束さんの話を聞いていた私は言葉を失ってしまった。頭を殴られたかのような衝撃が襲い、私の心を大きく揺さぶられている。
この人が私にこの薬を否が応にでも使わせる算段をしていることに反射的に小瓶を握る手の力が強まる。もしこれ使わなければ、束さんの言葉通りにこっそりと性転換薬を盛られるだろう。恐らく外食している最中にそういうことをしてくると思う。そうなったらこの人の所為で私の性別が女から男に戻ってしまうかもしれない。
和行の方を見ると、和行も不安に駆られているのか暗い表情を浮かべている。和行にこんな表情をさせた束さんに腹が立ちそうになるが、何とか自分の気持ちを制御することにした。
「……っ」
私は男に戻りたくないって思ってるし、常日頃から自分に言い聞かせている。……でも、本当に心の底からそう思っているのかな? 現に今も和行の事が好きと考えているのに、男の頃の記憶ばかりが頭に浮かんできているから。
――違う。私は女の子で居たいんだ。男に戻りたくない。……やめて! 私は女の子として和行のことが好きなんだから! 絶対に元に戻りたくない!
……どうすればいいんだろう。私は口を一文字に結び、束さんから手渡された小瓶を睨み付ける。なんで今更こんな物を寄越して、私に強制的に飲ませようとしているのだろうか。もう私は男に戻る気なんて更々無いのに。なんでこんな物を……!
「細工とかしてないですよね?」
「してないよ。かずくんに誓って」
顔の前に右手をやり、親指と中指で米神をぐりぐりと押している和行からの問いかけに対して束さんはあっけらかんと答えた。嘘は吐いてないと思うけど、もし今の言葉が嘘で強制的に男に戻ったら――私は束さんを一生許さない。地の果てまで追いかけて、例えトイレの中に隠れていても必ず見つけ出してこの世から消し去るから。
「念のためにもう一度言うけど、それを使う際はよーく考えて使うように! あ、服用して八時間後に性別が変わるから使うタイミングも気を付けてね!」
私が動揺しているのを知ってか知らずか、お茶を一気に飲み干して湯呑をテーブルに置くと小さい子のように落ち着きのない動きで立ち上がると束さんはすたすたとリビングの出入り口へと向かっていく。
「じゃあね。かずくん、いっちゃん。チャオ!」
イタリア語での挨拶を残して束さんは九条家から出て行こうとしている。私は咄嗟にその後を追いかけて玄関まで来たが既に束さんの姿はない。靴を履いて家の外へと出てみるが、そこにも束さんの姿は無かった。
下手人を逃がしてしまったことに歯を食いしばりながら私は家の中に戻る。玄関の鍵を閉めてリビングに戻ると、和行が私の為にお茶を用意してくれていた。私がソファーに座ったタイミングで和行がお茶を私の下へと持ってきてくれた。
「はい、一夏」
「あ、ありがと」
お茶を受け取って飲んだ私は気持ちを落ち着けながら、想い人である和行のことを見つめてしまう。……もし、私が男に戻っちゃったら、和行はどういう行動に出るのかな。……気になる。
「ねえ。和行」
「なんだ?」
「私がこの薬で男に戻っちゃったらどうする?」
お茶がまだ残っている湯呑を置き、性転換薬が入った小瓶をテーブルの上に置いた私はそう問いかける。私の向かい側に座った和行は目を伏せてしまった。けど、和行は大きく息を吸ってから顔を上げて私を真剣な目付きで見つめてくる。
「俺が女の子になるよ」
「えっ……」
私には一瞬だけ、和行が何を言っているのか理解できなかった。だが、徐々に和行の発言を飲み込むことが出来た私は思わず和行に詰め寄ってしまう。
「か、和行! 自分が何を言っているのか分かってるの!?」
「分かってる」
「女の子って凄く大変なんだよ!」
「……お前を見てきたから何となくわかる」
何となくじゃ駄目だよ、和行。女の子は本当に大変なんだよ? 身支度やら生理やら肌や髪の毛の手入れとか色々とね。女の子になってから、それらを身を以って体験しているから私はそんな苦労を和行に味あわせたくないと強く願ってしまう。和行なら気丈に耐えるかもしれないけど、私の心がそれは駄目だって叫んでるから。
