚悟はとっくにできてるし」

 

 一夏の危ない発言はスルーして、俺は頭を働かせ続ける。

 ――理由なんて分かり切ってるだろ。馬鹿か俺は。俺はまだ受け入れられないだけなんだ。気付かないように目を瞑ってただけだ。俺、一夏に対して好感度を稼いだというか好かれるようなことをした覚えないんだけどなあ……。自分がやりたいって思うことを一夏にしてきただけだし。何が切っ掛けだったのやら。

 

「ね、ねえ。和行は私とそ、そういう関係になりたいの?」

「……すまん。今のは冗談だ」

 

 本当ならイエスと言いたいところだったが、持ち前のクラススキルであるチキン精神が発動してしまった。お蔭で一夏の言葉を否定する形になったよ。俺、マジで馬鹿なんじゃないの? これ一夏のやつ怒るだろ絶対。ていうか、なんでこんな冗談言ったんだよ俺。

 

「――冗談? 和行って冗談でそう言うこと言う人なんだ。ふーん……」

 

 真正面に居る一夏は顔を伏せていた。冷たい声音を喉から吐きだしながら、俺の方へと近づいてきている。多分、顔を憤怒の色に染め上げているんだろうな。ほら、言わんこっちゃない。このある意味危機的な状況の中、俺の中に浮かんでいる考えは一つだけだった。

 

 ――話題の選択、ミスった。

 

「和行」

「はい」

「正座」

「はい」

 

 一夏に言われるがまま、俺は一夏の前に正座をする。そのまま俺は帰宅する時間になるまで一夏にお説教されました。説教の途中で「あのさぁ……」とか「悔い改めて」とか言われた所為でお尻の穴がきゅっとなったが気にしない方向で。俺はホモじゃないから。

 いや待て、元男の一夏のことが好きな俺はやはりホモなんじゃないか? でも、今の一夏は正真正銘の女の子だから問題ないよね? ホモはレズ。レズはホモ。ホモはノンケ。ノンケはホモ。レズはノンケ。ノンケはレズだ。仮にホモだとしてもノンケという名のホモだから何も問題ない。今の一夏は女の子で俺は男だ。つまりホモではなくてノンケ。Q.E.D.ですね。なんかホモだのレズだのノンケだの言いすぎた所為で混乱してきた。

 よし、別の事を考えよう。一夏のおっぱいの事を考えるんだ。押し付けられた感覚だけで語るのならば、一夏のおっぱいは柔らかくて張りもある俺好みのおっぱいだ。残念なところがあるとすれば、服とブラジャーという障壁二つ越しにしかその柔らかさを知らないということだ。障壁なしであの感覚を味わったら多分鼻血を出す間もなく気を失うわ。

 

「いま変なこと考えてなかった?」

「何の事だ?」

 

 一夏にバレかけたので何とか誤魔化しておく。俺達は自宅に向かって帰宅している途中だ。帰宅するにあたって、一夏はシャワーを浴びてからテニスウェアから私服に着替え終えている。ブラもスポーツブラから普段使っているブラに変えているはずだ。俺もジャージじゃなくていつもの服装になっているし。もちろんシャワーは俺も浴びたよ。汗臭い男が隣を歩くとか流石の一夏も嫌がるだろうし。

 まあ、そのことは今はいいや。俺の左を歩く一夏なんだが、

 

「その、一夏。本当にごめん」

「ふん」

 

 ご覧のとおり、まだぷりぷりと怒っています。確かにあんな冗談を言った俺も悪かったけどさ、ここまで不機嫌になられるとどうすればいいのか分からん。何とか一夏の機嫌を直さなければ。

 

「一夏、お願いだから機嫌直してくれよ。俺、なんでもするからさ」

「……今、なんでもするって言った?」

 

 あれぇ? なんでこんな臭い会話になってるんだろ。だが、一夏に何でもすると言った手前引くわけにはいかない。あ、でも、なんでもするとは言ったけど限度があるからね? そこら辺は分かっていただきたい。さて、一夏は俺にどんな要求をしてくるんだろうか。

 

「じゃあ、私と手を繋いで」

「へ?」

 

 なんだ、そんなことか。ならお安いご用だ。俺は左手で一夏の右手を優しく握る。だが、一夏の顔はムスっとしたままだった。あれ? なんかミスった?

