女体化した親友に俺が恋をしてしまった話   作:風呂敷マウント

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更新が遅れて申し訳ないです。今回で温泉旅行編は終了となります。


第五十話 二人でなら

 朝の兆しを感じた俺は体をゆっくりと起こす。欠伸をしてから体を伸ばすと、枕元に置いておいたスマホの時間を確認することにした。スマホを手に取り、スリープモードを解除する。ディスプレイに映し出された時刻は午前六時を指していた。スマホを再びスリープモードに戻しつつ、ちらりと隣でまだ寝ている一夏の寝顔を見つめてみることにした。

 

「可愛い寝顔しやがって」

 

 あの後、俺は布団に入った後も露天風呂の件で何とか理性を保つことができた事に賞賛を送り続けたよ。目の前におっぱいが大きい女の子の裸があったんだぞ? それも自分の彼女の裸がさ。よく耐えられたよホント。自分でもなんで耐えられたのか分からなくなってきた。ついでにあんなことがあったのに、一夏と一緒の布団で普通に寝れたこともよく分からない。あれか? 精神的に疲れてってやつなのか?

 

「……耐えられたのはいいけど」

 

 俺はそこで思わず口にしていた言葉を切った。確かに耐える事は出来たけどさ、はっきり言って一夏の体への興味が倍増しててヤバい。さっきから寝ている一夏の胸やら唇へ何回も視線を送ってしまっている。そりゃあね、俺も思春期の男だから女の子の体には興味津々だけど、流石に昨晩みたいなことを一夏からされるのが勘弁してほしい。かなり切実に。心臓と男には誰にでもついているとある部位に悪影響が出るから。……本音を言えば嫌じゃなかったけど。

 今すぐにでも一夏の胸に手を伸ばして、先週母さんがやったように触りたいけどそんなことをやったら俺も母さんと同類になってしまう。ってか、本人の許可も取らないで触るとか駄目だと思うんだ。こんなご時世だし余計にさ。一夏なら触ってくれて嬉しいとか言い出しそうだが、それはそれ。これはこれだ。俺のポリシー的にそんなことをする訳にはいかない。ステイだ俺。

 

「んっ――和行?」

「おはよう、一夏」

 

 そんな阿呆なことを考えている内に一夏が目を覚まして俺の方を見てきた。俺はそんな一夏におはようの挨拶を欠かさない。毎日寝起きにはやっていることだし。いつもは一夏の方から先に俺へ挨拶してくるパターンが多いけど。

 

「何時……?」

「朝の七時前だよ」

 

 そう尋ねながら、一夏は手で目を擦っていた。寝起きも可愛いとか最高ですねこの子は。……昨日のアレがなければ、今すぐにでも声に出して言いたいよ。

 

「その、和行」

「ん?」

「昨日はごめんね。私、ちょっと焦ってたみたいで……」

 

 朝っぱらからそんな謝罪をしてきた一夏に俺は気にしてないと返す。俺が母さんを亀甲縛りから解放した後に一夏が戻ってきて、露天風呂に乱入した事と母さんを縛りあげたことに対して謝罪をしてきたが俺と母さんは普通に許した。一夏があの行動に出たのは俺にも原因があるので、一夏の所為だけにするのは駄目だと思うし許さないと駄目でしょ。

 なお母さんは「年頃の女の子なんだから仕方ないわよね」とか言ってた。本当にそれでよかったのか、母さんよ。あんた、一夏に亀甲縛りされたんだぞ? そこのとこ理解してます? ここまでならただ変な思考回路を持った寛大な母親に見えるだろうが、次の瞬間に「あっでも、もう少しで孫の顔が見れたんじゃ……」などと母さんがのたまったので、縛られたままの状態で放置すればよかったと母さんを助けたことを軽く後悔した。マジでこの人どっちの味方なんだよ。

 

「別にいいって。気にするな」

 

