女体化した親友に俺が恋をしてしまった話   作:風呂敷マウント

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ちょっとだけシリアス。


第四話 黒髪ポニーテール

 私は束の首を締め上げながら自室へ向かう和行を見送った。一夏が女になったせいであいつにも迷惑を掛けてしまったな。あいつなりに一夏の事を心配していたからな。私が締め上げている親友があまりにもアレな所為で、あいつらの仲が羨ましくなる時がある。

 和行が「あれ取って」と言うと、一夏が和行が欲しがったものを必ず手渡すといったことが何度もあった。何回お前らは夫婦かと言いたくなったか。……女になった一夏と和行であの光景を繰り広げることになったらますます夫婦にしか見えないだろうな。

 

「ちー、ちゃん……束さん、息が……」

 

 何か聞こえたが無視しよう。和行から一夏が女になったと聞かされた時は言葉が出なかった。何の冗談だと思ったが、和行がそのようなつまらない事を言わないことはよくわかっている。だが、やはり実物を見るまで信じられずにいた。正直、最初はショックを受けたものだが、一夏のことを考えてくれた鈴音と和行の提案を受け入れ、一夏のために色々と用意することになった。性別が変わってもあいつは私の大切な家族だ。絶対に邪険にしない。

 私と鈴音で色々と一夏のためにやることになったがその際鈴音が泣きそうになりながら一夏の服を選んだりしていたが、あれは鈴音に限らず一夏に惚れてた女なら少なからず戸惑いはするだろう。自分が恋した相手が女になるなど拷問以外のなにものでもないだろうからな。流石の私も、あいつに生理用品やらブラジャーの付けた方を教える際は心が荒れそうになった。

 ふと腕を叩かれた。私の腕を叩いたであろう馬鹿の方へと目を向けると束がまだ私のチョークスリーパーに抗っているようだった。

 む? なんだこいつ、まだ気絶していなかったのか。気絶させて日本政府辺りにでも突きだそうと思ったのだが、相変わらず無駄にタフだな。一夏を女に変えた理由がふざけたものであった怒りはまだ消えていないがこのまま続けて天に召されても面倒なのでそろそろ解放しよう。私が首から腕を放すと束は息を整えてからこちらへと抗議の意思を示してきた。

 

「酷いよちーちゃん! 束さんのことを亡き者にする気!?」

「そうだが?」

 

 わざとらしくガーンなどと口にしているが、こいつが簡単に死ぬタマじゃないのは分かり切っている。伊達にこいつの親友をやっているわけではない。一夏に倣うなら生命力がゴキブリ並と言えばいいのだろうか。もっともそんな呼び方をすれば即座に束本人や和行に訂正させられるのが目に見えているので口には出さないが。

 まったく和行の奴め、こんな馬鹿に懐柔されおって。束が一夏と和行に姉さん呼びをさせようとした時に無理矢理にでも和行の方も止めればよかったのだろうか。いや、過ぎたことを気にしても仕方ないか。

 

「それで束、本当の理由を話してもらおうか?」

「理由?」

「一夏を女にした本当の理由だ」

 

 とぼけたふりをしているが一夏や和行はともかく、そんなのが私に通じると思っているのか?

 こいつは突拍子もなく馬鹿なことをしているように見えるが、その裏で色々な考えを張り巡らせてから騒ぎを起こすタイプだ。一夏を女にした理由に一夏が困惑している顔を見るというのは嘘ではなかろう。だが、本当のことを言っていないのも事実だ。

 

「さっすが、私のちーちゃんだね! ……実はさ、いっちゃんのことを前に誘拐したような奴等がまた現れたみたいでね。ここまで言えば、ちーちゃんなら分かるでしょ?」

「っ!」

 

 ふざけた調子から真面目な雰囲気と口調で話はじめた束の言葉に私は思わず顔を歪ませる。こいつはこういうときはふざけたことは言わないため束の言っていることは真実だと分かる。

 何故だ、どうして一夏を狙う? また私たちを苦しめるつもりなのか……。

 

「たださあ、今回はいっちゃんだけじゃないみたいなんだよね。ターゲットが」

「なんだと……」

「かずくんもターゲットなんだよね」

 

