恒例の何を伝えたいのか分からない回かもしれません
将棋とか、本気でやるのはいつ以来だろうか。
確か、あっちの世界で雪ノ下と一戦さしたのが最後だ。
最初は初心者だった雪ノ下がだんだんムキになったんだっけか。
そんで一週間ひたすら部室で将棋してた記憶がある。何部だよそれ。
流石に歴があったから勝負になったが、あのまま続けてたら一ヵ月もしないうちに超えられてただろうな。
俺の棋力は、どこにでもいる普通の高校生レベルだ。神には勝てない。
まぁ、この勝負に勝敗は関係ないんだけどな。
「で、続きはまだか?」
「せっかちだね」
「十分に待った方だろ」
試合は既に中盤だ。
お互いに攻める気はなく、けん制と様子見が続いている。
「それもそうだね。じゃあ、どこから話そうか」
「さっきの続きからじゃないのかよ」
「さっきのは続かないよ。前語りというか、あらすじみたいなものだからね」
「なら最初から頼む」
「妥当なところかな、うん」
そういうと、テトはわざとらしく咳ばらいをして喉を整える。
「では、今度こそしっかりと語るとしよう。寂しがり屋の魔女の物語を——」
—テト side—
むかしむかし、なんて語り出しだけれど、実際のところこの物語がいつの時代のものかは定かじゃない。
ただ少なくとも、これは今よりも過去の物語だ。
そして、今は無き物語だ。
まずは彼女の紹介から始めようかな。
この物語の主人公、魔女のことさ。
彼女は、とても恐ろしい魔女だ。
有り余る力と知性を持ちながら、何のためらいもなく他の命を奪える。
空を舞う姿は天使の如く美しく。
命を狩る姿は悪魔の如く禍々しい。
だから誰もが彼女を恐れた。
あいつにだけは関わるな、とね。
けれど彼女も全能じゃない、全知でもない。神ではない。
強大な力も、膨大な知識も、永遠の命でさえ——彼女にとっては取るに足らないものだった。
そう、彼女は退屈だったのだ。
いつしか、彼女の見る世界はとても殺風景なものになっていた。
色も音も匂いも気にならない、気に入らない、何もない世界だった。
魔女は暇を持て余していた。
だから、彼を迎え入れる気になったのかもしれない。
ある日のことだ。
彼女の館に、一人の男が来た。さっきも言った、道化師が来たんだ。
何のためらいもなく扉を開け、魔女に皮肉交じりの感想を言う道化。
魔女にとって、こんなに面白いことはなかった。
道化師を受け入れた魔女の館で、二人は共に暮らすようになった。
それからは、他人から見れば取るに足らない——魔女にとって退屈しない日々が続いた。
道化師は、まるで退屈していた魔女を笑わせるためにそこにいるようだった。
本当の理由は分からないけれど、道化師はどうやら魔女を知らなかったらしい。
魔女は問う。
「あなたは、一体何者?」
「ただの道化師ですよ」
「名前は?」
「必要ないでしょう」
そう言って、また道化師は道化を演じる。
彼は名乗らない。
きっと、名をおぼえられたらこの関係が終わってしまうことを知っていたのだ。
だが、魔女は気になった。
一度でもいい。彼の素顔が見たいと思うようになっていった。
しばらく続いた質問責めに観念したのか。
道化師はある提案をする。
「なら、こうしましょう。僕の夢が叶った時、僕はこの仮面を取り、名を教えます」
「あなたの夢?」
「ですから魔女様は、僕の夢に協力してください」
「いいわ。それで、あなたの夢って?」
「それは言えません」
「どうして。それを聞かないと、何をすればいいか分からないじゃない」
「教えてしまったら、僕の夢は叶いませんから」
なんとも言いくるめられた気分だった。
しかし魔女は、そんな屁理屈のような約束を存外あっさりと受け入れた。
これでまた、退屈しない日々が続くことになる。
しばらく経った頃だ。
魔女は新たな出会いをする。
彼との出会いが、二人の約束を大きく動かすきっかけとなったのは言うまでもない。
魔女は、彼を師と呼んだ。
師は聡明で、けれど型にはまらない魔女をも超える逸材だった。
魔女は師を尊敬し、敬愛し、妄信した。
師は言う。
「お前の力と知識は、これから大いに役立つ」
残酷だとは思わなかった。
むしろ、必要とされ求められることが何よりもうれしかった。
師の存在が、魔女の世界に潤いを与えた。
鮮やかな色が、心地よい音が、香しい匂いが、魔女の世界の全てになる。
だが同時に、得体のしれない喪失感を心のどこかに感じていた。
師と出会って笑うことの増えた魔女。
彼との生活は確かに魔女にとって充実したものだった。
けれど、では違和感と呼ぶべき感覚は何なのだろうか。
魔女には、分からない。
ふと思う。
そう言えば、自分はまだ名前を聞いていない——と。
結局、あの名も知らぬ道化師との約束はどうなったのか。
魔女は館に戻ると、彼を呼んだ。
いつもと変わらぬ道化師は、いつも通りの冗談を言う。
「あなたの夢は、叶ったの?」
「その答えは、魔女様にこう聞かないと答えられません」
「何?」
「あなたの望みは叶いましたか?」
道化師は問う。
表情の変わらぬ仮面のまま、いつもより少し低い声で。
魔女は考える。
一体、望みとはなんのことだろうと。
「もしも、はいと答えたら?」
「僕は仮面を取り、名乗りますよ」
「なら、はいと言うわ」
「嘘じゃダメですよ」
「嘘じゃないわ。私はもう、退屈していないもの」
そう、それが彼女の願いだったはず。
魔女は自らの望みを仮定した。
なぜ自分がこの道化師を迎え入れ、なぜこんな約束をし、そして師を慕ったのか。
