どうも。
オーバーソウルどころか憑依もできない、江波界司です。
未完で終わって後から完結、人気があるって羨ましいですね。
話の展開が遅いことこそ個性。
と、言い訳を一つ……そんなことは無視して本編へ。
「どうだ?」
「だめですね。私が呼びかけても、特に変化はありません。私の侵入も固く禁じられました」
籠城かよ。
なぜ俺たちがこんな会話をしているかと言えば、白が立てこもった。正確には引きこもった、だが何やら様子がおかしい。
白はニートで引きこもりだが、こんな様子は初めてだったからだ。
それともう一つ、おかしな点が……
「どう、ですの?」
「頑なに出てこようとしません」
「じゃあずっと“ソラ”と繰り返しているんですの?」
「はい、そちらは?」
「城中の奴に聞いたが、心当たりはなしだと」
「こちらもでしたわ」
そう、白は“ソラ”なる人物のことを探している。
しかしそんな奴は知らないし、そもそも会ったことがあるかも分からない。
色々と心配なことはあるが、一番の危惧は彼女の精神だ。白はまだ十一歳。激しい感情や恐怖、不安やストレスですら体に害を及ぼす可能性すらある。
東部連合とのゲームも近いし、早急に手を打たないと取り返しがつかないかもしれん。
「と言っても、どうするかな」
流石に弱音の一つも言いたくなる。
仮に“ソラ”なる人物がいたとしてだ。それを知るのは白だけ。更にその白があんな状態じゃ手の打ちようがない。
と、ここでジブリールが口を開く。
「誰も知らない“ソラ”なる人物の記憶。順当に考えれば記憶改竄、すなわち東部連合に敗北した、ということに……」
なるな。
けど、それも違和感がある。なぜそんな回りくどいことを東部連合が?
白を無力化したいならもっと色んな、手っ取り早い方法がある。
「わざわざいない誰かの情報を植え付けるより、今後一切のゲームを禁ずるとか、普通にゲームの記憶を消すとか、そんな方法の方がずっと効率的だ」
「それだと賭けが成立しないのでは?」
「だとしたら白がゲームを受けた理由がわかんねぇだろ」
「それは、確かに……」
この世界にはゲームの拒否権がある。わざわざ東部連合を追い詰めたのにゲームを受ける必要性がどこにある。だとすれば白は別の理由でゲームをした、という可能性が高い。
しかしいくら考えても埒が明かない。この先は白しか知らないのだから。
「ジブリール、俺を部屋に直接飛ばせ」
「拒否します。それはマスターの意志に反します」
「白が禁じたのはジブリールの入室。つまり俺は含まれてない。白が気付く前に早くしてくれ」
一瞬の間があったが、ジブリールは頷き了承する。
そして次の瞬間、俺は王室の中、白の目の前に移動していた。
「……っ!……はち……」
「よう」
目の前にいる少女。ベッドの上では力なく座り込み、腫れた瞼は泣いた痕だろう。
さてと、どうしたものか。
流石にノープランで来たのは失敗だったかな。けど、何かしないと始まんないしな。
とにかく会話をしよう、と似合わぬことを思い立って俺は言葉を発する。
「白、“ソラ”ってのは、誰だ?」
言ってから思う。これはかなり直接的で攻撃的な聞き方だったと。
しかし話を進めるためには、とまた自分に言い訳をつきながら俺は彼女の答えを待つ。
「……にぃは……“そら”は……しろの、すべて……」
白の全て……
彼女に取ってそれだけ大事なものってことか。もしこれが植え付けられた偽物の記憶なら、確かに白は機能停止状態だ。けど誰がそんなことをするのか。第一、白が負けるのか?都市伝説レベルの最強ゲーマーだぞ?
