女体化した親友に俺が恋をしてしまった話   作:風呂敷マウント

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第二十九話 メリークリスマス(1/2)

 季節は十二月下旬。学校は既に冬休みに入っていた。夏休みと同じで宿題は早々に片づけておきました。成績がまた良くなった一夏が手伝ってくれたお蔭でスムーズに終わったよ。いつもの三人は未だに苦戦している科目があるみたいだけど、まあ頑張れ。すまんな、今の俺には一夏と一緒に居る時間の方が大切なんだよ。イチカニウムを毎分摂取しないと死ぬ体になってるんだよ俺は。まあ、冗談だけど。イチカニウムというか一夏が傍に居てくれないと駄目になっているのは本当だが。

 ちなみに俺の成績だけど、一夏がサポートしてくれたお蔭で前に比べたら大分良くなった。成績表を配っていた峯崎先生にも驚かれたけど一番ビックリしたのは俺自身だ。冬休みに入る前に行われた期末試験の成績も良かったし、この調子なら中学三年生である間も勉強を怠らなければ藍越も必ず受かるんじゃないかな? 備えるだけは備えて後は楽観的に行こう。

 なんだか、最近俺は似たようなことを考えるようになった。前までなら悲観的なことは悲観的に捉えたままだったが、女の子の一夏と過ごすうちになんだか内面まで変わってきたような気がする。これって恋の力なんだろうか。

 

「さて、帰るか」

 

 時間を確認すると時間はまだ午前十時だった。食材の不足分の買い出しを終えた俺は身を貫く寒さの中、自宅に帰る為に足を動かし始める。今日は十二月二十四日。そうクリスマスイブだ。世の中ではメリークルシミマスだの、リア充死ねだのと罵る人が出てくる日だ。俺にはそんな戯言を言っている暇などない。パーティの準備で忙しいんだよ。んなことふざけたことを言ってる暇があったらチキン焼くわ。

 クリスマスケーキは既に一夏が作ってる頃だろうし、あとは料理を作るだけかな。それで時間が来たら皆でパーティをするだけだ。今回は一夏の誕生日パーティに来ていたメンバーに加えて、蘭ちゃんも来るらしいので多めに作らないとな。まあ、俺と一夏で作るんだから大丈夫だろう。

 そんなことを考えている内に織斑宅へと着いていた。俺はチャイムを鳴らすこともせずに玄関の扉を開けて中へと入っていく。

 

「ただいま」

「おかえりなさい」

 

 いつも料理する時のスタイルであるポニーテールにエプロン姿の一夏が俺を出迎えてくれた。なんか新婚の夫を出迎えてくれた妻みたいだな。――って、なに阿呆なこと考えてるんだ俺は。

 

「ほい。これで足りるか?」

「うん大丈夫だよ。寒かったよね? ココア淹れるね」

「おう、ありがとな」

 

 俺から袋を受け取った一夏はリビングへと先に向かう。俺も靴を脱ぎ、スリッパを履いてから彼女の後に続いた。勝手知ったる他人の家といった感じで俺は遠慮もせずに一旦、洗面台へ向かい手洗いうがいをしてからリビングへと入った。リビングに入った途端、温かい空気が俺の体を包み込んでくる。今日は寒い方だからなあ。いつもより暖かめに暖房を動かしているんだろうな。

 ジャンパーを脱いでいると、一夏が台所の方でミルクを温めているのが見えた。それから少しして電磁調理器がアナウンスを流してミルクが温まったことを一夏に知らせると、そのミルクで一夏はココアを淹れて俺の下へと持ってきてくれた。あまり熱くならないように温めてくれていたらしく、息を吹きかけて冷ますといったことをせずにそのまま飲むことができた。

 

「はあ……温まるぅ」

「やっぱり寒かったんだね」

「昨日よりはマシだったけどな」

「皆、大丈夫かな?」

「あいつらなら大丈夫だろ。それで、俺が出来ることってある?」

「んー……ないかも」

 

 えぇ……。体の力が緩慢して椅子から転げ落ちるかと思ったぞ。

 

「ほら、まだ料理を作る時間じゃないから」

「確かにそうだけど……」

 

 壁に掛けられている時計をチラッと見てみる。現在の時間は十時半。パーティ開始は十三時で、今から作ったら冷たい料理が出来るだろう。だから手間のかかる料理以外は十二時から作ることなっていた。

 だが、台所の方に視線を合わせるとどうやら手間のかかる料理はこいつが一人で処理というか下準備してしまったっぽい。あの、俺の仕事はないんですか? 本当にないの? 俺、このまま一夏が作業しているのをただ黙って見ているの嫌だよ? 俺にも手伝わせて。

 

