女体化した親友に俺が恋をしてしまった話   作:風呂敷マウント

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お花見回です。


第四十六話 幸せだよ

 和行にいっぱいキスをしたあの日から一週間後の休日。私は和行と一緒にお花見に来ていた。今日は青天で絶好の洗濯日和だったので、出かける前に洗濯物やらを干しておいた。午後も雨は降らないらしいから大丈夫だとは思う。

 屋台やらが色々と並んでいたりしているからなのか、周囲はかなり活気づいている。屋台巡りもいいけど私としては和行に私手作りの料理を食べて貰いたいかな。あー、早く和行とこの重箱に入っているお料理食べたいなあ。和行とお互いにあーんしてお花見したいなあ。

 

「良い天気ね。千冬ちゃんもそう思わない?」

「そうですね。今日は絶好の花見日和になりますよ」

「……」

 

 ……うん。現実逃避はやめておこう。……なんで八千代さんと千冬姉が居るの? しかも千冬姉は珍しく私服姿でブルーシートを小脇に抱えながら、クーラボックスをショルダーベルトで肩に掛けてるし。そのクーラーボックスの中身ってまさか……。いや、今は気にしないでおこう。

 私は和行と二人だけで出掛けたつもりだったのに、いつの間にかこの二人が私達の傍に立ってて怖くなったんだけど。私、八千代さんに和行と一緒に花見に行くことなんて言ってないよ? 和行も同じく八千代さんに言ってるところなんて見なかったし。勿論だけど千冬姉にも言ってない。今日が休みだなんで聞いてなかったから。

 あの、私と和行のイチャラブタイムを潰さないで貰えるかな? 和行も似たような事を考えているのか、箒レベルの仏頂面になってるから。これヤバいかも。和行が爆発しないといいけど。

 

「……とりあえず母さん。なんでここに居るのか、簡潔に説明して貰おうか?」

「息子の行動は全てお見通しだからよ!」

「くたばれ」

「うっ!」

 

 かなり苛立っている和行が珍しく八千代さんに向かって暴言を吐いていた。その所為で八千代さんは勢いよく膝から地面に崩れ落ちたけど……これ、殆ど八千代さんの自業自得だよね? でも和行、くたばれは流石に駄目じゃないかな? せめて永眠してくださいとか天に昇れとかにした方が良い気がする。

 

「それで、なんで千冬姉がここに居るの?」

「今日がたまたま休みでな。八千代さんに誘われてきた」

 

 私が千冬姉に事情聴取をするとそんな答えが反ってきた。千冬姉のことだから嘘は言っていないと思うけど、なんでよりにもよって和行とデートをしようってタイミングで……。

 

「さて。私達は場所の確保をしてくるから、お前達は屋台でも見て来い。行きますよ八千代さん」

 

 そんな私の心情もお構いなしに千冬姉は私の手から重箱が入った包みを手に取り、和行からお茶が入った水筒を半ば強引に回収していく。

 

「うう……和行にくたばれって言われた……。うわああああああん!」

「……行きますよ?」

 

 和行の発言に凹んでいるのか、涙目になっている八千代さんを引き摺りながら千冬姉は花見をする場所の確保へと向かって行った。……もう、ツッコむ気も失せたよ。とりあえず、

 

「……あとで八千代さんに謝っておいた方が良いよ?」

「……わかってる」

 

 和行に八千代さんへの謝罪を促すのを忘れなかった。気を取り直そうと私達は千冬姉の言葉に従い、屋台を歩いて回ることにした。あ、林檎飴美味しそう。でも和行って林檎飴を食べるの苦手だったはずだから、ここはスルーかな。それなら綿あめだね。去年の夏祭りでも一緒に食べてたし、あれなら和行も食べると思う。

 

「和行」

「ん?」

「一緒に綿あめ食べよ?」

「二人分?」

「うん。二人分」

 

 短いやり取りを終えると和行は私と自分の分の綿あめを買ってきてくれた。そういえば、夏祭りでも和行が私の分の綿あめも買ってくれてたよね。なんだかもうだいぶ前の事みたいな懐かしさを感じるよ。和行から綿あめを受け取り、あの時みたいに私はベンチに座った。綿あめを食べながら隣の和行を見てみる。

 うん、今日も和行はカッコいい。こうやって一人の女として和行の隣に居られることが何よりも嬉しい。特定の誰かを愛するなんて昔の自分じゃ考え付かなかったかも。

 

「俺の方を見てどうかしたか?」

「ううん、何でもないよ!」

 

 和行の方をじっと見過ぎた所為か、和行が訝しむような顔をしていた。私は咄嗟に誤魔化してしまったが、本音を言うともう少し和行の顔を見ていたかった。だって和行って最近格好良さが増してきてるんだもん。和行に聞いた話では千冬姉にジムとかを教えて貰って、体を少しでも鍛えようとしているって言ってた。なんでもあの誘拐事件で思うところがあったらしい。

 その影響なのか、最近の和行には筋肉が付いてきている気がする。なんかもう和行に抱き締められる度にメロメロになってきてるけど悪い事じゃないよねこれ? 好きな人を更に好きになってるだけだし。

