女体化した親友に俺が恋をしてしまった話   作:風呂敷マウント

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第三十話 メリークリスマス(2/2)

 和行に休むように言われた私はソファーに座り、料理を運び終えて弾達と談笑している和行を眺めながら緑茶を飲んでいた。手前のテーブルには和行が私の為によそってくれた料理が置かれている。そう、私の為に。大事な事なんで二回言ったよ。

 和行ってやっぱりカッコいいよね。男の頃、よく和行たちに「お前ってイケメンだよな」とか言われたことがあったけど、そんな自覚なんて殆どなかった。むしろ弾とかの方がイケメンに見えてたから。それに今の和行は多分男だった私よりも格好いいと思う。私からすれば物凄いイケメンに見えるんだもん。

 なんなの? 私に対する魅了スキルでも持っているの? 反則すぎるよ。はぁ……和行カッコいい。彼氏になってください。

 

「ピザうめえ! キンキンにチーズが自己主張してきやがる!」

「和行って本当にピザ好きだよな」

「当たり前だ。ピザはこの世に生まれた史上最強の料理だぞ。好きにならない方がおかしい。このチーズとトマトの組み合わせはもうこれベストマッチと言わざるを得ない。それにだ! バジルソースを掛けた時の――」

「……すまん。俺、お前のそのノリだけはついていけそうにないわ」

 

 ピザを食べている和行の顔と熱弁している姿が生き生きしてて可愛い。弾と数馬は和行の表情と正反対の疲れた表情をしているけど。クリスマスイブ効果でもあるのか、和行の事を褒めちぎりたい気分になってる。皆が居なかったら和行を襲ってたかも。

 私は軽く危ないことを考えつつ、和行が焼いてくれたチキンをフォークで一口食べる。うん、和行の料理はやっぱり美味しい。いつもより気合が入っているのもあるんだろうけど、料理の腕を着実に上げてるからだと思う。それに私が食べやすいように肉を小さくカットしてくれたし。格好良くて、家事も出来て、気が利いて、優しいってもうこれ最強でしょ。自慢の旦那さんだよ。

 そんな風に和行の事を脳内で褒めちぎっていると、蘭が私に近寄ってきた。なんだか、今まで意識してなかったけどこうして蘭を見てみると蘭ってかなりの美少女だよね。

 

「一夏さん。お久しぶりです」

「うん。久しぶりだね、蘭」

 

 あのプール以来だよね。蘭とこうして顔を合わせるの。メールとか電話では結構お話してたけど。今時の女の子の流行とかの話とか聞かせて貰ったりしていたから。……どうしたんだろ? なんだか悩んでいる顔をしているような……。

 

「蘭、どうかした?」

「えっ?」

「なんか考え事でもしてた?」

「っ! い、いえ! なんでもないですよ! こういうパーティとかあまり参加したことないので、少し緊張してしまって」

 

 私の言葉に慌てたのか、蘭はそう返してきた。うーん、今は同じ女の子なんだし相談に乗ってあげられると思ったんだけどなあ。蘭が自分でなんでもないって言ってるんだからあまり踏み込むのも駄目だよね。男の時なら、そんなのお構いなしでズカズカと聞き出そうとしていたかも。でも、今はそんな真似をなんてしないよ。誰にだって言いたくないことの一つや二つあるだろうし。私にも言いたくないことあるから。

 例えば和行のトランクスの匂いを洗濯する前にいつも嗅いでいたり、たまに和行が先にお風呂入る時があるんだけど、和行の残り湯で興奮しまくったりしている。……うん、私って控えめに言わなくても変態だね。でも変態でもいいんだ。和行の事が好きだから。

 

「あの、一夏さん」

「うん?」

「その……男性に戻る為の薬って出来たんですか?」

 

 先程の表情と打って変わって真面目な表情で尋ねてきた。男性に戻る薬かぁ。……今まで忘れてたよ。だって、束さんは全然私達に連絡を寄越さないし、私はもう男に戻りたくないって思ってるから戻る方法なんて記憶の彼方にすっ飛ばしてた。

 はっきり言って束さんが口にしていた言葉なんて一ミリも信用していない。誰が私の事を強制的に女の子にした人の言葉を信じるなんて無理でしょ。でもあの人には感謝にも似た感情を抱いてもいる。だって、女の子にならなければ和行のことを好きになることなんてなかっただろうから。何とも複雑な気分だ。

 と、今は蘭の質問に答えるのが先決だね。でも、正直に男に戻る気はないと言う訳にはいかないし……よし、無難な言葉を選ぶことにしよう。

 

