どうも。
既に人から忘れられかけ、江波界司です。
既に某海賊マンガの考察レベルで高濃度のご感想ご意見を頂いていて、とても嬉しく思います。
それでは本編です。
翌日である。
流石に眠いし、あのままだと白も起こす必要があったため今に至る。
場所は王室、そこに集められた五人。なんだか謎を全て解いたじっちゃんの名にかけて謎解きする探偵が答え合わせをする様な雰囲気だが、違う。俺達が集まったその理由はたった一つの鍵にあった。
ステフ曰く、先王が残した希望の鍵であり、彼の大切なものの鍵だそうだ。そしてそれを聞いた空は言った。
「間違いない、エ〇本だっ」
「渡す相手を間違えましたのっ!」
当然この反応にはステフも怒る。てか空、話聞いてた?先王の大事な物が隠してあるって言ってただろ。あれ?なんか怪しくなってきた。
「ハッ、ここまで来れば男の八割は持っているソレに決まっているだろう。なぁ?八」
「俺に振るなよ。あとその偏見バリバリの男性像は全世界共通じゃないから。持ってないやつも普通にいるから」
むしろ今時持ってる奴の方が少ないだろう。俺たちが元いたデジタル世界なら本が無くてもネット……おっと、これ以上は言わないでおこう。
俺の反応には空は異質の存在を見るが如く俺に視線を向けて言う。
「お前……ホントに男か?」
「これで女に見えるんだったら眼科に行け。腐った目の俺でも鏡越しの自分見て男って言えるぞ」
自分で目が腐ってるとか言うとなんか切ない気が。
流石に流れを切りたいのだろう。ジブリールは一つ咳払いをして場を整える。
「それでマスター、その鍵は一体どこの物なのでしょう。鍵と言うなら、当然何かを開ける為の物だと思われるのですが」
ジブリールの問いに、空はああ、と小さく応じるといきなり爆弾発言を投下する。
「これがどこの鍵かは分かってるんだよなぁ」
その言葉と共に、空と白は行動を開始する。
エルキア国王就任当初、空と白はこの部屋を寝床にしていた。しかしベッドが傾いているため白が落ちてしまう、という理由で強引に部屋を変わった。今はステフの寝室となっている。
王室と言うからには当然、他の使用人室などと比べて広く、ついでに物も多い。そんな王室の中を、彼ら兄妹は迷いなく動き回る。
ギミックや暗号、文字列や数式などあらゆる方法で隠された謎の扉。本来ならどうやって、あるかも分からないその扉を、かくして二人はなんの苦労もなく解いて見せた。
「ソラ…これ、一体いつから知ってましたの?」
「ステフに部屋を代わるよう言った日。ほら、ステフが仕事でこの部屋から出てたじゃん?だからその間に、な」
時間にして一時間足らず。彼らはそんな短い時間で平然と謎を解いた。
「これってそこの鍵だろ?」
言って空はステフから受け取った鍵を使い、閉ざされた扉を解錠する。
一応入る前に聞いておくか、気になることもあったし。
「お前らならこのくらいの扉、簡単に開けるだろ」
そう、この扉の鍵は古い。俺たちの知っている電子ロックなんかと比べたらセキュリティに不満が出る程に。
俺の問いに彼は答える。
「確かにピッキング出来るけど、それは違うだろ」
なにが、と続けるより先に二人が声を合わせて言った。
「「謎解きゲーでもなんでも、チート使ったら台無しだろ」」
あくまでもゲームだと。人権も人命も人生も賭け金となるこの世界。そのルールの適応外の事柄すら、彼らはゲームだと言ってのける。そして
「ままっそんなことより、さっさと御開帳と行こうぜ」
ドアノブを捻り、開かれる扉。さっきの考察が理由だろう、白の目を塞ぎながら扉を開ける空。それを後から見守る俺たち三人。
そして俺たちが見たのは、小さな部屋だった。
「これは…」
誰かがそう言った。それも無理はない。この部屋、この空間の独特さを思えば。
