ノーゲーム・俺ガイル   作:江波界司

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でいじょぶだ、ドラゴンボールで生き返れる
どうも。
超サイヤ人より界王拳派、江波界司です。
ここ最近シリアスが続きますね。ギャグパートを入れようにも茶化しにくい…
前置きは手短に、本編です。


彼女が加わり彼は今一度決心する

 特殊な機械によって隔離された別の世界。テーブルと椅子、あとは見たことのない空間しかないその世界で俺は彼女に要求する。

 図書館を自由に使う権利をくれと。

 

「本当にそれよろしいのでしょうか」

「ああ。そもそも勝つ気がなかったからな。要求なんて考えてなかったんだよ」

「そうですか。しかし困りましたね。先程も言った様に今の私の全権はマスターの手にあります。それはこの図書館も例外ではありません」

「あ、そうか。じゃああれだ、マスターに俺が使ってもいいようにすることを頼んでくれ」

「随分と要求が下がった気もしますが、よろしいでしょう。それがあなたの出す勝利者の要求だと言うなら盟約に誓ってそれに従います」

 特段心理状況に変化は見られないジブリール。そもそも空たちに絶対服従で全権を取られてるから、何も焦ることもなければその権利についてどうこう言うこともできないのか。

 しかしそれなら、と一つ疑問が生まれる。

「なあ、お前の全権が空たちに渡ったってことは、天翼種(フリューゲル)も全員傘下に入るってことか?」

「いえ、そうではありません。私はあくまで十八翼議会の一対であり、天翼種(フリューゲル)全体の全権代理者ではありません。つまりマスターの様に人類種(イマニティ)の全てをどうこうするほどの権利は持ち合わせていないのです」

「なるほどな。だから国が賭けられなかったと。いやだとしたらなんでお前ファーストコンタクトで、んな分かりにくい自己紹介したんだよ」

「そもそも天翼種(フリューゲル)人類種(イマニティ)では全権代理者というものの考え方に齟齬がありますので。まぁあの時なんの注釈も入れずに言ったのは、威圧と敵意が理由でしたが」

「ただの見栄かよ」

「なにか?」

「なんでもないデス」

 怖っ!だからなんでこいつ笑顔なのにこんな怖いんだよ。レベルで言ったら雪ノ下さんすら敵わないんじゃないか?魔王超えちゃったよ。

 話すことも尽き、沈黙が降りる異世界の中の異世界。流石にこれ以上ここに留まる理由もないし、早々に退散して帰ろう。

「んじゃ、そろそろ終わるか」

「かしこまりました」

 その言葉と共に部屋、なのかは分からないが中央から光が発生し、今まであった空間が突如として消える。

 眩い光に閉じていた目を開けると、そこには蚊帳の外にされた3人がいた。

 

「はっやっ!」

「ま、まだゲーム開始からそんなに経ってないですの……」

「……二分……十七秒……はち、なにした?」

 驚愕する三人組。確かに『  』(こいつら)の時を考えれば異様な速度だが、そもそもまともに戦ってないし。

「なにって言い訳だよ」

「いえそんなことより、どっちが勝ったんですの!?」

 そんなことよりってお前。俺が何かをいう前にジブリールが前に出る。

「私が敗北しました」

「「なっ!?」」

 俺とステフが声を揃えて驚く。そりゃそうだよね。だって俺はただマックスコーヒー出しただけなのに勝っちゃったんだもん。それをさも俺の実力で勝ったかの様に言われたら言い訳に困る。