「なんかこう、手とか動かしてないと落ち着かないんだけど」

「いいから休んでて。朝から和行には買い物に行かせちゃったし、昨日もクリスマスツリーを飾るのを手伝ってくれたんだから」

 

 ……これは俺が折れるしかないか。わかったよ。大人しくしてるよ。俺がわかったと一夏に告げると、一夏は台所の方へと戻っていった。まだマグカップに残っているココアを飲みつつ、俺は先程一夏が話していたクリスマスツリーの方を眺める。これは織斑家にあったクリスマスツリーではない。うちにあったやつを一夏の家に持ち込んで俺と一夏が組み立てたのだ。

 そういえば、千冬さんって今日家に帰ってくるのかな? 聞いておくか。

 

「一夏。千冬さんって今日帰ってくるのか?」

「今日は帰ってこれないって。大晦日前日には帰ってくるって言ってたけど」

「またか……」

「まただよ……」

 

 俺と一夏は二人して呆れてしまった。去年もこんな感じだったぞ。あの人、ワーカーホリックとかじゃないよね? 一夏の為に汗水たらして働いてるだけだよね? ちゃんと年末とかには帰ってくるだけまだマシなんだろうけどさ。

 

「なあ一夏」

「うん?」

「お前、千冬さんが家に居なくて寂しいとか思った事ないのか?」

 

 こいつ、昔からあまり寂しいとか言わなかったからな。千冬さんが高校を卒業する前は家にいることが多かったけど、卒業してからは家に居たりする時間がめっきり減ったし。表面上は気にしてない素振りをしてたけど、本当は心の中でどう思ってるのか気になったので尋ねてみたんだが、

 

「ないよ」

「本当か?」

「うん。だって八千代さんや鈴達が居てくれたし。でも、一番の理由は――」

「理由は?」

「和行が居たから、かな?」

 

 ……やばい。なんでお前、そんな曇りない笑顔で俺の事見てくるんだよ。くっそ恥ずかしい……。

 

「和行が私の傍に居てくれたから寂しくなかったんだって改めて思ったの。さんきゅーね、和行」

「あ、ああ」

 

 混乱しかけている俺にはどう返したらいいのか分からず、曖昧な返事しかできなかった。この手の言葉を掛けられて何も思わないわけないだろ。嬉しすぎるわ。好きな女の子に傍に居てくれてありがとうとか言われたら変なテンションになるっての。思わず破顔しそうになった俺は残っているココアを自分の頭に浮かんでいる考えごと一気に飲み干した。危ない危ない。お見せできない顔を晒すところだった。

 その後、一夏と他愛無い話をしている内に料理を始める時間が近づいてきたので俺も台所に立つことにした。自宅から持ってきたエプロンを着け、石鹸で手を洗ったついでにアルコール消毒をしてから一夏と一緒に料理を作り始めた。こうやって織斑家で一夏と一緒に料理を作ったのって、一夏が女の子になった時以来な気がする。一夏が俺の家に住み始めてからは殆どこっちで料理しなくなったからな。

 

「なんかこうしているとあの日を思い出すね」

「あの日?」

「ほら、私が女の子になっちゃったあの日だよ」

「ふふっ……」

「何がおかしいの?」

「いや、俺も同じことを考えてたからさ」

 

 一夏も俺と同じことを考えているとは思わなかった。どういうわけか、最近こういうことが増えている気がする。一夏が考えていたことを俺も考えていて、俺が考えていることを一夏が考えているんだ。正直に言って気が合うってレベルじゃない気がする。

 

「そ、そうなんだ。わ、私達やっぱり気が合うね」

 

 うん。取り繕うとしていても若干頬が緩んでるから隠しきれてないよ、一夏ちゃん。そんなに俺と同じことを考えてるのが嬉しいのか。やっぱり一夏って俺に好意抱いてるよなこれ。その、なんだ。すっげえ嬉しいだけど。嬉しすぎて頭がどうにかなりそう。

 俺に抱き付いて来たり、世話を焼こうとしてきたのが気付いた切っ掛けだったけど、一夏の好意を認めるようになった決定的な原因はやっぱあれかな。前に夜中に起きてトイレに行ったことがあったんだけどさ、一夏の部屋の近くを通ると一夏が寝言で「和行。大好きだよ」って言ってるのが聞こえたんだよ。昼間とかの騒々しさが鳴りを潜める真夜中じゃなければ聞こえないくらいの声量だったんだけどね。最初は気のせいだと思ったんだが、それ以降も夜中に似たような寝言を口にしてたんで、認めざるを得なかったんだよ。