 思わず歯噛みした。一夏だけじゃなく和行もだと!? 私だけを狙うならまだ耐えられた。だが、妹の一夏や家族同然である和行を何故狙う。

 敵とも言うべき存在の意図が解らず苦い顔をする私の顔を見ながら束は「私の予測だけど」と前置きしながら話し始めた。まるで私の心を読んだかのようで気持ち悪かったが今はそのことで口を挟む事はしない。大人しく束の推論を聴こう。

 

「いっちゃんの誘拐をするのは単純に前に失敗した誘拐の雪辱を晴らす為、かずくんを狙うのはちーちゃんやいっちゃんに揺さぶりを掛ける為じゃないかな? 連中、時期はわからないけど確実にやってくると思うよ」

 

 私は淡々と紡がれた束の言葉を無言で聞くしかなかった。ふざけている、あまりにもふざけている。今の私には一夏や和行を守るための強さやそれを押し通すための力はないし、立場上そんなことは許されないのだ。何もできない自分に腹が立つ。自分への苛立ちが募るが冷静に感情を抑えながら束に尋ねた。

 

「お前が一夏を女にしたのは――」

「いっちゃんが狙われないためのカモフラージュだね。あと私の趣味。外見の方はすでに済んだからあとは戸籍やら関係書類やらをちょちょいと弄れば終わりって感じかな」

 

 またこいつはそんなバレたら不味いことを平然とやるつもりなのか。いや、こいつのことだからバレるなんてまずありえないな。だが、何故こうもこいつは大胆に犯罪行為をしていると告白出来るのだ。束の神経は昔から理解できん……。

 それを知ってなお、こいつの話に付き合って即座に政府に突きださない私もこいつの片棒を担いでいるようなものか。あの頃から変わっていない……いや、変わることが出来ていないということか。

 

「ただ、かずくんには悪いけど性転換とかでのカモフラージュなんてしないけどね」

「では和行はどうする気なんだ?」

「別の対抗策をかずくんの部屋に置いてきたから大丈夫。すぐに目が付くところに置いておいたし」

「別の対抗策? なんだそれは」

 

 私がそう尋ねても束は「ちーちゃんには秘密だよ」としか返してこなかった。危険なものでなければいいがこいつのことだ。何か裏で企んでいるのかもしれない。……警戒しておくとするか。一夏と和行を狙っている組織……。()()に助けを乞う。彼女ならば二人を護衛してくれるだろう。勿論内密にだが。

 

「ねえ、ちーちゃん。この世界は続いていくと思う?」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味だよ」

 

 唐突な質問に私は頭を働かせる。この世界が続いていくと思うか、か……。さあ、どうなんだろうな。私にはそんなことをあれこれ考える頭などない。この世界は八年前に急激に変化した。ISが現れたせいだ。ISの巨大な戦闘力の前では既存の戦車や戦闘機など鉄くずと呼ばれてしまうほどだ。ISに乗れるのは女性だけ。今まで一度の例外も出ていない。その所為か、世の中は女尊男卑の風潮に支配されてしまっている。ISに乗れる女ならともかくISに乗れない癖に威張り散らしている奴等が居るからだ。そいつらの所為で男を虐げてもいいという風潮が助長されてしまった。

 元々ISが作られた本来の目的は宇宙開発のためだった。束は少なくとも私にそう言った。束の言葉に倣うならば今のISの在り方は本来の道から外れてしまっている。アラスカ条約でISの兵器利用は禁じられており、もっぱらISはスポーツとして用いられているがあんなものは建前だろう。軍用のISを作っている国もあるくらいだ。アラスカ条約など既に有名無実化している。

 私には各国の首脳陣や軍部の考えていることなど判らない。どうなるのかは誰にも予想できない。……もっとも、こんな世界にしてしまったのは私と束だ。白騎士事件などという阿呆なことを起こさなければこんなことにはならなかったかもしれない。

 

「ちーちゃん、またこの世界を変えてみたいと思わない?」

「馬鹿を言え。また世界を変えるだと? そんなことしたら再び起こる急激な変化で今度こそ世界が終わるぞ。……それにだ、お前は一体どうやって世界を変えるつもりだ」

 

 私はもうそんなことに付き合うつもりはない。一夏の成長を見届けなければいけないのに、そんなことに手を貸す余裕もない。それに私はもう職を持つことを迫られている身だ。束のように自由気ままに動けるような女ではない。大体、今の世界は歪なようでいて安定してきている。そこを下手に突けば安定どころか世界が崩壊する可能性だってあるのだ。

