多少の矛盾はスルーの方向でよろしくお願いします。
乱入者― ゲスト ―
俺はぼっちだ。
だから、こんなことは何でもない……はずだった。しかし、揺らいでしまう。雪ノ下のあの言葉が、由比ヶ浜のあの涙が、小町との喧嘩とも言えないこの状況が。
俺は、間違えたのか。
一色が持ってきた面倒な依頼とその解決法について、奉仕部内で一悶着あった現在。俺は現実逃避にネットのチェスゲームに勤しんでいる。
中学時代、かっこいいというただそれだけの理由でチェスをしまくった。ぼっち故に時間もあり、俺はそこそこの実力者になったと思う。
現に、ランク制のこのゲームでもトップランカーになっている。
10連勝目の勝負を終えた所でメールが来た。
『君に見てほしいものがある』
宛名のないメールはたった一文と、URLだけが載っていた。
誰だ?というかなんだ?
疑問も疑念も晴れないが、現実逃避したい一心から俺は、URLをクリックする。
それはチェスの対戦動画だった。それも、リアルタイムのもの。
プレイヤーは……
「……これなんて読むんだ?」
片方は無名、もう片方の挑戦者は『 』の中に何も入力されていない。
「いや……」
俺は1度これを見たことがある。確か、俺のチェス全盛期に1度だけ戦った。結果は……
動画内の勝負は、凄まじかった。
正攻法に、悪手。挑発に、ブラフ。何でもござれの超高等技術のバーゲンセールだった。
決着がつき、挑戦者側の勝利。
時計を見てかなり時間が経っていることに気付く。
と、ここでまたメールが届く。
『君は面白いのに、その才能を誰も認めてくれないようだ』
何?
『さぞ、その世界が生き難いだろう』
この世を生きやすいと思った事は無い。俺にとっては当たり前の事だ。それに、こいつに何が分かる。ただ……
『君は、生まれ変わりたいと思うかい』
もし、やり直せるなら。他に、選ぶことが出来るなら俺は
『ああ、俺はやり直してみたいかもな』
そのメッセージを送った瞬間、画面より貞子も顔負けのホラー現象が起こる。
「なら、ボクが生まれ変わらせよう」
少年の様な声が俺の視界を歪ませ、今までいた世界が、音を立てて壊れた。
一瞬の瞬き。
俺は上空にいた。
「「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ」」
誰かとハモった。ってそんなことを気にしている場合じゃない。
これ…死んだな。
落下しながら、しかしそんなことを気にしないように隣に少年が現れる。
「ようこそ、僕の世界へッ!」
こいつが俺をこの世界に呼んだのか?だとしたらどんな死神だ。
「ここが君達の夢見る理想郷【盤上の世界・ディスボード】ッ!この世のすべてが単純なゲームで決まる世界ッ!そう――人の命も、国境線さえもッ!」
いや、熱弁してもらってるとこ悪いが、リアクションする余裕はねぇよ。
「……あ、あ、あなた――誰――っ」
「僕?僕はテト。あそこに住んでる。いわゆる神様?」
なんか勝手に話が進んでる。というか今話してるの誰?
「って、んなことより、もう地面つくぅぅぅ〜!」
誰が叫んだ、やべぇ。隣を見ると白い髪をした美少女とボサボサの髪の青年が俺と同じく紐なしバンジー状態だった。
「ちッ」
どうにか腕を伸ばして、男の方の袖を引く。そして、この状況下でどこまで意味があるかは分からないが、俺は2人を庇うように抱きしめる。
そして遥か上空から落ちた衝撃が――
無かった。
俺達は地面スレスレで止まり、その後わずか数cm分の落下を体験する。
「また会えることを楽しみにしているよ」
そんな声が聞こえたと思う。
「あ、ああすまん」
そう言うと俺の上に乗っていた2人組が俺から下りる。
「いや、俺が勝手にやっただけだから」
「そ、そうか。ん?」
男はふと周りを見る。それにつられて俺も同じ方向を見たが、そこにあったのはファンタジー世界そのものだった。
「なぁ妹よ。リアルなんて無理ゲーだマゾゲーだといい続けてきたが……」
「「ついにバグった。なにこれ、超クソゲー」」
2人はそんなことを涙ながらに、口に出した。
「ふむふむ、それが【十の盟約】と」
その後自己紹介的なものを行い、ボサボサの髪とI ♡︎人類のTシャツを着た青年が空、長い白髪の小学生が白ということは分かった。分かったが……
何この状況。この鬼畜兄妹は、あろう事か盗賊(?)とゲームし、それに勝ち、身ぐるみを全部剥いで、この世界のルールを聞いている。俺も一応聞いたが、ゲームで決まる世界。ホントに異世界ファンタジーだなおい。