 

「ごめんね。言い方間違えた。――恋人繋ぎして」

 

 一夏のその言葉を理解するのに数秒ほど掛かってしまった。あの、えっと。俺達って付き合ってないですよね? なのに俺と一夏が恋人繋ぎしていいのか? いや、一夏がしてくれって言ってるんだから恋人繋ぎしていいんだろうけど。あの、ものすっごく恥ずかしいんだけど……。でも、やらないと一夏が拗ねままだしなぁ。やるよ、やってやるよ。

 腹を括った俺は一夏と恋人繋ぎをした。あ、なんか前より一夏の手が柔らかすぎてヤバいかもこれ。

 

◇◇◇

 

 私の右手に和行の左手の温もりが覆いかぶさった。和行のごつごつとした男性特有の手に私は安心感を抱いてしまう。和行とこうしていると本当に落ち着く。はぁ……もう、和行の馬鹿。冗談であんなこと言うなんて最低だよ。今まであんな冗談を言う人じゃなかったのに。少しだけ本気にしちゃった私の気持ちを返してほしいよ。一体何が和行を変えたんだか……。

 まあいいか。和行とこうして恋人繋ぎをすることが出来てるんだから。付き合ってもいない状態で恋人繋ぎするのは嫌って言う女性はいるみたいけど私はそんなこと気にしない。だって、相手は和行だし。何より言い出したのは私だから。

 

「和行」

「なんだ?」

「許してあげる。さ、帰ろ?」

「あ、ああ」

 

 お互いに手を繋げたまま、私達は家へ帰る為に足を動かし始めた。……本当は何となく分かってるんだ。和行がちょっとだけ変わった理由。あれって――いや、駄目だ。これ以上はやめておこう。

 それよりも和行の格好いいところを考えよう。勉強を頑張っている和行って結構様になってるんだよね。あれかなりカッコいいよ。頑張る男の子って良いよね。あ、やばい。涎が出そう。こういう事ばかり考えているのを弾や数馬に知られたら和行マンセーとか言われそうだけどこればかりは許してほしい。だって和行の事が好きなんだもん。

 ……でも、ちょっとだけ怖くなってきてもいる。和行への恋心を自覚してから、男だった頃の記憶が以前にも増して私の脳裏を駆け巡ることが増えたから。お前は女ではなく男だと私の本能が告げてきているようだった。気にし過ぎなのかもしれないが、私は漠然とした不安を抱えるようになっていた。

 私はもう男に戻りたくない。鈴達が私が男に戻るのを望んでいたとしても、私は絶対に拒否するよ。私は女として和行と添い遂げてみせるって心に決めたんだから。

 

「ねえ、和行」

「ん?」

「今夜は何が良い?」

「シチューかカレーライスが食べたいな」

「あ、ごめん。カレーのルー切らしてた」

「じゃあシチューでいいよ」

「うん、わかった」

 

 気を紛らわせるために和行と今夜の晩御飯をどうかするかの会話を交わす。そんな最中でも考えてしまう。幾ら覚悟を持っていても、何れ私は男に戻るんじゃないかって。女の子の状態から男に戻ったら、私のこの恋心はどうなるのって。……怖いよ。本当に怖い。

 不意に私の右手を握っている和行の手の力が強まったように感じた。あれ、もしかして私、また顔に出してたかな? 和行の方を見てみるといつになく優しげな顔で見てるもん。やめて、胸が今きゅんときたからその顔やめて。

 

「大丈夫だ」

「え?」

「お前が何を不安に思っているのか分からないけど、俺はお前の傍に居るよ」

「和行……」

「悩みがあるなら相談に乗るぞ?」

「ううん、大丈夫。これは私が解決しなきゃいけない問題だから」

「……そうか」

 

 ……もう、和行は本当にずるいよ。なんで私が掛けて貰いたいって思った言葉を的確なタイミングで言ってくるの? また私を惚れ直させようとするとか本当は狙ってやってるんじゃないのって口を尖らせたくなったけど、ここは抑えて和行へのお礼だけを述べることにした。

 

「ありがと、和行」

「おう」

 

 この何気ないやり取りも、和行のお蔭で特別のものになっている。和行に恋をして変わったんだっていう実感が私の中に根を張っているようだ。

 ――大好きだよ、和行。これからもずっと。この想いは絶対に変わらないって予感がする。私達の子供に孫が出来たとしてもね。

 ……そうだ。あとで和行のアレのサイズを確認しておかなきゃ。ゴムを装着する時にサイズ合わないと駄目だろうし。私は着けなくてもいいんだけど、えっちする際に和行ならちゃんと着けないとって言いそうだから。それに学生の身で妊娠は流石に不味いかもしれないし。私は今すぐにでも和行との赤ちゃん欲しいんだけどなぁ。




まだ理性を残している一夏ちゃんに違和感がある(何言ってんだこいつ)
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