「いや、形の上ではな」

「八、お前何したんだよほんとに。てかなんで俺達は蚊帳の外だったんだ?」

「マスター、それについては」

「俺が頼んだんだよ」

 今度はジブリールが驚いた表情を浮かべる。お返しだよ。

「流石にお前らにみっともない姿見せたくなかったからな」

「なんだ八、見栄か?」

「いや、後で何言われるか分かったもんじゃないからな」

「……はち……どうやって、勝った?」

「いやそもそも……」

「はい。たった一手で、私は敗北しました」

 待てやぁぁぁぁぁ。なんでお前はこうも誤解をウェルカムしてんだよ。確かに事実だけども、それは違うだろ。いやほんとに。

 ジブリールが言ったことをそのままの意味で捉えたのだろう。3人はまた驚愕を絵に描いたように固まっている。

 どうにか機能を取り戻したステフが口を開く。

「ソラたちがあれだけ頑張った相手を……たった一手で……」

「いやだから違うっての。そもそもゲームが始まった時点で勝負云々は度外視だったんだよ。だから形の上では俺の勝ちでも、実質的には勝負もしてないんだよ」

 俺の弁論に、白は稀に見る棒読みで答える。

「……ヘー……」

「八は謙虚だからなぁ。それで?何を要求したんだ?」

「それでしたら……」

 と言いかけてジブリールは、自らの両手を頬に当てて目を閉じながら顔を逸らす。おい、その反応はなんだ。てか頬染めんな、頬。

「へっ……ハチ、あなた……」

 おい待て、その引いた様な反応はなんだ。

「マジか八。羞恥心がない戦闘種族を辱めるとかどんな要求したんだよ」

 おい待て、なんで俺が変態みたいになってんだ。

「……はち、ハレンチ……」

「おい待てなんで最後皆まで言った。てか違うから。おいジブリール何してくれてんだ」

「いえ、負けて終わりでは癪なので」

「それと引き換えに俺の人権潰す気かよ」

 俺たちの会話を見て空だけはなんとなく察したようだ。てかそう願いたい。じゃないと俺が変態認定される。

「そういえばマスター。引きガヤサンが図書館を自由に使いたいと」

「おい今完全に俺の名前の呼び方おかしかったよね?アクセントに悪意しか感じないんだが?」

「ん?別にいいぞ」

「空、それはどっちの意味だ」

 その後どうにか弁明を繰り返して俺の容疑を解く。てか俺無実なんだけど。あのジブリールのざまぁみろ見たいな表情は当分忘れないな。

 

 

 

 

 

 

「今日は寝よう」

 鶴の一声。もとい俺の一声で今後の方針が一つ決まる。もっとも空たちは調べものをしたかったらしいがステフの負担を少しは考えてやれよということで解散となった。多分あれ以上あいつに負担かけたら倒れかねん。

 そんなことがあった夜だ。

 俺は擬似マッ缶を持って図書館を訪れる。小さい食器と同じ素材の水筒みたいなやつにマックスコーヒー(仮)を入れて持ち運び出来るようにしたのだ。空に自由に出入りすることを許して貰っているため、俺は躊躇いなく扉を開けた。

 中は暗いが一部だけ灯りが付いている。

「起きてたのか」

「私は睡眠を必要としないと申し上げたはずですが?」

 その灯りの下には空から預かったタブレットをいじるジブリールがいた。

「それで、どのようなご要件でしょうか?」

「別にお前に会いに来た訳じゃないけどな?」

「なるほど。マスターから頂いた文献による『ツンデレ』なるものでしょうか」

「誰がだよ。それにどちらかと言うと俺は『捻デレ』だ」

「そのような言葉はお見受けしませんでしたが」

「造語だ。てかどんだけ偏った知識を……」

 俺に会ってから3日以上経過しているため、ジブリールはほとんど日本語についてはマスターしていると言って差し支えない。

 今も何の苦労もなくタブレットに入った資料を読んでいたようだ。

「あー、神様にまつわる本ってあるか?」

「神……つまり唯一神に纏わる伝承でしょうか?」

「というよりそいつ本人についての本、だな。遊戯の神ってのはどんな奴なのかってこと」

「現在の唯一神、遊戯の神テトに纏わる文献は主に逸話や過去の歴史しかありません。そもそも神と邂逅することすら不可能ですから、情報を集めることすらままならないのです」

 そりゃそうか。そもそも『  』や八幡(俺達)が特別なだけで、本来なら話すことすら奇跡的なんだろうしな。つまりあいつについては集められる情報は俺が知っていること以上はないって事だ。

「あてが外れたか。まぁいいや。じゃあ獣人族(ワービースト)についての文献で頼む」

「いつの間に私は本の検索係になったのでしょう」

 文句を垂れながらもジブリールは前と同じ様に次元に穴をあけ、そこから本を取り出す。

「今関係する範囲の文献にございます」

「多くね?」

「それだけ情報が多いということです。もっとも……」

「ただしそれが真実かは別だけどな」

「……そういうことにございます」

 そしてまた、いつかの様に座って互いに本を読む。

 あのゲームで、俺は彼女との一つの形を捨てた。得ることが出来た関係を、俺は破棄した。その事に後悔はないし、この現状に不満もない。

 

