ノーゲーム・俺ガイル   作:江波界司

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どうも。
最近無気力気味、江波界司です。
特に書くこともないです。
本編です。


彼らの激闘はようやく決着が訪れる

 さて、想像してみよう。本当に空から美少女が落ちてきたら。

 ある男の子なら「親方!空から女の子が!」と言えば大体解決する。しかしこれは単に少女になんの特異性もないからだ。確かに空から落ちてくる以上の異常性はなかなかないが、その上でのイレギュラーがないのだ。

 逆説的に、落ちてくる少女にイレギュラーがある場合、下にいる俺はどうすればいいのだろうか。

 

「逃がさねぇ、です!」

 

 20階程のビルの屋上から落下中、俺より後にダイビングしたいづなは何故か凄まじい速度で迫ってくる。

 現在いづなは『血壊』と呼ばれる獣人種(ワービースト)の希少個体がもつ、物理学ガン無視の超身体能力向上のスキルを使っている。当然何もない空中ですら加速が可能なのだろう。

 いづなは俺に銃口を向け、狙いを定める。空中で自由の効かない俺になら、たとえ落下しながらだろうと外しはしないだろう。

 だからこそ、手もある。

 放たれる弾丸は桃色の残像をつくりながら俺の頭部へ向かう。俺も弾丸を放ち、それを相殺。僅かに傾きながらぶつかり合った二つの弾丸は俺にもいづなにも向かわず彼方へと飛ぶ。

 予想外だったのか、いづなは再び銃を構え直してトリガーを、複数回引く。

 いくら何でも三発を捌ききる技量は俺にはない。

 しかし俺の隣には壁を蹴りながら加速と共に落下してきた彼女がいる。

 

「ジブリ――ぐふっ」

 

 助けを求めるより早く、俺の腹部に鈍い痛みが広がる。微かに見えたのは俺を横薙ぎの蹴りを入れるジブリールの姿があった。

 天翼種(フリューゲル)の蹴りを腹にくらい、その威力が俺の体を後方に飛ばす。その勢いはガラス窓をぶち破る程だった。

 ビルの窓を割りながら俺は屋内に強制避難する。

 かなり手加減したんだろうけど、あいつ名前呼び切る前に蹴りやがったぞ。

 窓の狭い視界で丸い弾が飛び交い、やがていづなが通過した。それを見届けた俺の目には、今写って欲しくないものが写ってしまった。

 向かいのビル、距離は500mはあるだろうか。その屋上から飛び降りる影が二つ。俺が今いるビルより高いその落下距離を、二人は着弾のエフェクトと共に落ちてゆく。

 これはまずい。

 今のは白を撃ったものだろう。ならば、一定時間動けない。いくら何でも空一人で『血壊』を使ったいづなを撃破するのは不可能だ。

 いづながジブリールとの決着をつけることに固執することに賭けたが、やはりそれは叶わない。

 先程下に向かったいづなは窓の視界を通過して上昇した。

 今から俺がビルを降りても間に合わない。ここらかの狙撃も彼女には当たらないだろう。

「ジブリールは!?」

 窓から頭を出した俺は、彼女を見つける。

 いづなに既に撃たれていた彼女は意識を失いながら地面へと向かっている。ジブリールに向かって俺が撃った弾丸は躱されることなくヒットした。

「さてと、どうするか」

 一択しかない選択肢に迷いながらも、俺は両手で安定さを重視しながら銃を構える。

 

 

 

 

 

 

 

 ―other side―

 

 

 

 いづなの耳に届いた声はジブリールへの着弾を確認したのとほぼ同時だった。

 隣のビルでは空と白が自由落下のなか抱き合っている。極限まで広がった視界の端で桃色のエフェクトを捉えた。

 今、白は動けない。空も体勢が悪く、迎撃は難しい。

「やれる、です」

 足場のない空中で二段目の跳躍を決めたいづなは空と白よりさらに高く舞うと、一瞬の後に彼らの真上に移動する。

 存在こそ知ってはいるものの、初の『血壊』のビジュアルと威圧感は、自然に空の目線を引き寄せる。

「終わり、です」

 空の額へと狙いを定め、引かれるトリガー。ビル街に三発の発砲音が響いた。

 放たれた二発の弾丸は、初撃がいづなの弾の軌道を逸らし、本命の二発目がいづなへと向かう。

 構えすら見せていない空、にも関わらず放たれた銃弾、そしていづなの目に写ったものはもう一つ――こちらに銃口を向けた白だった。

 当たりえない迎撃、ありえない反撃、完全に虚を突かれた者なら反応すらできない。だが――研ぎ澄まされたいづなの感覚は、その不可能性さえ凌駕した。

 正確に額を狙った弾丸を最小限の首の動きで躱す。今のいづなは何故白が動けたのか、そんなことすら考えていない。ただ勝利を目指して、ただ敵を撃ち抜き全滅させることだけを見ている。