 一夏の言葉に俺はそう返した。ちなみに一夏が母さんを縛り上げた理由は「露天風呂に行くのを邪魔されるって思った」と何かの犯罪をした犯人のような供述をしていた。

 俺は表向きには母さんが付いてきたのはまだ中学生な俺達二人だけだと心配だからという理由を一夏に話しておいた。そう、一夏にはバレないように母さんと結託していたんだ。それなのに、どうして一夏は母さんが自分の邪魔をするって気付いたのか。俺は気になったので、一夏が謝罪を終えた後に何故気付いたのか尋ねたんだが……「女の勘」って言ってたわ。女の子の勘って凄いんだなとあまり気にしないようにした。気にしたら負けだ。

 

「でも……」

「俺が良いって言ってるんだから気にするなって」

 

 俺はそう言い切ると一夏の口を自分の口で塞ぐ。母さんもまだ寝ているし問題ないだろ。唇と唇をくっ付け終えたので俺は一夏から唇を放した。

 

「……まだ歯を磨いてないのに」

「俺は気にしないぞ」

「うぅ……! 嬉しいけど嬉しくない!」

 

 いきなりキスされたことに一夏はそんな感想を漏らしていた。昨晩のことは気にしないとは言ったが、それでもかなり理性を壊しかねないヤバいことをしでかしてくれたことは事実。これくらいの意趣返しは許されるだろ。いや、許されるべき。下手したらあのまま一夏と湯船でにゃんにゃんしてたかもしれないんだからさ。

 そんな風に昨晩のことを振り返っていると母さんも起きてきたので、母さんと一夏を洗面台へと向かわせて先に歯磨きとかをするように促した。俺は別に後で良いから大丈夫だ。

 

「和行」

「ん? なんだ?」

 

 二人が歯磨き等を終えるのをスマホを弄りながら待っていると、一夏が俺の下へとやってきて自分達の身支度は終えたので洗顔とかをしてきてと言ってきた。一夏の言葉を聞いた俺は一夏達と同じように予め持ってきておいた洗顔剤と保湿クリーム、髭剃り用のジェルと安全剃刀や化粧水を手に洗面台へと向かって行く。

 

「髭剃るの面倒だなぁ……」

 

 歯磨きと洗顔を終え、ジェルを顎やらに塗って安全剃刀で髭を剃っていた俺は思わずそう呟いてしまう。この頃になって、髭が生えるのが速くなってきているので本当に困る。去年はそうでもなかったんだけどなあ。一夏と並んで歩く事が多い以上ある程度は身なりを整えておきたいし、俺に髭は似合わないので本当に髭剃りをやめる事はないけどさ。

 面倒と感じながらも髭を剃り終えた俺は化粧水や保湿クリームを顔に塗って部屋に戻ると、そこには既に朝食が並べられていた。恐らく俺が色々とやっている間に仲居さんが運び終えたのだろう。洗面所へと持っていった物達を片づけ、三人揃って食事に手を付けた。

 

「和行ー」

「なに?」

「一夏ちゃんとお散歩でもしてきたら?」

「散歩?」

 

 朝食を食べ終えて二時間ほど経った頃。一夏とお喋りしながらゆったりとした時間を過ごしていた俺に母さんがそんな提案をしてきた。うーん、散歩かあ。昨日はあまり周囲を見て回る余裕はなかったし、それもいいかなあ。

 

「一夏はどう?」

「うん、いいよ。私も和行とお散歩したいって思ってたし」

 

 一夏の了承も取れたので、運動がてら旅館の回りを見て回ることにした。散歩ついでにお土産でも買おうと考えた俺は財布を持ち、母さんを残して部屋から一夏と一緒に廊下へと出た。玄関で自分の靴を履き、旅館の玄関から外へと外出したタイミングで俺は自分の左手を一夏の右手に絡めた。

 特に嫌がる素振りも見せず、むしろ嬉々とした表情で手を絡め返してくれた。一夏といつも通りに恋人繋ぎをしながら旅館を周囲を見て回る為に俺達は歩を進めていく。昨日ここに辿り着いた時はあまり気にしてはいなかったが、木造の建物が多いみたいだ。うちの家の木造だし、一夏の家も一応は木造なので別に珍しいとかそういう事を考えたりはしないが、木で作られた建物が密集している光景はうちの近くでは見られる物ではない。