「これは保険だ。一夏が女の子のままでいるのが一番だけど、もしそうならなかったらのな」
「でも、和行にそんな思いをさせるなんて……」
「だから、大変なのは十分承知してるっての」
腕を僅かに振るわせながら私にそう告げてきた和行に喜びと憂心を抱いてしまう。和行はこう言ってるけど、本当は私が男に戻ってしまわないか不安なはずなんだ。だって和行ってば私に夢中だし、女の子の私の事を恋慕ってくれてるから。それなのに頑張って耐えてるんだね。……和行はもしもの場合に備えて、既に覚悟を決めてるんだ。本当、こういう時の和行は凄いや。
「それにだ。俺が可愛い女の子になったら、可愛い幼馴染が出来たって千冬さんや母さんに自慢できるかもしれないぞ?」
……少しだけ良いかもと思ってしまった。和行なら多分可愛い女の子に成れるかもしれない。なるとしたら黒髪美少女だと思う。胸の大きさとかはあまり気しないかな、私は。
家庭的で可愛い黒髪美少女な和行――そうなった場合の名前はどうしようか? 私の場合は男でも女の子でも通じる名前だったから別に問題はなかったけど、和行は完全に男の名前だ。女の子になっている状態で和行と呼んだら物凄い違和感が出るだろうね。
そうだ。和行のゆきから取って、雪絵とかどうかな? うん、いいかも。女の子になった和行に似合うと思うよ。……なんだか、和行と話していると必死に頭を働かせていた自分が馬鹿に思えてくる。
「ずるいよ。和行は」
ついそんな言葉を零してしまう。本当に和行はずるい。私の悩みを簡単に吹き飛ばすようなことばかり言って……。そんなところも大好きだよ。うん、和行のお蔭で気分が晴れたかも。それに和行の言葉で私も覚悟が決まった。
――今日中にこの薬を飲むよ。早い段階で飲んでしまえば束さんに薬を盛られることもないだろうから。というか、それだけは絶対に嫌だ。自分で男に逆戻りしたとかならまだ納得できるけど、あの人の所為で性別が戻るとか絶対許容できない。男に戻った場合、春休み中に男での生活に慣れることが出来るだろうし、女の子のままだったら和行とずっとイチャイチャラブラブしていられるだろうから。
「でも、どうして女の子になるって考えたの?」
「一夏の傍に居たいからじゃ駄目か?」
「駄目じゃないけど……」
うん、物凄く嬉しい。でもね、なんだかそれじゃ納得できないというか。そういえば、和行が持っていたえっちな本に男が女の子に変わってしまうジャンルの本があったような……。もしかして、和行って女の子になりたい願望を持っていたりとか?
「和行」
「なに?」
「女の子になりたい願望とか持ってないよね? 和行が持ってる女の子がえっちなことされる本みたいな展開を期待してたりとかさ」
「なっ!?」
和行の顔が驚愕の色に染まった。多分、今の和行は二重の意味で驚いてると思う。自分の願望を言い当てられた事と、私に隠してあるはずのスケベな本を見つけられたということに。前者に関しては和行の表情を見れば丸わかりだし、後者に関してはアレで隠したと思えてるなんて甘いというかなんというか。
和行が買い物とかに出ている時に女の子がえっちなことされてる本とかを隠してないかと、こっそり部屋の中を探したりしたからね。私が男だった時とは隠し場所が違ってたし上手く隠されてたけど、和行の癖とかを全部把握してる私の手に掛かれば見つけ出すのなんて朝飯前だよ。
ちなみにえっちな本を見つけた際に一緒に隠してあったゴムは回収済みだよ。和行にはああいうのを堂々と買う勇気はないだろうし、多分八千代さんが和行に買い与えたんだろうね。こっちの手に渡ったからにはゴムを使うのは私の判断に任せてもらうよ。大丈夫、和行がちゃんと着けなきゃって言ったら私が着けてあげるから。私に全部任せてくれていいんだよ?