「なあジブリール」

「なんでしょう?」

 言ってから気が付いた。俺は何を聞こうとしているのかと。

 俺は極力他人に踏み込まない様に生きてきた。誰だって踏み込まれたくない領域はあるし、どこに地雷が埋まっているかも分からない。

 しかし、なら何故俺は、彼女に何かを問おうとしているのだろう。

 考えもまとまらないまま、俺はどうにか言葉を紡ぐ。

「お前、なんで…ここにいるんだ?」

「それは私が図書館を人類種(イマニティ)からゲームで取った理由、ということでしょうか」

「あ、ああ」

 自分で聞いたのに不安になってしまう。ここはまだ、彼女の許せる範囲なのかと。

「私の故郷『アヴァント・ヘイム』である法案が可決されたからにございます。天翼種(フリューゲル)は十の盟約が決まる以前、首を収集していました。しかし暴力を禁止された私達は知識を集めることに精を出したのです」

 なんか凄いナチュラルに物騒な単語が聞こえたんだが。もう殺戮種(フリューゲル)でいいんじゃねぇ?

「その上で本を集め出した私たちですが、その膨大な数により本の所蔵に困ったため被りを減らそうという法、つまり『互いに集めた本を貸し合う』という気の狂った法案が議論の末、可決に至りました。…そしてそれはもう我慢ならないものでした。なぜなら私の本たちが他の者によって汚され破られ挙句消失したりと……」

「それで我慢が出来ずに自分の図書館を持ったと」

「そういうことになります」

 なんか、聞いてるとどんどん謎が増えるんだが。

「なんで他の天翼種(フリューゲル)は本を破るんだよ」

「彼女らにとって欲しいのは知識であり、本とはその手段に過ぎません。故にその本の管理というのは異端視されます」

「なるほどな。ってか、お前本の貸し合いとかそういう概念があったのかよ」

「まさかそこまでの常識の欠如を危惧されていたとは…歯痒いものですね。今十の盟約がなければすぐにでも動いて差し上げましたのに」

「どんだけ殺したいんだよ」

「ただ殺すだけでは足りません。破壊と治癒の魔法を駆使してじっくりとこの屈辱の対価を味わって貰おうかと」

「相手に治癒とか新しい拷問考えるなよ。せめて一思いに殺せよ」

「今のは『許可』でよろしいのでしょうか?」

「違うから」

 なんでこんなことに……こいつ俺のこと嫌い過ぎでしょ。まぁ思い当たる節は多いんだが。

「じゃあなんであの時貸し合うことを不思議そうにあったんだ?」

「それは……あなたを試させて貰いました」

「……?それで結果は?」

「教える義理はありません」

「さいで」

 試した……その言葉が何故かスッと胸に落ちる。

 彼女は何か俺に思うことがあったのだろうか。俺はあの日のことを思い出す。

 彼女が俺に聞いたこと。俺が答えたこと。

 名前、変わり者、知識の貸し合い……これに何か特別な意味があるのだろうか。

 ただ一つ分かることが……俺と彼女は似ているということだ。

 あの時俺が勝手に抱いた彼女への印象。それは本質とは違っていた。彼女は殺戮者でありながら、知識を得るための方法でしかない本を大切にするという、異端者(変わり者)だった。

 そして俺もまた、人間関係という一つのカテゴリの中では異物とされる存在。その共通点が、彼女に何かを思わせたのだろうか。

 

 気になる。気になってしまう。それが知らなくてもいいことで、知ったら戻れなくなることだとしても。これ以上は踏み込むべきではないとしても。

 

 俺は知りたい。知って安心したい。知らないことは酷く怖いことだから。

 けれど、とそこにまた理性が止めに入る。やめるべきだと。引き返すべきだと。ここより先に進むべきではないと。

 

 それでも……それでも俺は……

 

「俺は……『本物』が欲しい」

 

 その言葉を、彼女はただ無言で聞く。その先を求めるように、まだ引き返せると促すように。

 

 俺は止まらなかった。ただ無意識に、しかし意識的に言葉を続ける。

 

「俺は知りたい。『本物』てのがどんなものなのか。そしてそれは俺にも手に入れられるものなのか……それが『  』(あいつら)を見てたら見つかる気がした。完全な信頼の上に成り立つ2人の関係が、教えてくれる気がした。だから俺は、あいつらと同じ道を行こうと決めた……」

 

 俺は何を言っているのか。そして何故言っているのか。もし数秒前に戻れるなら今すぐにでもぶん殴って止めたい。

 徐々に冷静になっていくのを感じ、頭がさっきよりも機能して正気に戻ると、俺はすぐにでも訂正に入る。

 忘れてくれと。

 

「すまん、なんでもな……」

「確かにそうです」

 

 へ?

