――あの一夏に告白された。その事を脳が認識した瞬間、自分の顔と耳が急激に熱を帯びるのが手に取るように分かった。今の一夏の表情と言葉から楚々としたものを感じる。
いやまあ、普段の一夏も最強クラスの清楚系美少女だけどさ、なんかこうレベルが上がっているっていうのかな? なんだろ、自分でも上手く表現できないわ。
「えっ、え? 俺、一夏に告白された? え、ちょっと待って」
俺の口からそんな言葉が自然と漏れていた。一夏に異性として好きだと告白されたことに無意識下で狼狽しているんだろうか、似たような言葉を呟き続けてしまっている。どうしようか考えあぐているといつの間にか俺の右手が右頬に触れていた。
あっつ! なんだこれ! 俺の体大丈夫なのか!? な、なんでこんなに……。あれか、告白慣れしてないからなのか? この世に生まれて十四年経つが女の子に告白をされたことなんてないからな俺。……自分で言ってて悲しくなってきた。だが、そんな告白された人数ゼロという肩書きとも今日でおさらばだ。なんたって想い人であった一夏に告白されたからな。
「一夏が、俺に……」
だから、その……ヤバいわこれ。うん、今やっとわかった。一夏の告白が嬉しいと強く感じていることに。もうどうしたらいいのか分からない。なんでそんなにも慈愛に満ちた顔で俺を見てくるんだよ。やめて、照れちゃうからやめて。想い人に愛してるって言われて何も感じないわけないだろオォン! まあ、俺も一夏に愛してるって言っちまったけどな!
でもなんか、自分でも本当に告白したのか実感が湧かない。一夏の笑顔を見てしまった影響で俺の中のブレーキが完全に利かなくなったというか、一夏が性別が女の子に固定された事を喜び過ぎたと言うか。その所為で一夏にキ、キスしちゃったし……。お、俺は馬鹿なのか? 普通そういうのは告白してからやるものだろうが。これでは順序が逆だろ。
「い、一夏!」
「な、なに?」
「一夏、いま俺に告白した?」
「うん。したよ」
「そっかあ……」
一夏の言葉に俺は呆けたような返事をした。何処か夢見心地な感覚がある所為か、やはり現実感がない。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ。その、一夏が告白してた時の顔に見惚れただけだから……」
「ふぇ?」
――ああもう! なんでこのタイミングで「ふぇ?」とか言うんだよ! 興奮しちまうだろうが! でも、そんなところも大好きだ。愛してる! 結婚してくれ!
気持ちを抑えきれずに俺はまた一夏へと抱き付いた。一夏は嫌がる素振りなんて見せずに俺が正面から抱き付くのを受け止めてくれた。ああ、一夏とこうしていると心が落ち着く。一夏……、一夏。一夏。一夏。一夏。一夏。一夏。一夏。愛してるよ。大好き。もっと一夏とこうしていたい。
「俺達、やっぱり両想いだったんだな」
「気付いてたんだ」
「うん。去年の十二月辺りから」
「私はその前から気付いてたよ?」
「えっ、そうなのか?」
うーん。あの鈍感一夏の方が俺よりも先に思いに気付くなんてなあ……。恋は人を変えるってやつなのだろうか。いやまあ、俺達の恋は一般的なやつとはちょっと事情が複雑だけど。一夏は元男の現女の子だから。俺からしたらそんなことなんて些細な問題だけど。
「あの、和行」
「ん?」
「返事は?」
俺の腕に収まっている大天使一夏が上目遣いで尋ねてくる。やめろ! この状態で上目遣いはやめろ! もっと抱きしめていたくなるからさ!
