ノーゲーム・俺ガイル   作:江波界司

21 / 105
友達はいらない――友達をつくると人間強度が下がるから
どうも。
リアルでぼっちライフ充実中、江波界司です。
でなきゃ毎日投稿なんてしませんよね。
特にないので本編をどうぞ。


そして彼と彼女は彼の覚悟を知る

 この世界は基本的に受け手が有利だ。

 事実、東部連合は自分たちに有利なゲーム、必勝の手があるゲームで過去四回、魔法のエキスパートとと言って差し支えない森精種(エルフ)、エルヴン・ガルドが敗北している。と、ここまではジブリール談だが。

 人類種(イマニティ)と同じく魔法の使えない獣人族(ワービースト)。そんな種族が森精種(エルフ)に勝っている。つまり魔法すら効かないほどの必勝法(イカサマ)を使っているということだ。

 興味本意でジブリールも挑んで負けたらしいが、要は難攻不落の防衛戦。そんな圧倒的な相手に対し

 

「領土賭けて八回負けるとかどんなマゾだよ」

 

 もうこればっかりは弁論しようがない。

「……ただいま、はち」

「おう来たか」

 突如そこに姿を現した四人。

 そして帰って来るやいなやいきなりガックリと項垂れる空。まぁ当然だわな。

 空たちはジブリールと共に東部連合の観覧に行ってきたらしい。らしい、というのは俺が同行していないからだ。だってめんどくさかったし、調べものしてた方が有意義な気がしたからな。

「それでどうだ?」

「どうもこうもあるか。負け確の相手に八回挑むとか、もうなんかの儀式かよ。どんだけ前王は残念な頭してたんだ?」

 辛辣だなおい。だが仕方ない。前にもステフに言った通り、この世界でラッキー狙いの数打ち戦法は愚策の極みだ。それを王様自らやってのけるとは……この国マジで大丈夫かよ。

「ステフ、こればっかりは弁護も弁明も出来ねぇわ。てかどうしようもないわ。お前のお爺様ってアル中だったのか?」

「んなっ。ソラはお爺様が間違ってないと言ったではありませんのっ!」

「魔法使いすら勝てないゲームに八回領土駆けた挙句全敗した奴をどう言い訳しろっての?屁理屈王の八でも無理だっつの」

「誰が屁理屈王だ」

 流石の空も少々感情的なっている。今までになくキツく言われたステフの目には涙が浮かんでいた。

「そ、それでも……お爺様は……」

「あのなぁステフ、運なんて存在しないんだよ。無知と知が重なり合って起こる変数の結果。その見えない過程を運と呼ぶなら、それは全部必然だ。それに俺たちは一回たりとも負けられない、そういう状況なんだよ」

 目は合わせず、しかし確かな力強さを込めて空は言う。

 だから、と。

 

「お前の爺さんのしたかったことが分かんねぇ」

 

 その一言がトドメになったのか、ステフは俺達には目もくれずに図書館を出て行った。

「……にぃ、言いすぎ」

「また女の子泣かせるのかよ」

「っ……。つったってよ、“酔ってました”以上に好意的な見方あるかよ」

 

 

 

「しっかしどうすっか」

 ステフを泣かせた事を少しだけ白に責められて落ち込んでいた空はとっくに機能を取り戻し、読んだ本を置いて別のものを取る。

 現在、ステフを除いた俺たち4人は東部連合に関する多量の資料の周りに集合している。かなりの時間調べに調べているが、何も進展がない。

「勝負を仕掛けるにも情報が足りないしな」

「問題はそこだ。そもそもなんでエルヴン・ガルドも前国王も複数回挑んでる?それも惨敗しただろう相手に。いやまず東部連合のスタンスが分からない。必勝の手があるのにその記憶を消しちゃ誰もかかって来ないぞ」

 ブツブツと思考を続ける空。

 ここは彼の分野だ。相手の狙いと思考を読んで突破口を見つける。その攻略法を白が実現させる。これが最強ゲーマー『  』(空白)のプレイスタイル。

 だが空の独り言を聞いて思うところがある。

「なんで複数回、それも四回と八回なんだ?」

 仮に記憶を消されるなら、リベンジを企てても普通は2回目で結果が出る。それが成功にしろ失敗にしろ、そこで終了する可能性も十分にある。にも関わらずこの二ヶ国は四回と八回勝負を挑み、負けた。何か意味があるのか?

