どうも。
伏線回収が憧れ、江波界司です。
本作品の読者のみなさんの考察力の高さに舌を巻いています。
種を明かせば簡単なことだ。
要は、俺は最初からいづなをタッチしておらず、鬼のままだった。言い方を変えれば、あの二人は鬼でもないのに無駄に頑張って逃げたり追ってたりしていたということになる。
「私から離れて以降は、ずっとここに?」
「わざわざ逃げ場のない屋上に逃げるやつはいないだろ?」
「なるほど」
ジブリールも理解できたらしい。これは作戦会議にあたっていづなにも話したが、相手がいると思わない場所に鬼は来ない。ジブリールが俺をどのように評価しているかはわからないが、少なくともそこまでの愚行に走るやつではないとは、思われているようだ。ならば彼女が標的を変えても、ここに追ってくることはなかったことになる。ある意味、一番の危険地帯が、一番の安全圏だった。
「つまり私は、まんまと手の上で踊らされた、ということですか」
「人聞きが悪い」
別にこの形が最善だったわけではない。理想は階段を上ってきた時点で残り数秒。開いた扉を抜けて出てきたジブリールをタッチし、一秒ほど余裕を持ちたかった。返されるリスクはできるが、万が一俺がミスしてタイムアップはやはり避けたかったわけで。
まぁ結果的には勝ったのだし、あとからネチネチと言う気はない。ゲームは既に終わっているのだ。
俺は解放された緊張感を忘れるために、両腕を掲げて大きく伸びをする。いずなも疲れたようで、その場で大の字に寝転んでいた。ジブリールは、何やら言いたいことがあるみたいだな。
「なんだ?」
「いえ、少し意外だったなと」
「なにがだよ」
「あなたがハイリスクな協定を結んだことが、にございます」
確かにこの作戦、負ける可能性が最も高かったのは俺だ。もしもいづなが誘導に失敗すれば即負けだし、それ以前にいづなが裏切った時点で詰みであった。まぁ逆に、リスクは全部俺が負うことでいづなとの協力関係を取り付けやすくしたのはあるが。
ハイリスクだったのは認めるし、分の悪い賭けだったのも事実だ。だが、彼女の表現は少し違うくないか?
「お前は俺をなんだと思ってんだよ」
「打算によって裏付けされたものしか信じない損得主義者でしょうか」
「ひでぇ言いようだな、おい」
なんでちょっといい笑顔で言っちゃうかな。セリフとの落差でバイバイダメージなんだけど。
「てか、それは雪ノ下の芸風だろ」
いや芸風って表現はあってない気もするが。
「ユキノシタ、とは、度々耳にしましたが、どなたでしょうか?」
「ん?ああ、俺がもといた世界での⋯⋯知り合いだよ」
「今の間は一体?」
しょうがねぇだろ。適切な表現が浮かばなかったんだよ。
「まぁなんだ、同じ部活の部員同士だ」
部活については、空たちの参考書などから知識を得ている彼女なら理解できるだろう。
「そのユキノシタとは、どのような方で?」
「珍しいな。お前が他人に興味を持つってのは」
「あなたの言い分では、私と似ているとのことだったので」
なるほど。確かに自分と似てるって言われたら気になるよな。俺も昔、小町から「ありゃりゃぎさんに似てる。目以外は」って言われてついつい調べっちゃったもん。結果は、シスコンとアホ毛以外に共通点なかったけど。俺数学できないし、困っている人をほっとけないとか思わないし。
ちなみに小町が噛んでたのはわざとじゃない。だって「噛みまみた」とかいってたもん。かわいかったですマル。
さて、雪ノ下についてどこまで話したものか。そんなことを考えていると、いつの間にか来ていたいづなが俺の袖を引いた。
「八の向こうの話か、です。聞きてぇ、です」
「聞いてたのか」
さすがは
とりあえず座り込み、二人もそれにならって聞く態勢に入った。
「えっと、本名は雪ノ下雪乃で⋯⋯あとなにいえばいいんだ?」
そもそも人を紹介したことがなかったからなにを言えばいいのかわからん。ぼっちの呪縛、か。
「私に似ているというのは?」
「毒舌と丁寧口調、か」
「そいつはゲームうめぇ、です?」
「ゲームはどうか知らんが、大抵のことは何でもできるような感じだな」
「一言で矛盾している気がしますが。どういった性格で?」
「あ~負けず嫌いで完璧主義だな。あと猫とパンさんが好き」
「パンさんってなんだ、です」
「キャラクターだ」
首をかしげているいづなに、辞書の説明文を引用暗唱してジブリールが補足した。
「部活動は、お二人だけなので?」
「いやもう一人いる。由比ヶ浜結衣、まぁ、劣化ステフだな」
「あれの劣化版、ですか⋯⋯」
「ブカツ?です?」
ジブリール、うん、つまりそういうこと。俺は簡単に部活というものについていづなに説明する。
「――と、まぁ学校という機関内で志望者を募ってスポーツみたいな半労働を強いる、社会生活の模倣活動のひとつだな」
「どう超解釈すればそんな結論に⋯⋯」
例によってクエスチョンマークを浮かべるいづなに、またジブリールが説明を始めた。なんか、こいつら仲良くなってね?
