ノーゲーム・俺ガイル   作:江波界司

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前書きでふざけ始めてもうネタ切れ。
どうも。
江波界司です。
大筋のストーリーは原作とアニメ版のいいとこ取りで進めたいと思います。
早くジブリールを出したい…
ではでは、本編です。


熟練者― エキスパート ―

 早足で歩いていったクラミーは、俺たちの視界から完全に消えていた。

 空、白、ステフと俺は会場へと伸びる通路を、迷いなく進む。

「ソラ……なぜあの要求を断ったんですの?クラミーの言うことは、間違ってはいないと思ったのですが……」

 3歩分程後ろにいるステフは、彼に問う。何故かと。

 確かに、クラミーの提案はひとつの解決案だ。負けが混むなら、そもそも戦わなければいい。他国を侵略しない、他国からの侵略を許さない、他国との争いに関与しない。完全な中立と平和主義によって国を守る事も、理論上可能だ。何せ十の盟約によって暴力や略奪は禁止されている。ゲームさえしなければ失うものは何もなく、庇護下に入れば食料云々もどうにか出来る。最弱種族から見ればむしろ理想的な形だ。

「あのなぁ〜」

 声色ですぐにわかる。落胆という言葉が1番当てはまるその感情を隠さずに、空は振り向いてステフに言う。そろそろ人を疑うことを覚えろと。

「一つ、あいつの言葉が真実である証拠がどこにある」

 俺達は魔法を使えない。嘘発見器みたいな物もないため、そんなことは証明出来ない。むしろ、相手が魔法で騙してくる可能性の方が高い。

「二つ、なんで必勝の策があるのに降りろと言ってきた?」

 魔法に対して人類種(イマニティ)は無力。故に勝てない。その理論があっているなら、何故クラミーは辞退を求めるか。それは、今から行うゲームが『必勝』から『圧倒的有利』に変わったことを示している。

「三つ、仮にあいつの狙いが本当だとして、それをどこの間者かも分からない奴らに教えてしまうような無能にこの国は任せておけない。四つ、さらに話し合いでこっちの手札を探られたらお終いです。おーけー?」

 言わずもがな、そんな結論ありきで空はステフに問う。

「そ、そこまで考えての台詞だったのですねっ」

 なんで目キラキラさせてんだよ。元ネタ知らないとこういう反応になるのか。Oh……小町から、何言ってんのごみいちゃん、見たいな目で見られたのを思い出すな。

「ま、それだけじゃないけどな」

 ステフには聞こえなかっただろう。呟くように小さく、強い感情によって低く、空は口に出す。

「どいつもこいつも、人類舐めすぎ」

 魔法には勝てない。だから最弱種族。この世界ではそれが当たり前なのだろう。

 だが残念ながら、その常識は通用しない。異世界から来た、最強の人類(最弱)、この兄妹にはな。

 

 

 

 会場の扉を開けまず目に入ったのは、白と黒の巨大なコマ。成人男性よりも大きいそのコマは規則正しく並ぶ。そして、足元には白と黒の四角形が隙間なく詰められた定盤。つまりこれは

「「チェスか」」

 空と俺が呟き、それを見てボードを挟んだ向かいにいるクラミーは笑う。

「ええ、でも、ただのチェスじゃないわ。このチェスは、コマが意識を持ったチェス」

 つまり、生きた兵を使った擬似戦争ゲーム。

「なるほど、指揮官の指揮能力、カリスマ性、統率力に戦略戦術がものを言うゲームってことか」

「理解が早くて助かるわ。でも、あなたがやるわけではないでしょう?」

 そう、俺はやらない。やるのは

「なぁ?俺達は2人でやっていいか?」

 空はクラミーに問う。

 それを聞いて前に出ていた白は空に複雑な表情を向けていた。

「……にぃ、しろが……まけるって?」

 白はチェスの完全な必勝法を実践できるほどの天才。それでも勝てないと空は言うのか。いや違う。

「白、俺達は2人で1人、2人で『 』(さいきょう)だ。チェスで白が負けるなんて万に一つもない。でもこれはただのチェスじゃない。俺たち2人で勝つぞ」

「……にぃ……ごめん……先走った……」

 分かればいいとばかりに空は白の頭を撫でる。

「それでどうだ?」

 2人に代わってクラミーに確認をとると、ご自由にとのこと。

「白、兄ちゃんが相手の狙いと策を見つけるまで勝ち抜いてくれ」

 矛盾したようにも見える要求を、しかして白は了解と肯定する。

 そして今勝負が始まる。

「「「【盟約に誓って】」」」

 