 俺の疑問には空が答えた。

「そりゃ餌を撒かれたんだろ。例えば一回目はゲームの内容だけは記憶に残して必勝法だけ記憶を消すとか。いや待て、だとしてもだ。そんなのが七回も成功するのはおかしくないか?」

 だが自分で出した答えに空は何かを見つける。

「ジブリール、国の資料。白、前王がゲームに賭けた土地は?」

「ほれ」

 俺はジブリールよりも先に資料を空に渡す。そしてその資料に目を通しながら何かを考察する空を横目に、俺はジブリールに話しかけた。

「ジブリール、ステフに……」

 だがその先を言う必要もなく、俺の視界から姿を消す。あいつも同じことを考えてたみたいだな。

 そして俺は再び彼らに視線を戻す。こいつらはきっと社会に裏切られた存在。しかしそれ故に、彼らは身内を決して裏切らない。それが例え血の繋がらぬ仲間(家族)でも。

 

 

 

 

 

 

 既に時間は良い子は寝る時間、をとっくに過ぎている。

 現に昨夜徹夜で調べものを担当した白は寝息をたてている。いくら天才と言えど、彼女はまだ十一歳なのだ。

「マスター、そろそろ休まれた方が」

 とっくに帰ってきたジブリールはそう空に告げる。

「いや、気になるところがあるしな。もうちょっと……」

 こちらには目もくれずに彼はそう言った。気になるところがある。見つかった、ではなく見つけた、だろう。

「ステフの為にわざわざ爺さんの弁護士になる気か?」

「そうじゃねぇよ。ただ、何か引っかかるんだよ。なぜ前王は八回挑んだのか…いや、逆に言えば、なぜ八回でやめたのかっ」

 言って空はハッとする。何かに気付いたらしい。

 確かに前王がやったことは愚行以外の何でもない。しかしそれはある一点の視点から見ただけの事実。だがそこに違う視点があったとしたら?

「マスターは思慮深い方であり、人類種(最弱種)でありながら上位種すら打ち倒す程の力量をお持ちです」

「あ、ん?いきなりどうした」

 空に対しジブリールは静かに言う。

「しかし全ての人類種(イマニティ)がマスターの様に思慮深い行動が出来る訳ではありません」

 暗に、お前が特別なのだ、と。

 しかし、空はそれを笑って否定する。それは違うと。

「ジブリール、素直に言っていいぜ?脆弱で矮小で非力な人類種(イマニティ)は所詮その程度の存在だって」

「……」

 絶句するジブリール。彼が言ったのは恐らく図星だったのだろう。確かに天翼種(フリューゲル)から見れば俺達人類は非力で弱い。

「なんでそんな奴らを信じれるのかって」

 そんな弱い人類をなぜ信じて行動できるのか。その理由を彼は語る。悠然と、そこに強い感情を潜ませて。

 

「理由は簡単だ――俺は人類なんて信じてないんだよ」

 

 それが彼の答えだった。

 俺とジブリールは無言でその続きを促す。彼がどんな覚悟と自論を持ってここまで来たのか。そしてどのようにこの先を進むのか。俺はそれを聞きたい。

 

「人類なんてロクでもないんだよ。どれだけ凄くてもどれだけ酷くても避けるし、苛む。そんな奴らを信じるなんて俺にはできねぇ」

 

 同意する、俺も出来ない。あんな浅ましく汚れた奴らを信頼するのは自殺に近い。

 

「けど、そんな奴らの中にいるんだよ。『天才(ほんもの)』が」

 

