ノーゲーム・俺ガイル   作:江波界司

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彼女らは知り合いされど譲り合わず

「遅せぇ、です」

「その程度でしょうか」

「無茶言うな」

 同時に言った二人に悪態をつきながら、俺は真っ直ぐ続く廊下を走る。その前には天翼種(フリューゲル)獣人種(ワービースト)。追いつける気がしねぇ。

 いやそもそもだ。なぜ俺はこんなことになっている。

 東部連合とのあれこれは終わり、今はエルキア連邦として機能しようとしている。まだゲーム終了から数日しか経っていない。つまり仕事のない休みの日であるはずだ。

 なのに――

 

「どうしてこうなった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は朝の九時と言ったところだろう。空と白、俺、ジブリールのエルキア陣営と、いづなと巫女さんの元東部連合陣営は、東部連合の首都『巫鴈(かんながり)』で集合している。不在のいのとステフはエルキアの方で仕事だそうだ。

 さて、錚々たる面子が構えているのはこれから壮絶な戦いがあるから。ではなく、これからの国政についての細部を話し合うためだ。

「面倒なことはさっさと終わらせよう」

「八の方が空より強ぇ、です」

「せやね。国としてもその方がええやろ」

「あの目の腐っただけの男が性格の悪さ以外でマスターより優れている部分があると?」

「じゃあまずは、貿易関係かな?」

「空と白の二人は強ぇ、です。でも空と八のタイマンなら八が勝つ、です」

「それよりも種族同士の衝突が問題なんちゃう?」

「マスターならたとえ数段のハンディを与えても、あの男相手なら瞬殺です。むしろあの男にゲームでマスターから勝てる要因が見当たりません」

「いや、それは追々どうにかする。というかどうにかなる。時間で解決するものもあるからな」

「八は一対一でいづなとやり合った、です」

「なるほどねぇ。じゃあ先は貿易の方から行こか」

「しかしあなたを撃破するための作戦をつくったのはマスター。なればマスターこそ至高であり最強となりますね」

「ああ。けどその前に……」

「そやね」

 空と無言の白、そして巫女は同時にある一点を見る。そして声を揃えるように言った。

「うるせぇ!」

「静かにな」

「「はい(、です)」」

 固まった様に返事をして姿勢を整えたジブリールといづな。そんな二人の間には、まだ途中の将棋盤が置かれている。

 『  』(くうはく)と巫女さんが話し合いをする傍らで、彼女ら二人は将棋を指していた。普通はおかしな状況だが、これは空の提案なのだから仕方ない。

「確かにお前ら二人でゲームして親睦会しろとは言ったよ。でどうしたら言い合いの知り合い自慢大会になるんだよ。いい加減にしろ」

 空の指摘はご最もだし、俺も同意する。てかそういうのは他所でやれよ、恥ずいから。あといづなたん?事実にないことを自慢しないでね?

「しかしマスター。たとえ他種族との理解を深めようとも、我が主を侮辱されることに関しては異議を唱えざるを得ません」

「侮辱はしてねぇ、です。ただ八の方が強ぇって言っただけだ、です」

「だあぁぁぁもうめんどくせぇ。八、その二人任せるから他所で頼む」

「おい勝手に押し付けんな」

 誰がこんな面倒くささの塊を引き受けるのか。火に油どころか火の気があるところに爆弾二つ持ってる状況だぞ。

 とっくに将棋を中断してバチバチと見えない火花を散らす二人。なんでこんなに仲悪いのかしら。誰か仲裁してくれ、葉山あたりがベストだろう。

 だが残念なことに、ここに葉山隼人なるリア充は居らず、かといって話し合いの邪魔をするのも俺の信念に反する。いや邪魔してるのはこいつらなんだが。

 ぼっちは誰にも迷惑をかけない。だからこそ喧嘩もいざこざもしないし、そもそもする相手もいない。だから、こんな時の止め方を知らないんだよなぁ。

「とりあえず、ジブリール。その件はエルキア城でやれ」

 空の一言に承知致しました、と彼女は返す。そしていづなとともに転移し、うむ、無事城まで行ったようだ。なぜ分かるかといえば、俺もそこにいるからだ。

 

 

 

 

 

 

 ―巫女 side―

 

 

