ノーゲーム・俺ガイル   作:江波界司

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彼に関する仮定は彼以外が証明する

 さてさてさ~て、どうしたものか。

 いくら作戦を考えても、実行できなければどうしようもない。現状、俺が実行できない理由はいづなに遭遇できていないという一点による。ステフが嘘をつく理由もないので、この方向へ来たのはまず間違いない。となれば、追いつけないのは単に脚力の問題か。それに超聴力による察知も含めれば、正面からの突破は不可能だろう。

 だが、その聴力は利用できないこともない。短所を言い換えて長所にできるとすれば、逆も言える。いづなの武器も使いようによっては、俺の役に立つ。

 まぁ差し当たってはいづなを見つけないと話にならん。ジブリールに介入されると色々厄介だし、できる限りいづなに近づけるように俺は走る。

 ランニングしててよかった。じゃなきゃろくすっぽ走れなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―巫女 side―

 

 

「どうゆう意味なん?」

 あては空の言葉は理解できひんかった。ゲーマー言うのは分かるけど、それが比企谷にも当てはまるんかは、ちょっと疑問や。

「いづなたん、最初は俺たちのこと敵って言ってたし、それが言わなくても分かるほど睨んでた。んで、俺がいづなたんとゲームする直前、“最後にゲームを楽しいって思ったのいつ”かって聞いたんだよ。いづなたんは答えなかった」

 まぁ、そやろな。いづながしてきたゲームは、およそ楽しいと思えるようなもんやなかったろう。それが、比企谷に指摘されたところでもあるんかな。

「あくまで一般的な、それも俺たちがいた世界での話であるんだが。普通いづなの歳であんな目はしないしできない。同学年と喧嘩するのとはわけが違う。真の意味での敵を見る目だったからな。巫女さんの仮定を含めると、八はそれをどうにかしようとしたってことになる」

「うん、そやね。でもそれと、ゲーマーだ言うのがどう繋がるん?」

「ゲームは楽しむもんだろ?」

「あぁ――」

 そう言うこと。それでゲーマーか。

「いづなにも、楽しんで欲しかったゆうことね」

「まぁ多分な。これは俺の、てか俺らの推測でしかないし」

 確かにそうやけど、でもその仮定を彼の行動に重ねると納得できる部分が多い。いづなに気があったんやなくて、単に気になってただけゆうことやね。それも自分の美学とか理念みたいなんを根源として。空に言わせたら、それがゲーマーって言葉になるんか。ゲーム脳言うか、そういえば比企谷が言うてたいづなが勝てない理由にそれがあったか。

 ん?ちょっと気になることが。

「空、あんたさっき比企谷のこと、ゲーマーや言うてたよね」

「ああ」

「そんとき枕詞についてた“ある意味”てのは、どういうことなん?」

「あ~うん。巫女さんには言っといていいか」

 なんのことやろ。空が言うんは、つまり同じ陣営の子らやいの、いづなには伏せておきたいことなんやろか。

「なに?」

 

「八は、俺たちとは違う」

 

 

 ―巫女 side out―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミスった、です」

 背中を壁につけていづなは零す。形としては俺が追い詰めたということになる。

「さすがに、一時間そこらじゃ城の間取りを把握しきれなかったろ」

 簡単なことだ。俺の方が城の構造に詳しいんだから、それを利用すればいい。まぁそれだけが理由ではないが。

「さっきのこと、どういう意味だ、です」

「そのままの意味だ――手を組もうぜ」

 いづなたんは、うん、困惑気味だな。人数三人、一対一対一、勝者一人、バトルロイヤルの鬼ごっこ。そんなゲーム内ではおよそ出るはずのないセリフだろう。いづなが油断して俺に追いつかれたのも、よすぎる耳で俺の言葉を聞き取ったからだ。俺を評価しているいづななら、当然気になってほかのことが疎かになったってことになる。

