和行の事を取り囲んでいた男子たちが大声を上げていた。驚きの表情から一転して、クラスメイトの男子達は和行に喰って掛かっている。……あれ? あの面子って確か中二の時も同じクラスだったような。あと私を囲んでいる女子達も同じクラスだった気が……。うん、気にしない方がいいね。
「なん、だと……?」
「馬鹿な。あり得るのか……」
「まさかお前、あんな事とかそんなことまでしたのか!?」
「倉沢。俺はお前が想像しているようなことはしてないからな?」
「嘘を吐くな! エッチなことしたんだろ!?」
「してねえっつうの!」
当の和行は囲まれているクラスメイトとそんな言い合いをしていた。和行ってば、私と付き合っている事を大っぴらにするなんて……。もしかして、私に変な虫達が言い寄らないようにする為に言ってくれたのかな? 本当にそうなら物凄く嬉しい。あとで和行の好物をいっぱい作って、和行にディープキスしちゃお。
「に、西邑さん……。今の話、本当なの?」
私がそんなことを考えていると私を取り囲んでいた女子の一人が、恐る恐るといった感じで尋ねてきた。この子って確か和行の事を狙ってた子だよね。私に和行を取られたのがそんなにショックなのかな? でも残念だったね。和行は既に私のモノなんだよ。だからさっさと諦めてね?
「うん。和行は私の彼氏だよ」
「嘘だそんなこと!」
「望みが絶たれた!」
「神は死んだの!?」
……なんだろ。女子達の台詞がネタ塗れな気がする。春休みから和行に染められてきているのか、段々そういうのが分かるようになってきたんだよね。だからネタを含んだ発言なのか、そうでないかの違いくらいは一発で見抜くことができる。
「ど、どっちから告白したの?」
「和行から」
「あの九条君が!? 意外……」
どうして和行が積極的な行動に出ると驚く人が多いのかな。まあ和行って学校ではそういうのを表に出さなかったから仕方ないかもしれないけど。でも、和行は私に興味津々で積極的な立派な男の子だよ。毎晩寝る前に私の髪を撫でながら愛してるって言ってくれるし、おはようのチューも欠かさないでやってくれるんだから。
そんな風に思量していると始業を知らせる鐘が鳴った。私と和行を囲っていたクラスメイト達はまだ何か言いたげな顔をしていたが、それぞれ自分の席へと戻っていく。
「夏菜子」
「なに?」
「ごめんな。付き合ってること話しちゃって」
「別に気にしてないよ。私がまた他の男子達に言い寄られない為にしてくれたんでしょ?」
「うん……」
申し訳なさそうに私に謝ってくる和行だったけど、私は気にしてない旨を伝えた。だって和行が私の事を思って言ったのバレバレだったからね。てかこれはマズいかも。しゅんとしている和行にムラムラしてきた。ああ、今すぐトイレにでも連れ込んで食べちゃいたい。和行の首筋にキスしちゃうのもいいかも。それなら和行に言い寄る女も居なくなるだろうから。
そんな風に自分に言い聞かせていると、担任の先生が教室に入ってきた。あ、今年も担任は峯崎先生なんだ。なんだろ、やはり何かの策略的なものを感じる。色々な挨拶を終えて、私達は体育館に向かって始業式に出席したんだけど……。式の最中に校長の話に退屈したのか、和行が船を漕ぎそうになっているのが可愛くて鼻血が出そうになったのは内緒だ。本当はそのまま寝させてあげたかったけど、流石に不味いと思ったので和行に寝ないように注意したよ。
「ふう……。長く苦しい戦いだったな」
「もぉ、大げさなんだから」
私達は昇降口で上履きから靴に履き替えて、校門へと足を動かしていた。今日は午前中だけなのでこれで終わりだ。この後はどうしようかな。和行とお昼を食べにデートしにいくっていうのもありだし、自宅で私が料理を作って家デートもありだと思う。結局のところ、私がデートしたいだけだねこれ。
「クラスメイトの野郎共に再度問い詰められたのを大げさと申すか」
「それは……うん、ごめん。大変だったよね」
学校から出る前にまたクラスの男子生徒たちに問い詰められてたんだった。半分くらいは和行の自業自得な気がしないでもないけど。ちなみだけど、私の方には詰め寄ってくる女子達は殆ど居なかった。なんかあっさりと諦めていたような気がする。……それの所為で、和行に対してその程度の好意しか持ってなかったのかって却って腹が立ったけどね。
「おーい。二人とも」
ふと、後ろから私達を呼ぶ声が聞こえる。振り返ってみると、そこには数馬と弾がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。あれ? 今日って二人ともバンド組む相談してたんだじゃなかったっけ?