 ……一夏の「ゴムなんて要らないよ」とか「和行の赤ちゃん欲しいよぉ」って寝言だけは聞かなかったことにしてる。あの、ちょっと気が早過ぎない? 俺は高校を卒業するまでは子供を作る気なんてないぞ。そもそも学生の身で子持ちとか駄目だと思うの。てか、一昨日も夜中に起きてトイレに行ったら一夏が同じような寝言呟いてたんだけどさ……あいつ、もしかして寝てる時は俺の事しか考えてないのか? 一夏にその事を確かめるつもりはない。下手したら一夏が爆発しかねん。

 

「ああ、俺達は気が合うな」

 

 頭の中に巡らせていた考えを頭の片隅に吹き飛ばしながら、一夏に適当に返すことにした。気の利いた言葉が思いつかないんだよ。許せ。

 料理をする手を止めずに作業を続けていると、一夏が小さく言葉を漏らした。

 

「なんだか、こうやってると共同作業しているみたい」

「お前、今なんて……」

「っ!? な、なんでもない! なんでもないよ!」

 

 一夏、誤魔化しても意味ないぞ。お前の今の呟き、俺の耳がばっちり捉えていたからな? はあ……。なんだかこいつ、墓穴を掘る事が増えたというかポンコツになっている気がする。元からうっかりした発言をする多々あったんだが、最近ではそういうのも表に出さなくなった代わりに俺関連でこんな風になっているんだよ。良い事なんだか悪い事なんだか……。そんなこんなで料理を続けていると大抵の料理が出来上がり、時間もそろそろ良い頃合いになっていた。

 クリスマスに必要なピザもあいつとパーティしている最中に出来上がるだろう。ピザが無いとクリスマスとは言えないと俺は思うんだ。あとチキンもないとね。ていうか俺ってば、基本的にクリスマスのことを周囲の人間に文句を言われることなく、ピザとチキンが食べられる日としか認識してないし。

 俺がそんな風に考えていると不意に玄関のチャイムが鳴った。お、あいつら来たのか。一夏に料理の仕上げは任せ、俺は玄関に行って鈴達を出迎えることにした。

 

「よっ。来たぜ」

「おう。よく来たな」

 

 弾の挨拶に俺はいつもの感じで言葉を返した。俺の目の前にはいつもの顔触れに加えて蘭ちゃんの姿があった。

 

「とりあえず入れよ。寒かっただろ」

 

 俺の言葉に反応して、皆が織斑家に入ってくる。リビングに戻った俺はいそいそとしている一夏と一緒に皆の分の飲み物を淹れて、リビングに入ってきた皆に飲物を手渡した。あったかいものどうぞといった感じで。

 

「にしても……」

「なんだよ、その目は」

「お前のエプロン姿っていつ見ても慣れないなって」

 

 ん? ああ。まあ、そうだよな。俺がこいつらにエプロン姿を見せるのって大抵は家庭科の授業で料理したりする時くらいだからな。その度に弾と数馬に弄られてるけど。

 

「やっぱ変か?」

「ああ。もう違和感バリバリ――ってえ!」

 

 蘭ちゃんが放った肘打ちが弾の脇腹に吸い込まれた件。飲物だけは零れないようにちゃんと死守している辺り、こいつ殴られ慣れてやがる。怖い、軽く弾の事が怖くなってきたぞ。お前、どんだけ蘭ちゃんに肘打ちとかされてるんだよ。余計なこと口走りすぎじゃないのか……。

 ヤバい。なんか痛みに悶えてる弾を見てたら、俺の脇腹まで痛くなってきたんだが。

 

「お兄! 失礼なこと言わない! すいません和行さん。うちの馬鹿兄が」

「ううん。大丈夫だよ、これくらいならいつもの事だし」

 

 これくらいなら、いつもの弾との軽口の範疇に入ってるからね。ていうか、これだとどっちが年上なのかわかんねえな。もう弾が弟で、蘭ちゃんが姉でいいんじゃない? 俺がそんなふざけたことを考えていると、その光景を見ていた鈴と数馬が呆れたような顔でぽろりと言葉を漏らしていた。

 

「何やってるのよあいつ……」

「なんか実家のような安心感がある」

 

 なんか思い思いの言葉を口にしていたでござる。特に数馬の言葉には全面的に同意出来るわ、うん。

 

「ねえ、和行。そろそろ時間じゃない?」

 

 一夏のその言葉に俺はパーティを始める音頭を取り、クリスマスパーティが始まった。

 

「一夏。少し休めよ。折角のパーティなんだし」

「え? でもまだピザとか並び終えてないし……」

「それは俺がやっておくから。ほら」

「うん、分かった。ありがとね和行」

「おう」

 

 俺は一夏の言葉を受け取りながら、一夏の代わりに彼女が焼いてくれたピザ等を並べることにした。その際、一夏は物凄く嬉しそうな表情をしていた。うん、やっぱ一夏は可愛いよ。ふと、誰かの視線を感じたのでそちらに顔を向ける。そこには蘭ちゃんが信じられないものを見たと言わんばかりの顔をしていた。