全裸に剥かれた3人組はそそくさと逃げ、俺達は今後の作戦会議を行う。
「で、八幡。あんたは一体何もんだ?」
「いや、それはこっちのセリフだよ。それに自己紹介はしたろ」
不思議と噛まなかった。
「いや、あのテトってやつが俺達『空白』を呼んだのは何となく分かるが、あんたは何で呼ばれたのかと思ってさ」
なんでって言われてもな。
「ん?空白?」
「ああ、俺たちのプレイヤーネーム。聞いたことないか?都市伝説の天才ゲーマー」
確か無数のゲームで頂点に、入力されていないプレイヤーネームが連なっているっていうあれか。
「って事は、さっきのチェスのあれは、お前達か」
「チェス?」
「……多分……にぃと白が……さっきまでやってた、やつ」
白の言葉で合点がいったのか、空はなるほど頷く。
「見てたのか?」
「ああ、なんか動画送られてきてな」
「……テト……ゲスト……呼んだって……」
「ん?そういえば言ってたような」
「んで、そのゲストが俺だと」
そんな特別扱いは初めてですね。ゲストとなんての呼ばれた事ないし、なんなら普通に呼ばれたことない。というか、呼ばれたと思って行ったら「え?なんで来たの?」みたいに言われたのはもう完全に黒歴史。
「なぁ八幡。お前ってゲーム得意だったりする?」
「1人でやるもんは基本得意だ。ぼっちだからな」
「お、おう、そうか」
はい、苦笑い頂きました。やっぱそこそこ信頼関係ないと自虐はきついか。
「てか、俺ら1回チェスやってるだろ。ネットの奴で」
「は?」
それは間抜けに声をあげた。あれ?違うっけ?やっぱ俺の勘違い?
「……にぃ……2年前に……1回だけ……やった奴……」
「妹よ、一体どれのこと言ってるの全く分からんぞ。2年前のどれだよ。何戦してると思ってんだ」
「……はちまん……ネームは……なに……?」
え?名前?八幡ですよ。違うな、プレイヤーネームのことだろう。
「ハチでやってた筈だ」
そう言うと白はタブレットを取り出す。てか、異世界に何持ち込んでんだ。完全にオーバーテクノロジーだろそれ。
「……にぃ……これ」
すると白が画面の1部を指さして兄である空に見せる。
「は?マジか!じゃあこいつがハチ!?」
え、なに?俺ってそんな有名なの?クラスでも名前知ってる奴少ないのに。知っててもヒキタニなのに。それ知らないじゃん。
俺も白の持っているタブレットを覗き込むと、どうやらチェスの勝敗数らしい。
「15268戦15267勝0敗1分け……バケモンかよ」
「いや、こっちのセリフだ!」
なんで空はテンション上がってんの?てか一応こいつ年上か。ニートだけど。
「なに?お前この時の事覚えてんの?二年前だよ?」
「流石に覚えてるわ!白が苦戦して、途中から俺も加わったのに最終的にドローとか!空白舐めんなよ!」
どうやら、こいつらはゲームは負け知らずらしい。故に引き分けすら本来ならありえないほどに強いのだろう。
「……はちまんの……プレースタイル……にぃ並にやらしい……」
やらしいとか、小学生がそんなこと言うんじゃありません。
実際、俺のプレースタイルは正攻法とは全く違う。相手の一手から狙いはだけでなく、1番やられたくないポイントまで読み取り、逆算して悪手と搦手を混ぜて打つ。性格の悪さが出てるって?言うな、知ってるから。
「まぁそれはいいが、これからどうすんだ?」
「それはいいって……空白にドローとか世界初かもしんねぇのにちくしょう。はぁ……とりあえず町を目指そう。金も何も無いし情報も少ない」
「ま、そうだな。んじゃ行くか」
言うと、白が俺の袖を引く。
「ん?どした?」
「……はちまん……はちで、いい?」
えー何この感情。美少女に名前で呼んで貰うどころかニックネームとは。ヒッキーとは偉い違いだな。いや、ニックネームってよりプレイヤーネームか。
「ああ、いいぞ」
「あ……んん……」
いかん。お兄ちゃんスキルがオートで発動してしまった。俺はほぼ無意識に白の頭を撫でる。おお、可愛い。いや待て俺はロリコンじゃない。
「おいコラ、白から離れろロリコン」
「何お前俺の心読んだの?それとも繋がったの?ココロがコネクトしたの?」
空さんよ、そんなマジになるな。こいつもシスコンか。何となく分かってたけどな。
一悶着あったが、俺たち3人はとりあえず町を目指す。
「行くぞ、白、八」
「「おー」」
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