「え、エロい本なんて……」
「持ってるよね? 黒髪巨乳の女の子――特に幼馴染にえっちなことをする本とか、女の子に性別が変わっちゃった男性とえっちな事する本とか」
「…………はい。持ってます」
涙目になりながらドスケベな本を持っていることを和行は認めた。……可愛い。涙目になってる和行が可愛すぎる。うーん、あの顔はえっちな本を所持していたことを責められるんじゃないかって思ってる顔だね。もう、私がそんなことをする訳ないじゃない。
「大丈夫だよ。私はえっちな本を持っていたくらいで怒らないから」
「え、でも。……どうして?」
「だって、二次元の女の子は和行に手出しできないでしょ?」
私が怒らない理由はこれだ。どう逆立ちしても二次元の女の子が和行に手を出すことなんて出来ない。それに比べて私はその気になればいつでも和行を襲える場所に居る上に、和行の心も私の方を向いている。私の方が圧倒的アドバンテージを得ているのだ。それなのに怒る必要など何処にあるのか。
……まあ、今後はそういう本を増やすのは禁止にするけどね。今持っている本とかを捨てたりするのは流石に気が引けるから捨てないよ。和行が二次元の女の子に本気になった時は別だけど。その時は本を全部捨てて、和行から徹底的に搾り取るから。
「安心して。和行の好みは把握してるから」
「それの何処に安心する要素があるんだよ!?」
「和行にどんな変態嗜好があっても、私は受け止めるから!」
「……ううううう!」
うん、これ以上はやめておこう。和行が頭を抱えだしてるから。このままじゃガチ泣きしそうだよ……。少し調子に乗っちゃったかも。和行の反応が可愛いすぎるのがいけないんだ。私は悪くない。
私は晩御飯の時間まで和行を抱きしめていい子いい子してあげた。勿論、和行の頭の位置が私の胸に埋まるようなポジションで。最初は不服そうな表情を浮かべていた和行だったけど、三分ほどした辺りで心地よさそうな顔をし始めたのを見た時は和行って案外単純だあって思ってしまった。こういうのって何ていうんだっけ? ちょろいだっけ? 前に和行が弾や数馬と話している時にそんな単語を聞いた覚えがある。
「和行」
「……なんだよ」
「晩御飯は何がいい?」
「生姜焼き」
「味噌汁は?」
「なめこ」
「野菜は?」
「いる」
まだ不機嫌そうな和行のリクエストを聞いた私は、和行から離れつつ性転換薬をスカートのポケットにしまう。和行がプレゼントしてくれたリボンを小瓶と入れ換えるように取り出すと、そのリボンで髪型をいつものポニーテールに整える。それからエプロンを着けてキッチンに立った。先ほどまでの空気を掻き消すようにテキパキと、いつもよりも愛情を込めて私は料理を作り進めていく。
もしかしたら、女の子として料理をするのが今日が最後かもしれないからね。いつもよりも腕によりを掛けないと。そんな決意を固めながら、和行の為に料理を完成させた私は料理をテーブルへと運んで晩御飯を頂くことにした。
「いただきます」
「いただきます」
私達の挨拶が重なる。ご飯を食べている内に、ふと箸を動かす手が止まる。――やっぱり私は女の子として和行の傍に居たい。こうして和行とご飯を食べている間も私の中の決意は一層強くなっていた。和行の彼女――ゆくゆくは妻になりたい。そんな考えばかりは私の中をぐるぐると回っていた。
「一夏?」
「な、なに?」
「ぼうっとしてたけど大丈夫か?」
「え、うん。大丈夫だよ」
心配そうに見つめてくる和行にそう返しながら私は誤魔化すようにご飯を食べ進めていく。和行も首を傾げながらも私に倣うようにご飯を再び食べ始めた。それからまた時間が経って晩御飯を食べ終わった私は食器を片づけて食後のお茶を飲んでいた。
今日は珍しく和行も私と同じくお茶を飲んでいるし。私はお茶を飲んでいる和行を見ながら、そろそろ教えておくべきだろうと判断した私はテーブルにお茶が入った湯呑を置く。続けざまにスカートのポケットから例の小瓶を取り出すと小瓶を湯呑の近くへと置いた。私の行動を不審に思ったのか、和行が私の方を見てきている。
「一夏?」
「私、今からこれを飲むよ」
「……そうか。お前がそう決めたのなら、俺は何も言わない」
和行は私の言葉に静かにそう返してた。あ、あれ? 和行ならもっと何か言ってくると思ったんだけど。
「なんで言ってこないのかって顔してるな」
「う、うん」
「それはお前の事を信じているからだ。お前ならずっと女の子のままで居てくれるって」
そう言い切ってくれた和行の笑顔に思わず胸が高鳴る。ああ、不味いかもこれ。和行の笑顔が大好き過ぎて涙出てきそう!