集められた本、中央にある机と椅子、その上に置いてある時間経過を思わせる厚いこの世界でのノート。そして先代の王が残したとさせるこの状況。
空は中央にある一冊を手に取る。それは間違いなく手書きの文。ステフがそれを見てこぼした。
「お爺様の字ですわ……」
空はこちらを向くこともなく、1ページをめくる。そして目に入った文を口に出した。
『
『我は、賢王に非ず』
『むしろ稀代の愚王として名を残すだろう。だが我は、我ではない再起の王の為、筆を執り記す。願わくば我の浅薄で惨めな足掻きが、次なる王の力に成らんことを信じて』
手書きの本、先代の王が書き記した記録。それは彼が愚王と罵られながらも、自分ではない誰かに希望を託すべく奮戦し、その地位も名誉も、己が命さえ天秤に賭けた一人の男、エルキア王国前国王の姿が記されたものだった。
見れば分かる。先王が何をし、何を目指したのか。
そしてそれは、本来なら出来るはずがない。
ある男は、憧れの為に底辺を目指した。ある男は、国の為に自らの全てを賭けた。
彼らは知っていたのだ、自分の限界を。だからこそ道を模索し、『答え』を見つけた。そして、それが例え誰にも理解されずとも、自分が進むべき道だと信じて歩いた。
エルキア前国王。ステフの爺さん。彼は選び、そして実行した。彼は持てる全てを賭けて、たった一人で東部連合との戦いに挑んだ。
“勝つ”ためではなく、“勝ってもらう”ために。その彼の希望を、策謀を、奮闘を、奮戦を記した一冊。それが今は新たな希望、次代にして現代、再起の王にして最強の王の手に預けられた。
「なぁジブリール、いるんだよ。こういう奴が」
空は嬉嬉として言う。存在するのだと。力がなくとも戦い、苛まれようとも進む、天才とは違う、しかし人類の可能性を持った存在。もしそんな者がいるとするなら、それは彼であり、そして彼もまた。
「どうだ?――たまんねぇだろ」
「――確かに、そうかも知れません」
ジブリールは静かに言う。これが主の信じた人類の可能性なのだと、ならば自分もそれを信じてみようと、彼女はそんな覚悟と意志を持った表情で答えた。
「それにステフ――」
そして空はステフに向き直る。汚名と愚行に塗れた先王、ステフの爺さん。そんな彼の人生の一片を知り、空は言う。
「やっぱりこの人は、お前の爺さんだったな」
ひたむきに、ただ国の為に尽力し続けた男。そんな彼の姿が、例え無理で無謀でも戦い続けた彼女、ステフと重なる。
「はいっ」
そしてステフもまた、自分が信じた者が理解され感情が溢れだし、その目には悲しみのない涙が浮かんでいた。
先代の王は記憶を失っていなかった。それがあの部屋で見つけた事実であり、結論だった。
計八回、国の領土を賭けて相手の手を探ることだけに留意した男の記録。そこには東部連合が得意とし、絶対勝利をもたらすゲームの内容があった。
その記録を元に、空たちは今後の算段をたてるらしい。
だが俺は何徹も出来るほど図太い神経は持ち合わせていない。俺は自室のベッドに横になりながらそんなことを考える。あいつらは俺にも手伝って欲しいとか言っていたが
「お前らみたいに俺は特別製じゃないんだよ」
誰に言うでもなく俺はそう呟いた。実際、彼らは特別だ。その関係性以上に、その貪欲なまでの執着と、それを実現させるだけの実力を持ち合わせている者はそうはいない。
もしそんな特別な奴をこの世界に招待するとしたなら、明らかに俺は論外だ。俺が出来るのは精々その場凌ぎの最善策には程遠い方法。そんな奴を特別と呼べるのか。いや当然、俺はそんな大した奴じゃない。
「そんなことないさ」
突然耳に入った声。この世界で何度か聞いた、少年の様な声。この声の主を俺は知っている。
「テト……」
「やぁ、また会ったね」
俺の目の前にはこの世界の神、唯一神にして遊戯の神テトがいた。
思考に集中していたため気付かなかったが、いつの間にか見えている世界からまたいつかの様に色が、現実味が消えている。
