ノーゲーム・俺ガイル   作:江波界司

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やっはろー
どうも。
優しい女の子に会ったことすらない、江波界司です。
わかると思います、ネタ切れです。
どうでもいいですね。
それでは本編です、とエバはただ真実を告げます。


彼は答えを求め何かに手を伸ばす

 出会いを偶然とするなら、人間関係は必然となる。

 出会いを運命とするなら、人間関係は課題となる。

 もしも会うことに何かしらの理由をつけるなら、その後の関係は自分自身の努力が結果を決める。

 良い人間関係とは、互いに不可侵な領域を設定し、それを守ることである。ならばそこには他人も友人も大差はない。

 つまり人間関係とは、互いに騙し合う関係なのだ。

 お前は友だち、お前は他人。そうやって個人の中での優先順位を、しかしバレないようにしながら、ぶつからないようにしながら共にいる事が、一般的な対人関係だ。

 なれば、そこに確かな信頼関係をつくるにはどうすればいいか。

 互いに信じ合える部分を見つけ、それを認めてやることだ。

 端的に言って、相手を知ればいい。

 もちろん、知ったからといってどうこうなる問題ではないこともある。だが、知っているからこそどうにかなることも多くある。

 もしぶつかり合いになるならそもそも近付かなければいいし、ならないならそのままでいい。

 そのどちらも相手を知っていることで初めて分かることなのだ。

 つまり相手を知ることが、信頼を生む。

 

「と、ここまでは……まぁ分かる」

 

 しかしだ。どうしてこうなった?

 

「何か不満でも?」

「なんで俺まで風呂場にいるんだよ」

 

 突拍子もなくてすまない。

 俺は今風呂場にいる。それも湯船でも洗面台の前でもなく、一枚の衝立を隔てた浴場にだ。

 そしてその衝立の向こう側からは

 

「クラミーって、着痩せするタイプだったんですのね」

「まぁね」

「……ジブリール……シャンプー……」

「はいっマスター」

「……でも、触っちゃ、だめ……」

「そんなぁ」

「クラミー、やっぱりこういうのは礼儀が良くないのですよ〜」

「なっ!」

「さっきも空さんにバレていたのですよ〜」

 

 何故か女性陣が入浴を楽しんでいる。

 なにこれ覗き?いや断じて覗いていない。

「なんでこうなった?」

「前に言ったろ?仲間が増えたら風呂入るって」

「百歩譲ってそれはいい。なんで俺がここにいるんだ」

 白と空は本来離れられない。だからこそ空がここにいるのは納得がいく。

 しかし俺はどうだ。

 ついさっきまでクラミーとのアレこれについて散々嫌疑を掛けられたばっかりの俺だぞ。

「親睦を深めるって言ったろ?だからお前に抜けられちゃ意味がない」

 大丈夫だと思いますが?

 別に俺がいなくても東部連合戦には響かないだろうし。

 そんな事を思っていると、あちら側から会話が聞こえて来る。

 もちろん勝手にだよ?聞き耳立ててるわけじゃないよ?

 ハチマンウソツカナイ。

 

「そう言えば、どうしてシロはビンタしてハチを許したんですの?」

「なるほど、あの男にはビンタ程度では足りなかったと」

「そんな事言ってないですのよっ!?」

「……はち、あの時叩けた……だから、許した」

「どういうことですの?」

「つまりあの時、あの男に叩かれる覚悟と了承がなければ、マスターは盟約によって叩くことは出来なかった。それが出来たということは、あの男に反省の色があった、ということでしょうか」

「……そう、いうこと……」

「なるほどですの」

 

