ノーゲーム・俺ガイル   作:江波界司

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どうも。
シャーマンキングの方にハマりそう、江波界司です。
すいすい進む、と言うほどすすんではないですがやっぱり書いてると楽しいです。
本編です。


彼女は解放され彼は再び訪れる

 途切れた意識の再生。点滅するライトの光を、徐々に明るく繋げるような感覚だ。視覚の光と聴覚の音が、その作業の工程を省くように促す。響く歓声、差し込む日差し。長い時間の中で行われたゲームはようやく終わりを告げたのだと、まだ覚醒しない意識の中で俺は確信する。

 

 

 

 

「勝者、エルキア陣営」

 いのの一言に観客は沸き返り、立ち上がった空と白にも笑みが見える。

「何が……どうなってんだ、です」

 ジブリールもいつもの微笑を浮かべる中、唯一この場で表情の強ばったいづなは声を漏らす。当然彼女には最後の数秒、一体何が起こったのか分かっていないのだろう。

「空、説明してやれよ」

「んーそうだな。爺さ〜ん、あんたらの敗因を教えてやるよぉ?」

 挑発的な声に呼ばれたいのはデジタルの画面越しに姿を見せる。恐らく彼はその場を見ていただろう。だが全ては理解できないはずだ。たとえ監視していても見れない、俺たちの心の中までは。

「さて、じゃあまずは、いづなたんを倒した方法から」

 言った空は両手を広げて、左の指を三本折る。その結果伸ばされたままの七本の指をいづなに見せながら、彼は言う。

「七秒、それがこのゲームの決着だ」

 

 

 

 

 

 少し過去を振り返ることになる。

 俺は当初、いづなのスタミナ切れを狙っていた。こちらは四人で、相手は一人。たとえ技量で負けていても、トータルのスタミナならこちらが上だ。それに、仲間を取り戻せるこのゲームなら半永久的に戦うことも出来る。

 だが思考を深めた結果、その案の不可能性が見えてきた。まずこちらの要因。四人の内二人がニートで、俺もランニングを最近している程度の体力ということ。獣人種(ワービースト)のいづなは当然人間離れした体力を持っているはずで、機動力を使ったスタミナ削りはできない。

 次にあちらの要因、これが問題だった。いづなはかつてジブリールを倒している。物理限界に設定された身体能力のジブリールを単独で倒した。つまりゲーム開始の時点でいづなは物理限界を超える『血壊』を使えるとわかっていた。そんなとんでもチートがある以上、俺の策は使えない。

 そう考えた俺は空たちに任せる道を選んだ。俺は時間稼ぎに徹し、空と白がいづなを倒すための作戦を考える手助けをした。それがあのビルでの一対一だ。

 空たちと分かれた俺は、すぐにビルを見つけてガラスを割る。そこら辺の棒を使って割ったガラス片を、今度は道に散りばめる。視界の広い入口は広く散らせたが、後は誘導したいルートにそって配置する。

 ガラスを使う理由は大きく三つ。いづなの足音を大きくすること、いづながルート通りに来ているかを確認すること、そして照明の光を増強させることだ。

 その作戦は概ね成功し、俺はいづなをあと一歩の所まで追い詰めながらも時間稼ぎという目標を達成した。だが、そこに違和感があった。空たち三人が連携して攻めた時、そしてこの作戦のとき。危なくなりながらもいづなはその場を凌いだ。それがおかしい。

 たとえば空たちとの攻防の時。近くには白とジブリールがいて、空の位置も掴めていた。いづなが『血壊』を使えば少なくとも二人、上手く行けば三人を倒すチャンスだった。俺の時だって、時間稼ぎが見え見えの策にわざわざ乗らず、一瞬で仕留めることもできたのだ。

 ここまで、俺はある仮定を得た。いづなの切り札(チート)には、使用を躊躇う程の欠点がある。

 

 

 

 

 その事を踏まえ、合流して作戦会議をしていた時の話になる。

 空が提示した作戦、その狙いはいづなのLOVEパワー、つまり銃のエネルギーの枯渇だった。ジブリール、そこから俺とジブリールの二人、そして空と白と、いづなは連続で勝負し続け残弾数もかなり減っているはずだと彼はいった。