 

 

 

 

 クラミーはこちらに先手を譲った。先手有利のゲームのチェスで、彼女は最低1度の相手のミスが勝利条件を後攻を選んだのだ。

 だがそれは油断でも、ましてや愚策でもないことを俺たちは知ることになった。

「前へ」というたったひとつの指示で、ポーンは本来動けない3マスの移動を行う。感情を持つが故に、その統率力によって兵士の力は格上げされる。その後も反則的な動きをするクラミーの兵士たち。

 だが、2人には焦りなんて微塵も感じない。

「……チェック」

 もはやチェスとも呼べない程の動きを見せるコマ達を相手に、天才少女は引かないどころか追い詰める。

「すごい」

 ステフだけでなく、観客からも言葉が漏れる。

 実際すごい。ルール無視の相手と互角以上に渡り合う白は、正しく天才ゲーマーそのものだ。

「実際そうでもないさ。本当のプロ棋士なら素人相手に飛車角金銀桂香の十枚落ち、つまり王と歩兵だけで相手を完封しきる。本当の実力差は、ある程度のルール改変くらいじゃ埋まらない」

 それほどまでに白は強い。

 だが、その優勢も長くは続かなかった

「……!」

「……やっぱりそうか」

 動かない……白の指示を、コマは拒絶した。

「意思を持っているなら、当然こうなるか。わざわざ死ぬと分かっている所に行こうって兵士がいるわけないな」

 くそっ、と小さく呟いて空は顔を歪める。このゲームは動かないところにこそ重きを置く必要があった。

 そして案の定優勢は互角から劣勢へとかわり、もう盤上に白の指示を聞く兵士は残っていなかった。

 俯き、目に涙を浮かべ、彼女は口にする。

「……にぃ、ごめん……まけた……よ……」

 結果から言えば白では勝てなかった。それは事実で、けどそれは終わりを意味するわけではない。

 俺はほぼ無意識に、白の頭に手を置く。

「前向け。まだお前らは、『』(空白)は負けてないだろ。なあ?白」

 しゃがみ込んで白と目線を合わせた俺は、彼女に言った。

 白はそれを聞いて、驚きが感情の全てを支配しこちらを見る。

「まだチェックメイトなんて言われてないだろ。それに、お前の兄ちゃんは諦めてないみたいだぞ?」

 はっとした白は、隣にいる(相棒)を見る。そこにはいつもの、余裕で不敵に笑う、空がいる。

「全く、八から台詞持ってかれたわ」

「悪いな。お兄ちゃんスキルがオートで発動しちまった」

「人の妹に手出してんじゃねぇロリコン」

「ロリコンじゃねぇ、シスコンだ」

 俺は立ち上がって後ろに下がる。余計な真似をしたが、ここからは任せよう。……俺から任せようなんてセリフが出るとはな。

「白、こっからは2人で行くぞ。それにこれは兄ちゃんの担当分野だ」

 空は白を抱き上げて、前方にある手すりに座らせる。

 そして大きく息を吸うと……

 

「全・軍・に告っげぇぇぇるっ!」

 

 城内を揺らすほどの大声で彼は叫ぶ。

 

「この勝負に勝った暁にはっ国王権限でっ好きな女と一発ヤる権利を与えるっ」

 

 静まり返る大衆。だが、その静寂からは侮蔑や失望。あらゆる悪感情が空に向けられていることを示す。だが、彼は止まらない。

 

「さらに!この勝負に参加した全ての兵士には、以後の軍役を免責し、生涯の国税も免除、国から給付金を出そう。故に、童貞っ死にたもうなっ!また愛すべき家族が、帰りを待つものがいる者達も、全員生きて帰るぞっ!」

 

