一夏と母さんが仲良く温泉に浸かっている間、俺はスマホを弄ってネットサーフィンをしてた最中に弾や数馬からメールが送られてきた。
内容は『野郎だけで一緒に遊ばね?』という感じのメールだった。だが生憎と、俺が弾達と遊ぶのは逆立ちしても無理なので『いま一夏や母さんと旅行に着てるから無理』と返しておいた。その所為でお土産をおねだりされたけどな。元々お土産は買っていくつもりだったから別にいいんだが。
「美味しいわねこれ」
「そうですね。このお魚、身に油が乗ってて最高ですし」
「肉、肉、肉……」
二人が露天風呂から戻ってきてから時間が経った。部屋に案内された時に伝えておいた夕飯を食べる時間になったので、時間通りに仲居さんが運んできた晩御飯を俺は一夏の隣で堪能している。部屋食だったお蔭で他の客の目とかを気にしないで晩御飯を食べられるのは非常に嬉しい。
並べられている料理はご飯やお吸い物を始めとして、焼いた川魚に山菜の天ぷらと丁寧に焼かれた牛肉等がある。その他には茶碗蒸しやデザートやら色々なメニューが置かれていた。うちの食卓にあまり並ぶことのない食材やらも置かれているのでなんだか凄い事になっているんだが。
いやでも、どれも火が通っている料理ばかりで安心したぞほんと。もし魚が生だったら絶対に食わなかった自信がある。俺、基本的に魚介類の生ものは食べないようにしてるからな。理由は食あたりが怖いから。火が通ってないと安心して食べられないんだよ。母さんと一夏は普通に生もの食べるけどな。
「ああ、肉が美味い。さいっこう」
やっべ。この牛肉、冗談抜きでほっぺたが落ちる美味さだわ。舌を動かしただけで肉が簡単に解れていく上に、肉汁もあるとかご飯が進むわ。魚も一夏が言う通り身に油が乗って美味いし、皮の焼き加減が絶妙だ。山菜やその他の野菜も肉や魚の合間に食べるのに最高の旨みがある。
うん、本当に美味い。格別の味だ。でもこんな絶品で豪勢な料理でも、俺の中では一夏の料理の方に軍配が上がるんだよなあ。一夏の愛情が満載な料理とじゃ比べること自体間違っているのかもしれないけど。
「もう。ちゃんと他のも食べないと駄目だよ」
「わかってるよ」
俺の隣でそんな注意を促してくる一夏は浴衣を着ていた。一夏と母さんは温泉上がりに、俺は温泉から上がってきた二人に促されて着替えた。きちんと正座をして魚を食べ進めている一夏の服装を見てみる。いつもは洋服を着ていることが多い一夏だが、やはり一夏も日本人の黒髪美少女だからか和装も似合っていた。母さんもまあ似合ってるんじゃないかな? 母さんは黒髪美人だし。
……ところで何で二人は髪型を同じシニヨンにしているのだろうか。お揃い? 母娘云々でのお揃いってやつなの? 一夏のうなじが見れてるから別にいいんだが。
「こんなに美味しい料理が食べられるなんてね」
「ありがとね和行」
「……褒めても何も出ないぞ」
母さんと一夏は大満足してるようだ。というか、なんで俺にお礼を言ってくるのだろうか。まあ、チケットを当てたのは俺だから別にいいけどさ。最初、温泉旅行を当てた時は主に一夏に襲われるかどうかで不安だったが、二人の笑顔が見れたから悪くはないかな。俺も美味い料理を食べたからか気持ちが結構高揚しているというか、かなり満足しているし。
って、この料理って今日だけじゃなくて明日も食べることになるんだよな? ……かなり贅沢してるよな、これ。でもまあ、たまにはいいよなこういうのも。そんなことを考えつつ箸を進めていき、十五分ほど経ったタイミングで俺は料理を全て食べ終えた。
「ごちそうさま」
俺はそう言い残すのを忘れなかった。一夏と母さんも料理を食べ終えたらしく、ご馳走さまのあいさつをしていた。それから腹を休ませながら一夏と談笑をしていると母さんが連絡しておいたのか、仲居さんが食器を下げにきた。俺が使った分の食器を先に下げていくのを見届けていると、母さんが俺に話しかけてきたので母さんの方へと顔を向ける。
「あ、そうだ。和行、一夏ちゃんと旅館内を見て回ってきたら?」
「え? なんで」
「食器を下げ終わったら布団を敷く予定だし、布団敷くのを見てるだけとか退屈でしょ?」
「ま、まあ……」
確かにな。布団を敷いているのを見ているだけとか、正直ね……。
「はいお金。喉乾いたらこれで飲み物でも買いなさい」
「ありがと」
母さんはそう言いつつ俺に千円札を手渡してくる。俺は特に抵抗することもせずに受け取った。別に母さんにお金を貰わなくても財布に入っているお金で買うつもりだったんだが……まあいいや。貰えるものは貰っておこう。