「そこでだ、俺はいづなのLOVEパワーを削る作戦をたてた」

 いのといづな、そして観衆全員に説明するように彼は言った。

「なぁ爺さん?NPCがする二つの行動は理解してるか?」

 ゲームを作ったであろう人物に聞く空。無言のままのいのを見て空は続ける。

「“規則的な巡回”と“近いプレイヤーを捕まえる”って命令に、あいつらは従ってんだよ」

 公園で白が砂に書いていた膨大な数式。あれらはNPCの行動パターンを計算したものだった。それを空の作戦に組み込み、いづなを誘導してエネルギーを枯渇させる。それにより事実的なゲームオーバーを狙うのが空たちの策だった。

「けどこれだけじゃいづなは釣れない。仮に俺と白を囮に使っても爺さんに気付かれちまうしな」

 殺気も足音もないNPCであれど、多角的な視線から見られれば流石にバレてしまう。つまりここで全員が集中してしまう程のミスディレクションが必要だった。

「と、そこで八の登場だ」

 わざとらしい動きで俺に視線を集めさせる空。だが俺がしたのはそこまですごいこと、それこそ白や空が行った高等技術じゃない。

「ジブリールが撃たれた後、すぐに俺の弾でジブリールの陣営を上書きしたんだよ」

 それにより五秒の行動不能の後、彼女はゲームに復帰したのだ。

「だから立てた、です」

「そういうことだよ、いづなたん。ちなみに、二回目の白のセリフ。“にぃ”ではなく“そら”と俺を呼んだ。あれはNPCが5秒後にいづなを捉えるって合図なんだよ」

 そこから逆算して時間稼ぎと視線誘導をした二人。あの完璧なヘッドショット、いやここに至るまでの全てが布石となったのだ。

「後はご想像の通りだよ」

 俺の予想通り、『血壊』は体力を大きく使う。それをかなりの時間使い続けたいづなのスタミナは、恐らく最後の襲撃の時点で殆どガス欠だったはずだ。そして避けることも逃げることもできない中、ジブリールが殺気を出しながら立ち上がる。当然ありえない現象を前にして誰もがそこに集中してしまうだろう。だからこそ、いづなもいのも接近するNPCには気付かなかった。

「体力もエネルギーも使い切り、いづなたんは正真正銘全てを使い切って、負けた」

 一秒、ジブリールが撃たれる。

 二秒、移動したいづなが空たちにトリガーを引き、白が叫ぶ。

 三秒、空たちが撃たれ、俺といづなの一騎討ちとなる。

 四秒、撃たれた俺が倒れ、いづなは体力を使い切る。

 五秒、疲れきったいづなは、倒れる俺たちを見て油断した。

 六秒、静寂のなか、ジブリールが彼女に殺気をぶつける。

 七秒、抗ういづなをNPCが捕らえる。

 これが、このゲームの最後に起こった全てた。

「分かったか爺さん?あんたらの敗因」

 いづなの油断、いのの指示のミス、予想外の奇策。その要因は少なくない。にも関わらず空は言う。当たり前のように、何かを自慢するように。

 

「あんたらの敗因は、八を最後まで舐めてたことだ」

 

 ……は?

「いやいやいや、何言ってんだ空」

「ん?当然のことだろ」

 なんでこれだけの戦いをした結論が俺を舐めてたになる。いやそうもしれないが、それが一番じゃないだろ。

「最初っから最後まで、爺さんは八を警戒しきっていなかったんだよ」

 確かにそれは分かる。仮に俺をジブリールや空、白のように警戒していたら、俺がビルに入った時点でいづなに何らかの指示が入るはずだ。その素振りがなかっからかこそ、俺の誘導は成功したと言える。

「けどそりゃ……」

「ああ、そう仕向けた感じもあるなぁ」

 ゲーム開始時、俺がゲームに参加することすら聞いてない状態だった。当然驚きと抵抗を見せ、作戦だの何だのを持っているようには見えなかっただろう。実際持ってなかったし。

「けどその事も踏まえて、あっちは八を舐めてた」

 そんなことは関係ないと空は言う。それはあくまで結果論だ。しかし結果が出た以上、その要因は敗因になりうる。

『  』(空白)と同等の八、俺達と引き分けた男を無視して俺たちと戦ったのが、そもそもの敗因なんだよ」

 誤解もある、語弊もある。だが勝ったという事実がそれらを押し退けて、力ずくで現実になる。世論とは多数決で決まり、今ここにいる俺一人と、この現状を見守る大衆とでは、どちらがその意見を採用するかは考えるまでもない。