「――和行。私、約束するよ。絶対に女の子のままで居るって」
「……約束、か」
「駄目だった?」
「ううん。一夏がそこまで言うんだ。絶対にその約束守ってくれよ?」
いつになく真剣な顔で私の方を見てくる和行に私の背筋が思わず伸びた。ついでに心もときめいた。こ、こんなイケメンな表情な和行なんて一か月に見れるか見れないかのレベルだよ。超レアだよ! ああああああ! こんな空気じゃなかったらいっぱい和行の写真撮りたかった!
って、何テンション上げてるの私。落ち着くんだ。落ち着かなきゃ駄目だよ。よし、これで問題ない。私は小瓶を手に取ると中に入っている液体を全部お茶の中に投入した。
これで私の性別が固定されるんだね。――覚悟は既に決まっている。行くよ!
「……飲んだよ」
お茶を飲み干した私はそう呟くと和行に向かって笑顔を向ける。それに合わせて和行も微笑み返してくれた。これで、私の今後の運命が決まる――。
微睡から浮上していく感覚に私はゆっくりと瞼を持ち上げた。周囲を見渡す為に上半身を起こした私は思わず首を傾げた。和行の部屋ではなく私の自室だったからだ。……そうだった、昨日はこっちの部屋で寝たんだった。いつもは和行の部屋で一緒に和行と寝ているから違和感が凄まじい。
眠気を飛ばすように頭を振ってから時計の方を見てみると、時間の針は朝の六時半を指していた。昨日はあの薬を飲んでからお風呂に入ってから歯を磨いて、夜の十時頃に寝たから既に八時間は経っている計算になる。以前性転換したあの朝に感じたあの小さな気怠さが私の体を蝕んでいた。ということは、私の体はあの薬の影響をちゃんと受けたことになるのかな?
……さて、私の性別はどうなってるかな。自分の性別が変わっているか変わっていないかを手っ取り早く確認する為に、私は自分のおっぱいに両手をやる。
「――ある」
私の手に伝わってくるこの重さは間違いなく私の胸だ。何度も触れているから大体の重さは判別できる。私の口から不意に漏れた声も女性のままだった。乳房から両手を放して喉を触ってみるが、そこに男性特有の突出した喉仏の感触はない。念の為に股間の方へと右手を這わせるが、男性の股間に付いているアレは存在しなかった。
それらが意味することはただ一つ。私は女の子のままだということだ。
「良かったぁ……!」
私は心の底から安堵した声を漏らしていた。これでもう私が男になることなんてないだろう。正真正銘の女の子になったんだ。気怠さなど忘れて、小躍りしたい衝動に駆られるが和行に早くこの事を教えないといけない。よし、早速行動しよう。
そう思い立った私はベッドから降りて、和行の部屋へと行ってみるが、部屋には和行はいなかった。一階に居るかもしれないと判断した私は一階へと降りていくと、丁度リビングから出てきた和行と遭遇した。
「和行!」
「へっ? お、女の子の一夏? え、ってことは……」
「うん! 私、性別変わらなかったんだよ!」
嬉しさのあまり思わず顔を綻ばせてしまう。これで堂々と和行の彼女になることが出来るよ。それでお嫁さんになって――あれ? 和行ったらどうしたんだろ。私の方を昨日と同じような真剣な目で見てるけど。
「――ごめん一夏。俺、もう我慢できない」
へ? どういうこと?
「一夏!」
和行が私の名前を叫んだと思いきや、私の事を真正面から抱き締めていた。――えっ!? あ、あの! ちょっと!? か、和行が! あの和行が自分から私を抱き寄せたぁ!?
え、待って。和行の腕に抱かれているのが心地良すぎるけどちょっと待って欲しい。私から抱き付くことはあっても、自分から私を抱き寄せたりしなかった和行がこんなことをするなんてどうしちゃったの?