この世界が退屈だったから。
今はもう、そんなことは感じない。ならばきっと、望みは叶ったのだ。
魔女の言葉に、道化師は頷く。
「そうですか。よかった。なら——もうこれは必要ありませんね」
道化師は仮面を取り、素顔を見せる。
そして、短く本名を名乗った。
魔女は彼の声から、言葉から、表情から悟った。
——ああ、自分はまちがえたのだ、と。
魔女は退屈だったから道化師を受け入れた。
だが、今はもう退屈ではない。
もう自分に、彼を受け入れる理由はない。
知って、ようやく理解する。
自分と彼の間にあった関係は、たった一つの小さな約束だけだったことを。
魔女は、あの充実の中にあった喪失感の正体を感じ取った。
失ったのは、失うことになると分かっていたのは、道化師との別れ。
魔女にとって、道化師はただの暇つぶしだった。
そのはずだった。
やがて、魔女は自分自身を理解できなくなる。
魔女は師を敬愛している。
師のおかげで、今自分は存在する理由を得たのだ。
では、今魔女は道化師のことをどう思っているのか。
それだけが、分からなかった。
—テト side out—
「……終わりかよ」
「この先はボクに勝ってからだよ」
またお預けか。俺が飼い犬だったらちゃぶ台返ししてる。犬にちゃぶ台で餌をやるやつ見たことないけど。
テトは語りながらも、ゲームを止めない。
あわよくば、なんて思考を見透かしたように一手を打ってくる。
普通に強くて嫌いだわー。
「ところで、その話どこまで本当だ?」
「ひどいな。ボクが嘘つきに見えるのかい」
「平気で人を欺きそうだろどう見ても」
「君、存外失礼だよね」
「お前には負ける」
「ボクは偉いんだけど」
「自分で言うなよ。お前はまぐれで80点とった中学生か」
俺頭いいから~とか言ってるやつは大体頭悪い。ソースは俺の中学時代。頭いいなら俺より高得点取ってから言えよ。その理論だと俺超頭いいじゃん。
ちなみに俺がそいつの点数を知ってるのは、そいつが自慢げに周りで言いまくってたから。
だから俺の点数は知られてないんだよな~。ほんと俺のプライバシー管理、国家機密並。こりゃいつ国から依頼が来ても守れるぜ。絶対に働かないけど。
じゃあさ、とテトは摘まんだ歩兵をくるりと裏返して言う。
「この後、道化師はどうすると思う?」
「なんだそれ。アバウト過ぎて答えらんねぇ」
「じゃあもっと具体的に聞こうか。君だったら、どうする?」
何も変わってねぇし、意味のない仮定が増えたぞ。
俺だったらどうするなんて仮定に意味はない。過去のことは、どう足掻いても変わらないのだから。
「さあな。つか、そのピエロは結局何がしたかったんだ?」
「道化師って言うくらいだし、きっと魔女を笑わせたかったんじゃないかな」
「……だとしたら、名乗るわけないだろ」
「そうかい?だって約束したんだよ」
「いくらでも誤魔化せただろそんなの」
「なら、なんでそうしなかったんだろうね」
知るか。
……知らないが、分からなくもない。
多分、ピエロは自分がもう要らないと思ったんだろう。
テトの言うように、道化師が魔女を笑わせたくて傍にいたなら、もうその必要はなくなる。
魔女には、師がいるからな。
「魔女は、師がいるから分からないのか」
「分からないって?」
「道化師をどう思ってるか分からないって言ってただろ」
「ああ、そういうことね。でもさ、師がいなかったら魔女は道化師くんをどう思っているか気が付けたのかな」
「無理だろ」
「断言するんだ」
「師がいなかったら、そもそも魔女は満たされてない。道化師じゃ魔女を笑わせられても、理由になってやれない」
魔女が満たされたのは、存在する理由を貰ったからだ。
魔女にとって、師と道化師のどちらが大切なのかはそれだけでわかる。
……ああ、そういうことか。
「魔女が悩まないように、道化師はいなくなる」
「…………」
「魔女が道化師をどう思ってるかは分からない。ただ、そのことで魔女は悩むかもしれない。なら」
「その悩みの原因を取り除けばいい、ってところかな」
「ま、可能性の話になるけどな」
道化師が名乗った後にするとしたらそれくらいだろう。
まぁ、道化師が魔女のために傍にいるってのが前提だけどな。
つかなんでそんなこと考えてんだよ。まんまとテトの口車に踊らされてるってことか。
いや、別にあの意味のない仮定の答えを探してるわけじゃない。
テトの語った話から登場人物の心情を読み取った。それだけだ。
……なら、なんで俺は道化師の考えを読み取ろうとしたのか。
このゲーマーに誘導されたということもあるだろう。
けれど、俺は最初からこの物語の主人公ではなく道化師に注目している気がする。
悪い癖が直ってないな。
いつも言葉の裏を読もうとしている。
だからきっと、この物語の主役すらも捻くれて捉えてしまったのだ。
俺が道化師に感情移入しているのも、きっとそのせいだ。
ご愛読ありがとうございます。
テトがなぜこんな話をしたかは次回明らかに。
SSなのに複雑な話を書くのが楽しいですけど大変ですね笑
結構色々考えて作っているので、コメントなどで考察など見つけるとうれしくなります
ただ、自分が考えてるシナリオより面白そうな感想もあるんですよね…
感想や高評価貰えるとスーパーハイテンションになります
その結果更新が早まる、かもしれません
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