 

「さて、次はなに食べる?」

「あんまり食べ過ぎないようにしてね? お弁当食べられなくなるよ?」

「分かってるって」

 

 綿あめを食べ終えた私達はゴミをゴミ箱へと捨てながらそんな会話を繰り広げていた。和行ってば結構何かを食べるの好きだよね。昔もよくバレないように買い食いとかすることあったし。

 

「たこ焼き食べようぜ」

「うん。いいよ」

 

 和行に引っ張られてたこ焼きを購入した私達は再びベンチに戻っていき、たこ焼きを食べ始めた。

 

「――あっ、あつつつ! あっつ!」

「もう……」

 

 出来たてのたこ焼きだった所為か熱い物が苦手な和行には駄目だったみたい。私はそうでもないんだけどね。しょうがない、ふーふーしてあげよ。私は和行が食べようとしていたたこ焼きに息を吹きかけて少しでも食べやすい温度になるようにしていく。そろそろ良いだろうと判断した私は割り箸でたこ焼きを掴むと、それを和行の口元へと持っていく。

 

「はい」

「あ、ありがと」

 

 私にお礼を述べた和行は割り箸で摘まんであるたこ焼きを食べた。咀嚼して飲み込んだのを見計らって和行に話しかける。

 

「美味しい?」

「うん、美味しい。一夏と一緒だからかも?」

「……なんでそういうこと平気で言うのかな」

 

 その発言に照れまくるこっちの身にもなってほしいよ……。もう駄目! 和行への愛が鼻から溢れそうだよ! 和行和行和行和行――。

 

「一夏」

「な、なに?」

「他の屋台も見てみようぜ」

「う、うん。そうだね」

 

 思わず和行への愛が暴走しそうになったが、次第に落ち着いていくのを感じた。和行の提案は悪くないものだったので即座に頷いておくのを忘れない。ちゃんとゴミ箱にゴミを捨ててから、私達は他の屋台を見て回る為に足を動かしていく。

 今まではこういうお祭りなんて殆ど来なかったから、和行とこうしてお祭りを回るのがとても新鮮に感じるね。今回に限らず、和行とならどんなことでも新鮮で楽しいんだよね。愛している人と一緒だからかな? ……うん。自分で言ってて恥ずかしくなってきた。

 私はそんな気恥ずかしさを振り払う為に和行との屋台巡りに集中することにした。和行と屋台を見て回っているうちに、そろそろ戻った方がいいかもと和行と意見が一致したので、先程千冬姉たちと別れた場所まで戻っていく。

 

「千冬姉?」

 

 そこには千冬姉が立っていた。八千代さんが居ないけど、確保した場所に置いてきたのかな? そんなことを考えていると千冬姉は私達の方を見ると早く着いて来いと言わんばかりに先を歩き出した。

 私と和行はそんな千冬姉の後を追っていくと、沈んだ顔をした八千代さんがブルーシートの上で体育座りをしている光景が目に飛び込んできた。今すぐにでも掻き消えそうなくらいなんだけど……大丈夫じゃないね。八千代さんって和行に冷たくされると大抵こうだし。

 

「和行。お前が何とかしろ。私では手に負えん」

「えっ? ……はい」

 

 千冬姉の言葉に和行は渋々といった感じで八千代さんのご機嫌を直しに向かって行く。

 

「母さん。えっと……」

「ぐすっ……和行ぃ……」

「その、ごめん。言い過ぎたよ」

「和行……!」

 

 八千代さんに対して和行が謝罪を述べると、八千代さんは和行に抱き付き始めた。まるで年下の彼氏に年上の彼女が泣きついているような光景がそこにはあった。

 ……なんだか無性に腹が立ってきたんだけど。和行に抱き付いていいのは私だけなのに。幾ら八千代さんでもこればっかりは許す訳にはいかない。和行から早く離れてよ。……おい、早く離れろ。和行は俺だけのモノなんだぞ。さっさと離れろよ。

 

「一夏。落ち着け」

「千冬姉……」

 

 八千代さんが和行へ抱き付いている事に嫉妬していると、千冬姉が宥めるような言葉を掛けながら私の肩に手を置いてきた。千冬姉の言葉が頭の中に染みわたっていき、マグマのように煮えたぎっていた妬みが落ち着いていくの感じる。……千冬姉に注意されるなんて、また顔に出てたのかな私。

 

「母さん。さっさと離れないと今晩は筍オンリーにするぞ」

「ごめんなさい! すぐに離れます!」

 

 鬱陶しげな目付きをした和行が八千代さんにそう言い放つと、八千代さんは和行から即座に離れた。……良かった。そうだ、後で和行の服を徹底的に洗濯しておかないと。

 

「ほら、さっさと座るぞ」

「う、うん」

 

 千冬姉に促され、私は和行の傍に座る。和行の隣に座っていいのは私だけなんだから。

 

「い、一夏」

「なに?」

「ち、千冬さんが見てるんだからもう少し離れた方が……」

「嫌。絶対に離れないから」

 