「八は、空たちに負けねぇのか、です?」

 勝負に負け、ゲームに負け、今両膝を着いている彼女は、目を輝かせながらこちらを見ている。そこには大粒の涙と、新しい希望を見るような、ともすれば美しいとさえ思える純粋な女の子の表情があった。

「ああ、八は俺たちと同じくらい強いぜ?」

「なら……八なら、空たちを止めれる、です?」

「止める?」

 彼女が言うこと。それはあの時俺がいづなに言った約束にすらならない宣言。いやそんなかっこいいものではなく、ただの負けるための言い訳。彼女が負けていい免罪符だ。

「空たちが皆を不幸にする時は、八が空を止める、です」

 キョトンという擬音が似合う表情の空は、だがすぐに声を上げて笑う。

「……大丈夫、だよ……いづなたん」

「ああ、誰も不幸になんないから」

「え?」

 そばに駆け寄り耳うちで何かを話す空。それを聞いたいづなは涙と共に笑顔をつくる。

「な?」

「よかった、です」

 俺には何が何だが分からないが、何はともあれ、彼らと彼女は和解したのだ。それは彼女にとって大きな進歩で、成長で、彼女がようやく一人の純粋な女の子として生きるためのきっかけ(トリガー)となる。

 満面の笑みを浮かべるいづなを見て、俺はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲームが終わり、俺はようやく現実へと戻ってくる。最も意識の中で行われたあのゲームも現実といえば現実だが、目を開けた俺が座っている機械的な椅子の方がやはりリアルと言うにふさわしいと思う。

 椅子を降り、巨大なガラスの先を眺める。未だ歓喜に沸く大衆の中、一人で立っていたクラミーは終わりを見届けた様に去ってゆく。フィーの姿はないが、彼女が言っていた通り視界共有などでフィーもこのゲームを見ていたはずだ。

「空」

「ん?どうしたいづなたん」

 同じく椅子の上から降りた空にいづなは駆け寄り言う。まだ何かを悩んでいるような顔をしているが、そこに悪意や邪悪と表現するような感情は見えない。

 

「楽しかった、です」

「おう、俺も、俺たちもだよ」

 

 ゲームを楽しむことを知り、ゲームで楽しめる相手を知ったいづなは歳相応の笑顔で空に向かう。そして彼もまた、仲間を見つけたかのように笑いながらそれに答える。

 俺の世界では、ゲーマーやニートが理解を得られる機会は少ない。だからこそそういった者達は社会というものに不信を覚える。しかしその一方で、彼らは同じ境遇にある者、同じ思想を持つ者、同じゲーマーを理解してやれる。それは友達のように曖昧な関係ではなく、互いを理解し合える仲間と呼べるものではないだろうか。ならば今空と白、いづなは本当の意味で仲間となったのではないか。相手を知り、理解できるからこそ信じられる、信頼できる仲間に。

「比企谷殿」

 この世界で苗字を呼ばれたのは驚きだ。振り向いたそこにはいのがいる。

「なんだ」

「これを」

 白髪の老人が差し出したのは一枚の封筒。丁寧に人類種(イマニティ)語で書かれた手紙だった。

 封を切り、すぐに俺はそれを広げて読む。決して長くないそれは、端的に要件を伝えるものだった。

 

『あんたとあての仲やけど、

 てがみってのもなかなかおつやろ?

 のろのろ続けるのもあれやし、

 とにかく要件だけ言っとくわ。

 こっちにも事情があるから早めに頼みたいね。

 へんじ待っとるよ。』

 

 わざわざ遠回しに伝える辺り、あの人もイタズラ好きなのだろうと場違いなことを思う。

「空、用事ができた」

 俺は手紙を空に渡す。受け取った彼はすぐに頷いた。

「俺も行った方がいい?」

「いや一人の方が都合がいい」

 了解と言った空はジブリールを呼んでこちらに向かわせる。

「よろしく」

「はいマスター」

「なに?お前も来んの?」

「あくまで案内人、ということにございます」

 一度手紙に目を通した彼女は俺と目を合わせることなくそう言った。まぁ帰りのこと考えるとその方が楽だな。彼女が転移の準備を始める中、やって来たステフの声が響く。

「へ!?ソラ、ハチはどこかに行きますの?」

「うん、ほい」

「手紙……で、どこへ?」

「なんで分かんねぇんだよ」

「……ステフ、アホの子」

「なっ!?」

 その会話が俺の聞けた最後のものだった。慣れた転移の感覚を味わいながら、俺は目的地へ向かう。一瞬で。

 

 




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