 今更言われると恥ずかしいな。

 ぶっちゃけ白に何かしらされてもしょうがないとは思ってただけなんだが、それが盟約の裏をかけたってことか。

 暴力を禁じる。しかし相手の了承を得れば大丈夫ということだ。

「そんなことあったのか八」

「まぁいろいろあったんだよ」

 こいつにも、謝っといた方がいいのか。

 しかしさっきやられたこと考えると気が進まんな。

「八、俺も一個聞いていいか?」

「なんだ?」

 さっきとは違い、ややシリアスな雰囲気でこちらを向く空。

「白……大丈夫だったか?」

「……そうだったと思うか?」

「いや……」

 そう言いながら彼は俯いた。

 やはり心配だったのだろう。

 空と白は離れられない、離れちゃいけない。

 にも関わらず彼は一日彼女の前から姿を消した。

 それがどれだけ辛いことなのか、彼には分かっているのだろう。

「なら、もうすんなよ」

「……ああ、そうだな」

 そう応えた空は、何かを決した様に外していた視線を俺に向ける。

「八、やっぱ一発ぶん殴ってくれ」

「わかった、ジブリール呼んでくる」

「そーじゃなくてだなっ!?」

 驚きか恐怖か分からないが、彼は立ち上がりながらそれを拒否。

 まぁ誰でもそうする、俺でもそうする。

 ジブリールに殴られるとか死刑宣告も良いとこだしな。

「冗談だ」

「ならいいけどよ……それで、どうだ?」

 やんわりと断ったつもりだったが、未だ彼は引き下がらない。

 要は、彼は戒めが欲しいのだ。

 自分がした事に対する責任を、あるいは彼女に対する責務を自分を責めることで償いたいのだ。

 しかし、それはただの自己満足でしかない。

 痛みを伴わない教訓に意味はないとどっかのチビは言ったが、それはなにも肉体的なものだけではない。

 むしろ精神的な傷は一生かけても消えない場合だってある。

 しかし彼はとっくにその傷を負って、罪の罰を受けている。

 それでも尚彼は自分を許せていない。きっとこれは、彼が一生背負っていくものの一つだ。

 もしそれを肩代わりする必要があるなら、それは俺の役目じゃない。こいつの隣にいるべきは俺じゃない。

 だから

「空、目瞑れ」

「お、おう」

 覚悟を決めたように目を閉じる空。

 俺はそんな彼の、おでこを中指で弾いた。

 

「へ?」

 