「どうかしたの?」
「いや、お前たちのことを祝福してなかったと思ってさ。な、数馬」
「ああ。正直、あの教室内でお祝いするのはちょっと無理だったし……」
あー、確かに。あの空気だとね……。
「その。良かったな、二人とも」
「おめでとさん」
シンプルなお祝いの言葉だったけど、弾と数馬らしいから別に問題ないよね。私達の距離感ならこれくらいで十分だし。そういえば、和行は私の傍に他の男が近寄ると目付きが鋭くなることが多いんだけど、弾と数馬に関しては例外らしい。
和行曰く「あの二人はお前の事を女というか異性として見てないから」って言ってた。うーん、和行が言うならその通りなのかもね。この二人からは他の男たちから向けられる嫌な視線も感じないし。
「いやあ、和行には本当に感謝しているよ」
「は? なんでだよ」
「お前があの恋愛フラグ一級建築士の一夏を落としてくれたお蔭で、俺達にも運が向いてきそうだからな」
「全自動女の子堕とし機が居なくなってくれたからな。俺達も女の子との縁が出来そうだ」
「……お前ら、またそれか」
周囲に聞こえない声量で言い切った弾と数馬に対して、和行が頭を抱えだした。正直、私も頭を抱えたいよ。この二人、私の目の前でそんなこと言うのかなあ……。全くもう。
私と和行は阿呆なことを抜かした弾達と別れ、校門を出るといつものように恋人繋ぎをした。やっぱり和行と手を繋いでいる時が一番落ち着くかも。
「なあ一夏」
「うん?」
「今日は外でご飯を食べないか?」
「それって、デートのお誘い?」
「まあそれもあるけど、今日くらいは昼食を作るのを休んでほしいっていうか……」
「そ、そう? じゃあお言葉に甘えるね?」
和行の心遣いが嬉しくなった私は和行のお誘いを受けることにした。通学路を歩き、家の方面ではなくて街の方へと足を向ける。その最中、ちょっと悪戯心が湧いてきたので和行におっぱいを押し付けてみる。すると和行は目線をあちらこちらに飛ばしてから私の方へと視線を向けてきた。
「い、一夏。頼むから外で胸を押し付けるのはやめてくれ」
「家の中ならいいの?」
「……うん」
可愛い。素直な和行かわいい。このまま未成年にはよろしくないホテルに和行を連れ込みたい。そしてそのまま――出来たらいいのになあ。和行ってば、私に興味津々な癖にかなりガードが固いからもう誘惑するだけじゃ駄目なんだよね。そろそろ本格的に和行を襲う計画を立てておかないと。
時期として夏休みくらいがいいかな? 必然的に夏だと私も薄着になるから、それで和行を発情させることが出来るかもしれないし。汗を掻いた生身の女の子の体には流石の和行も耐えられないと思う。和行を性的な意味で襲う計画を建てながら食事をする場所を探していると、和行が急にそわそわし始めた。
「和行、どうしたの?」
「その、えっと……」
「もしかしてトイレ?」
「すぐに終わらせるから待ってて」
それなら仕方ないね。和行がトイレに駆け込むのを見届けた私は、大人しく和行がトイレを外で終わるのを待っていると、
「すいません。ちょっとよろしいですか?」
「はい?」
スーツを着た女性に話しかけられた。……一体何の用なんだろ。私、和行を待つので忙しいんだけど。
「私、こういう者です」
「プロ、デューサー?」
手渡された名刺に書かれていたのはアイドルのプロデューサーを示すものだった。……アイドル、ねえ。昨今の風潮の所為で女の子のアイドルがかなり人気を誇っているらしいけど、私にはそんなアイドルになるつもりなんてない。そんなことをしたら和行と居る時間が無くなるじゃん。そんなの私からしたら拷問だよ。
名刺を片手に女性の話を聞いていたのだが、どうやらこの人の事務所ではアイドルの恋愛はNGらしい。これは好都合かも。ほら、私って今は和行とお付き合いしてるから。
「すいません。私、結婚を前提にお付き合いしている人がいるので……」
私がそう言うと女性はあっさりと引き下がっていった。少し話を盛れば逃げるだろうと踏んだんだけど上手くいったみたい。結婚って単語を持ち出した途端、ぎょっとした顔をしてたから。
見るからに中学生な私が結婚なんて単語を持ち出したことに何か思うところはあったんだろうけど、別に他人にどう思われようがどうでもいい。私には和行が居るんだから。
「あー、やっと終わった……」
財布の中に渡された名刺をしまっていると、和行がそんなことを呟きつつ、ハンカチをポケットに入れながらトイレから出てきた。もう、遅いよ。でも仕方ないかな。和行の言葉から察するにどうやら苦戦していたみたいだし。