「それがまだみたいなの」

「そ、そうですか……。女の子にされて大変なのに、辛いですよね……」

「その、ありがとね。私の心配をしてくれて」

「い、いえ! お兄のお友達ですし、これくらい当然ですよ」

 

 なんだか本心を隠している気がしないでもないけど、さっきも言った通り下手に踏み込むことはしないよ。

 

「……私の想いはもう届かないんですね」

「蘭?」

「す、すいません。私、お兄が何かやらかしてないか見てきてます!」

 

 私に頭を下げて蘭は弾の下へと向かっていった。……蘭、なんであんなことを呟いたんだろ。私の想いってどういう意味? ……駄目だ。頭を悩ませても答えが出そうにないや。私は蘭が口にした言葉を頭の片隅に追いやり、和行の料理に再び手を付けることにした。手元にある料理を食べ進めていると、今度は鈴が私のところにやってきた。

 

「鈴」

「……隣、座ってもいい?」

「うん。いいよ」

 

 鈴は私の返事を聞くと、ドサっと勢いよく私の傍に座った。

 

「ちょっと鈴」

「なに?」

「そんな風に座ったらパンツ見えるよ?」

「なあ!?」

 

 私の指摘に鈴は素っ頓狂な声を上げた。当然のことを指摘しただけなんだけどおかしかったのかな? だってそんな勢いで座ったらスカートが捲れるに決まってるもん。だから注意したんだけど。幸いなことに和行は弾達と話すのに夢中になってて鈴の方には視線は向いてなかったけど。もし仮に和行の目に鈴のパンツが飛び込んでたら、ちょっと正気でいられなかったかも。

 和行が見ていい女の子の下着は私の下着だけだよ。和行が望むならいつでもパンツとかブラを見せるつもりだから。……早く和行と堂々とそういうことを出来る関係になりたいよ。

 

「あ、あんたねえ! 男なんだから女の子に向かってパ、パンツとか平気で口にするんじゃないわよ! 少しは言葉を濁しなさいよ!」

「あの、鈴? 私、いま女の子だから」

「……そうだったわね」

 

 羞恥に染まった表情から一転、鈴は先程の蘭と似たような悲しみに包まれた表情に早変わりした。……鈴といい蘭といい、どうしたんだろ。

 

「ねえ一夏」

「なに?」

「あんた、今楽しい?」

「うん。楽しいよ」

「女の子の苦労で嫌になったとかないの?」

「ないって言ったら嘘になるかな」

 

 正直言えば女の子特有の苦労の所為で女の子で居ることが嫌になったことはある。生理とか化粧とか色々なことでね。ほら、私って男として過ごしてきたのに途中から女の子になった訳だし。最初から女の子だったらそういうのにもあまり抵抗がなかったかもしれないけど。

 

「でもね、皆や和行が傍に居てくれたから私は乗り越えられたよ。だから」

「楽しいと思えてるってわけ?」

「うん。特に和行には感謝してるんだ」

「あいつに?」

 

 私は鈴の言葉を首肯する。辛いと感じる度に和行が近くに居てくれたから、和行が私に寄り添ってくれていたからここまでやってこれたんだ。和行が居てくれなかったら途中で潰れて自暴自棄になっていたと思う。ヤケクソな考えと衝動的な感情に突き動かされて女のままでいいと叫んでいただろう。それだけ和行の存在は私の中で大きいんだ。

 でも、今はあの頃と違う。私は自分の意思で女の子として和行の傍に居ることに決めたんだ。女の子である織斑一夏として和行に恋しているんだから。この思いは多分、死ぬまで変わらないと思う。ううん、死んでも変わらないかも。私がそんな確信めいたことを脳内で思い描いていると、鈴は何かを悟ったかのような表情を浮かべていた。

 

「……そうか。やっぱりそうなのね」

「鈴、どうかしたの?」

「なんでもないわ。じゃ、あたし弾達を弄りに行ってくるわ」

 

 私はそう言い残して弾達の下へ行く鈴を見送るしかなかった。本当に二人ともどうしたんだろ? 何かを悟ったみたいだけど……。うーん、分からない。喉元まで答えのようなものが出そうになっているんだけど、引っかかっているのか言葉にできない。私、二人に何か悪い事でもしたのかな……。

 って、クリスマスイブなのにこんな悩むような顔している場合じゃないよね。気持ちを切り替えるために和行の傍に行こう。そうしよう。

 その後、私達は料理を食べつつパーティを楽しんだ。和行と数馬と弾が馬鹿をやって、それに鈴と蘭が呆れて、それを私が眺めているっていう光景が広がったりしていたけどこの空気が私には凄く心地良かった。皆と馬鹿話とかが出来るこの空間が。