 間抜けな声を上げて困惑する空。

 流石に笑いそうになったが、どうにか堪えた。

「何かっこつけてんだよ、どこの厨二?それともメロスなの?激怒して走ったの?なら俺も殴られるじゃねぇか」

「え?は、へ?」

「白は許したんだろ?ならいいじゃねぇか?必要以上に自分責めてもいいことねぇぞ」

 ソースは……俺。

 あの時の事を、俺は未だに引きずっている。

 何度も振り返って、何度も考えて、何度も推敲して、何度も自分が間違えたのではないかと思う。

 その度に出てくる後悔とは違う何かと、理由も分からぬ自責の念。

 そんな何の得にもならない渦の中に、空までが入る必要はない。

 彼には白がいる。今まで二人でやってきた彼らなら、これからもそうだろう。一人で悩む必要は彼にはない。

 それは俺がすべき事だ。

 俺はぼっちだ。

 だから一人でも独りでも答えを見つける。そうしなければいけない。そうでなければならない。

 自分のために。

「まぁその辺のことは白と話し合えよ。俺は知らん」

「……八、お前ツンデレかよ」

「んなわけあるか」

 男のツンデレとか誰得なんだよ。

「あー……色々と、ありがとな」

「何がだ?」

「白を助けてくれたんだろ?」

「……助けてない。白が一人で勝手に助かっただけだ」

「それは前にやったよ」

「うっせぇ」

 いや、本当に助けてない。

 俺がしたのはあくまで手伝いで、最終的に空を見つけたのは白だ。

 と、そう言えば

「なぁ空、俺も一ついいか?」

「ん?おう、なんだよ」

 彼らがやった存在を賭けたオセロ。

 最後に白が持った三つのコマは、きっと空の最重要要素。

「お前の優先順位、上から三つってなんだよ」

 そんなことかと気を落としながら空は人差し指から三本の指を立てて俺に手の平を向ける。そして指を折りながら彼は言う。

「『ゲームの勝ち方』、『白への信頼』、そんで『白の存在の全て』だよ」

 さも当然の様に言う空。しかしそれは本来異常だ。

 白もまた、空を自分の全てと表現した。普通誰かを自分より優先して生きることは出来ない。皆心のどこかには自己中心的な思想や思考があるから。

 しかしこの二人にはそれが無い。

 俺は彼らを絶対的信頼があると表現したが、そこには“異常なまでの”という修飾が入る。

「そりゃ勝つわな」

「だろ?」

 彼らは異常だ。そしてここにいる奴ら全員が異常だ。

 奴隷というのがどんなもので、どんなことを思うのか俺は知らない。しかしそんな中でも人類種(イマニティ)の未来を考えて戦うクラミー。

 そしてそんな彼女を支え、主でありながら幼馴染として彼女と接するフィー。

 知識を求めながら、更にその先にある見つかるかも分からない『答え』を探し続けるジブリール。

 こんなとんでも連中と一緒にいながら、純粋な人類種(イマニティ)の代表として尚もアホの子なのに行動を共にしているステフ。

 そして……『  』(最強)と同じくこの世界に呼ばれた異分子のぼっち(最弱)

 エルキア王国陣営は異質さと異常さを極めた集団。だが、だからこそ神を撃つ事すらなんの躊躇もない。

 だとしたら……

 

「もう一人……いるんだよなぁ」

 

 異常者に成りうる、いや現在進行形で異常な奴が。

「どした?」

「何でもねぇ。いや……なぁ、さっきのお礼の代わりってわけじゃないが、ちょっといいか?」

「なんだよ?」

 少しやりたい事が出来た。

 となればだ。

「とその前に、ステフー?」

「へ?な、なんですのー?」

「東部連合に手紙出したいんだが?」

「えっと、構いませんが、全然取り合って貰えなかったですの……」

 後半聞こえねぇよ。まぁ離れてるし仕方ないか。

 でなに?取り合って貰えなかった?

「じゃあ仕方ねぇか。空」

「おう」

 

「――ジブリール貸してくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 入浴という名の懇親会も終了し、クラミーとフィーは帰って行った。

 俺はジブリールに頼んで、ある手紙を東部連合に出しに行って貰っている。

「そう言えば正式なアポ取れって言ってたなぁ、あの爺さん」

「そうなのか」

 全然聞いてなかった。

 まぁその事は後でだな。俺たちは絶賛作戦会議タイムだ。

 と言っても

「実際にやってるのは白だけだし、その兄に関しては……」

「おい、なに変態を見るような目でこっち見てんだよ。入浴動画だぞ?しかも全員が超の付く美少女っ!確認しないわけがないだろっ!」

「分かったから。だから見つけた『翼』無駄にしないようにもうちょっと慎み持とうな?」

「おまっ――クラミーの奴〜っ!」

 なんか帰る前にクラミーが翼だの、飛べるのかだの、戸部るかだの言ってたからな。きっと空の黒歴史だろう。あ、戸部は関係ないわ。てか誰?

 と、そこで部屋の隅に風を僅かに感じた。

 その方向を見ると、なるほどジブリールの転移が理由の様だ。

「ただいま帰りましたマスター」

「おかえり。んで?何してきたの?」

「空には言ってなかったっけ?ちょっと郵便をな」

天翼種(フリューゲル)を配達に使うとかどんな神経してんだよ八」

「その扱い方についてはお前に言われたくないな」

「この男の言いなりになるのは自害も考えるほど屈辱的でしたが、マスターの命令とあらばどこまでも」

 手紙を届けてくれるのか。流石のヤギさんでもこいつから手紙渡されたら読まずに食えなそう。理由は、主に恐怖で。

「で、どうだった?」

「はい、明日午後から時間があると」

「分かった」

「だからなんなんだよ」

「こっちの話だ。気にしなくていいし、何も害はねぇよ」

 そう、これは俺が勝手にすることであって、誰かに言う必要はなく、誰かが気にすることでもない。

 それに空は国王様だ。もしこいつに言ったら、全ての責任が空に移ってしまう。それは避けるべきだ。

 これは俺の独断専行、誰も悪くない。仮に代表者を出すなら、それは俺だ。

 