「行ったみたいやね」

 三人が転移したんを見てから、あては空の方へ向いた。

「ああ、そうだな」

 二人を任せる言うたのは彼。それは信頼があると言えるもんやろ。この詐欺師とあの道化師。双方碌でもない者同士やけど、実力もやってることも評価できるんから、なんや可笑しくなる。

「ほんに面白いなぁ」

「ん?なにが?」

「あんたらが、やよ」

 ん、伝わらんか。まぁそやろね。首を傾げてる二人が微笑ましい。

「色々と聞いたんよ。彼から、あんたらのこと。あと彼自身のこと」

「え、あいついらん事まで言ってないよな」

「あんたも彼も、凄いことしとるって事が分かったって言いたいんよ」

「すごいことって、例えばなんだよ」

「比企谷が天翼種(フリューゲル)連れて交渉に来たことあったやろ?」

「ああ、八が珍しく自分で動いたやつか」

「あん時、彼は相当人の虚を突く、突拍子もないことを繰り返しとった」

「まぁ、そうだろうな」

「やのに後ろの天翼種(フリューゲル)は一切動揺せんかった」

「ん〜まぁ八とジブリールが口裏合わせしてたらそうだろ」

「いんや、そうやなかったらしい」

「と言うと?」

「比企谷はたった一つだけ、話し合いもせずに頼んどったやと」

「へぇジブリールにか」

「そう。それが驚かされるもんでなぁ」

「ほうほう」

 声は出さんけど、白の方も気になっとるみたいやね。

 

「たった一つ。何があっても動揺すんな、って」

 

 

 ―巫女 side out―

 

 

 

 

 

「それでは、この結末の見えない論争にどう決着を着けましょうか。いえ結論はともかく、結果は決まっているのですが」

「八は強ぇ、です」

 とまぁ、この二人は絶対に自論を曲げようとはしていない。そりゃ平行線なわけだ。

 余談ではあるが、いづながこうまで俺を推しているのにはいくつか理由がある。

 一つは、ゲーム前の対談で俺がいづなに対して、空は俺が止めると言ったからだ。まぁあれは実力云々があるからではなく、単に空がそんな事をする訳ないという前提から言ったハッタリみたいなもんなのだ。

 二つ目は、ゲーム本番で俺といづながタイマンをはったことがある。その時の体験が理由で、いづなの中で俺はそこそこ強いという評価になっているらしい。

 以上二つをいづな視点で結びつけると、“比企谷八幡は空に匹敵する力を持ったゲーマー”となる。これは、俺と空はプレイスタイルが似ていると白がいづなの前でも証言したために信憑性みたいなものが増しているようだ。

 当然これに関して俺は何度も否定したのだが、「八は謙虚、です」と一蹴されてしまった。

「というか、俺がここにいる理由あるか?」

「是非ともご本人の意見をと思いまして」

「……本音は?」

「マスターが仕事をしているというのにあなたが何もせずにいるというのが癪でしたので」

「ほんとブレねぇなお前」

 十中八九というか、ほぼ確実にこの二人をどうにかしないと俺の安息は訪れないだろうな。てかどうとめるんだよ、これ。

 さしあたっては方法か。ジブリールが言ったようにこの論争に結論を出してやることだ。だがいくら俺が空より弱いと主張しても、いづなはそれを認めないだろう。俺が強いとジブリールに言うのは論外。ではどうする?

 何かを決めるとなれば、方法は色々ある。例えば多数決。ぼっちにとって致命的な方法ではあるが、メリットとして決まるのが早い。まぁ勿論今回は使えない手だが。三人で多数決使ったらいじめ以外の何でもないし、俺の意見を入れたらいづなが泣くことになる。別にそれが理由ではないが、やはりこの手段は無しだ。

「決める方法……」

 無意識に呟いてしまったが、いやあるではないか。自問自答で俺はそう答えを出した。

「ゲームで決めればいい」

「何を言っているのでしょうかこの男は」

「納得できねぇ、です」

 即否定。ですよねぇ、知ってた。しかしどうだ。この世界は何でもゲームで決まる。当然自分の意見の正当性もだ。であるならこれ程効率的なことはないだろう。

「しかし将棋は決着前にこっち来ちまったしな」

「ですから、なぜゲームで決めることが決定しているのですか」

 とまぁジブリールにツッコまれた訳だが、別に良くないか?