 プレゼント交換も面白かった。交換した際に弾が選んだ不味そうなフレーバーの炭酸飲料を数馬が手にしてしまうという事態があった。和行の下にあれが行かなくて本当に良かったよ。蘭が用意したのは調理器具でそれは私の下にきた。これ、私が欲しかったやつなんだよね。蘭に感謝しなくちゃ。

 鈴が用意したのは中国武術の指南書らしい。なんでそんなもの用意してきたの……。しかも弾がそれを手に入れちゃったし。和行が選んだのは文芸小説でそれは蘭が手に入れてた。蘭ならあの手の本とかすらすら読めるイメージがある。実際に蘭がその手の本を読んでるの見た事あるし。私には無理かも。

 和行の手元に残ったのは数馬が選んだクラシック音楽のCDらしい。数馬にしては無難なものを選んできた気がする。なんかこうエキセントリックなものを選ぶと思ってたから。ちなみに私が選んだのは料理本だった。それを手に入れた鈴が何故か涙を流しながら私の方を見てきてたけど。なんていうか皆が思い思いのプレゼントを用意してて面白かった。

 

「一夏」

「どうしたの?」

「片づけが終わったらさ、渡したいものがあるんだ」

「渡したいもの?」

「うん」

 

 皆が帰り、パーティ後の後片付けを二人でしている最中に和行がそんなことを言ってきた。もしかしなくても、交換用とは違う私へのプレゼントとか?

 嬉しい。変なくらいにテンション上がりそう。プレゼントを渡された後に良い雰囲気になってえっちな事をする雰囲気になったりしないよね? わ、私、覚悟は出来てるよ。和行の欲望をいつでも受け止めるよ。むしろ好きな人の欲望を受けとめない方がおかしいでしょ。でも和行ってむっつりスケベっぽいし、結構激しいことしてくるかもしれない。

 

「……どうかしたか?」

「えっ!? ううん、なんでもないよ」

 

 和行が怪しいものを見るような目で私のことを見てくるが何とか誤魔化せた……と思う。なんとか片づけを終えて、和行と一緒に九条家へと帰ってきた私は和行の「リビングで待ってて」という言葉に従い、リビングのソファーに座りながら待っていた。深呼吸を二、三回行う。

 凄く緊張してきてた。落ち着け、落ち着くんだ私。前はネックレスをくれた時はそこまで気を張っていなかったのに、今は和行のことを好きになっているからなのかな?

 

「おまたせ、一夏」

 

 和行の声を聴いた私は反射的にソファーから立ち上がり、声がした方へと視線を這わせた。そこには私にだけ向けてくれる笑みを浮かべた和行が立っていた。うん、やっぱり和行の笑顔は私の心を癒してくれるね。大好きだよ和行。早く中学生を卒業して十六歳になりたい。そうすれば結婚できるだろうし。あ、でも和行は十八歳にならないと駄目だよね? ……今まで生きてきて一番法律に対して腹が立ったんだけど。

 

「はい一夏。これ俺からのクリスマスプレゼント」

「ありがと。開けてもいい?」

「ああ。いいぞ」

 

 早い段階で和行と結婚できないことへの苛立ちを意識の彼方に蹴り飛ばすと、和行からプレゼントを受け取った私はプレゼントの袋を開けた。中にはシュシュとリボンが複数入っているのが見える。どうして和行はこれを私に?

 

「これって――」

「一夏っていつもヘアゴムでポニーテールにしてるだろ? だからその、シュシュとかリボンとかで結ってみてほしいなって思ってさ」

「……」

 

 ……凄い嬉しい。和行ってやっぱり私の事を見ててくれてるんだね。大好きだよ。好き。好き。大好き。和行大好き。嬉しすぎて涙が出そうだけど何とか踏ん張ることができた。

 

「その、やっぱりネックレスとかの方が良かったかな?」

「ううん。そんなことないよ。さんきゅーね、和行」

 

 私は今できる笑顔を見せながら和行にお礼を言った。

 

「あ、ああ。一夏の笑顔見れて嬉しいよ」

 

 にこやかな笑顔を私に向けながら紡がれた和行のその言葉に、私は体の芯から全身へと熱が駆け巡るのを感じた。お蔭で心臓が高鳴っていて胸が苦しい。

 え、え。な、なんなの! 和行が私の心をさっきから掻き乱してくるんだけど!? やばいやばい。顔が緩んじゃうよ。和行が、和行が! 和行に嬉しいって言われた! 駄目だよこれ。和行の顔、まともに見れないよ。わ、私、和行を押し倒したくなってきちゃった。それで和行とキスができれば……! って、何を考えるの私! そうだ、気持ちを切り替えよう! 私も和行に交換用とは別にプレゼントを買ったんだ。それを渡そう!