 

 

 

 

 

 ジブリールの郵便が東部連合を訪れた次の日。昼食もそこそこに俺は外出の準備をする。

 そして窓から出口を眺めると

「なんであんな事するのかと今の今まで思っていたが、まさかされる側になって知ることになるとは……」

 城の前には集まった大衆、上げられる罵声、固まった団結が伺える。

 そりゃ自分の人権賭けられたらキレるわな。

 まぁハナから出口を使う気はなかった。なにせお忍びだし。

「ジブリール」

「ハァ……何故私がこんな男と……」

「いや、流石にそろそろ割り切って貰いたいんだけど」

「マスターの命令とはいえ、まさか森精種(エルフ)に頭を下げる以上の醜態を晒すことになるとは……」

「俺に同行するのが足舐めて相手を様付けしながら謝罪するより下とか、流石に傷付くぞ」

「ここまで言われてようやく傷付く程度とは。驚きを通り越して呆れますね」

「尊敬しないか?通り越したら普通」

「私が尊敬するのはマスターと認めた方だけです」

「いっそ清々しいな」

「恐れ入ります」

「褒めてないんだよなぁ」

 俺はジブリールの転移で一気に目的地まで行く予定だ。

 ただここまで言われると他の方法がないかと考えたくもなる。しかしこれが一番効率的なんだから仕方ない。

 それにしても、とジブリールは一言を零した。

「これから行く目的はなんなのでしょう?」

 彼女の問う目には敵意や懐疑といった、およそ身内に向けるものではない色が見えた。

 え?身内じゃない?マジかー。

 こいつなら本当に言いそうだからきついな。

「安心しろ、『  』(あいつら)に害はない」

「私があなたを信じると?」

「そこまで自信過剰な自意識は持ち合わせてねぇ」

 けど、と俺は続ける。

 彼女にはこれだけで伝わるはずだと、我ながら笑ってしまうような確信を持ちながら。

 

「俺は、裏切らねぇ」

 

 この言葉の本当の意味が伝わったかを確かめる事はしない。

 ジブリールは一度目を閉じて俯き、またこちらを向く。

「……では、そろそろよろしいでしょうか?」

「いやモタモタしてたのお前のせいだからね?」

「よろしいでしょうか?」

 怖いから。

 なんで二回目は笑顔?見慣れたのに慣れないわ、その笑顔。

 あと目から光が消えたんだけど。ハイライトさーん?仕事してー?

 そんな心中が伝わるもなく、俺は一つため息をついてから頷く。

 では、というセリフとともに俺の見ている風景がまた一瞬で切り替わる。

 目の前には大きな赤い鳥居。その先には現代的な技術と歴史的な造形を含んだ背の高い建造物。

 俺が用があるのはここの主、そして東部連合一番のお偉いさん。

 すなわち『巫女』。

 明らかに幹部無視してボスに殴り込みする流れだが、まぁ気にしない。

 俺は喧嘩をしに来たわけでも、ましてやゲームをしに来たわけでもない。

 さし当たっては、こんなセリフで表してみようか。

 

「さぁ、交渉を始めよう」

「マスターの真似でしたら不快なので早々にやめてください」

 

 Oh……台無し。

 

 

 

 

 




ようやく来ましたオリ展開。
八幡がグダグダしてることが多いのでなかなか進まない……
そして次回はいきなり巫女さんが登場っ!
最近フィーとステフの口調が書きずらくて仕方なかったんですよねぇ。
どうでもいいただの愚痴です。
感想、考察、誤字報告お待ちしております。

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