 手を組むというのは、双方にとって悪い話じゃない。それにジブリールといづなの関係上、この手段は俺専用。相手はどちらでもよかったが、贅沢をいえば組むならジブリールだった。深い意味はなく、ジブリールが勝てば俺へのいづなの勘違いを解けるかもしれないというのが理由だ。ジブリールが俺の提案を受ける図が浮かばなかったから断念。消去法ではあるが、そんなわけでターゲットはいづなになった。

「どうだ?」

「八、なにが狙い、です?」

「差し当たってはジブリールが勝たないこと、だな」

 俺といづなの利害は一致している。嘘はついていないため、それが理由で断られることもない。

「⋯⋯作戦は、です?」

「ああ。このゲーム、タッチした側とされた側しか鬼が分からないだろ?」

 コクリと頷くいづなを見て俺は続けた。

「なら現状、ジブリールには俺といづなのどっちが鬼なのかは分からないってことになる」

 そこまで聞いていづなは目を輝かせて、なんかこっち見てる。

「やっぱり、八は強ぇ、です」

 そしてなんかまた評価が上がった。ただでさえ高すぎる評価が限界突破してきた。限界突破しすぎて身勝手さを極めそう。他人(ひと)からの評価って、大概勝手だからな。

「まぁつまりだ。片方が鬼のふりをしている間に、本物の鬼がタッチすればいい」

「なるほど、です」

「じゃあ、早速始めるか。ジブリールの場所は分かるか?」

「上の階、です」

 悲しいけどコレ、ゲーム(戦争)なのよね!俺が過去に苦しめられた策だ。その恐ろしさは一番知っている。数の暴力、なめるなよ。

 うん、ぼっちにはほんときつい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―巫女 side―

 

 