俺は一夏を伴い、部屋を出た俺は館内を見て回ることにした。しばらく歩いてみたが、やはりここの内装や外装は目新しいようだ。元々は古く歴史の旅館だったが老朽化の影響で改修工事をせざるを得なくなったようで、その影響で設備等も比較的新しい物に変わったらしい。
「なんか場違いって感じがしてきたね」
一夏よ。露天風呂に入った後にあんな豪勢な飯を食べた癖にそれを言うのか。……まあ、俺も似たような言葉を零しそうになったので一夏のことをとやかく言えないけど。
「俺もだよ」
一夏の言葉に同調しながら歩き続けていると、ロビーまで向かうと旅館内に設けられているお土産屋が視界に入った。この旅館の近辺にもお土産屋があるけど、ここで買い物をするのも予定に入れておくか。別にお土産を買いすぎて悪いってことなんてないだろうし。
「一夏。なに飲む?」
「ミルクティーでいいよ」
一夏の要望を聞いた俺は母さんから渡された千円札をロビーにある自販機に入れる。缶に入ったミルクティーと缶コーヒーを購入するとお釣りを回収してから一夏の下へと歩を進めた。
「ほい」
「ありがと」
ご所望だったミルクティーをロビーの椅子に座っている一夏に手渡す。俺は缶のプルタブを開けている一夏を横目に、彼女の隣にある席にゆっくりと座る。コーヒーが入っている缶のプルタブを開け、コーヒーに口を付けていると一夏が俺に声を掛けてきた。
「ねえ和行。思い出さない?」
「思い出すって何を?」
「ほら、小学六年生の時に行った修学旅行先のこと」
「ああ……」
確かあの修学旅行でも旅館的な場所に泊まったっけ? ここほど立派じゃなかったけどさ。
「風呂上りに鈴と合流してから、一緒に飲み物を買ってこうしてたな」
「それで鈴が自分だけフルーツ牛乳だったことにふて腐れてたよね」
「懐かしいな」
俺と一夏はコーヒー牛乳を、鈴はフルーツ牛乳だった所為で軽くお冠だったのが昨日のことのように思い起こされる。恋する乙女である鈴としては想い人である一夏と一緒の飲み物が良かったのだろうが、そこは我らが一夏だ。そんな鈴の乙女心など考えに入れず、俺が選んだコーヒー牛乳を見て同じ物にしたのだ。あの時の一夏は「和行はコーヒー牛乳か。俺もそっちにするわ」的なことを言ってたな。
……やばい。鈴の俺に嫉妬したかのような視線まで思い出してしまった。あんなの小学生の女の子がしていい目じゃないってマジで。
「あっ」
一夏から視線を外してロビーに備え付けれれている時計の方を見てみると、既に部屋の布団が引き終わっている時間になっていた。俺は一夏に声を掛けると早く飲み物を飲み終えて部屋に帰る提案をした。一夏も俺に倣ってミルクティーを飲み干したので、彼女の手を取って部屋へと戻った俺達を出迎えたのは一人用の布団の上でだらけている母さんだった。隣には俺達用と思われる二人用の布団が敷かれている。
「あ、おかえり」
「ただいま」
俺は母さんにそう返すと自分の荷物を漁り、着替えの下着やタオルやらを持って露天風呂に向かった。一夏が何かを企んでいる顔をしていたけど気にしないことにしておく。脱衣室で浴衣と下着を脱いだ俺はタオルを片手に露天風呂が設置されているスペースへと出る。露天風呂に入る前に備え付けらえているシャワーで体と頭を洗ってから、湯が張られている湯船へと体を浸けた。
「良いお湯だな」
頭にタオルを乗せつつ、目に飛び込んでくる外の光景を眺めながらそんなことを呟いてしまった。夕食前に露天風呂に入った一夏や母さんも言ってたけど本当に良いお湯だ。体の疲れを解きほぐすような温かみを感じる。眼前に広がる光景も普段は見れないものだ。自宅の風呂とは別の趣があっていい。夜の風が火照った体を丁寧に撫でてくれているお蔭で気分も心地良いものになっている。
すると、露天風呂の出入り口が開閉する音が突如耳に届いた。……なんだろ。嫌な予感がしてきた。
「か、和行……」
「一夏――っ!?」
一夏の声がした方を向いた俺は咄嗟に一夏から顔を逸らした。駄目だ。今の一夏を見ては駄目はいけない。何故なら、今の一夏はタオルで前を隠しては居るがなにも身に着けていない裸なのだ。
雪のように白く染み一つない綺麗な肌。男の頃のものとは似つかない華奢な両腕。俺好みにくびれた腰。これまた俺の好みの肉付きになっている太腿が目に飛び込んできた。触らなくても柔らかいと判断できる身体を一瞬とはいえ見てしまったせいか、俺の理性がガリガリと削られはじめていた。
