ノーゲーム・俺ガイル   作:江波界司

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久しぶり過ぎて忘れられてそう。
そろそろ私の青春にも決着をつけねばならないかもしれない。
学生時代にノリと勢いとパスタでこの作品を書き始めた私。
今では社会の一歯車になってしまった。
働きたくなってなかったのに……。


そして彼ら彼女らの戦いは始まる

 ― テト side ―

 

 さて、どうしたものかな。

「どーしたんだ、です?はやく二人探さねーのか、です」

「いや、まずはフロアの確認だね」

「なんでそんなことするん、です?」

「ここはボク達にとってアウェーだからね。あちら側がどんな風に逃げるかを想定しないと勝てない」

「ん、がってん、です」

 エリアは全3階。

 八の字に繋がった通路の四隅に螺旋階段。

 二階の中央に対面する二部屋には、それぞれ宝の置き部屋と牢屋がある。

 このゲームは二人が逃げ切らなければならない。

 なら、宝を取りに来た一人は、実質的に2対1にならざるを得ない。

 一番の難所はそこかな。

 どんな裏技、荒業で逃げる気なのか、わくわくする。

 残り一時間になるギリギリまで、ボク達はこの建物の構造把握に努めた。

 そして、時間だ。

 ……そう、時間なのだ。

 けれど誰も来ない。

 宝の置き部屋の前に来る者はいない。

 ……まさか。

 扉を開け、ボクは目にする。

 とっくに宝を手にしていた彼を──。

 

 

 

 

 