「……はち……さいしょ、この世界に呼ばれたのは?」
白から出た質問。
恐らく俺たちが初めてこの世界に来た時、テトに呼ばれた時の事だろう。
「俺と白だろ?俺はゲストだったらしいが」
俺の答えを聞き、気を落としながらも彼女はつづける。
「……ポーカーで……金を、手にいれた……のは?」
「白だけど、俺もディーラーしたしな。まぁ結果的には白だな」
「……ステフに……勝ったのは?」
「白だな」
「……なんで……『惚れろ』って、要求した……?」
「貢がせるためだった、って言ってたけど、後で後悔してたな」
「……女同士、なのに、惚れろ……?」
「まぁ百合なんて言葉があるくらいだし」
「……ジブリールと、たたかって……勝ったのは?」
「白だ」
「……ジブリールの、マスター……は……?」
「白だって言ってたな」
「………東部連合の、ひみつ……見破った……のは……?」
「白がステフの爺さんの記録を見て、って感じか」
それきり、彼女は黙って俯く。
悲しいことに、俺はこんな時にかけてやれる言葉がない。俺は葉山や由比ヶ浜みたいな気の利く奴でもなければ、黒の剣士やツンツン頭みたいなフラグ建築士でもない。
だから俺には、涙を浮かべる彼女になにかしてやることはできない。
あれからどれくらい経ったか。
一時間の様にも、数分の様にも感じられる静寂。その中で白はゆっくり顔をあげる。
その顔にはまた一筋の涙が頬をつたり、落ちる。
その姿が、表情がどうしようもなく心を揺さぶる。自分の中にある何かが、揺れ、揺さぶられてヒビが入る。
「……にぃ、は……どこ……」
にぃ、お兄ちゃん。
もし本当に、白に兄がいるとして。“ソラ”という人物が存在するとして。
その彼がこの状況をつくったとしたなら
「そいつは、お兄ちゃん失格だな」
口に出してしまった一言。らしくもなく感情的で、低く、侮蔑すら感じられる一言。
その一言に、白は大きく反応する。
「……にぃは……わるく、ない……」
初めて見る感情的な彼女の姿。淡白で途切れ途切れないつもの話し方ではない、もっと強く感情が、ともすれば敵意が乗った声。
しかし、俺は体のどこかに渦巻く感情を抑えきれずにいた。
「妹を、それも自分を全てだと言ってくれる奴を泣かせて、それでもお兄ちゃんを名乗るのかよ、そいつは」
「……っ!」
俺は何を言っているのか。
まるで自分が自分じゃないかの如く、俺の声帯は声をつくり、俺の脳は言葉を並べ、俺の息がそれを空気に伝える。
「もしそいつが、白のためにこんなことをしてるなんて言うなら、そいつはお兄ちゃんじゃねぇ。――ただの偽善者だ」
兄という免罪符を持って、妹のためにと言い訳をして、それでも彼女を泣かせるのは、ただの自分本位で身勝手な偽善者でしかない。
「白、もし本当に“ソラ”って奴がいるとして。そいつは本当にお前の兄ちゃんか?勝手に何かして、勝手にどっか行って、知らず知らずに妹を泣かせる…もし、本当にそいつがいるなら――そんな奴、いな……」
「……ジブリールッ!」
「はいっマスターっ!」
白の声が部屋中にこだまするよりも早く、ジブリールは現れ、俺に手のひらを向けた。が、それを自覚したのは少し後だった。
その事を認識する間もなく、俺は地面に肩から落ちた。
しかし地面と言うにはあまりに固く、落ちたと言うにはあまりに低い。
俺は横になっている体を仰向けにし、その先を視界に捉える。そこには青く晴れた空があった。
「城の屋外、か」
ジブリールが俺を転移で飛ばしたのだろう。
日に当たって僅かな暖かみを帯びた床と、吹き抜ける涼しい風。暗く閉ざされた部屋から一転し、青く晴れた風景は、頭を冷やせと言われているようだ。
頭を打ったからか、空を見上げて気分が良くなったか。俺は少しずつ冷静さを取り戻していく。
そして、それと同時に頭の中では、ついさっき起きた白との出来事がリピート再生される。
「ったく……俺は何言ってんだ……」
何がお兄ちゃん失格だ。
そんなの、小町と仲直りできてない俺に言う資格ないだろ。
何がお兄ちゃんじゃねぇだ。
そんなの、白の表情を見りゃどれだけあいつにとって大切な存在かわかるだろ。
何が偽善者だ。
そんなの、言い訳や免罪符を振りかざす俺の方が、だろ。
何が――いない方がいい、だ。
そんなの、言っちゃだめだろ。
仮にそうだったとしても、仮に誰もがそう思っても、俺だけは言っちゃだめだろ。
「本当に……嫌になるな」
散々御託を並べても、その本質は自分の醜さだ。
ただ俺は、いるかいないかも分からない“ソラ”って奴に、自分を重ねただけだ。泣きながらこちらを見る白に、小町を重ねただけだ。
さっき言った全ては、ただの自己嫌悪。
あいつは、あいつらは何も悪くない。
「けどこれで、白は“ソラ”を疑わない」
あれだけ言われても、彼女は“彼”を信じた。なら、もう白が“ソラ”を、その存在を疑うことはないだろう。
「なんて、言い訳してる自分がいるんだよな……」
つくづく嫌になりそうだ。
年端もいかない少女を泣かせて、それでも俺に罪はないと?
笑わせる。
俺は、とっくに嫌な奴だろ。
『あなたのそのやり方……とても嫌い……』
『人のこと、ちゃんと考えてよ』
耳に、心に、頭に響く彼女らの声、言葉。
あれから俺は、何も変わっていない。
そんなの、今更だ。
俺にはこんな方法しかないし、こんな方法しか知らない。
だからまずは
「……なにしよう……」
こんな方法しかできない俺は、何をすればいいのか……
短いですねぇ。
別に怠惰じゃないですよ?ほんとですよ?
話の流れ的にここで区切らないと、延々と続いてしまうんです。
本当にすみません、次回に期待を…し過ぎない程度にお願いします。
それとかなりどうでもいいことですが、小説情報を少し直しました。
まぁ気にしなくていいです。
感想、誤字報告、お待ちしております。
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