 俺が言い切る前に彼女は口を開いた。それも何かを肯定したように。

 

「マスターはとても偉大な方です。人類種(イマニティ)と同等でありながら天翼種(フリューゲル)を下し、今なお獣人族(ワービースト)と事を構えようとしていらっしゃる。あの方々はまさしく、この世界に革命を起こす存在でしょう」

 

 そして、と彼女は続ける。その言葉には、いつか誰かに聞いたような重みが感じられる。人生を、人命を賭けてでも欲するというその強い感情が感じられる。

 

「私もまた、あなたと同じように、マスターに『答え』を示して欲しいと願う者にございます。今までの常識や価値観を度外視するマスターの姿を追えば、きっと私のような者でもその『答え』を知れると。だからこそ私はこの身の全てを賭けようと、そしてマスターに従おうと思ったのです」

 

 打ち明けられた彼女の思い。

 人の感情に疎く、知識と力を兼ね備え、それでも下等種族の人類に負けた彼女。そんな彼女と俺は、求めるモノは違うながらも、等しく同じ目標を掲げている。

 

「そして、それはあなたもまた……」

「え?」

 

 俺は難聴系主人公でも、自称友達の少ない金髪ハーフでもない。

 ただ思考の中に意識が集中していた俺は、彼女の声を正しく聞き取ることができなかった。

 

「いえ、なんでもありません」

「そうか」

 

 自分でも不思議だが、俺は彼女に打ち明けた。

 彼女が現世にいた俺の知り合いに重なったのか。過ごした時間があの空間と似ていたからなのか。俺は心のどこかで誰かに助けを求めていたのか。そのどれかなのかは分からない。

 ただ今分かるのはたった一つで、俺がすべきことが何かという一点。それだけが重要なのだ。

 

「ジブリール。俺はお前に好かれようとは思っていない」

「奇遇でございますね。それについては私も同感です」

 

 しっかりと対面して俺たちは言葉を交わす。

 

「けど俺とお前は同じ方向を目指している」

 

 俺が誰かを信頼するなんてことはない。信じたら裏切られるのは知っているから。人の心はそれ程までに醜いことを知っているから。

 

「だから俺は……」

 

 ジブリールに向かって俺は言う。

 果てしなく醜い人の心、感情。自分が知っているように、自分もまた持っているソレを使って。

 

「そのことに関して、お前を『信用』する」

 

 本当に醜い。そして酷く汚い。

 目的の一致という打算故にしか誰かを、何かを信じられない自分が嫌いになりそうだ。

 ジブリールと俺は同じ道を進もうとしている。だからこそ、俺は…

 

 彼女を『信じ』、『利用』する。

 

「はい。私もまた、マスターが認めるあなたを『信用』しましょう」

 

 彼女の言葉は俺と同じ意味なのか、それを確かめる術はない。

 しかしここに一つの『約束』が立てられる。

 

 恐らく俺たちは互いを信頼しない。しかし騙すこともない。ただ互いに利用し合う、そんな『約束』。

 

 酷く歪で、不完全で、『本物』とは程遠い関係。

 

 そんな2人の『答え』を俺たちは互いに肯定する。

 

 

 

 

「いいのか?『  』(マスター)に言わないでこんなこと決めて」

「私はマスターの所有物であると同時に、一人の感情を持つ存在。その感情の発露さえも縛ってしまうほど、私のマスターは小心者ではございません」

「さいで」

 

 

 

 

 




一気に距離が縮まった2人……縮まっているんでしょうか?
ノゲノラと俺ガイルの共通テーマを上手くミックス出来るようにしながら、今後も話を進めたいと思います。
八幡の一人称視点が多いため、やや誤解を招くこともあるかと思いますが、優しい目で見て頂けたら幸いです。
感想や誤字報告のほど、よろしくお願いします。

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