 ……まさか。蘭ちゃん、気付いたのか? そりゃあ気付くよな。一夏の顔が完全に恋する乙女になってるんだから。蘭ちゃんだけじゃなくて、多分鈴も気付いている。なんとなくだけど。一夏の俺への態度が急変した日に、鈴が言葉を濁していたのって一夏が俺を好きになっていることに気付いてたからなんだと思う。この二人、一夏の事が好きなんだよな……。

 考えていなかった訳じゃない。俺と一夏がもし付き合う事になったら、一夏に恋してた人達は必然的に失恋した状態になる。いやまあ、一夏が女の子になってる時点でバイとかじゃない限り大抵の子は失恋したも同然なんだけどさ。赤の他人なら別に気にするまでもなかったけど、身内とか知り合いとかに失恋した子が出るとなるとこうモヤモヤとした気分になってきてしまう。

 だからと言って、俺は身を引く気はないけどな。俺、もう一夏のことしか考えられないし。一夏以外の女の子と付き合うとかあり得ないというか想像もしたくない。一夏は俺だけのモノだ。一人っ子の我儘パワー舐めんじゃねえぞ。

 ……いかんいかん。折角のクリスマスパーティなのにこんな気分になるとか駄目だろ。仕方ない気持ちを切り変えるか。ところでさ、さっきからなんで料理に手を付けないの皆? 他人の家だからって遠慮してるの?

 

 ――そうだ。おいチキン食わねぇか。

 

「おい弾くぅん」

「な、なんだ?」

「俺が丹精込めて焼いたチキンだ。まずお前が毒――食べてくれ」

「おい待て。毒味って言いかけたよな今」

「気のせいだ」

 

 俺が焼いたチキンを皿に取って弾に向かってずいっと差し出す。弾はそれを受け取り、仕方ないと言わんばかりの顔でチキンに齧り付いた。こいつはこれでもあの美味い五反田食堂の息子だ。こいつに味見とかを任せても問題ないだろう。

 いやね? 俺と一夏だと、どうもお互いの料理を毎度の如く美味いとか言わなくてさ、ちょっと自分の料理の腕が上がっているのか自信がなくなったから客観的に味を見てくれる第三者が必要だったんだ。まあ、ぶっちゃければそこに弾が居たから弾を試食役に任命したってだけなんだが。

 

「あ、美味い」

「ホントか?」

「ああ、ほんとだ」

 

 うん、上手くできてたか。よかったよかった。

 

「おい。皆も食べていいぞ」

 

 俺のその言葉を合図に皆は料理を食べ始めた。ほんとにさ、なんで料理を食べるのを遠慮してたんだ? 今日は無礼講だぞ。そんなことを考えた俺は皆に疑問をぶつけたのだが、

 

「だって、な?」

「なんていうか料理が眩しすぎて目が焼けるというか」

「正直言って、これホントに手料理なの?」

「わ、私の手料理が霞んで見えます……」

 

 弾、数馬、鈴、蘭ちゃんの順に言葉が返ってきた。え……俺達の料理、そんなにアレなの? 俺からしたらいつもよりちょっと気合入れただけなんだが……。俺と一夏の感覚がおかしいのか?

 ま、まあいいか。俺は料理を食べている皆を横目に丁度焼き上がったピザをテーブルに持っていくとその近くで鈴と蘭ちゃんはお互いに慰め合っていた。なんだか、前の一夏の誕生パーティであった俺の料理のことでしてた弾達の会話よりも反応に困る光景なんだけど。

 美味そうに料理を食っている弾と数馬は放っておくとして、そこの二人のフォローは……うん、しない方が良いよね。下手に今の鈴と蘭ちゃんを刺激したらこっちに怒声が飛んでくるかもしれないし。

 

「鈴さん。私、二重の意味で心が折れそうです……!」

「蘭、気をしっかり保つのよ! ここで折れたら一生立ち上がれないわ。踏ん張るのよ、蘭!」

 

 なんか台詞だけ聞けばバトル物の漫画やラノベのシーンを彷彿とさせるのだが、……俺からはこれ以上何とも言えないわ。昔は一夏だけが料理で女の子の心を折っていく事が多かったが、俺までこちらが側に回ることになるとは読めなかった。このリハクの目を以てしてもな。

 

「みんなどうしたんだろ?」

「和行とお前の料理に皆打ちひしがれているだけだ」

 

 一夏の疑問に数馬がそう答えていた。お前、今日はなんか俺の気持ちの代弁者みたいなことやってんな。でもまあ、この締まらない空気も俺達らしいといえば俺達らしいのかな?

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