ノーゲーム・俺ガイル   作:江波界司

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再び彼らは道を交える

 ――たまに、思うことがある。ゲームの世界とはどんなものなのかと。

 ドラ〇エやエフ〇フのように、勇者が魔王を倒そうと幾多の苦難困難を仲間たちと耐え、越え、平和な世界のために戦う。仲間を集め、魔物を倒し、迷宮を攻略し、最奥に待つ魔王を討つ。

 そんな世界にいたらどうなるだろうか。

 これはある種、誰もが1度は考えることではないか。自分の運命や使命がはっきりと明確化された世界に行きたいと、現実離れした飽くなき欲求を満たしたいと。

 そんな世界は、理想の世界(ワールド)だ。もしそんな人生(ゲーム)が送れるなら、誰もが望む――そんな美しい世界に行きたいと。

 

 では、そんな理想の世界と現実は何が違うのか。

 ゲームとリアルの、最大にして最少の違い――それは、『優しさ』という一点だ。

 

 リアルにはゲームのように絶対な規則(ルール)がない。

 リアルにはゲームのように完全な勝敗(クリア)がない。

 リアルにはゲームのように潤沢な復活(コンテ)がない。

 リアルにはゲームのように明確な数値(レベル)がない。

 リアルにはゲームのように万能な能力(スキル)がない。

 リアルにはゲームのように確実な成果(スコア)がない。

 

 逆説的に、いや語るべくもなく、これらの全てが存在するゲームは――『優し(イージー)』過ぎる。

 

 そんな世界が美しく見え、誰もが望むのは当然のこと。

 しかし皆、どこかで気付くのだ。それが現実(リアル)ではなく、幻想(ゲーム)であるのだと。

 

 もしも優しいゲームが幻想ならば、幻だというならば、きっと『優しさ』もまた嘘なのだ。形も何もない、空想上の絵空事でしかないのだ。

 

 ある者は――“虚妄(ゲーム)の世界”で『本物』を得た。

 

 ある者は――“実相(リアル)の世界”で『本物』を探した。

 

 どちらが正しい、なんて言えない。

 たとえ片方が無自覚に見つけようとも。たとえ片方が無様に見つけられずとも。

 ――そして思う。

 俺は、俺だ。それ以外でも、それ以上でも以下でもなく、ただ一切変わることなく、俺なのだ。

 自分が果たすべき運命、意思も意志も無視して決められた使命が存在する世界。それは制約によって構成された現実よりも、余程不自由ではないか――束縛的で、拘束的で。強制的で、悲劇的ではないか。

 

 故に、俺は宣言する。誰にも聞こえぬ声で、誰にも届かぬ覚悟で。そしてどこかの少年を思って。

 

「くたばれ――運命」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ何となく、目を閉じていた。

 転移には慣れていたし、これからの行動に対する恐怖もない。

 現実時間では一秒にも満たぬ、されど体感時間にして永遠とも感じられる思考の世界。その光のない空間から抜け出すべく、俺は一度閉ざした目を開ける。

 

「よう、八。待ってたぜ」

「⋯⋯はち、おそい」

 

 I ♡人類のTシャツを着た黒髪黒目の男と、小学校の制服を身にまとった白髪赤目の少女。目の前に重なる様に座る二人は、最強のゲーマー『  』。圧倒的なスペックと絶対的な信頼関係を武器とする、『本物』。そして今、俺が挑む相手。

 場所は前に巫女さんと丁々発止を渡り合った部屋。その時彼女がいた場所には、今は件の二人が鎮座している。そしてその横に、何をするでもなく佇む巫女さん。ジブリールは俺の傍を離れ、巫女さんとは対となる主の隣へ移動した。