 ―テト side out ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっす、おら八幡」

「まさか、ここまで堂々と、正面から来るとはね」

「まぁな」

 驚きを隠さないいづなとは対称的に、テノ(・・)は笑う。

「いづな。ここはボク一人で大丈夫そうだ。ジブリールを追ってくれるかな?」

「ん、がってん、です」

 すぐに廊下を走り出すいづな。

 まさか、いきなりこうなるとは思ってなかった。

 いや、あるいは当然の流れか。

 こいつが俺の思った通りのゲーマーなら。

「んじゃ、早いとこ捕まえてくれ」

「潔いが過ぎて、気味が悪いな」

「笑顔で言うなっての。これで俺は囚人になったな」

 宝があった台の前から移動し、そのまま向かいの部屋に入る。

 設定上の牢獄。

 ここからは許可無しに出ることはできない。

「じゃあ、そこに座ってくれるかな?」

 テノが指定した場所には机も椅子もない。

 部屋のど真ん中で胡座になる。

「そこに、ねぇ。なんか意図でもあるのか?」

「さぁね。それより、事情聴取の時間だ」

「ジブリールを追わなくていいのか?お巡りさん」

「それが狙いなら、期待外れもいいところだね」

 やはり、読まれている。

 流石というか案の定というか、こいつはやっぱり強い。

 このゲーム。

 2対2である以上、本来は1人が捕まった段階で圧倒的にドロボーは不利だ。

 救出が勝利条件な上に、そもそも2対1で限られたこのフィールド内で逃げなければならない。

 その固定観念を捨てる必要があった。

「ケイドロというか、鬼ごっこ系全般を指すんだが、足の速さが全てだと思うか?」

「い〜や、全く。優位を決める一要素ではあるけど、全てじゃない。むしろ──」

「思考と読み合いこそ本質、か?」

「──やっぱり、君はおもしろい!」

 友達と鬼ごっこしようと言われたら、まぁいないから間違いなく言われないんだけど。

 人と人との勝負なら、足の速さは優劣のかなり大きなウェイトを占める。

 だが、例えば猛獣とならばどうだろうか。

 ほぼ間違いなく、人は頭を使って逃げる術を編み出すだろう。

 では、更なる難問だ。

 相手が人並みかそれ以上の知能を持った猛獣(バケモノ)ならどうか。

 もはや足の速さなど考える時間すら無駄だ。

 いかに効率よく、いかに緻密に、知略策謀を巡らせられるかが鍵になる。

 このケイドロもその例外ではない。

 知らない奴のために言っておこう。

 ケイドロはアクションゲーム(スポーツ)ではない、戦略ゲーム(ストラテジー)だ。

「つまり君なら、ボクがジブリールを追わない理由が分かるかな?」

「俺をフリーにするデメリットがあるからだろ」

「正解さ。でもね、君が一人になった段階でボク達は勝ちなんだよ」

「だが、そうは問屋が卸さない」

「そうだね。何せ、転移による移動(・・・・・・・)は禁止だから」

「逆に言えば、移動以外はOKってことだ」

 癖になってんだ。言葉の裏かいて話すの。

 ただの痛いやつになってしまった。

 本家の十分痛いやつだからノーカン。

 ジブリールの使う空間転移にはいくつか条件がある。

 それは一度行ったことがあるか、視界に入っている場所にしか繋げられないこと。

 まぁ有って無いような条件ではあるが。

 今回で言えば、前者の条件こそ重要になる。

「座標による転移での空間接続が可能なら、彼女はある地点ならどこにでも手を伸ばせるということになる」

「つまり、いくら捕まえても打ち合わせした場所に俺がいれば簡単に脱獄可能ってわけだ」

「ならば二人で見張ればいい──と思ってもうまくいかないんだよね」

「そりゃ、この部屋に入るまでに逃げられちゃどうしようもないからな」

「とすれば、ボクたちも切り札を使う必要があるね」

お前(・・)の『血壊』だろ?」

「気付いてたんだね。いや、敢えてそうしたのかな?」

「お前なら言葉の裏をかくと思っただけだ」

「誰もボク(・・)が『血壊』を使うことを禁じてはいない」

「『血壊』自体を禁止したって解釈もできるが、ルールで厳密に決めてない以上反則じゃないな」

 いくら周りに被害の出ない範囲でとはいえ、物理学なにそれ?おいしいの?状態の相手から逃げるのはあまりにもキツい。

 それをされれば、空間接続してのリスポーンを無限にやっての耐久戦しかこちらに手はない。

 となれば今度は俺を捕まえる必要がある。

 だが、それも空間接続が防げなければ意味はない。

「その切り札があっても、お前はジブリールを追わない」

「当然、君を監視する担当だからね」

「けど、そこまでが俺の狙いだって考えなかったか?」

「もちろん。その上で、手は打ってあるよ」

 そう言うと、テノは手描きの地図を広げる。

 ここからは盤上の闘争。

 いや、逃走だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―ジブリール side―

 

 

 

「いつぞやのリベンジといきましょうか」

「次も負けねー、です」

「あの時とは状況が違うことをお忘れなく」

 速さではこちらに分がある。

 とはいえ、油断ならないとあの性格の悪い男はいいましたね。

 こちらに地の利がある以上、近付くことすらさせませんが。

 空を切り、螺旋階段を直線的にかけ登る。

 当然、あちらも手すりすら足場にして追う。

 ですが、届かない。

 単純な鬼ごっこでしたら、負けはないですね。

「よもや、それが限界でしょうか」

「うるせー、です!これからだぞ、です!」

 彼女は蛇行するように左右に動く。

 その風圧で、カーテンがめくれ上がった。

 隠れるため?

 否、カーテンの向こう側にはいない。

 ではどこへ?

「上、でしょう」

「なんで分かりやがる、です」

「視覚も聴覚も不要。それは既に、聞いていますから」

 撹乱による死角への移動。

 なるほど、思考を鈍らせるには十分な奇策。

 これもあの獣人種(ワービースト)が考えたものだと。

 よくもまぁここまで的確に読めるものです。

 あの男は。

 通路の構造上、先回りが考えられるこのフィールドでは相手を見失わないことも戦術的に必要。

 その思考を逆手に取ると、なぜ分かるのか。

 恐らくそれも、彼がそう考えるからでしょう。

「逃がさねー、です!」

「この短時間で地図を暗記されている様子。しかし、それだけで捕まる私ではありません」

「それだけじゃねー、です」

 そう言い残して、消える。

 階段を降りた?

 角を曲がった段階で彼女を見失った。

 私から遠ざかるメリットはないはず。

 ということは、何かしら仕掛けがあってのこと。

 1階は比較的広めのラウンジになっており、遮蔽物がない分逃げるには向かない。

 2階は牢屋があるため2対1の構図を作りかねない。

 そして3階。

 中央の道を挟むように配置された二つの大広間があるだけでもっともスタンダード。

 いえ、その大広間こそ仕掛けでしょう。

「誰も、通路だけが逃げ道とは言っていませんね」

「読んでやがんのか、です!?」

 扉から現れた彼女の手を躱す。

 大広間は各通路に出入口が設置してあるため、全てを開ければ8の字の円の中に十字を描いた構図になる。

 通路だけを逃げる相手には先回りになりますが、それすら──。

「想定の範囲内、ということでしょう」

「なんで分かりやがるだ、です」

「さぁ、私にも理解しかねます」

 ここまで奇策を思いつくあの思考は本当に理解に苦しむ。

 しかし、一つだけ分かります。

 あの一時間の間に言われた全ての情報が、既に始まっていた二人の頭脳戦だった。

 それだけのことなのでしょう。

 