 

「あ、あそこにお土産屋さんがあるよ」

 

 一夏が空いている方の手で指差す方向にお土産屋があるのが見えた。旅館内に設置されているお土産屋とは別のお土産屋があるのか。まあ当然か。ここって旅行客とか多いらしいからな。

 

「見てみる?」

「そうだな。行ってみるか」

 

 俺は一夏の提案に乗り、一夏が指差していたお土産やに足を運ぶ。店内に入ると様々な品物が目に飛び込んできた。うーん、一応旅館内でも買うつもりだけどここでも買っておくか。

 

「一夏、離れるなよ」

 

 俺は隣の一夏にそう告げると並べられているお土産たちに視線を向けていく。それでだ、お土産はなに買っていけばいいんだろうか? 無難に饅頭とかの食い物系か? 弾とか数馬に渡したり、学校でクラスメイトに配るだけなら饅頭とかで十分だろ。弾と数馬に関してはお土産の種類なんて指定してこなかったからな。何かの置物とか買って行ってもあいつらが顔を引きつらせるだけだろうし。

 

「こういうのって私に似合うかな……」

 

 一夏はそう呟くと並べられている和風の髪飾りを眺めはじめた。うーん、髪飾りかぁ。これ、一夏に似合うだろうな。自慢の黒髪に髪飾りを付けている一夏は絶対に綺麗だろうから是非見てみたい。やっぱりね、一夏は最高の女だと思うんだよ。ああ、もう駄目。髪飾りでより一層美麗さを増した一夏の髪をくんかくんかしてみたいとか考えてしまってる。よくよく考えたら俺って一夏の髪を触りはするけど、匂いを嗅いだりとかしたことなかったしやっぱり嗅ぎたい。

 ……って、何を考えてるんだ俺は。昨日のアレがまだ抜けきってないんじゃないかこれ。ああ、やっぱり駄目かもしれん。昨日の一夏お風呂乱入事件の所為で俺の中の何かがおかしくなっている気がする。こう一夏への欲望のブレーキが壊れかけているというか何というか。いや、これは今考えるべきことじゃないな、うん。

 

「一夏、それ気になるのか?」

「えっ? うん、少しね」

「買っていくか?」

「ううん、いいよ。それよりも買っていくお土産見ないと」

 

 そう言い残すと一夏は饅頭やら煎餅等の食べ物が並んでいる列へと向かって行ってしまった。なんで遠慮するんだよあいつ。旅行の思い出として買うのくらい別にいいと思うんだがなあ。仕方ない、他のお土産の会計が終わった後にでも買っておくか。

 一夏の後を追う為に足を動かしながら俺はそう心に決めた。逸る気持ちを抑え、一夏の近くにより弾や数馬に買っていくお土産を選ぶことにした。一夏との意見交換の結果、買っていく物は割とすぐに決まった。

 

「やはり饅頭か」

「あの二人が煎餅食べる姿とか思いつかないもん」

「だよなあ……」

 

 かと言って、あの二人が自ら饅頭を食う姿もあまり想像できないんだけどな。まあ、品物の指定とかしてこなかったのはあっちの方だし、饅頭を買って行っても文句は言わないとは思うが。

 そんな風に考えながら饅頭を籠に入れ、他にも色々とお土産を入れていった。殆どが食い物になってしまったけど、他に何も買う物がなかったから仕方ない。流石に置物とか要らないしさ。

 

「あ、ごめん。俺、買い忘れた物があるからここで待ってて」

「う、うん。わかった」

 

 籠に入れたお土産を会計し終えた俺は、一夏に購入したお土産と一緒に店の外で少し待つように伝え再び店内へと入っていく。俺の発言に首を傾げていた一夏が可愛すぎたが、それは今横に置いておくとしよう。目的はあの髪飾りを買う事なんだし、余計なことに思考を割いている場合ではない。足を動かし、一夏が先程見ていた髪飾りを手に取った俺は再びレジで会計を済ませると、一夏の下へ戻った。