「待たせたな」

「あぁ⋯⋯てか、ほんと待ったわ!早く来いや、ゴォラァ!」

「⋯⋯はち、おそすぎ」

 なんかいつも通りだなこいつら。けどまぁ、それがこいつらのスタンスだしな。

 逆にそれが安心できて、俺もまた自然と口を開く。

「ボス前はしっかり準備する派なんだよ」

「ふむふむ、では⋯⋯よくぞここまで来たな勇者⋯⋯」

「⋯⋯にぃ、イベントスキップ」

「えぇ、ちょっと楽しみにしてたのに」

 話が進まねぇ。なんかテンション高くないか?まぁ、その疑問の答えはすぐに思いついたが。

 やっぱりこいつらは、ゲームが好きなんだろうな。……そう思うと、少しだけ悪い気もしてくる。

「で、そろそろいいか?中ボス」

「ほう⋯⋯この『  』に対して、ただの通過点だと?」

 怒りはないな。あれはただの振り、偽りの感情だ。

 特に気にする必要はないと判断し、応える。

「さぁな。⋯⋯そもそも、要件は分かってるんだろ?」

「はてさてなんのことやら~」

 言うまでもなく彼は、彼らは知っている。俺がなぜここにいて、何をしたいのかを。

「じゃあ、改めて……」

 わかりやすく深呼吸して覚悟を、決めたはずのそれをもう一度自分に誓う。

 

「『  』に言いに来た――ゲームをしよう」

 

 くくっと不敵に笑う空、表情を変えずただ俺へと視線を向ける白。この場を我関せずと見守るのはジブリールと巫女の二人。

 数秒の静寂の後、口を開いたのは、空だった。

「八。それは、俺らに挑戦するってことでいいんだな?」

「あぁ」

 無敗にして無敵、最強の二人。そこに挑むは、負けることに関しては最強のぼっちだ。

 

「あの時は引き分け(ドロー)だったからな。決着をつけようぜ?」

 

 過去最大の、怪しさしかない笑顔で言い放ち――

 

「あぁ⋯⋯」

 

 空もまた、人相の悪さをフルに発揮した表情で――それに白も続き――応える。

 

「「かかってこい」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―巫女 side―

 

 

「ゲーム内容は挑まれた方に決定権がある。そのことも踏まえて、提案させてもらっていいか?」

「あぁ、問題ねぇ」

 宣戦布告が終わって、話は進む。

 しかし、驚かせられたな。空は近いうち言うてたけど、まさかこんなにとは思っとらんかった。

 空の読みじゃ、ヒキガヤはエルキア連邦から離反する。その儀式ゆうのが、このゲームになるわけか。

 裏切りでななく真っ向からの対立。それは彼女、ジブリールが言ってたこととやったな。

 

 

 

 昨日の午後、彼女がコーヒーを持って帰った時のこと。

「ジブリール、八は?」

「城に残ると。それと、マスターに対して用事があるとも」

「そっか。じゃあ、あいつの様子今見れる?」

「仰せのままに」

 魔法やろ。空中に何かを映す四角形を描く彼女に、あては少々疑問ができた。

「空、あのことは話してたん?」

「まぁな。むしろジブリールを監視につけたようなもんだし」

「最近あの二人が一緒やったのはそれが理由なんか」

「いや、そこまでは命じてない。あくまで八の動向には目を向けとけってくらいの軽いもんだから」

 その軽い命令にもジブリールは全力で従うんやろけどな。それは空も分かっとるやろし。

「現在は、いづなの昼食を作っていますね。一応彼自身の分も」

「八がジブリールに声を掛けたらこっちに来るってことのはずだ。そこんとこ、迅速によろ」

「承知いたしました」

「なぁ、あんたはなんとも思わんの?ヒキガヤが裏切ることに」

「マスターが決めた道に逆らうつもりはございませんので。それと、一つ訂正しておきましょう」

「訂正?」

「彼は“裏切り”ません。やるならば真っ向からでしょう」

 裏切りとは少々ニュアンスが違うか。それはつまり

「空と同意見ってことやね」

「いや、俺がジブリールに賛同したってのが本来だな」

「そうか」

 

 

 

 

 そんで、今まさにその真っ向勝負が始まる。

 ヒキガヤは全く油断を見せず、迷うことなく言った。

 