 

 ―ジブリール side out―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「となると、いづながジブリールを捕まえるのは難しいかな」

「まぁ、それ踏まえてってことだろうがな」

 ジブリールといづなは、今頃上のフロアで鎬を削ってる頃だろう。

 互いが互いに貰った知恵と作戦と対策を武器にしながら。

 だが、その硬直こそテノの狙いでもある。

「さてと。そろそろ時間だけど、悪あがきは無しかい?」

「足掻くも何も、ここまでの話し合いで決着はついてる」

「へぇ。それじゃあ、答え合わせといこうか」

 壁にある時計の針が、間もなくゲーム終了の時刻を知らせる。

 話して一時間。

 経ってみると早いもんだ。

「そうだな。正解は──」

 

「「俺(ボク)の勝ちだよ」」

 

 秒針は無常に頂点を過ぎる。

 重なった矛盾の声は、やがて訪れた事実へと返還された。

「まさか、上書きしたとでも言うのかい?この部屋で」

「そりゃ驚くだろうな。わざわざ座標による転移を封じたってのに」

 テノがこの部屋に来て、俺の座る位置を指定した。

 それは座標による空間接続でタッチを上書きさせないためだ。

「ヒントを言うと、この部屋じゃない」

「ということは、宝のあった部屋か。でも、どうやってタイミングを合わせるのさ?死角でやったとしても、ボクがいつ君をタッチしたか彼女には分からない」

「こればっかりは、情報の不平等が出たな」

「おかしいなぁ。手札は全部見えたつもりだったけど」

「お前、ゲームにしか興味ないだろ」

 俺たちの戦いをどこからともなく覗き見していたのなら、俺たちのカードは全て見てきたのだろう。

 だが、ゲーム外の日常。

 それもよく分からん趣味で作った服のことまで見てはいない。

「このパーカー、通信機能付きなんだよ」

「……はは、なるほど。囚人になったって、言ってたねそういえば」

 宝のあった部屋なら、好きな場所にいられる。

 座標も完璧に合わせられるし、俺がヘマをしなければ転移がバレることもない。

 とはいえ、賭けではあった。

 そもそもいづなではなくテノがジブリールを追っていたら話は変わっていた。

 ジブリールが『血壊』つきのテノから逃げられる保証はないし。

 テノといづなの二人から逃げながら空間接続でのリスポーンを続けるとか、できたかも怪しい。

 俺がさっき話していた内容の半分は机上の空論だろう。

 はっきり言ってデマカセと誤魔化しのハッピーセットだ。

 どこまで正論か分かったもんじゃない。

 そう思うと、勝負に徹していればテノといづなが負けることはなかった。

 そうしなかったのは、やはりゲームだからだろうな。

 最大効率で倒すのはもちろん勝利の鉄則だ。

 だが、他の全可能性を見てみたくなるのがストラテジーゲームの魔力でもある。

 結局、挑発に乗ったテノの一人負けだな。

 つかやべーよ。

 俺神様倒しちゃったよ。

 これから神殺しって名乗れそう。

 それジブリールじゃん。

「いや〜まさかそう来るとはね。やっぱりボクが見込んだだけはあるよ。あの二人を超える日も近いんじゃないかな?」

「お褒めに預かり光栄至極ってか」

「これで心置きなくリベンジできるね」

「お前、まさかわざとかよ」

「いや?本気だよ。本気で負けた。だから是非ともリベンジさせてもらうよ。君と彼女のコンビにはね」

「セットにすんな。殺されるぞ。俺が」




読んで頂けたら嬉しいです。
長編にしてしまったからにはちゃんと終わらせたいな。
忙しい身ですが、ぼちぼち書いていこうと思います。

感想、誤字報告、お待ちしております。
特に感想貰えると嬉しかったりします。

番外編 エルキア王国奉仕部ラジオは必要ですか?

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