月の聖杯、ムーンセル・オートマトンを得るために繰り広げられるその殺し合いに、今日もまた一人のマスターが参戦する。
予選を乗り越える試練において死の淵にあったその時、彼の下へと降り立ったサーヴァントは……11000011001011 11000011110011 11000010111000 11000011100011だった!!
――ガシャン
積み木を崩すような音がした。
あっけなく、頼りなく。
その音の源が、今の自分を守る唯一の手段であるドールの砕ける音だというのだからいっそ笑えてくる。
月海原学園。繰り返される毎日。壊れたレコードのように同じ反応しかしない生徒と、明らかにそうではないとわかる生徒の入り乱れる学園生活。
頭の中に鳴り響く違和感。扉のない壁に入っていくレオ。あとに続いた先で見つけたドールと、その先でたどり着いた、ステンドグラスが照らす異空間。
ガクリ、と膝から力が抜ける。仰向けに倒れ込み、見上げた先に天井はなく、星すらなく、ただただ闇だけが深い。
……? いや、そうではない。深い深い闇の底に何かが見える。あれは……四角、イヤ立方体だ。闇の中にあってなお形を知れ渡らせる金色の……。
気付いたナニカに集中したことで、少しだけ意識が体に戻って来た。
信じられないほど重い首をわずかに動かし周囲を見る。
そこには自分とよく似た姿と、ドールによく似た何かが転がっている。
調べるまでもない。あれはもともと自分たちと同じだったものだ。
月海原学園の生徒であり、この場を見つけ、ここまでたどり着き、倒れたものだ。
ならば自分の末もあれらと同じか。
――ガシャ、ガシャ
近づいてくる耳障りな騒音はドールの足音。あのドールに自分のドールは壊された。さほど上等な知能があるとは思えない。ドールと自分の区別などロクについていないなら、次に狙われるのは自分だろう。
――いやだ。そんな風には終われない。
指を曲げる。拳を握る。
そうだ、こんなところで終わってたまるか。
芽生えた意思は、きっと炎。
そうだ、そうあれ。魂を糧に燃え上がれ。
絶対に、生きてやる。絶対に、負けるもんか……!
――よろしい。君は資格を得た
そんな声が聞こえた気がした。
気のせいだったかもしれない。
この空間を囲む3枚のステンドグラスのうち2枚が崩れ落ちる嵐のような音に紛れていたから。
――ギギッ
ドールの足が止まった。止めざるを得なかった。
自分とドールの間に立ちはだかる者が現れたからだ。
背は高い。筋骨は逞しい。
赤い外套を身に纏うその背中は、きっと自分を守ってくれるのだろうと信じさせる<守護者>の色に見え……。
「――ドーモ」
いやちょっと待て、違う。
あれ赤じゃない。赤黒だ。
外套じゃねえ。同色のマフラーめいたボロ布だ。
「ニンジャスレイヤーです」
その日。
どういう理屈でか契約してくれたサーヴァントは、決断的なアイサツをキメ、ジュー・ジツを構えた。
『イヤーッ!』
「イヤーッ!」
『グワーッ!』
大きく振りかぶったドールの拳の一撃を、サーヴァントの素早いスリケン投擲が後の先を取って突き刺さる。雑なカラテはゴジュッポ・ヒャッポなのだ。
「イヤーッ!」
『グワーッ!?』
ならばとガードを固めたドールに、サーヴァントは腰を落として拳を突きこむ。あれは……ポン・パンチだ! 哀れドールは枯れ葉めいて吹き飛ぶ!
『イヤーッ!』
「イヤーッ!」
『グワーッ!?』
ドールの蹴りも、もはやサーヴァントには通じない。両手のブレーサーでコンパクトに弾き、がら空きになった胴体にヤリめいたサイドキックが突き刺さり、胴体をくの字にへし折った。
「イィィ……イヤーッ!」
『アバーッ!?』
おお、なんたること。あれは伝説のカラテ技、サマーソルトキック!
顎を蹴り砕かれたドールの頭部はそのまま爆発四散! ニンジャの……勝利である!
◇◆◇
これは、月の聖杯戦争の物語。
地球の全てを記録せんとするムーンセル・オートマトンによって作られた電子虚構世界を舞台に、マスターがそれぞれ召喚したサーヴァントを戦い合わせる熾天の檻へと昇る階梯。
……のはずなのだが、自分のサーヴァントとしてニンジャが召喚されたら、どんな顔をすればいいのかなあ!
◇◆◇
「えーと、つまりマスターがいて、サーヴァントがいて、128組がトーナメント形式で戦う、と……」
「その通り。
なんやかんやの末、目覚めた保健室で聞かされた顛末は大体そんな感じだった。
キンカクテンプルってなんだ。この説明、間違ってはいないけど合ってもいない気がする……!