 全くもって馬鹿らしい。たった二人の人間に世界という名の怪物を変えることなど無理だというのはお互い身に染みただろうに。束はそんな私の考えを知っているのか知らないのか、いつも含みのある笑みを絶やさずに言葉を紡いだ。

 

「それは私にも分からないんだよね、今のところは」

 

 私を見つめる束の目はこの世界を見ていない。そう直感した。何処か遠くの世界を見つめているという錯覚が起こりそうだった。束、お前は何を知っている? 何を考えているんだ? 困惑する私を他所に束は歩き出して私の隣を通り過ぎていく。

 

「ちーちゃん、また明日ね」

 

 束が私の後ろでそう呟くのが聞こえる。私は咄嗟に振り返り、束に更に問いかけようとするが既に束の姿はそこになかった。最初から束など居なかったように誰の気配も感じない。

 

「束、お前は……」

 

 その先の言葉が口から出ることはなかった。私は底知れぬ不安を抱えながら、和行に言われた通りコーヒーカップを水の張ったボウルの中に入れ、和行の家の戸締りをしてから自宅に戻ることにした。だが、その前に私のツテを使ってある人達に助力を乞うことにする。いつも使用しているのとは別の携帯を操作し、ある人物への連絡を取る。数秒の呼び出し音の後、その人物は私の電話に出てくれた。

 

「夜分遅くに失礼する。頼みたいことがある」

『――要件を訊きましょうか、織斑さん。いえ、織斑先生?』

 

 おどけたように私を先生と呼ぶが、彼女にまだ先生ではないぞと釘を刺すことを忘れない。お前はあの学校にまだ入学してないし、私もあくまで務める予定があるだけで本当にあの学園で働くとは決まっていないのだから。私は小さな頭痛に苛まれながら電話の相手に説明する。すると彼女は二つ返事で受け入れてくれた。

 これで保険は出来たが……私の心に巣食った不安を完全に拭い去ることは出来なかった。

 

◇◇◇

 

 意識が浮上していく感覚に俺は目を開いた。視線を動かし、時計を見ると時間はまだ朝の四時だった。喉がカラカラなことに気付いた俺はそのまま二階を自室を出ると一階へと向かう。一階のリビングに人の影はない。束姉さんと千冬さんは既に帰ったのだろう。リビングにあるコップを収納している棚からコップを取り出して、台所の蛇口を捻ると水道水を注いで飲み干した。そして洗面所へ向かい歯磨きと洗顔を済ませる。

 

「あー怠い」

 

 顔に保湿するためのローションを塗りながら考えを巡らす。昨日は土曜日で、今日は日曜日だったはずだ。あまり気分が優れていないのでこのまま寝ていようかとも考えたが、俺の意思に反するかのように体は寝ることを拒絶している。

 ゲームでもやって気分転換しようかと考えたが、その前に腹がご飯を求めていることに気付いた。昨日冷凍していたご飯でも温めておにぎりにして朝食にする為に洗面所から台所へと足を運ぶ。大した苦労もせず、おにぎりを二個握り終えた俺はインスタントのお味噌汁と冷蔵庫に入っていた残りものであるポテトサラダで朝食を食べることにした。おにぎりの中身はシャケのフレークがあったのでそれを少々入れている。いただきますと小さく喋りながら手を付けていく。

 

「うん、美味い」

 

 ポテトサラダ、おにぎり、味噌汁の順に朝食を食べていく。味噌汁は俺はインスタントのものでも別に問題ない。あまり手間を掛けた料理をしたくないときはインスタントばかり使ってるし。一夏は毎朝ちゃんと味噌汁を作るみたいだけど。あいつの家事スキルは主夫レベルだからなあ。俺みたいな中途半端な料理スキルを身に着けている奴とは天と地の差があるわ。あいつは昔からアレやってたからな、年季が違う。

 

「ごちそうさま」

 

 ちゃんと噛んで食したつもりだが、十分もしないうちに完食してしまった。やはり一人で食べるとこんなものだな。一夏たちと一緒に食べているとついついお喋りしてしまうからか、気が付かないうちに結構時間が経っていたりしているのだ。

 

「流石に今からは不味いよな……」

 

 時計を見ながら俺はそう呟く。一夏の家に行こうと思ったのだが、流石に時間帯が早すぎる。やはりゲームでもして少し暇つぶししているしかないか。食器やコーヒーカップを洗ってからやろうと心に決め、食器洗いを始めることにした。