 もはや賢王とは言い難いほどの下劣な演説。しかして、盤上で死闘を繰り広げる騎士(ナイト)達は

『ウオォォォォォォォォ』

 自らの意志を、その漲る声と共に奮い立たせる。

「ポーン7番隊、敵は目の前だ。先手を取って奇襲をかけろっ!もはや奴らは我々の敵ではないっ」

 空の指示で動き出すポーン兵。眼前の敵を切り倒し、黒のポーンは砕け散る。

「なんでっ!」

 思わずクラミーは声をあげる。本来なら動くはずのない兵、それが自らの兵を破ったのだから、それは驚く。

「古今東西、男とはたった一つの正義のためにしか戦えず、そしてそれはひとつしかない」

 突然語り出す空。そして再び息を吸い全軍に呼びかける。

「兵士たちよ、これはこの国の行く末を決める一戦だ。この国の未来がたった一人の王に託される。それをっあんな頭の足りない愚王に任せて良いものか。そして我々が勝てば、彼女が王だ。幼き身で有りながら諸君に勝利をもたらさんと奮戦し、無慈悲と突き放され、ここで泣く彼女が王だ」

 手すりに座り、未だ涙を浮かれべるか彼女の前髪をかき上げ、空は続ける。

「これ以上、彼女を泣かせるな、悲しませるな。国民の為に王を目指して戦った、勇敢で華麗な彼女を泣かせたままとは……お前らそれでも男かぁぁぁぁぁぁぁっ」

 再び咆哮をあげる白き兵たち。そして空はクラミーを見据えて口を開く。

「たったひとつの正義、それは『かわいい』だ。男達はその為に命をかけ剣を握る。己が欲求の為、正義のために戦い続けるっ。所詮男はそんなもんだぁぁぁぁ」

 俺すらも軽く引くほどの演説を繰り返す空。しかし、その内容とは裏腹に兵士たちの士気はありえないほどに高まる。

「まだだ、彼が開けた道を無駄にするなっ!畳み掛けろ」

 疲労で動けぬポーン。だがそれを援護するかの如く、他の兵も進軍し、黒の兵士達との交戦を始める。

「ちょっと!私の手順なのに!」

 あまりの異質な光景にクラミーは前屈みでこちらに言う。

「は?本当の戦争で相手の手順を待つバカがどこにいる?」

 だがそのクラミーの指摘は間違いなのだ。これはチェスであってチェスではない。

 戦略と戦術を競い合うストラテジーゲームだ。

「この手のゲームに関しては、俺は白にも負けたことないんだよ」

 相手の出方と思考を読み合い探り合うこのゲームにおいて、もはや空は怪物と錯覚する程の適性を見せる。

「おかしいか?当然だよな?魔法で統率を上げてんだもん。言ってしまえば『洗脳魔法』ってとこか?」

 表情を歪めるクラミーを空は更に追い打ちをかける。互いの指示が飛び交い、盤上ではまさに戦争がその火を熱くしていった。

 兵士を固めて立てこもるクラミー、それを愚策と愚王と罵る空。

 現代のプロパガンダ政策を駆使し仲間の指揮を上げ、敵を貶める。もはや勝ちは見えた。そう誰もが思った瞬間だった。

 

 斬りかかった白のポーンは、突如その体が黒く塗り変わる。

 

「統率が洗脳なら、こういう事も出来るわよね?」

 クラミーは低くこちらに言った。つまり魔法による強制洗脳。ここまで来れば他の国の種族なら魔法を感知される恐れがある。それでもやったのは最終手段であり、追い詰められたからだろう。

 だが、この状況は……

 

 

 

 

 

 

 ー空sideー

 

 

 

 魔法による洗脳。ついに敵軍の兵士を味方にする手まで出てきた。有能な指揮官を演じながら一時撤退を指示。

 クラミーの奥の手とも言えるこの策。これは

 

 予想通りだ。

 

『洗脳魔法』を使っている事が推測の域を出ないが分かった時点で、この状況は想定していた。

 クラミーは勝ちにこだわる結果主義の性格。前の八がやったスピードのゲームで、その性格は掴めていた。ギリギリになったら奥の手を使ってでも勝ちに来ると。

 優勢にたったつもりか?ここまでは計算の範囲内だよ。あとは

「白、クイーンを引きずり出す。軍の采配を頼めるか」

「……よゆー、デス」

 それってなんて大罪司教とばかりに白は返事をする。もちろんクラミーには聞こえないようにな。

「……ポーン隊、側方の守備を……ナイトを近付けさせないで……」

 白の指揮の下、白い兵たちは陣形を組む。

「その程度。クイーン、王の首を跳ねなさい!」

 来た。クラミー側の黒いクイーンがキングに迫る。そして

 