「何かあったのか?」
「ううん。何にもないよ」
「……そうか。じゃあ、さっさと飯を食いに行こう」
何か言いたげな表情をしていたけど、和行はすぐに表情を変えて私の手を取ってくる。そのまま和行に連れられていつものファミレスに入って昼食を食べた私達は会計を済ませると、また手を繋いで自宅へと帰宅した。今日も自分の分は自分で払おうと思ったんだけど、またもや和行が先に全額支払ってたのだけは納得できない。
……はあ、仕方ないかぁ。和行も好きな女の子の前で格好付けたい男の子ってことにしておこう。その方が和行が可愛く見えるし。
「一夏」
「なに~?」
「昼間、俺がトイレに行ってる間に何かあっただろ?」
夕食をどうしようかと考えているところ、私の右隣に座っている和行がそんな質問をぶつけてきた。あー……やっぱり勘付いてたんだね。まあ別にいいけどね、そこまで隠すようなことでもないから。
「そのね、私……スカウトされたの」
「スカウト? なんの?」
「……アイドルの」
あの人が話した内容を私は和行に教えた。和行にあの時あった事を告げ終えた途端、和行の瞳から光が消え始めた。あ、これ駄目なパターンに入っちゃったかも。
「勿論断ったよな?」
「うん、ちゃんと断ったよ。お付き合いしている人が居るから無理ですって」
「そうか……」
安堵したような表情を浮かべてから和行は顔を伏せてしまった。あ、どうしよう。これじゃあ和行が何を思っているのか分からないよ。でもやっぱり、私がスカウトされたのにあまり良い気分になってないのかな? 私と会話している時の和行の声音が自分の感情を押し殺している感じだったし。
本当にどう声を掛ければいいのかと頭を悩ませていると、和行がゆっくりと顔を上げた。
「……一夏。ごめん」
「えっ?」
何故いきなり謝ってきたのかと思考を働かせようとしたが――できなかった。和行に唇をいきなり塞がれてしまった所為でそちらに思考が全集中してしまったから。
なっ!? なんでいきなりキスをしてるの!? って、ちょっと待って。和行が私の唇を割って舌を入れてきたんだけど! これ、前に私がディープキスした時の逆パターンだよね!? ……ああ、これいい。和行とディープキスするの最高だよ。凄く心地が良い。か、和行。これ以上は駄目だよ。そんなに舌を吸われたり絡めたりしたら……私、我慢できなくなっちゃうから。
「……一夏」
「あっ……」
和行が私から唇を離してしまった。うう、もう少しで……。もう少しだったのに。
「いきなりキスしてごめんな」
「気にしてないよ。でも、一体どうしたの?」
「……一夏がアイドルになる訳ないのは分かってるけどさ、その……一夏がアイドルになった姿を想像したら――」
「……」
「一夏のそういう姿を見たくないって感情が抑えられなくなって……」
「それを落ち着ける為?」
「……うん。ごめんね」
和行が物凄く申し訳なさそうな表情を張り付けながら私に謝ってきた。気にしてないって言ってるのに和行ってば……。むしろ、もっと強引にキスしてくれてもいいのに。
でも、和行がこんな行動に出た気持ちは理解できる。私も和行がその手の職業に就く想像をしたら同じことをしたと思うから。確かに私の見た目ならアイドルとしても十分通用するかもしれない。和行がいつも美少女とか天使とか女神とか言ってくれてるお蔭で、外見に少しだけ自信が付いてきたんでそう思える。でも、この容姿を含めた全ては和行だけのモノなんだ。芸能活動とかの為にあるんじゃない。
「ねえ、和行」
「な、なに?」
「もっとキス、したいなあ」
「へっ?」
私の言葉に和行は呆けたような声を出していた。
「まさか、今朝言った事を忘れたの?」
「わ、忘れてないけど、このタイミングで?」
「うん。このタイミングで」
「よ、夜に仕切り直しとかは?」
「それは駄目」
和行がキスしてもいいって言い出したんだから、ちゃんとして貰わないとね。私は和行に思い切り顔を近づけると唇を奪う。そのまま和行をソファーに押し倒して、晩御飯の時間になるまで滅茶苦茶キスしまくった。
……なんで私、キスした勢いで和行の貞操奪わなかったんだろ。私の中の何かが私に自制を促しているとでもいうの? ……後で取り除いておかなきゃ。
アイドルになった一夏ちゃん「みんなのハートを撃ち抜くぞー! バーン♡」
S・Kさん「……」
アイドルにドハマリした一夏ちゃん「ラブアローシュート!」
S・Kさん「誠に遺憾である」