「いやこの議論には意味も意義もない。となればその結末は互いに納得できればいいってことになる。盟約を使えばそれも容易だ。だからゲームで決めろ」

「セリフが説得から命令に変わっていますね」

 めんどくさいことは手っ取り早く。空の言葉とは少し違うが、概ね同意する。手っ取り早く行こう。

「てなわけでゲームだ。何でもいいからさっさと決めて終わらせよう」

「既に議論にもなっていませんが、しかし早々に決めるのはマスターの希望でもある。誠に不本意ですが、その案に同意しましょう」

「八が言うなら仕方ねぇ、です」

 渋々、かなり渋々だが双方了承してくれたようだ。さて、俺はマックスコーヒーでも飲むか。あ、コミルの実切れてたんだ。確か昼にフィーから受け取る予定だったから、それまで暇だな。

「で、何で決める、です?」

「そうですね。では鬼ごっこはどうでしょうか」

 どうやらあちらも話が決まりそうだ。とりあえずステフかいのに挨拶くらいはしとくか。別に帰ってきた報告みたいな訳ではないが、まぁ人としての最低限のマナーみたいなもんだな。

 だが歩き出す俺の肩を掴んで、ジブリールは静止を要求した。

「どこへ行く気でしょうか?」

「え、なんで?」

「あなたにも参加して頂きます」

「え、なにに?」

「ゲーム、鬼ごっこ、です」

「え、なんで?」

「ゲームとは楽しむもの、とマスターはおっしゃっていたので」

「……本音は?」

「先に申し上げた通りにございます」

 俺が暇を謳歌するのが気に食わない、と。ふざけんな、誰がやるか。

 そう言う前にジブリールは続ける。

「もしも参加を断るなら、今後一切のコミルの実の供給はストップします」

 MA・JI・SU・KA。まて、それだけは勘弁してくれ。マックスコーヒーが飲めないとなったら、俺はまた砂糖多めコーヒーで自分を騙さなければならんのか。それはマジで無理。

「まて、分かった話し合おう」

「ではルールを決めましょう」

 あれれ〜?おかしいぞ〜?いつの間にか俺の参加が決定してる。俺は参加しないための話し合いがしたかったんだが。

「三人なら、鬼は誰がやるんだ、です」

「ではタッチによる立ち代り制に致しましょう。時間は、そうですね。正午までのおよそ二時間と言ったところでしょうか」

 なんかどんどん話が進んでる。

「おい、俺が参加する理由はどこいった」

「確かにあなたの分の報酬も、言い訳程度には必要ですね」

 俺がやる理由も勝つ理由もないのか。まぁそもそも勝機がないんだけど。やらなければならない理由だけがあるってきついな、ほんと。

「こうしましょうか。敗者は鬼一人。勝者二人はそれぞれ一つずつ要求できると」

「ちょっとまて。それなら俺が負けた時にこの件に決着が着かんだろ」

「あなたが負ければ、あなたの弱さが証明できます」

 なるほど、それはありがたい。それならいづなを説得するための行動ともなり、俺は存分に負けられる。

「いづなもそれでいいか?」

「問題ねぇ、です。八は負けねぇ、です」

 あれ?なんか期待重くない?ここまで推されて負けたら、合わせる顔がないんだけど。

 どうにかいづなを説得できないかと考える前に、ジブリールといづなはゲームを開始しようとしている。ハァ……やるしかないのか。

「じゃあルール追加だ。いづなは『血壊』禁止。あれ使われたら俺勝ち目ないから」

「む、分かった、です」

「ジブリールは魔法と、2メートル以上の飛行禁止な。届かない相手にタッチ出来ないから」

「まぁ妥当ですね」

「で、ステージはこの城の建物内。屋上も可。俺は無理だからお前らにだが、周辺被害が出るほどの行動も禁止な」

「禁止が多い、です」

 仕方ねぇだろ。これだけハンデ貰ってもまだまだ俺が不利なんだからよ。まぁ天翼種(フリューゲル)獣人種(ワービースト)相手に実体使ってフェアなゲームとか無理だろうけど。