「八のは、どんな部活、です?」
「奉仕部」
ようやくハテナの消えたいづなの顔はまた疑問で曇る。
「どのような部活動で?部名から察するに、教員教師の手伝いをするようなものでしょうか」
「いや、依頼人に手を貸すってシステムだ」
「依頼人とは、学生のことで?」
「大体はな。部長曰く、“飢えた人に魚をやるのではなく、魚の取り方を教える”のがモットーらしい」
「あくまで自立を促すのもだと」
「そういうことだな」
ふと空を見上げて、思う。俺はなぜあの二人のことを話したのだろう。誰かが勝手に誰かのことを語るのに、俺は少なからず抵抗があったはずなのに。
俺にとって彼女らが他人ではなくなっているからだろうか。それとも、この二人に対して俺が何かしらの、信頼によく似た感情があったからだろうか。
違う、と思う。
たぶん俺が話した理由は、気にしていないからだ。どれだけ話しても、どれだけ知られようとも関係ないと、心のどこかで思っているからだ。
それは、仕方ないことだと思う。そう思わなければ、そう割り切らなければ――
そこまで言葉を繋げ、その先へ進むことを理性で止めた。それ以上は、今はまだいい。今気にしても意味がない。
組んだ足を解くように立ち上がる。あぐらを掻いていただけなので、足が痺れているようなこともない。
「それより、さっさと決めようぜ」
同意する二人に、察しがよくて助かるとしみじみ思う。
どんな願いも一つだけ叶えてくれるなら、どんな願いが正解だろうか。永遠の命、世界征服、若返り、誰かを生き返らせる、ギャルのパンティー。選択肢も候補も多いが故に、やはり迷う。
今回の勝者の権利は、敗者に対してなんでも要求できるというものだ。とはいえ、流石に前例ほどの自由性はない。要求の範囲は敗者、すなわちジブリール個人ができるところまでということになる。
できるできないのライン引きをするなら、俺たちはジブリールの権利については侵害できない。それは空達が所持しているからだ。それに関しては、彼女自身でどうこうできる範囲を越えている。
それを踏まえ、俺は何を要求するか。
「いづなはどうする?」
同じく要求の権利を手に入れた彼女に俺は問う。だが意外にも、彼女は予想外な答えを間を置かずに出した。
「八が決めていい、です」
「え?」
困惑した俺は悪くないだろう。決めていいって、何をどう?てかなんで?
「いづなが勝ったのは八のおかげ、です。だから八にやる、です」
やるって、そんな簡単に権利をもらってもなぁ。
「てかいいのかよ。もともといづなの意見を押し通すためのゲームだったろ?」
「それに関しては、すでに彼女の中で達成できたということでは?」
達成した?いづなの主張は俺の実力について⋯⋯あぁ、そうゆうことか。
「俺が勝った時点で証明ができた、と」
「そういうことだ、です」
俺が単独で負けた場合、俺が弱いということが証明され、いづなの説が否定される。逆説的に、俺の勝ちはジブリール説の否定、いづなの肯定となるわけだ。
「じゃあ、俺が二つ要求するってことでいいか?」
「できればお断りしたいところですが、致し方ありません」
「そんなに嫌かよ」
俺嫌われすぎだろ。まぁいいんだけど。
「じゃあ一つ目。ジブリール、いづなに謝れ」
「これはまた屈辱的な要求を。ですが、一体なにについて謝罪を?」
「いづなに敵対的な態度をとったことに、だ」
「それは彼女がマスターを軽んじるような発言をしたことが原因なのですが」
「お前、何歳年上なんだよ。少しは我慢しろよ。お前あれか、末っ子か」
「ある意味そうでしょうか⋯⋯致し方ありません。負けたのは私、ルールは絶対。不本意ではありますが⋯⋯いづなさん」
「なんだ、です」
「個人的な因縁はあれど、連邦の成立にあたって仲間となったあなたに対し敵対心を表したこと、謝罪いたします」
「おう、許した、です」
ジブリールは下げた頭を上げ、いづなと見つめ合う。これで万事解決、とまではいかなくとも、まぁこの先は二人の問題だ。そこまで首を突っ込むのは、過保護であり過干渉だ。
と、ここまではいづなとジブリールの関係についてだ。俺の本題というか本命はここからだ。俺のプランではいづながジブリールに要求した上でするつもりだったのだが、思った通りにいかないものだな。
いづなが権利を破棄した時点で、これを言う必要はもうない。しかし、他に思い浮かばないし予備も用意してなかったし、変更はなしで行こう。
「んじゃ二つ目だな」
「ええそうですね。はてさて次はどこまで恥辱に塗れた要求をされるのやら」
「そういうこと言うなよ、しねぇから。二つ目の要求は――“自分の意思を持ち続けろ”」
「「え?」」
なに仲良く困惑してんだ、この二人。喧嘩することも踏まえて、お前ら実はなかいいんじゃねぇのか?
「なぜ、その様な要求を?」
「俺の予想では、いづなが“八が強いのを認めろ”云々をお前に課すと思ってたんだよ。だからそれを打ち消さない、かつ“マスターは強い”という個人の意見を失わないようにするためのそれだ」
「それでは、いづなが要求していない以上意味がないのでは?」
「まぁそうなんだが、他になにも浮かばなかったし」
「さようですか。では、二言はなしということで」
「あぁ」
なんか損した感じもするが、そもそもの俺の目的は二人の仲裁だ。それ以上は、別になくても問題ない。
何はともあれ、これで王様からの課題は終わった。今日の課題終了、お仕事終了。時間も正午、昇った太陽が温かく心地いい。昼飯食ったらひと眠りするかな。いやその前にコーヒータイムだな、マックスコーヒータイムだな。
ん?⋯⋯正午?マックスコーヒー?あれ、なんか忘れてね?
「⋯⋯やべぇ⋯⋯クラミーとの約束⋯⋯忘れてた」
これ、俺は悪くないよね?ゲーム開始のとき時間設定できそうだったけど、大丈夫だよね?
ノーマル鬼ごっこ編(勝手に命名)終了。
次回へ続きます。
感想、誤字報告お待ちしております。
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