よし、落ち着け。落ち着くんだ俺。そうだ、今は一夏の告白の返事をするのが先だ。すっかり忘れるところだった。返事はもちろんオッケーだ。断る訳がない。
「オッケーだよ。一夏は?」
「うん。私もオッケーだよ」
一夏が暖かな笑みを見せているの見て、俺は頬を緩めた。これで俺と一夏は恋人同士になったんだな……。俺みたいなのと、こんな清楚な黒髪ロング家事万能美少女が彼氏と彼女になるなんてな。一夏が女の子になる前の俺に「お前は将来的に自分好みの女の子と付き合う事になる」って言っても絶対に信じないだろうな。
あまりの幸福さに夢なのかもと嫌なことを考えてしまったが、俺の腕の中にいる一夏の温もりがこれは現実だと訴えてきていた。うん、そうだ。これが夢だなんてありえない。もし夢なら、永遠に覚めないでほしい。一夏が居なくなったら俺、本当に生きていけないよ。
「でも、なんで先にキスなんかしちゃうかな……」
俺が考えに耽っていると一夏が口を尖らせながら、俺のことを非難するような視線を飛ばしてきた。……ああ、やっぱり怒ってるよね。ムードもクソもないのにキスなんてしちゃったから。
「ごめん。先走ってキスしちゃって」
「……やり直して」
「へ?」
「キス、やり直して」
「え、あ、うん。分かった」
謝罪した俺に対して、一夏はキスのやり直しを要求してきた。ムスっとしながらも懇願するようなその声音に抗うことが出来なかったので、再び一夏に向かってキスをすることにした。……正直言ってめっちゃ恥ずかしいんだけど、仕方ない。一夏に機嫌を治してもらう為に我慢することにしよう。少しずつ一夏に唇を近づけて――俺と一夏はまたキスをした。さっきも思ったけど、一夏の唇めっちゃ柔らけえな。ああ、ずっとこうしていたいくらいだよ。
パジャマを着たままの一夏とキスしていると、おもむろに一夏は俺の両頬に自分の両手を添えながら、一夏は俺からいきなり唇を放した。……え、一夏ちゃん? 一体何を――。
「和行……!」
熱を込めて俺の名前を呼びながら、今度は一夏の方から俺にキスをしてきた。そこまでは良かったのだが――
「っ!?」
俺の唇を割って、温かく湿ったものが口腔へと侵入してきた。ま、まさかこれって……。お、おい。一夏、お前! し、舌入れるな舌を! 人の断りもなくディープキスしてんじゃねえ! 付き合ってまだ一時間も経っていないのにディープキスをする馬鹿が何処にいる。あ、俺の目の前に居ましたね。口を動かして一夏に抗議を送りたいところだが、一夏が俺の口を塞いでいるので実質不可能だ。突き放すのは……突き飛ばした影響で一夏が怪我をしたら事なので出来ない。
てかヤバい。一夏が自分の舌で俺の舌を必死に絡め取ろうとしてるんだけど。ちょっ、ま、不味いから。冗談抜きでこれ以上は不味いって!
舌を吸われないように一夏のディープキスに対抗していたのだが、一夏のキスに段々と俺の体が言う事を利かなくなってきていた。抵抗が少しだけ緩んだ所為か、その隙を突いた一夏が俺の舌を自分で絡め取り始めた。そして、一夏が俺の舌を吸ったりしてくる。
「――!?」
――なんだ、これ。物凄く気持ちいい……。舌と口から伝わってくるあまりの気持ちよさに思考が停止しそうになる。一夏の口を蹂躙するような熱気が籠ったキスに脳が掻き乱されていく。心もドロドロに溶けてきているようだ。体も既に抵抗する気がなくなった所為で力が入らなくなっており、一夏を抱きしめるのをやめてしまった。……駄目だ、何も考えられなくなってきた。このまま、一夏に好き放題にされてもいいかも……。
「ふふふ」
そんなことを考えた途端、一夏は俺の口に舌を入れるのと、俺の顔に両手を添えるのをやめてしまった。唇も放してしまっている。……な、なんでやめちゃうんだよ。もっとしていたか――いやいや! やめてくれて正解だったわ! このままディープキスを続けられてたら取り返しのつかない事になってたって。一夏をベッドに押し倒す的な事しちゃってたから。
今まで行われていた情熱的なキスに名残惜しさを感じていると、そのキスをしてきた張本人が俺に抱き付いてきて俺の耳に顔を近づけて口を開いた。
「和行……可愛いよ」
艶やかな一夏の声が俺の耳朶を叩いた。……やっべ。今、耳元で囁かれた所為で脳味噌が蕩けたのかと錯覚するほど快感が押し寄せてきたぞ。一夏の声に抵抗を失くしかけてるが、何とか踏ん張りながら一夏を引き離すことにした。
このままだと俺の理性が消し飛ぶと一夏に離れて貰うように説得して、なんとか放れてもらうことが出来た俺は小さく安堵の息を漏らした。またこんなことをされたら、幾ら他の中学生男子よりも理性はある方だと自負している俺でも耐えるのは無理だ。一夏を襲いかねん。というか――
「お、男に可愛いとか言うなって前にも言っただろ!」
「えー。可愛いものは可愛いもん。――食べちゃいたいくらい」
俺の反対意見は一夏には届かなかったようだ。当の一夏は獲物を見つけた
でも、普通は付き合ったからと言って絶対にえっちなことなんて出来る訳ないから、変な心配なんてしなくても良い気がしてきた。
「あ、そうだ」
「今度はなんだよ?」
「その、ね。和行も男の子だから、女の子の体に興味あるよね?」
「は? いきなりどうした?」
「興味あるよね?」
「いやあの」
「――あるよね?」
「……はい、あります」
さっさと頷けと言わんばかりの一夏の視線を受けた俺は思わず肯定の返事を出してしまう。俺が頷いたことに満足したのか、一夏は今度は頬を染めながらこちらを見てくる。
「私、和行とえっちなことしたいって思ってるの」
「えっ?」
「だからね、したいと思ったらちゃんと言ってね? 一日に何回でもさせてあげるから」
「アッハイ」
何なの、このTS娘(俺の彼女)は。まさかとは思うけど、一夏って脳内ピンクなのか? いやいや、流石にないだろ。幾ら俺の事を狙うような視線を何回もぶつけてくることがあるラブリーマイエンジェル一夏でも。……ないよね?