「俺が提案するゲームは、『すごろく』だ」

 

 はっ?思わず零しかけた。

 なんで?この場面で、この状況で“すごろく”なんもんが出てくるん。

「ジブリール。具象化しりとりの装置で必要なアイテムを作ることはできるよな?もちろんしりとり関係なしで」

「可能です。ではすぐに準備を」

 転移で消えた彼女を無視して話は続く。

「すごろくの定盤は俺が用意する。マスはスタートからゴールまで36とする」

 と、ここでジブリールが戻ってきた。例の装置は魔法で持ってきたみたいやね。

「んで、ここからだ。マスにはスタートとゴール以外の全てにイベントか記されてる。当然だが頭がおかしい内容はない。俺が当たったら危ないからな」

 理由があれな気もするけど、まぁ説得力はあるわ。

 ジブリールの持ってきた機械にヒキガヤが触れ、いままで何もなかったところに一つの盤と四つのダイスが現れた。

「止まったマスのイベントは強制。中身は何マス進む戻るとか、三回拍手とか一曲熱唱とか、そんなところだな。使うサイコロは二つで、進むのは振って出た目の合計だ。最大は6+6で12。最速なら三ターンでゴールできる」

 あぁ、もちろん、先にゴールした方が勝ちな?と彼は補足した。まぁこの辺にはなんも疑問はない。

 彼は右手で持っていたダイス二つを放って転がした。そして自らのコマを指定のマスへと移動させる。練習ゆうか実演を交えての説明やろな。

「マスのイベントはそのマスに止まらないと確認することはできない。サイコロを振って、コマを動かすと、空欄のマスにイベントが文字で浮かんでくる。えっと、指パッチン一回したら2進む、か。⋯⋯とこんな感じだ。ちなみに“スタートに戻る”はないから安心してくれ」

「要するに普通のすごろくでいいんだな?ここまでの時点ではかなり普通だけど」

「ここまでは、な。そんでこっからが重要だ。まず、このゲームは具象化しりとりのシステムで道具は作ったが、あくまでやるのは現実だ。だからたとえば一曲熱唱で声が枯れたとして、その枯れたという事実は残る」

「⋯⋯納得」

「次にだが、この盤は俺が作る。イベントの内容も俺が考えるわけだが、それだと俺だけがマスに書かれた内容を把握していることになり、お前らに不利な部分ができてしまう。だから、まぁ内容は普通のすごろくとかわらないんだが、公正を期してイベントの書いてある場所はランダムにする」

 妥当やな。わざわざイベント内容を伏せてんのに、ヒキガヤが一方的にイベントの内容と位置を知ってるんは不公平やからな。

「それとマスのイベントはそのターンに最初に止まったものだけ有効だ」

「つまり何マス進むとかで止まったマスは無視と」

「そういうことだ。で、ここまでを踏まえてルールを一つ追加する。この36のマスのうち、3つだけ俺が任意の場所に好きなイベントを書き込む。もちろんどちらが止まっても発動するものだ」

「その書き込むイベントの内容は?」

「今は教えない。それを言ったらつまんねぇだろ?」

「そりゃそうだ」

 完全に不利となる条件を出されて、やけど空に動揺は見られん。

 相手が決めた場所に決めた内容。自分を有利にするもんか、相手を陥れるもんか。どちらにせよ、それがこのゲームの主軸になるんことだけは読み取れる。

「ここまでで説明は終わりだ」

 空は手を顎にあててヒキガヤの出した条件を吟味し、一瞬の間の思考を終えて彼に向き直る。

「一つ、いいか?」

「あぁ」

 かつては共闘して東部連合とゲームし、変わって現在は挑戦者として現れた男に対して彼は問う。

 

「八、まさか運ゲーなら俺らに勝てるとか思ってないよな?」

 

 このゲームは、本気でやる気なのかと。

 運、運ゲー。ダイスとマスによって決まるこのゲームは、偶然で勝つことも負けることもある。ヒキガヤが出した特別ルールも、発動するのは十二分の一、確率としては低すぎて確実性が無さすぎる。