「一夏――」
「か、和行?」
和行の唇がどんどん私に近づいてくる。……あ、これもしかして、そういうことなのかな? それなら別にいいかな。和行にならキスされても――。
少しずつ、少しずつ。そしてまた少しずつと和行の顔が私に近づいてくる。私は目を閉じて和行の口付けを受け入れることにした。私が目を閉じてから数秒も経たない内に私の唇に暖かく柔らかい物――和行の唇が触れた。とても優しくて、拙くて、でもゆっくりと私に気を使いながら必死に自分の思いを吐きだそうとしている動きだった。
一体いつまでそうしていたのか、私にはもう分からなかった。和行がどんな気持ちで私にキスしてきたのかも。私が今どんな顔をしているのかも。でも、一つだけ分かることがある。この瞬間は私が今まで生きてきた中で一番幸せな時間だってことだけは。
「一夏……」
「和行……」
唇を放した私達はお互いの名前を呼んでいた。目を開けた私の視界には真剣な眼差しで私の事を見つめている和行が居た。和行は私を抱き締めるのをやめると、私から少し距離を取り始めた。そして大きく深く息を吸うと、
「――織斑一夏さん」
「はい」
改まった口調で私の名前を呼んだ和行に思わず私も気が引き締まったのか、真面目な態度で和行の言葉に耳を傾けていた。
「貴女のことを一人の女性として愛しています。俺と付き合ってくれますか?」
その体の芯から燃えるような熱が広がっていき、自分の体が熱くなっているのが手に取るように分かる。……やっとだ。ずっとこの日を待っていた。和行が私に自分の思いを伝えてくる日を。ああ、そうだ。私、和行に告白されたんだ。和行に言って欲しかった言葉をやっと聞くことが出来た。
――ああ、もう駄目。嬉しすぎて自分の感情を抑えることが出来ない。嬉しい、本当に嬉しい……!
「な、なんで泣いてるんだよ!? 俺の告白、何処か駄目だった!?」
「ち、違うよ。その、嬉しくてつい……」
「そ、そうか。ほら、これ使えよ」
スボンのポケットからハンカチを取り出して手渡してくる和行に、私はまた嬉々とした感情を覚えてしまう。もう、和行の馬鹿! そうやって私を惚れ直させるなんてずるいよ……。
でも、あの和行が私に告白したというのは大きな一歩だと思う。なら、私も自分の思いを伝えなくちゃいけない。和行が私に告白してくれたのだから、私も礼儀として和行にこの言葉を贈るべきだろうから。
本当はもっとムードを作ってから告白したかったし、されたかったけどもうこれは仕方ない。私は手渡されたハンカチで涙を拭き取ると、右手にハンカチを握りながら握りながらゆっくりと深呼吸を三、四回ほど行う。
「――九条和行君」
「は、はい!」
私の改まった口調に和行は照れくさそうな顔をしていた。私が和行に対してこんな口調で話すなんてないからね。というか、和行の名前を改まって呼んだ私の方がよっぽど面映いんだけど。でも私はこれからもっと気恥ずかしくなることを言うんだ。これくらいで口を閉じるなんてありえない。
「私も貴方のことを愛しています」
和行の瞳を見つめながら、ずっと胸に抱き続けていた自分の想いを私は告げた。
前回までのフラグやら好感度やらの積み重ねによるルート的なやつの分岐条件を箇条書きにすると、
・お互いに恋愛感情を持ち、愛情度がマックスどころか限界突破している+軽いヤンデレ状態+独占欲が強い→今回のトゥルーエンドルート。
・上記に加えて小瓶に入っている性転換薬を半分くらい残す→一夏の性別が元に戻る&オリ主君TSルート。
・片方(オリ主君、一夏のどちらか)だけが恋愛感情を抱き、愛情度がマックスどころか限界突破している+軽いヤンデレ状態+独占欲が強い→バッドエンドルート(別名監禁ルート)。
・双方とも恋愛感情を持たずに、普通に友人として今回まで過ごす→タイムベントorハイパークロックアップ不可避。
以上です。まともなのが上二つしかねえ……。
また例外ルートとして、
・そもそもオリ主君がこの世界に存在せず、オリ主君のポジションに弾が入る→世界がルートの存続を終了させるレベル。
というルートもあります。