 

「あ、和行。何を買ってきたの?」

 

 俺が戻ってきたことに気付いた一夏が俺へと近づいてきた。うん、やっぱり一夏は可愛い。この髪飾りも絶対に似合う。

 

「これだよ」

「えっ、これって……」

 

 俺は体の後ろに隠していた髪飾りが入った紙袋を一夏の視界に収まるように差し出した。一夏が何気なくそれを受け取り、中身を確認した途端きょとんとした表情を浮かべ、俺の方へと視線を投げかけてくる。

 

「……これ、本当に良いの?」

「良いんだよ。一夏の為に買ったんだから」

 

 一夏はおずおずと俺から和風の髪飾りが入った袋を自分の胸元へと持っていく。その所為で一夏の豊な双丘が僅かに揺れてた。他の人間なら見落とすかもしれないが、俺の目だけはばっちりと一夏の胸の揺れを察知して脳内フォルダに記録をしていた。

 ……やばい、昨日のアレを思い出したわ。一夏のおっぱい、本当に凄かったなあ……。って、いやいや。何考えてんだ俺。一夏の表情からしてこれからお礼を言うつもりだろうに、俺がこんなエロいことを考えてたら駄目だろ。一夏に悟られないようにしないと。

 

「ありがとね和行」

「ああ」

 

 平静を装いつつ、一夏のお礼にそう答えた。しっかし、今の一夏と昨夜の一夏が本当に雰囲気が違うな。昨日の一夏は完全に俺の事を狙う捕食者みたいだったのに、今の一夏はえっちな事に耐性が無さそうな清楚系美少女ムーブしまくっている。

 女の子の態度の変わり方って怖いなと考えつつ、一夏と一緒に旅館の周囲を続いてみて回っていると俺達の視線の先に一組の親子連れが歩いていた。ちらりと見えた両親と歩いている子供の表情はとても嬉しそうだった。こんな温泉なんかに来たら子供なら退屈だとか言い出しそうなものだが、そんな気配は一切なかった。両親も楽しそうに子供の事を見ている。親と居られるのが楽しいのか、子供だけど温泉が好きのどちらかだろうか。

 

「……」

「一夏?」

「っ! な、なに?」

 

 隣に居る一夏が足を止め、羨ましそうな眼をしながら親子連れを見ていた。同じように足を止めて彼女に声を掛けると、一夏はビックリしたとでも言わんばかりにこちらを見つめてくる。

 

「どうかしたのか?」

「将来、ああいう風に子供が笑えるような家庭が築けたらいいなって思って」

「一夏……」

「不安、なんだよね……。私、親がどういうものなのか直接知ってる訳じゃないし」

 

 なんだ、そんなことか。確かに一夏には親がどういうものなのか分からない部分があるだろうさ。だが、それがどうした。

 

「築けるさ」

「えっ?」

「お前なら築けるさ。もう少し自信持て」

 

 俺が率直に思った事を一夏にぶつけると、当の一夏はぽかんとした表情を浮かべる。一転して俺の方へと悪戯心が混ざっている笑顔を向けてきた。……あれ? なんで俺、一夏にこんな顔向けられてるの? やめて、その顔で俺の心を刺激してくるのやめて。

 

「和行が私に自信持てって言うなんて、珍しいこともあるんだね」

「……うっせ」

 

 ……ったく、調子が狂う。そんなに俺がお前に自信を持てって言ったのが珍しいかよ。まあ確かに俺はあまり他人にそういうこと言わないからな。むしろ一夏に自信を持てとか言われる方だったし。

 

「あ、拗ねた」

「拗ねてない」

「どう見ても拗ねてるじゃん」

「拗ねてない!」

 

 そんなやり取りをしながら、俺達は再びその場から歩き出した。のだが、その間も俺は一夏が先程口にした言葉を脳内で反芻していた。子供が笑える家庭、か。一夏に言った通り、一夏なら問題なく築けるだろう。一夏は一人じゃない。俺も居るんだ。二人でなら絶対に出来るって、俺は信じている。


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