「なんの用だ?」
俺はベッドから降りて立ち上がりながら彼に問う。当然警戒という態度にも、彼はいつも通りに応える。
「答えは出たかなって思ってね」
「答え?」
こいつはなにを言っている。いや、もし俺の考えが正しいなら
「俺に才能はない」
今の俺が持つ答えを、俺はテトに言い放つ。
彼が言った俺の才能。しかしそんなものは俺にはない。凄まじい計算処理能力も、人並み外れた人心掌握術も俺にはない。ましてや誰かの為の自己犠牲なんてする勇気も。だから俺は言う。
しかし、彼はそれを否定した。
「そんなことはないって。もしそうなら、君はここにいないよ」
そんなつまらない奴は呼ばないよ、と彼は言った。まるでおもちゃを探す子供の様に。
「おもしろかったらあっちの世界での人気者になってる」
「そういう所も含めて、君はおもしろいよ」
そうかよ。けど、そんなことに興味はない。
「それで、お前は何しに来たんだよ」
俺の問いにテトは指を顎に当ててうーん、と言いながら上を向く。考えている、というよりも遊んでいるような感じだな。
「本当は君の答えを聞くだけのつもりだったけど…うん。これを言わないのは不公平かもしれないし、言っておこうかな」
疑問しかない、俺の表情を見てそれが伝わったのだろうテトは続ける。
「君を呼んだ理由さ」
「……呼んだ、理由……」
こいつはゲームがしたくて空白を呼んだ。だとしたら俺は?考えなかったわけじゃない。けど見つからなかったのだ。
「君は異質だ」
なんの脈絡もなく彼は言う。
いや、そんなことは知っている。それがなんなのだと。
「僕が彼らに『
反則?チート?何を言っているんだこいつは。
「どういう意味だ」
そのままの意味の質問。それに彼は答える。
「そのままの意味だよ。きっと
世界を、世界のルールを作った神は言った。つまり俺のこの世界での存在理由は、お前のただの娯楽だと?
「
雄大に壮大に自らの希望を語る少年。
だが、尚も俺は彼の言いたい事が分からない。俺にそんな大層なことは出来ない。俺には
「もしそんなことを俺に期待してるなら、それは達成しかねるぞ」
「いや、君にならできるよ。それだけの才能が君にはある」
そろそろ戻らないとね、とテトは言う。まるで俺の言葉を聞いていなかったかの様に。
「本来なら僕は一つの種族に肩入れするのは御法度なんだけどね。君たちは見ていて退屈しない、どうしても手をかけちゃうんだよね」
笑顔で神はそう告げる。
なんだか似ている気がした、あの人に。底知れない裏側と、それを隠すだけの表を持つ彼女に。
だが、今はそんなことよりもだ。
「手にかける、の間違いだろ」
「どうだろうね?」
未だ表情を崩さないテトに俺は聞く。
「なぁ?テト」
「なんだい?」
「前に空たちと結んだ約束、俺にも有効か?」
「約束?」
「『お前の元に辿り着いたらゲームをする』ってやつだ」
あぁ、と今思い出したかの様に彼は手を打つ。本当は最初から気付いてた気もするが、まあいい。
「それでどうだ?」
「うん、もちろんいいよ?次会う時には相手になるよ」
「そうか」
「うん。じゃあこの辺にしようかな」
それじゃ、と言ってテトは消える。それと同じに世界が色を取り戻した。
これで俺も、一つ目標が増えたことになるな。いや、最初から変わらないか。
まぁしかしだ。やるべき事が決まり、それに向かう理由もある。あとはやるだけだ。
俺は……
三度テトが登場っ。
2人の意味深な会話で若しかしたら八幡の『才能』について分かった人もいるかも知れませんね。オフレコでお願いします。
ここからどうにかオリ展開に持って行けるよう頑張ります。
と言っても大筋は原作通りなのですが。
感想や誤字報告お待ちしております。
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