「女王よぉぉぉ」

 

 盤上に降り立ち、俺は黒の女王の前に跪く。

 

「女王よ、どうか剣を下ろして欲しい。なぜなら、そなたは美しいっ」

 

 周囲が困惑してるのは痛いほど伝わってくる。だがそんなことは気にしない。

 

「女王よ、もう一度言おう、そなたは美しい。そんな美しき貴殿に剣を握らせ矢面に立たせる。ついには洗脳と圧政によって民を虐げる王の悲しき妃よ。そなたが尽くすだけの価値が、あの王にあるのか、今一度考えて欲しい。今や王は乱心の坩堝(るつぼ)にいる。それを止められるのは、止めるべきものは、かつて共に民を救おうと寄り添ったそなた以外にいないと思うが、相違あるだろうかっ」

 

 黒いクイーンのコマ。目の前にいる彼女は、身を翻し、かつて付き従った王と向かい合う。

 そして女王の黒き身体が、純白へと姿を変える。

「寝返った!?」

 クラミーの驚きように笑みがこぼれそうになるのを必死に耐える。

「なんせ、恋愛シュミレーションゲームは俺が白より得意な数少ないゲームの一つだからな」

 再び白達がいる持ち場へ戻って、俺は次の手を選ぶ。

 いくら作戦とは言え賭けの部分が大きい。どうする、1度仕掛けるか?いやしかし……

 

「これでこっちはクイーンが2人、さらに相手の洗脳も解けることが分かった……勝ちだな」

 

 熟考の最中、八はクラミーに言い放った。それを聞いてクラミーは表情を歪めている。

 全く、いい仕事するぜ。

「ナイト!裏切り者の首を跳ねなさい!」

 八の言葉の真意が分かるはずもなく、クラミーは乗った。これで……行ける。全部の条件が揃った。

 後は、勝つだけだ。

 

 

 

 

 ー空side outー

 

 

 

 

 黒のナイトは姿を変えたクイーンに向かう。だがその刃が届くことはなく、女王の前に跪いたナイトもまた、その身体を白色へと変える。

「なんでっ!?」

 理解できないか?まぁ普通はそうなのか。俺や空みたいに普段からやっている人間観察を怠るとそうなっちまうのかもな。

「あなた達……何をしたの……」

 これも1つの原因か。クラミーは俺達がどこかの国の間者だと思っている。それ故に、理解不能な全ての原因が未知数な協力者の手によって行われたと錯覚するのだ。

「今まで仕えたてきた女王を討てなど、兵に、民に酷な命令なんて下すものじゃないぞ、狂乱の王よ」

 だが、俺達は何もしていない。もちろんいるはずもない協力者も。あくまでルールに従っての行動と、それに基く結果だ。

 そのナイトに続くように、かつては黒き女王の配下として付き従った兵士達が、今は白きクイーンの前に集合する。そして

 

 その一軍は赤い姿へと更なる変化を見せる。

 

「なっ」

 クラミーだけでなく、会場中が息を呑む。

 第三勢力の登場。もはや洗脳すら効かない、反抗を誓ったクイーンとその兵達。これでクラミーの強制洗脳も封じた。

「……いいわ」

 負けを認めたか。クラミーは下を向きながら声を絞り出した。

 

「裏切り者を、その命と引き換えてでも倒しなさい!」

 

 今までにないほどの圧力が、黒の兵士達を前進させる。これでは一対一どころか優勢な現状でも、状況をひっくり返し兼ねない。

「……にぃ、てきを追い詰め過ぎると……こうなる……」

 流石の白も不安をこぼす。だが

「知ってる。だからそうさせた」

 空は言う。これが全てプランの内だと。

「古今東西、圧政によって国を収めた王が賢王だった試しはなく、またその結末も揃えたように決まっている」

 赤と白の兵団に迫る黒の騎士達。そしてそれを最奥で見据える黒の国王。

 次の瞬間、

 

 黒の王(キング)は音を立てて砕け散った。

 

「劣勢によって追い込まれ、最後は兵士ですらない第三者による暗殺で幕を閉じる」

 

 チェックメイト。




長い。
というわけでクラミー戦でした。
ちょっと雑な切り方かも知れませんが、長いのでここまでで。
感想と意見に誤字報告、出来れば高評価もお待ちしています。

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