以前、一夏の裸を見てしまった時とは比べものにならないくらいに心臓が早鐘を打っていた。あの時の俺は衣服を身に着けていたが今の俺は裸だ。そして一夏も裸になっている。このままでは色々と不味いことになるのは明白だ。主に十八禁な方面で。
「一緒に入ってもいい?」
「だ、駄目だ」
「私と一緒に入るの嫌?」
……嫌じゃないです。だが、二つほど条件を付けるのを俺は忘れなかった。俺とはお互いに背を向ける形で入ることが一つ。二つ目に俺の体に抱き付いたりしないことを約束させた。俺は首を縦に振った一夏に背を向けて、一夏が入浴前の準備を済ませるのを待つことにした。
本来なら追い返すのが正解なのだろうが、条件を付けて一夏の入浴を許すなんてやっぱり俺は一夏に甘い上に弱いらしい。拒絶した所為で一夏に嫌われなくないって思いが真っ先に出てきたのもあるけど。そんなことを考えている内に洗髪と体を洗うのを終えたのか一夏が湯船に入ってきて、背中越しに俺に話しかけてきた。
「ねえ和行」
「なんだ?」
「私とえっちなことするの嫌なの?」
「は?」
いきなり何を言ってるんだこいつは。
「いきなりどうした?」
「だって、和行ってば全然私のことを襲ってくれないし……。したくなったら言っててって、私言ったよね?」
「それは……」
「私じゃ駄目なの? やっぱり私が元男だから?」
不安な感情を乗せた一夏の声が聞こえてくる。口振りから察するに、一夏は俺が性的な意味で全然手を出さないことに悩んでいたのだろう。……違うよ、一夏。そうじゃないんだ。
「そんなことない。……俺だってしたいよ」
「ならどうして!」
「その……。高校を卒業するまではしない方が良いって考えててさ。ちゃんと養えるようになるまではって」
俺は正直に自分の考えを一夏にぶつけた。さて、一夏はどんな反応を返してくるのだろうか。取ってくる反応の大体は予想出来る。だが、一夏の口から実際に聞くまで本人が何を考えているかなど分かりはしないのだ。
「和行の気持ちは嬉しいけど、そこまで我慢できないよ……」
「一夏……」
やはり、か。母さんの言う通り、一夏の想いを汲み取るべきなのだろうか。一夏も我慢して所為で辛い思いをしているだろうし。でも、それは今ではない。今は駄目だ。近くに母さんが居るし。せめて、母さんが家に居ない時なら。
「和行」
一夏に名前を呼ばれたので俺は思わず振り返ってしまった。そう、振り返ってしまったのだ。一夏の言葉に集中が乱されたのだろうか。お互いに背中合わせにして入浴するという約束を自ら破ってしまった。その事に気付き、自分が馬鹿な事をしていると自覚した時にはもう遅かった。何故なら、俺の目の前にはこちらを向いている一夏が居たから。彼女はタオルを頭に巻き、髪が湯に入らないようにしている。その所為で一夏の一糸纏わぬ姿が俺の視界全体に広がってしまった。
服越しにしか見たことがなかった一夏の大きなおっぱいがそこにある。……ヤバい。なんだこれ、見ているだけで物凄く柔らかいと錯覚しそうなくらいな存在感があるんだが。そんな一夏のおっぱいから吸い寄せられるように視線を下げると、下腹部にある物が目に飛び込んできて――
「っ!?」
「か、和行?」
「ごめん! 俺、あがるから!」
俺は即座に背を向けて立ち上がると、頭に乗せていたタオルで股間を隠しながら部屋と露天風呂を繋ぐ更衣室へと戻っていく。更衣室で息を整えた俺が体の火照りなどが静まるのを確認してから、バスタオルで水分を拭き取って自前の保湿クリームを手早く塗っていく。急いで髪を乾かすのと着替えを終えた俺は自分の行動に賞賛を送ることにした。
「マジで危なかった……」
冗談抜きでそう感じた。もう少しで理性が吹き飛んで一夏に襲い掛かってたところだったぞ。本当にギリギリだった。母さんも一緒に旅行に来ているのに一夏とアレなことをする訳にはいかない。
……ところで母さんはどうした? 一夏が乱入してきたことに驚いて忘れてたけど、母さんは一夏の行動を止めなかったのか? 母さんが何をやっているのか確かめようと俺は部屋へと戻っていくとそこには、
「んー! んー!」
布で猿轡をされ、紐によって亀甲縛り状態になっている母さんが布団の上でもぞもぞと芋虫のように動いている姿があった。一夏が母さんを縛ったのか? それなら一夏が露天風呂に入ってきた理由も頷けるが……どうして亀甲縛りなんだろ。このままにしておくわけにもいかないと判断した俺は母さんを解放するために縄を解くことにした。