 たとえ思惑があるとしても答えることはないやろ。

 

「あほか。そんなわけねぇだろ」

 

 そんなあての予想を知ってから裏切る様に、彼は嘘偽りなく回答する。

 これはつまり、確率云々を抜いて策があるゆうこと。『  』に対し、対抗できる術があるゆうこと。

 端的に言って、自分が有利だゆうこと。

 やのに、それでも空は――笑う。

 目の前にいる敵対者に、全くもって敵意を向けず、どころか好意的なまでの期待すらほのめかして。

 

「オーケー、それで行こう」

 

 あの二人が負けるとは思えん。それはここ数日で見て知った彼らの実力が根拠となる。

 彼らは、単純に強い。だからこそあては、そして恐らくジブリールも、焦りを覚えることなくこの場にいれる。

 今、この場に置いて二人の敗北を想像できる者はいるんやろか?『  』自身?それともあてが?あるいは、彼か?

 彼らの実力をあて以上に知るであろう彼が、そんな希望的観測に身を委ねるやろか……いや、ないな。そう断言できる。

 

 ――だが、それではまるで、彼がただ、負けるためだけに来たようで……

 

 

 ―巫女 side out―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 釣れた、なんて思ってはいない。

 空のこの返事は予想通り。もとよりここまでではまだ、『  』がゲームを断る要因はない。

「それで?八はなにを賭けて勝負がしたいんだ?」

 空はいつもと変わらぬ軽薄な声色で問う。

 むしろここから、本命本番勝負所はまさに今からなのだ。

 何せ俺は、あの妖怪のような男との、心と心、腹と腹の探り合いをしようというのだから。

「俺が勝ったら、お前らからあるものを奪う」

「⋯⋯あるもの、って?」

「お前らは互いを信頼しきっているからこそ強い。なら、そのお互いの記憶がなくなったら?」

 こいつらの強みはその尋常ならざる高スペックさではなく、不動の関係性だ。だからこそ、その軸が無くなればひどくもろい。

 ――そう、かつての白のように。

「じゃあ逆に、俺たちが勝ったら?」

 特段空の心理状態に変化は見られない。負ける気がないのか、単純に隠されているのか。

 どちらにせよ今の俺にそれを知る術はない。

「俺は今後一切のエルキア連邦との接触を断つ」

「おいおい、それ俺らにメリットなくね?」

 ヘマするなよ――一言、自分にそう言い聞かせた。

「裏切り者が自分から出ていくんだ、十分だろ。それに――」

 これで乗ってくれば、いける。故にこれが、第一段階にして最大の難所。

 すなわち、あの“『  』の参謀()”相手に打つ、滑稽なまでに見え透いた――“挑発”。

 

「この条件以外じゃ、俺は勝負しない」

 

 これは『  』にとって、最もすべきでないゲームだ。

 相手が一方的に決めたアウェイな勝負。勝率が低く、無敗を掲げる二人としては受けるべきではない最悪の条件。

 だが、それでも――

 

「白――」

 

 空に呼びかけられた妹は、兄の足の上でコクリと無言で頷く。

 話し合わずとも、目すら合わせずとも、彼らは熟考なんて捨てて来たかのように結論を出す。

「最強名乗るのに引き分けがいたら、かっこつかないだろ?」

 すでに決まった彼らの答えを、全く無意味な軽口で要求する。

「あぁ、そうだな」

 明言なしない。それでも答えは、彼らを見ていれば分かる。

 迷いなく、二人は右手を掲げる。

 俺もそれに続き、鏡映しの動作を行う。そして――

 

 

「「「【盟約に誓って】」」」

 

 

 

 

 

 

 




比企谷八幡VS『  』、ついに開戦。
ストーリーメイクの下手な私なりの最大出力で更新頑張ります。
感想、誤字報告の程よろしくお願いします。

番外編 エルキア王国奉仕部ラジオは必要ですか?

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