俺の事をそういった目で見てくれているのは嬉しいだけどさ、その……いきなりそんな宣言するのやめて? いや、そのね。俺の心の準備が出来ていなかった所為で一夏の発言にドギマギしたというかさ。その所為で気の抜けた返事をしてしまったから。
「それとね」
まだあるのかと口に出しそうになるが、大人しく俺は一夏の言葉に耳を傾けることにした。
「赤ちゃんが欲しいならいつでも言って。私、ちゃんと妊娠できるから」
うん、聞かなきゃよかった。……やっぱりこいつが良く呟いている事や、一夏が俺の部屋で寝るようになる前に一夏の自室から聞こえてきたあの寝言的なものは俺の勘違いじゃなかったのか。
……ところで、少しだけ一夏に聞きたいことがあるんだけど。こいつ、もしかしてあの事を知らないんじゃないのか?
「一夏。一ついいか?」
「どうかしたの?」
「言いたくないなら答えなくていいからな。お前、生理が初めて来たのっていつだ?」
「去年の四月かな。和行を看病した翌週にね」
あの、話を振った俺が言うのもなんだけどさ、普通は生理が初めて来た日とか他人――それも男には教えないよね? お前、それでも女の子――こいつ、元男だったわ。やっぱそこら辺の感覚が最初から女の子だった子と一夏ではズレているのだろうか。
てかお前、そんな早いタイミングで生理きてたのかよ。確かにあの時、妙に怠そうにしてたけどさ。最初は俺の風邪が移ったのかと思って心配したら、何でもないって言ってたから、その時は何も言わなかったけどさ。相談してくれたらちゃんと一夏のサポートしたのに……。まあ言い出しづらかったのかもな。それなら仕方ないか。
「生理が来てから数年の間に起こる無排卵月経のこと知ってる?」
「うん、知ってるよ」
「知ってたのかよ。じゃあなんで赤ちゃんが欲しいならいつでも言ってって言ったんだよ」
今のお前じゃ妊娠確率低いんだぞ。そこのとこ本当に分かってるのか?
「確率が低いってことは、複数回やればその内出来るってことでしょ?」
「えっ、何それは……」
ごめん。ちょっとだけ引いたわ。なんでそんな考えに行きつくんだお前は。はあ、全く……要らない心配をしたよ。まあ、そんな一夏も可愛いからいいけどさ。うん、やっぱり俺って一夏には甘いな。ま、しょうがないよね。
……本音をぶっちゃけると、一夏に俺との赤ちゃんが欲しいって言われて個人的には物凄く嬉しい。こんなことを一夏に教えたら、そのまま押し倒される予感しかしないので絶対に言わないけど。
「というかさ、何でそんなに俺との赤ちゃん欲しがってるんだよ。前にも自室でなんか言ってただろ?」
「え? 聞こえてたの?」
「ああ、ばっちりとな。物凄い寝言だと思ったよ」
「寝言じゃないよ。ちゃんと起きてたもん」
ああ、やっぱり今までのあの声は全部一夏が起きて口にしていたやつだったんですね。寝言がでかいとかじゃなくて本当に良かった。最近は俺の部屋で同衾することが多くなったからか、あまり聞いてないけど。
「で、なんで赤ちゃん欲しいの?」
「……二人の想いが嘘じゃないって証明になるから」
そう告げてきた一夏の目からハイライトが消えかけていた。妖しい笑みを浮かべながら俺を見つめている。
――綺麗だ。
俺はそんな彼女の眉目秀麗な雰囲気に惹かれてしまった。いつものように太陽のように明るい笑顔を見せてくれる一夏も好きだけど、月の光のように優しくも刺すような笑みを浮かべている一夏も愛おしい。
一夏は俺となら赤ちゃんが出来ても一緒に暮らしていけると言ったけど、それは俺も同じだ。俺も一夏と一緒なら何があっても共に暮らしていけると感じているから。
「和行?」
思わず一夏の頬に右手で触れてしまった。ああ、本当に綺麗だよ。この触り心地も最高だ。どうやって手入れしているんだろこの肌。
「俺も同じだよ」
「えっ……」
「なんでもない。って、ごめん。勝手に触られるの嫌だよな」
「ううん。嫌じゃないよ。和行が触りたいなら幾らでも触って? ほら、和行の好きな私の髪の毛だよ」