 私は和行の意見を却下するとブルーシートに置いてある重箱を手に取り、包みを広げて蓋を取り外した。和行の為に丹精込めて作った食べ物が中に敷き詰められている。和行が大好きな私の昆布のおにぎりやおかかのおにぎり。和行が大好きな私の出汁巻き卵。和行が大好きな私の鶏の唐揚げ。和行が大好きな私の鮭など色々と和行の好物ばかりが並べられていた。

 

「あ、出汁巻き卵入ってる」

「和行の好物ばかりね」

「うむ。美味そうだな」

 

 和行、八千代さん、千冬姉の順に私の弁当を見た感想を述べていた。和行が目を輝かせてるのが物凄く可愛く見えるだけど。和行の頭に犬耳、お尻に尻尾が付いている幻覚まで見えた。お持ち帰りしたいと考えながら、私は重箱の包みに入れておいた箸を一膳取り出すと、出汁巻き卵を摘まんで和行の口元へと持っていく。

 

「はい。和行」

「え? あの……」

「あーんして。ほら」

「だから、えっと。ふ、二人が見てるし」

「和行」

「……はい」

 

 良い笑顔を和行に向けると和行は素直に口を開いてくれた。和行の唇に吸い付きたい衝動に駆られながら、私は和行の口へと出汁巻き卵をねじ込む。

 

「美味しい?」

「うん。美味しい……」

 

 咀嚼を終えた和行は顔を赤くしながら私にそう告げてきた。可愛い。千冬姉と八千代さんが居なかったら今すぐにホテルへ連れ込んだのに。そしてそのまま和行と一緒にシャワーを浴びて――はぁはぁ。興奮してきた。和行とくんずほぐれつしたい。夏休みまで我慢できる自信がなくなってきたよ。

 でも、そんな考えを口にする訳にはいかないので何とか喉元から出ないようにしつつ、八千代さんと千冬姉にも重箱の料理を振る舞うことにした。

 

「やはり美味いな」

「ふふふ。和行ったら果報者ね」

 

 二人は私のおにぎりを食べるとそんなことを口にしていた。まあ和行への愛が籠っているからね、美味しくなければおかしいというか。私がそんなことを考えていると手に取っていたおにぎりを食べ終えた千冬姉が私のことを手招きしていた。和行の傍を離れたくないのに……うう、仕方ないかあ。

 

「なに? 千冬姉」

「お前が私に和行と付き合い始めたことを伝えてこなかったのは何故だ?」

「えっ? あっ……」

 

 …………忘れてた。冗談抜きで忘れてた。

 

「えっと、その……。わ、忘れてた」

「和行とイチャつくことしか頭になかったか」

「ご、ごめん……」

 

 やれやれと言わんばかりの表情を浮かべている千冬姉に私は思わず首を傾げた。えっと、私としてはもう少し何か言ってくるかと思ったけど。具体的に言うなら男に戻らずに女の子で居る事を勝手に決めた事とか、和行と結ばれた事とか。八千代さんが千冬姉のことを説得してたとは言っていたけど……千冬姉はどう思っているんだろ。

 

「千冬姉」

「なんだ?」

「……私ね、束さんから男に戻る事も出来る薬を貰ったんだ」

「戻る事も出来るということは……」

「うん。逆の性別――女の子で性別を固定させることも出来るんだ」

 

 そこで一旦を言葉を切ってから、私は再び言葉を紡いでいく。

 

「私は性別の固定化にその薬を使った」

「……」

「ごめんね、千冬姉。勝手に性別を固定したりしちゃって」

 

 私は千冬姉に向かって謝った。こうして和行と恋人同士になれたので性別を固定したことに後悔はない。だが、千冬姉に相談などをしたりせずに決めたことだけは心の中にしこりとして残っていた。千冬姉からどんな言葉が飛んでくるのだろうかと身構えていたのだが、

 

「何故私に謝る必要がある?」

 

 千冬姉から帰ってきたのはそんな言葉だった。非難する訳でもない、ただ純粋に私が謝っている意味が分からないとニュアンスの言葉が。

 

「え、だって……」

「確かに相談もなしにそんな事をしたことに思うところはある」

「それなら!」

「だが、性別を固定したのはお前の意思だ。お前が和行と一緒に居たいと思って決めたことなのだろ? 違うか?」

「違わなく、ないけど……」

「なら私は口出しなんてせんさ」

 

 そう言うと、千冬姉は優しげな表情を浮かべつつ私の方を見てきた。……こんな風に柔らかな表情をしている千冬姉、久しぶりに見たかも。

 ……そっか。私の意思か。うん、そうだよ。私は和行の事を愛しているから――和行とずっと一緒に居たいから女の子であり続けることにしたんだ。

 

「ありがと、千冬姉」

「気にするな。……ところで一夏」

「なに?」

「今、お前は幸せか?」

 

 千冬姉の問いかけに少しだけポカンとしてしまうが、私はすぐに返答を用意することができた。幸せかって? そんなの考えるまでもないよ。

 

「うん。幸せだよ」

 

 ――私は、物凄く幸せだ。和行と恋人同士になれたんだから。

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