その後、あの日出会ったサーヴァントと共に聖杯戦争を駆け抜けた。
七日の猶予期間を置いて繰り広げられる128人のマスターのトーナメント。
相手の情報を探り、アンブッシュを警戒し、勝利の方程式を積み上げる。
「ドーモ、慎二=サン。ニンジャスレイヤーです」
「アイエエエエエ!? ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」
1回戦の相手、慎二はなんかニンジャスレイヤー=サンが挨拶しただけで錯乱した。
気持ちはわかる。
「スゥーッ! ハァーッ!」
「ちょっとー!? なんかあの旦那毒が効いてないんですけどぉー!?」
アーチャーの英霊、ロビンフッドが仕込んだ毒をなんか呼吸で解毒したり。
「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。アリスニンジャです」
「いや、なんでニンジャが戦車に乗ってるの?」
どう見ても小学生くらいの女の子が戦車に乗って出てきたり。
一応、あれでもキャスターのサーヴァントなのだとか。
彼女が戦車で駆使するニンジャ戦法は強敵だった……。
「狂人の真似をすれば実際狂人。……だが、その狂人が当人なりの信念に沿って行動しているならば……?」
「ヌゥーッ!? ゼンモンドー!」
割と真剣に何喋ってるかわからない坊主(?)を相手にゼンモンドーを挑んで怯ませたり。
「ニンジャ、大袈裟な伝説も今日で終わりだ。進化の現実ってやつを教えてやる」
「ええ、やっちゃいなさいアーチャー!」
なんだかんだと交流があった遠坂凛と戦うことにもなったり。
ちなみに凛はハーウェイによるムーンセル・オートマトン隔離のための宇宙進出封じに抵抗するレジスタンス的な活動をしてるらしい。
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」
基本素手で戦うアサシンとミニマル木人拳めいたカラテの応酬を繰り広げたり。
「確かに、ハーウェイは世界を支配しているという見方もできるかもしれません。ですがそれこそが人類未来のために……」
「暗黒メガコーポのカチグミか……。その権力を邪悪に振るうというのならば……!」
「レオ!? 下がってください! ニンジャといえば古代ローマ時代から世界の裏に蔓延るモノ……強敵です!」
ニンジャ以外にもいろいろと戦うものが多そうだったり、うちのサーヴァントも大変だなあ。
◇◆◇
そんなこんなで数多の苦難を乗り越えて、ついに全てのマスターを下し、ニンジャを従えるかのマスターがムーンセル中枢にたどり着いた。
だがそこで待っていたのは、全てを叶える万能の願望機、そしてその願望機に己が願いを託すべく待ち続け、「門番」として立ちはだかってもいたトワイス・H・ピースマン。
マスターは、そしてニンジャスレイヤーは彼の願いを受け入れられない。
ならばきっと、戦うしかないのだろう。これまでと同じように、己のサーヴァントと共に、トワイスのサーヴァントと。
だが。
「そうか。ならばまた、永遠の先まででも次の機会を待つとしよう。私のサーヴァントで、君もまた終わらせる」
辺りにちらばる無数の柱。それが意味する、トワイスの積み重ねてきた勝利の数。
それを可能とした力は伊達や酔狂でなどありえない。
数多のサーヴァントを、それも聖杯戦争を勝ち抜いてきた強力なサーヴァントとマスターを返り討ちにしてきた存在で。
「――ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン」
おお、ゴウランガ……ゴウランガ!
そして……ナムアミダブツ!
「――ブッダです」
敵は……ブッダである!!!!!!
これは、聖杯戦争の物語。
月の聖杯、ムーンセル・オートマトンが作り出した電脳コトダマ空間で繰り広げられる、ウィザードたちの殺し合い。
その果ての物語を目撃するのは、人の目か、あるいは……ニンジャの目か。
その答えを得るために。
走れ、ニンジャスレイヤー! 走れ!
キャラクターマテリアル
ムーンセル・オートマトン
月の内部に存在する、光によって構築された量子コンピュータ。
地球外文明によって作り出されたそれの役目は人類、ひいては地球の全てを記録すること。
やめればいいのにあり得た可能性の観測にまで手を出した結果、うっかりニンジャ真実と接続してしまい、ニンジャソウルのバックアップたるキンカク・テンプルとしての機能を無理矢理押し付けられることとなる。相手はニンジャだからね。仕方ないね。
結果、小さいキューブが結合したような形から黄金立方体へと変化。電子虚構世界セラフはなんか電脳コトダマ空間となり、霊子ハッカーはムーンセルへのアクセスのために生体LAN端子で直結する必要があるという無茶振り状態になる。
そのせいか、セラフ内ではたまに凄腕の豊満コーカソイドキツネ巫女が目撃されるとかされないとか。