 食器洗いはすぐに終わった。まあ洗うのが少なかったからね、こうなるよ。台所からリビングに戻ってソファーに座るとそのままテレビゲームを始める。どうやって次のボスを倒そうか考えていた時だった。ふと時計を見ると先程ゲームを始めた時より三時間も経っていたのだ。そろそろ一夏の家に言ってもいいだろうかと考え、ゲームを一時中断して玄関で靴を履くと家に鍵を掛けて一夏の家に向かう。

 幾らすぐ隣とは言え、自宅の鍵を開けっ放しにして出かける度胸なんて俺にはない。いつもの調子で玄関のチャイムを鳴らすとインターホン越しに可愛らしい声で「はーい」と聞こえた。間違いない、これは一夏の声だ。

 

「一夏。俺だ」

『和行。どうしたんだ?』

「いやちょっと心配して様子を見に来ただけだ」

 

 そう言うと一夏はちょっと待ってろと言い、少ししてから玄関を開けてくれた。

 

「おはよう」

「あ、ああ。おはよう」

 

 昨日とは別の服を着た一夏がそこに居た。長い髪を後頭部で纏めて垂らした状態――所謂ポニーテールになっており、服装も違うからか昨日とは違う雰囲気に反射的に胸が高鳴った。昨日の落ち込んでいた一夏と違って、今日のいつも通りの態度な一夏に少し安堵する俺だったが、俺の心臓はそんな心情をなど知ったことじゃないと言わんばかりに鼓動を速めている。

 なんだこいつ、反則すぎるだろこいつ。元男の癖になんでこんなに可愛いんだよ。ふざけんな、可愛すぎるだろちくしょう。これはあれだ、直視してはいけない、見てはいけない。破壊力が高すぎるわ。しかもこいつエプロンしてるし、なに料理中だったの? 邪魔してごめんね! そのポニーテールも料理するのにまとめたんだろうね!

 

「あ、そうだ。和行って朝ごはんまだか?」

「え? なんで?」

「なんでって、せっかく着たんだから朝食を食べてほしかったんだけど……もしかしてもう食べたのか?」

 

 ……一夏よ。その首を傾げるような仕草はやめなされ。お前多分それ無意識でやってるんだろうけど俺のメンタルごりごりと削ってきてるからな。男だと頭では解っているんだが、今のお前の外見は女なんだぞ? その純真な瞳で俺を見るのもやめてくれ。そんなことされたら俺――

 

「いや、まだだ」

 

 ――断り切れなかったよ。だってお前、これ無理だから。絶対に抗うなんて出来ねえよ。可愛いは最強ってはっきり解るわ。

 

「なら食べてけよ。俺も千冬姉もまだ食べてないから」

 

 平静を装った俺の言葉に、満面の笑みで一夏の口からそんな言葉が飛び出す。その笑顔に俺はただ「う、うん」と頷くことしかできなかった。一夏はいつも通りに接しているだけなんだろうけど、はあ……ほんと調子狂うわ……。束姉さん、今度会ったらそのウサミミ捥ぎ取りますから覚悟しておいてください。

 

「やあ、呼んだ?」

「え?」

「お、おい。和行、後ろ!」

 

 呼んでないですと叫びたくなる衝動に駆られたが、俺はなんとか踏みとどまりつつ後ろを振り返った。そこには束姉さんが居た。いつものあの格好をした束姉さんは獲物を見つけたと言わんばかりの目をしながら、俺に抱き付こうとしてくる。

 

「かずくううううううううん!」

 

 この人を止められるだけの力なんてない俺は、このままこの人に抱き付かれてしまうのかと諦めた表情を浮かべたのだが――

 

「ぶがっ!?」

「――大丈夫か。和行」

 

 いつの間にか俺の目の前に現れて、束姉さんにアイアンクローを喰らわせた千冬さんが俺の眼前に居た。何この人。下手な男より格好いいんですけど。

 

「いっちゃんの黒髪ポニーテール最高うううう!」

 

 千冬さんのアイアンクローを喰らい続けて沈黙する寸前に束姉さんはそんな言葉を発したのだった。一夏はそんな束姉さんをゴミを見るような目で見ていました。まあ、そうなるよね。自分を女体化させた張本人が目の前に居るんだから。……この状況、どうすればいいの?

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