 俺たちとは違う⋯⋯どうゆう意味やろ。彼が変わっているとは思うけど、それとはニュアンスが違う感じやな。

「俺たち、言うんはあんたら兄妹のこと?」

「そうでもあるけど、それだけじゃない。八はゲーマーはゲーマーでも、違う部類だ」

「違う部類?」

「俺らと違って、八がやってるゲームはリアルなものってことだ」

「リアルって。あてらが現実逃避してるってことかいな」

「いや、プレイしてるゲームが違うってこと。八がしてるゲームは“リアル人生ゲーム”。最強のゲーマーがクリアできなかったクソゲー、無理ゲーだ」

「じゃあ、本当にいづなが言ったみたいに比企谷の方があんたより強いんやない?」

 最強ゲーマーゆうのは、多分この二人のことやろ。

「ど~だろなぁ。まぁそれはともかく、そんなわけで八は違うんだよ」

「なるほどね。で、そのことがなんで秘密の話みたいな表現になるん?」

「秘密の話なのは、むしろこっからかな」

「というと?」

「八と俺らは違う。だから、八は俺らと違う道を進むことになる」

「比企谷が裏切るってこと?ならあんたらが信用しとる理由が分らんな」

「俺らと八の目的が一致してるうちは、互いに裏切ることはないからな。逆に言うと相違点ができたら多分、八は俺らから離れる」

「⋯⋯あんたの読みじゃ、それはどんくらい先なん?」

「そう遠くはない、と俺は読んでる」

 近々裏切られる。推測でもそれが分ってて、なんでこの子は平気そうなんやろ。いやそれ以前に、か。

「それで、それをあてに言ったんはなんでなん?」

「八が単独で接触したのが、巫女さんだからだよ」

「なるほど。比企谷があんたらと道を違えるにあたって、あてに頼るかもしれんゆうことか」

「そこまではいかなくてもなんらかのアクションがあるかもしれないってこと」

「リアクションの準備をしといた方がええゆうことかな」

 とはいえ、あてが比企谷を手伝えるかは分からん。そもそもこれは手助けするなってゆう空からのけん制なんかな。

「八がどんな手段を取るのかまではさすがに読めない。情けない話だけどな」

「まぁどんな方法にしてもやけど。あんたはそれを止めんの?」

「止める理由がないし」

「⋯⋯にぃ⋯⋯今の、はちみたい」

「げッ⋯⋯変なのうつったかな」

「裏切られるんに、止めんのかい」

「八が俺らから離れる時が来たら、多分正面からいなくなるだろうな。立つ鳥跡を濁さずってこと」

「そっちの世界の格言かいな。意味はなんとなく分かるわ。飛び立つ鳥が比企谷ってことか」

 面白いなぁ、それは。

「ん?どったの?」

「あぁ気にせんでええよ」

 うっかり笑ってしもたな。いつかあの天翼種(フリューゲル)を落ちた鳥って呼んだけど、ほんとの鳥はあの男の方やったか。

「まぁだからってわけじゃないけど、八が巫女さんのところに来たら、その時の判断は任せるよ」

「そうか。もしそれであてがあんたらの敵になってもええの?」

「そのときは、またゲームしようぜ。今度はお互い本気で」

 あてが『血壊』使ったのに本気やないって。空が言うんはそんなことやなくて、ちゃんとした実力勝負がしたいゆうことやろけどね。

 そんなことよりも、比企谷があてのところに、か。どうやろ。あの男のしたいことってのは、最終的な目標は一体なにか。それは分からんし、それを聞いてあてがどうするかも、今は分からん。どっちも今気にすることやないってことかな。

「とりあえず、貿易関係のこと決めよか」

「そうだな。大分話逸れてたし。じゃあ――」

 事務的な話がようやく始まった。はてさて、これからどうなるんやろな。

 

 

 ―巫女 side out―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 廊下を蹴る足音は一人分。荒い呼吸音もまた、一人だけしか聞こえない。それも当然であり、前方を見ればすぐに理由も分かる。

 廊下を低めに飛行しながら移動する天翼種(フリューゲル)。ジブリールは息を切らすこともなく、遥か先でこちらを向きながら逃げている。俺が追いつくのは、原理的に不可能だな。だが逆に言えばあいつが一瞬で縮められる距離でもないはずだ。間違ってるかもしれないけどな。

「遅いですよ?」

「分かってるよ」

 屋内に響く声が会話を成立させる。距離も申し分なし。あとはあっちのタイミングだな。

 ジブリールの体が見えなくなる。魔法ではなく、単に曲がり角へ入っただけだ。ここだろう。俺はジブリールとは違う、一つ前の通路を曲がる。そして最短距離で階段へ向かうと、すぐに上の階へと移動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―ジブリール side―

 

 

 追いつけるはずはありませんね。考えなしに動く人でないことは知っていますが、流石にこれだけ距離があれば問題ないでしょう。

 そう油断した数秒前の自分を是非とも一度殴りたいものですね。

 突き当たりを曲がった私の太ももに、何やら肌同士の触れる感覚が。視界の端に捉えたのは彼女、獣人種(ワービースト)のいづな。触られたのは恐らくタッチ。なれば今この瞬間に鬼が交代した。

「甘ぇ、です」

 驚いて止まってしまった私をよそに彼女は走り出す。なるほど、結託して私を倒しに来ましたか。あの男が私を追っていたのは鬼のふり。本命は彼女で、彼自身はどこかへ隠れてやり過ごすといった具合でしょうか。確かに逃げる上でのスペックなら彼女方が適任でしょう。

 ですが――

「甘いのはどちらでしょうか」

 私が魔法なしではたかが獣民族に後れを取ると?舐められたものですね。ええ、問題ありません。被害が出ない範囲でお相手しましょう。

「せいぜい足掻いてください。せめて私が退屈しない程度には」

 ゼロからの一気に加速する。既に距離を稼いでいた彼女を追って、その差を徐々に縮めていく。振り向かず進み、壁を蹴っての左折など、高速かつアクロバティックな逃走を見せるいづな。確かに見事ですが、終了時間まで私から逃げ切れると?

 ギアを一つ上げ、私は更に加速する。

 

 

 ―ジブリール side out―

 

 

 

 

 スマホ画面を確認し、緊張を吐き出すように息を吐く。

 ゲーム終了まで、あと30分。

 




前回も含めて短い!
更新優先なのでごめんなさい。
感想、誤字報告いつもありがとうございます。
そしてよろしくお願いします。

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