 

「おもしれぇ、です」

 

 無意識下での彼女の笑顔を見たのは空と白。そして今まさに引き金を引く八幡だった。

 

 

 

 

「馬鹿なっ!」

 白の反撃に驚いたのはいづなだけではなく、むしろ会場中にどよめきがおきていた。想定外であり予想外、計算外であり戦略外の行動にいのは思わず声を上げる。

 ゲームマスターとして監視していた彼は間違いなく白に弾を当てたエフェクトを確認した。しかし硬直時間を無視した白の動きは説明出来ない。

 頭を巡る可能性と今までの彼らの行動。そこから導き出した答えはあまりにも滑稽で、あまりにも荒唐無稽で、あまりにも無謀故に驚愕するものだった。

 いづなが撃った弾丸。それを白はボタンで着弾を偽装した。つまり最初から白は寝返っていなかった。そして今、ワイシャツしか着ていない白の姿が示すそれは。

 

「まさかっ、本当にパンツだけを撃ち抜いたのかぁ!?」

 

 画面に両手を貼り付けながら叫ぶいの。その理由は空が行った高等技術にだけではない。今まさにいづなへと向かう弾丸を、しかし彼女は首の動きだけで躱している。

「いずなぁ!」

 監視の目が捉えたソレを伝えるべく、いのは音量に気を配ることすら忘れて叫んだ。

 

 

 

 

 

 耳に響く祖父の声、いづなは超感覚とすら言えるほどの五感でその緊急性と危険性を感じ取った。

 

「狙い撃つぜ」

 

 左方向から聞こえた男の声は今起こる現象を端的に表していた。

 彼方から聞こえる発砲音がいづなへ向けられたものだと疑う必要はない。放たれた銃弾を目視するためにいづなはその視線を左へと向ける。僅かに見えた銃弾は間違いなくいづなを狙っていた。

 迎撃を狙ういづなは、右手に握られた銃を弾に向けるより先にもう一つの発射音を聞いた。

 右へと視界を向け、白が放った弾丸を見つける。いづなの撃破を狙いながらも、八幡の弾からの回避手段を奪う一撃。白が撃った非情で正確無比な一撃をいづなは、白たちに距離を詰めるという方法で無力化した。

 自分へと向かう正面の弾丸は右頬を掠ることなく通過し、八幡が狙った場所にもう彼女の姿はない。

(もらった、です)

 リーダー格であり脅威である二人を撃破出来れば残るはジブリールと八幡だけ。ついさっき短時間ながらもジブリールを倒せたことを考えても、残った二人が相手でも問題はない。

 つまり事実上、この二撃がゲームを決める。

 

「いづな……」

 

 しかし、追い詰められたはずの空は――不敵に笑う。

 

「あんまり……俺の妹、舐めんなよ」

 

 空が呟き、彼女は思い出す。彼らには、油断したら負けると。

 後方から聞こえる跳弾性の高いもの同士がぶつかり合う衝撃音。通常時とは比べてのもにならない程の速度で機能するいづなの脳は、その音から白の狙い、起こした行動と現象を間接的に理解した。

 緊急回避――それしかないといづなは刹那の間にそう結論付けた。今は力の制限も調整もする余裕はない。彼女は全力で空中を蹴る。その反作用がいづなを後方へ飛ばし、空と白が視認できる範囲から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 高まり、急かし、収まりのつかない呼吸を荒く続けるいづな。既に『血壊』は解除し、体には反動の疲労と重みが重なるようにのしかかる。

「あと……1回……です」

 いや正確には1回にも満たないだろう。いづなは自分の残りの力から『血壊』が使える時間を推測する。

 もって、10秒。それが彼女に残された時間だった。

 痺れる手足、震える四肢、鎮まらぬ心臓を認識しながらも、彼女は右手の銃を強く握る。さっきのは油断の産物、自業自得の結果。ならば、もう気は抜かない。あの四人を倒しきる瞬間まで。

 強く誓った彼女の目はまさしく獣の様に、視界にすらいない獲物を見据えていた。

 

 

 

 ―other side out―

 

 

 

 

 

 

 

「無事か?」

「まぁなんとか」

 白の機転ですらいづなを仕留め損ねた俺たち四人は合流し、最終決戦に向けた作戦会議を始める。いづなもそろそろ切羽詰まり、最後に仕掛けてくるはずだ。

「奥の手出したんだ、攻めてこないわけないな」

 空も同じ結論を出したようで、四人は顔を見合わせる。

「ちなみに空、作戦は?」

「ある分にはある。けどそれには八の協力がいる」

 俺に出来ることなんざ限られてるし、そもそも中役を担える程技量はない。だがあの空が必要だと言うなら、恐らく俺にでも出来ることだし、必要なことだ。俺は了解とだけ答える。