そう言って、一夏は俺の右手をその華奢な手で掴んで自分の髪の毛へと宛がった。黒い絹糸のような髪の毛が俺の掌を舐めるような気持ち良さが右手から伝わってくる。やっぱり一夏の髪の毛の触り心地は格別だ。最高過ぎる。こんな髪を持っている女の子なんて世界中を探しても殆どいないだろう。
これも今日から俺のだけのモノなんだよな。そうだ、一夏は俺だけの彼女だ。一夏の肌も髪も耳も首も手も爪も鼻も眉毛もまつ毛も瞼も目も唇も頬も脚も太腿もお尻も背中も腕も二の腕も肩も脇も鎖骨も臍もお腹も子宮もおっぱいも、一夏の心も――全部俺のモノなんだ。
「一夏。愛してるよ」
「うん、私も愛してるよ」
気が付くと俺は髪から手を放して一夏の手を取り、そんな言葉を交わしていた。本当なら恥ずかしがっても不思議ではない言葉なのに自然と口から飛び出ていた。相手が一夏だからだと思う。俺達は恋人同士なんだから、この手の言葉を吐くのに躊躇する必要なんてないんだ。でも、
「うーん……」
「どうかしたの?」
「その、中学生なのに愛してるとかやっぱおかしいかなって思って」
「そんなことないと思うよ。愛に年齢なんて関係ないでしょ?」
――言葉がみつからなかった。今の一夏の言い方からして、心から本当にそう思っているのだろう。……そうだよな。一夏の言う通りだな。誰かを愛するのに年齢なんて関係ないよな。一夏はいつも俺が心地良いと感じる言葉を言ってくれる。多分他の女の子ではこういかないだろう。うん、やっぱり一夏が居ないと駄目だわ。
「あの一夏に気付かされるなんてな……」
「それってどういう意味?」
「ん? 鈍感、朴念仁、唐変木の異名を好き放題に頂戴してたじゃんお前」
「……積極的にそう呼んでたのって和行と弾と数馬くらいだよね?」
瞳に光を戻した一夏が頬を膨らませながら俺を睨んできた。可愛い。ふくれっ面になってる一夏かわいい。付き合ってください。あ、もう付き合ってたわ。アホだな俺。
「私の何処が鈍感なの?」
「だってお前、男の時に女の子からの告白を買い物へ付き合う告白って勘違いしてたじゃん」
「……え? あれって買い物に~って意味じゃなかったの?」
「あのさあ……。普通、女の子に呼び出されて二人っきりのシチュになったら、告白以外のイベントなんて起きないだろうが」
今まで言えなかったことを吐き出した俺の指摘に、告白されていた張本人である一夏が頭を抱え始めた。小学生の頃からあれだけの女の子の告白を無自覚に粉砕してきたからなこいつは。あれは流石に女の子の方に同情するレベルだったわ。当時は不憫で仕方なかったが、今は女の子たちが玉砕してくれてよかったと思ってるけど。
「お、男の頃の私ってもしかして結構モテてた?」
「ああ、モテてたよ。その所為で俺が良いなって思った子もお前の方に行ってたからな」
俺が口にした事に反応して一夏がすまなさそうな顔をしはじめた。なんでお前がそんな顔をするんだよ。……何やってんだ俺。一夏にこんな顔をさせてどうする。一夏に悲しげな顔をさせる為にそんなことを言った訳じゃないのに。
「別に気にしてないからそんな顔すんな」
「でも……」
「お前が鈍感かつモテてたお蔭で、お互い初めての恋人になれたんだ。むしろ誇れ」
そうだ。普段は苛立つこともあった一夏の女の子からの好意に対する鈍感さに、今は感謝をするべきだろう。……しっかし、一夏の鈍感に感謝する日がくると思わなかった。
「もう、なにそれ」
「だって本当のことだろ?」
「うん、そうだね」
俺の言葉に笑みを見せている一夏がとても眩しく感じた。一夏の仕草ひとつひとつがとても愛おしい。俺はこんなことを考えるのは一夏に対してだけだろう。そう自信を持って言える。俺は一夏と行けるところまで行くことしか考えてないから。まだ付き合って間もないけど、俺の頭にはこの先のことばかりが浮かんでいるんだ。
――これからもずっと一緒だよ、一夏。生まれ変わってもずっと一緒だ。
一夏ちゃんに浸食されているオリ主君。