 彼は希望を語るように、そしてその根拠を指す。

 

「それがこいつだ」

 

 彼は膝の上で寝る白の頭を撫でる。

 

「俺は馬鹿で、自分じゃなにも達成できなかった。だから周りに合わせて会話して、表情に合わせて笑顔を振りまいてた。そんな初対面の俺に、こいつはなんて言ったと思う?」

 

 まるで自分の武勇伝を語るように、空は俺たちに問う。いや、実際は答えなんて聞いていない。依然口を開かぬ俺たち見て彼は続ける。

 

「『ほんと空っぽ』って、俺の行動と名前のダブルミー二ングで罵ったんだぜ。その時思ったんだ、『天才(ほんもの)』はいるんだって」

 

 彼にとって、馬鹿と蔑まれて来た彼の人生にとって白とは、天才とは救いであり、希望だったのだろう。

 

「それで――身の程知らずに、憧れちまった」

 

 彼は言った。彼はなりたかったと、自分が見つけた希望に、『天才(ほんもの)』になりたかったと。

 

「けどそれは無理だった。だから俺は馬鹿になろうって決めた。ほら、俺がマイナスを進めば逆にプラスのこいつに近付けるかなってさ」

 

 彼は自らを馬鹿と語る。確かにこいつは馬鹿と言われ続けて来たのだろう。しかしそれは学問、学校という狭い世界での話だ。

「マスターそれは……」

 そして彼女も思っただろう。

 天才に憧れ、それでもなれないと分かればすぐに自分の向かう道を見つけ、さらに人として最悪な方向だろうと臆せず進んだ空。一体そんな彼を誰が馬鹿と罵るのか。

 俺からすれば超人的な情報処理能力を持つ彼女も、たとえ愚行と蔑まれようとも決めた道を進もうと決めた彼も等しく天才で、脅威的な才能の持ち主だ。

 

「だから俺は人類なんて信じない――」

 

 そんな彼は言う。そんな弱く醜い人類(やつら)は信じないと。

 

「けど、人類の可能性は信じてる」

 

 それでも稀に見る天才、人類が持つ才能(可能性)は信じると。

「だから、それが愚王でも信じるって?」

 俺は問う。その可能性は、例え愚王と罵られ愚策を繰り返した愚者にもあるのかと。

 

「確かにステフの爺さんがやったのは愚行だ。けど―信じなきゃ始まんないんだよ」

 

 ある探偵は、真実はいつも一つという。たしかに真実は一つしかない。しかしその見方に際限はない。もし先王の行動の裏になにか意図があるとしたら。

 彼はその『可能性』を信じ、再び資料に視線を落とす。

 一度目を見合わせる俺とジブリール。しかしすぐに視線を外した彼女は魔法を使って自らのマスターの手元を照らす。

 

「ソ、ソラ」

 

 その時少女の声が館内に響く。

 その声の主はステフだった。ジブリールに呼びに行くよう言って(その前に行ってたけど)帰って来た時にステフは来なかった為失敗したかと思ったが、大方入口に隠れて聞いていたのだろう。この図書館は城と離れているし、その奥にあるこの部屋にたまたま通りかかったといったことはないはずだ。

 

「……渡したい物が、ありますの」

 

 そう言って彼女は胸元に両手を当てて握っている。何かを持っているのは分かるが、それ以上は見えないため知る由もない。

 しかし少なくともこれでステフと空に(わだかま)りは無くなった。

 これでエルキア王国陣営は、本格的に仲間(家族)として機能するだろう。

 

 

 え?なんで他人事かって?舐めるなよ。その他大勢の括りからも外れる逸材だぞ俺は。

 




遅れるよりも短くても更新を選びました。
というわけでここからしばらく短めに、小刻みに進んで行きます。
話の進行が遅くなると思いますが、どうかご勘弁を。
感想、誤字報告のほどよろしくお願いします。

番外編 エルキア王国奉仕部ラジオは必要ですか?

  • もっと見たい
  • 別にいらない

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。