「周辺被害とは、どの程度までを指すのでしょう」

「とりあえず音速越えの移動は無理だな。あとステフとか城の人達に迷惑がかからない所までだ」

「承知致しました」

 いづなも頷いている。さて、それではやるか。このやる気の出ないゲームを。本当はやりたくないのだが、マックスコーヒーを人質にされては仕方ない。

 鬼はじゃんけんで。ジブリールの一言に従って、三者三様の手を出す。開かれた手が一つに、二本の指を伸ばした手が二つ。

 ルールに従って、ジブリールが最初の鬼となる。

「では、一分後にスタートとします。タイマーとしてこれを」

 ジブリールが異空間から取り出したのはDSP。空たちの予定を考えるとまだ役目は来ないため、マスターには迷惑がかからないということだろう。

 彼女はタイマーで二時間。正午に終わるように設定し、一方をいづなへ渡す。俺も自身のスマホで同じように時計を合わせた。

「終了時にアラームがなります。それ以外にも時間の確認ができるので、ここを、こうすれば――」

 いづなへ実際に操作しながら説明し、彼女もどうやら理解出来たらしい。こちらへ向いて一つ頷き、いづなはDSPを握る。

 互いにタイマーを手に持ち、今カウントのスタートボタンへと指を据える。

「それでは――」

「「「【盟約に誓って】」」」

 三人の時計は時を刻み始め、二人は走り出す。それを見据えながら、一人はただ時間の経過を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 文字通り秒単位で減っていく数字を見つめながら、そして時計は一分の経過を知らせる。これでジブリールが動き出すはずだ。ジブリールがスタート地点から動いていないことを考えると、今の位置条件ならここまで来るのに推定二分。それも反対方向へと逃げたいづなを追わないことを前提としているが。

「タッチした側とされた側しか鬼が分からない以上、いづなとの合流も避けた方がいい。てか鬼ごっこならそもそも対人戦か」

 大人数なら固まって的を散らす方法もあるらしいが、そもそも三人だし。らしい、ってのは経験がないからです、はい。

 俺の現在の位置は通路のほぼ真ん中。移動方向は三方向あり、どこから来ても二択で逃げられる。まぁ定石だな。

 窓を背中に正面の廊下を見つめる。そんな俺が視界に捉えたそれは、どうやら左側から来たようだ。

「八、です」

「おや、こんなところに」

 正しくはそれら。追うジブリールと追われるいづな。だが開始からまだ二分弱。ジブリールが動いてからは一分も経っていない。なのに、なんでこいつらがこんなところに。

 考えるより先に俺は正面の通路を疾走する。だが距離はそれなりに離れていた二人。その片方の鬼であるジブリールは、三歩目を踏み出した俺の背中をタッチした。

「遅せぇ、です」

「その程度でしょうか」

「無茶言うな」

 そう言った俺の前には、俺を置き去りにした二人が数メートル先に立っている。

 タッチを受けてから四歩目を踏み出した。そして加速する体と比例するように、俺の思考もまた脱力した通常時より素早く回転していく。

 俺の計算を遥かに上回っている二人の速さ。それは音速とか光速みたいな反則級なものを抜いて尚、大き過ぎるアドバンテージ。不利なのは分かっていたが、まさかここまでとは。

 遊ぶように進む二人を追いながら俺は口を開く。

「さっきの、大体どれくらい本気だ?」

「お遊び程度、と言えば伝わるでしょうか」

 うん、無理。これに鬼ごっこで、タッチした上で逃げ切れとかマジ無理ゲー。

「ジブリール」

「なんでしょうか」

「お前、俺が負けたら何要求する?」

「そうですねぇ。異世界人のサンプルとして解剖させて頂きましょうか」

「まだ諦めてなかったのかそれ」

 無理ゲーでしかも負けたら死体蹴り。なんとも残酷な世界だ。

 この世界に来て、恐らく最も意味のない俺の“盟約に誓った”ゲームを続ける。あ、それより意味無いの、一回したわ。空に変身、もとい変心した時のことを思い出しながら、俺はまた一歩を踏み出す。

 




感想貰えると嬉しいです。本当に。

追記
一部直しました。
それと誤字報告ありがとうございます。

番外編 エルキア王国奉仕部ラジオは必要ですか?

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