 作戦の全貌を俺とジブリール(一応白にもか)に伝えた空は、最後に白に言った。

「時間を合わせたい。白、タイミングで俺の名前を呼べ」

 こくっ、と頷く白を見て、四人は動き出す。これが、恐らくこのゲームの決着になる。

 

 

 

 

 

 

 開けた十字路、大通りの道に沿っていくつもの小道に分かれるその中心に俺たちはいる。右から、空、白、俺、ジブリールの順で固まり、背中合わせに銃を構える。それぞれが正面を見張り、ありえない程の静寂と沈黙が辺りを包んでいた。

 臨戦態勢のなか、しかしいづなは姿を見せない。あからさまな受け身の態勢、当然簡単には攻めては来ないだろう。だが、いづなは必ず来る。それを確信した四人は一時足りとも気を抜かず、ただ精神を研ぎ澄ます。

「……にぃ!」

 響く白の声は呼ばれた本人だけにとどまらず、俺とジブリールも一層集中力を高める。だが決して振り向かない。白が見つけたいづなの影を見ることもなく、ただ正面にだけ目を向ける。

 しかし、それでも俺が反応するには遅すぎた。

 辛うじて目で捉えた赤いオーラを纏ういづな。こちらに向けた銃からは既に弾丸が放たれている。――当たる。直感し反射行動すら取れぬ俺の目の前には、ジブリールの背中があった。

 いづなの放った銃弾は見えずとも、音とエフェクトがその着弾を告げる。意識的に握った銃を動かし、俺は引き金を引いた。

 既に前にはいづなはいない。高速移動の残像と衝撃が、その場に残るだけだ。瞬間、耳に届く摩擦音。背中越しに感じ取った殺気を確かめるべく、俺は振り向く。

 俺の視線の先、空と白の間の延長線上に立つ少女。握られた銃から飛ぶ二発の銃弾。ようやく視認し、態勢を整えようとするまさにその瞬間。

「……そら!」

 叫んだ白の声とコンマ単位の誤差で告げられた着弾音。桃色のエフェクトと共に二人が後ろに倒れる。偽装も誤魔化しもできない正確なヘッドショット。完全に『   』(空白)は戦闘不能となった。

 残された俺には今更逃げる手段もない。互いに向けあった銃のトリガーは引かれ、丁度中間地点でそれらはぶつかり合い弾ける。――だが。

「二発目っ!?」

 目視したそれに反応することはできない。こぼした言葉を最後に、俺の意識はブラックアウトする。

 

 

 

 

 

 

 

 ―other side―

 

 

 

 

 無意識にしゃがみ込んだ。体に浮き出た赤い文様はもう無く、使い切った時間と体力をいづなは自覚した。

 目の前にいるのは横たわる四人。それぞれからは敵意を感じず、力なく倒れ込む様は無防備と言う他ない。

「終わった、です」

 自然に出た言葉に、ようやく彼女は現状を理解した。終わった、勝ったのだ。その事実がいづなの体に残る疲労すら快感に変える。死力を、全力を出し尽くしてゲームに勝った喜びと達成感が、今なお動かせぬ体で飛び跳ねんばかりに心を踊らせる。

 

「ええ、これで“終わり”です」

 

 そんな彼女の鼓膜が捉えた振動は、天翼種(フリューゲル)の、ジブリールの声そのものだった。

 疲弊しきった全身で感じるほとばしる殺気。数秒前まで倒れていた彼女は立ち上がりこちらに狙いを定めている。

 回避しろ。そんな脳の指示を体は拒絶する。

(動けねぇ、です)

 体力は使い切った。『血壊』どころかもう一回の跳躍すらできるスタミナは残っていない。だが、それでも彼女は抗いをやめない。痺れ、震える右手を上げ、迎撃のための銃を構える。何故ジブリールが立っているのか、何故銃を構えられているのか、そんな事を考えているエネルギーすら惜しい。今体に残る全てを懸けていづなはトリガーに指を据える。

 そして、人差し指に伝わった信号がやがて動きに変わり、今引き金を引く。

 その瞬間、左に感じる今までにない重み。すなわち、物理的な圧力。

 それを感じながらもいづなはトリガーを引く。たとえ何が起きても、ジブリールを撃ち抜けば勝てる。正確に額を狙った桃色の弾丸が――放たれることはなかった。

「なんで、で……」

 ジブリールが放った弾丸がいづなを撃ち抜いた瞬間、彼女は意識を失う。

 

 

 

 

 ―other side out―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




更新遅くなりました。
なんか最近やる気が出なくてですね。
まぁそれ以前に忙しいのもありますが。
感想、誤字報告よろしくお願いします。

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