 

「か、和行」

「なに?」

「私もねプレゼントを買ったんだ。ちょっと待っててくれる?」

「え、うん。いいけど」

 

 私は和行から貰ったプレゼントを手に持ちながら二階の自室へと向かい、和行から貰ったプレゼントを机の上に置く。そして机の上にあった別の袋を手に持ち、一階へと戻る。和行が喜んでくれるといいんだけど。

 

「これ、受け取ってくれる?」

「ありがと一夏。開けてもいいか?」

「いいよ」

 

 和行は私に了承を取るなり袋を開けて、中にある箱を取り出す。続いてその箱の蓋を開けた和行はきょとんとした顔になった。可愛い。和行のあの顔可愛い。スマホで今の和行の顔を撮りまくりたい。プリントアウトして部屋中に飾りたい。

 あ、でも私のスマホってこっそり撮った和行の寝顔とか、了承を得て撮りまくった横顔とかの影響で容量がギリギリなんだった。クラウドストレージやパソコンにバックアップを取ってシステムに影響が出ない容量を維持しているけど、このままじゃちょっとキツイかも……。今度千冬姉に相談して内蔵ストレージが大きいスマホに変えようかな。

 いや、これは今関係ないよね。今は和行の目線の先にある物の方に意識を向けるべきだよね。

 

「これって財布?」

「うん。この前、いつも使ってる財布が古くなってきたって言ってたでしょ?」

 

 私がそういうと箱をテーブルの上に置き、中に入っていた二つ折りの財布を大事そうに抱えながら私に目一杯の笑顔を向けてきた。

 

「ありがと、一夏。大事に使わせてもらうよ」

 

 和行の笑顔と言葉が暖かい。私、和行の事を好きになって本当によかった。和行とこうして一緒に居る時間全てが輝いて見えるから。ああ、本当に嬉しい。和行をこの世界に生んでくれてありがとうって八千代さんにお礼を言いたいよ。

 ふと気が付くと和行が私ではなく、窓の外を眺めていた。外に何かあるのかな? 私は和行が見ている方へと視線を向けるとそこには――

 

「――雪?」

 

 雪が降っていた。私と和行は窓に近寄って一緒に窓の外を見る。今日の天気予報では降る予定はなかったはずだけど……。でも、雪が降ってきているお蔭でホワイトクリスマスになった訳だよね? なんかこう、神秘的なものを感じる。和行と一緒に居るから余計そう思えてきているのかな?

 

「なんか」

「うん?」

「雪なんて見慣れてるのに、新鮮に思えるな」

「私も同じこと思ってた」

 

 うん、やっぱりそうだ。和行と一緒に居るから見慣れた光景ですら新鮮な光景に思えているんだ。和行も私と同じことを考えているらしい。ほんと男同士だった頃から私と和行は気が合うところは合うよね。私と和行ってどっちかというと真逆の人種なのにね。和行はインドア派であまり外に出たがらなかったけど、私は外に出て遊ぶのに躊躇いはなかったから。

 でも、中学生になってから和行はそうでもない。私と一緒に何処かに出かけるのを楽しみにしている節さえあるからね。それに対して少しばかりの寂しさを覚えてしまったのは内緒だ。……まあ、和行が変わった原因は私なんだけどね。今の和行も大好きだけど、あのおどおどした和行も大好きだから。

 和行の横顔を眺めながら、ふと考えてしまった。どうして私と和行は出会ったんだろうか……。こんな広い世界で和行と知り合ったのはどうしてなんだろうか? 仮に和行と会う事がなかったら、私はどんな人生を送っていたんだろうか。

 

「一夏」

 

 答えが返ってくる訳でもない考えを抱いていた私に和行が声掛けてきた。どうかしたのかな?

 

「なに?」

「メリークリスマス」

 

 和行の口から紡がれた言葉に私は不意を突かれてしまった。和行の言葉の影響で考えが吹き飛んだ気がした。こんなことを気にしている自分が馬鹿みたいに思えてくる。そうだよ。私と和行が昔から同じ時間を過ごしてきた理由なんて、そんなに深く考える必要なんてないんだ。

 もし、和行と出会った事に理由があるとしたら――

 

「メリークリスマス。和行」

 

 ――きっと、()()だったのかもね。




実はこのクリスマス回って一話で纏まるはずだったんですよ。でも、なんか書いている内に地の文やらが増えて二つになりました。
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